第3話

 ギルド一つ目、【月夜の咆哮ルナティック・シャウト】。面接官はチャラい感じの金髪お兄さん。耳にはそれ重くないの? ってくらい大量のピアスが刺さっている。


 このギルドは新進気鋭の若手探索者たちが集うフレッシュなギルドだ。


 年齢的に近い人が多いはずだし、ここならきっと俺の境遇をわかってくれるだろう。とりあえずウェーイってノリでいけばたぶん採用される。はず。


「せめて実績でもあればねぇ。え、どれくらいの実績かって? んーそうだねぇ、六層に到達するとか……嘘嘘。冗談ですよ。そんなことしたら死んじゃいますし。ま、どっちにしろ身分証がないんじゃ実績以前の問題ですしね。ええ、不採用です。帰ってもらえますか」


 採用されるかも、というのは希望的観測にすぎなかった。チャラめのお兄さんけっこう真面目だった。


 まぁ、年齢が近いってことはこの時代の流行り廃りもわからない俺ではノリがあわなかったかもしれない。そう、前向きにとらえることにした。


 ギルド二つ目、【眠れる森の美女スリーピング・ビューティー】。面接官は、眼鏡をかけた真面目そうなお姉さん。


 ここはなんといっても美人が多いことで有名なギルドだ。


 ダンジョン攻略より素材採集に力を入れており、主な探索場所は一層から三層。ビギナー向けの薬草や鉱石を採集するお使いクエストが多いのも特徴だな。


 お使いなら得意だ。なにせベルンドの片田舎から出発して魔界まで魔王の首を持って帰るお使いをしていたからな。


 それはもう自信満々で面接を受けに行った。


「え、保証人もいない? あの、怪しい方はちょっと……あまりしつこいと警察を呼ばせていただきますけど」


 なんかもう汚物を見る目だった。


 俺は一年間ろくに風呂にすら入れなかったし美意識とかが足りなかったのかもしれない。2125年じゃ男も普通に化粧してるしな。


 ま、俺には化粧なんか必要ないがな。明日の飯にも困る俺はファンデーションを塗るまでもなく顔面蒼白だ。俺の化粧は死化粧ってか。あっはっは。あー、辛ぇ。


 あまり小奇麗なのもそれはそれで気を遣うし、むしろ断られてラッキーだったと思うことにしよう。


 さあ、気を取り直して次だ次。


 ギルド三つ目、【幸運の刃ブレード・オブ・フォーチュン】。面接官は、脂ののったおっさん。


 ここはダンジョン発生初期のころに創設された老舗。やはり培われた年月や経験というのは嘘をつかない。きっとここなら俺の価値を見出してくれるに違いない。


「ね、おたく、どういう生き方してたら身分証もない人生になるの? ね? 後学のためにぜひ教えてよ。ね、ね、ね」 


 実に成長意欲に富んだギルドだと思ったが、ちょっと考え方が古臭いな。うん。


 なぜかおっさんが青春時代に経験したありがたいお話を聞かされ、やっと解放されたころには太陽が西に傾いていた。


 そんなこんなで、ひぐらしが鳴く夕暮れ時。


 そろそろポジティブ・エンジンからげんきもガス欠しそうになってきたので、公園のベンチに座って休むことにした。


 ギルドの入会には身分証が必要。そんなの2025年の時でさえ常識だ。


 全く予想していなかったわけじゃないが、もはや人間じゃないような扱いにはさすがに傷ついた。


 身分証もなけりゃ実績もない。俺の実力を保証してくれる人もいない。そんな状態でどうやって働けっていうんだ。


 さすがにもう無理。ニンゲンコワイ。こうなりゃいっそ海か山で自給自足の生活を……いや、まだだ。まだ手はある。


 動画撮影だ。


 実績がないなら作ってしまえばいい。


 俺は中古の家電屋に行き、スマホとドローンを購入した。


 二つ合わせて二十八万円。


 スマホ高ぇ。ドローンも高ぇ。全財産残り二万円弱。うえーん。


 ていうか百年後でもスマホなのかよ。どんだけ完成されたデザインなんだ。


 まぁそれはいい。これで動画撮影の準備はほぼ完了した。


 俺は公園のトイレのコンセントを借りて両方とも充電し、ダンジョンへと向かった。





 時刻は午後八時。天の川が煌めく空の下、ダンジョン前に到着した。


 近くで見ると迫力がすごいな。高さもそうだが、外周もかなりある。ネットの情報では、一回層あたり東京ドーム六個分の広さがあるとかないとか。


 ダンジョンのまわりにはスーツの上に鎧を装着している人や、特殊部隊みたいなヘルメットと銃で武装した人など様々な格好の人がいる。


 なかには袖なしの黒いロングコートに眼帯付けてオマケに髪が白髪というコスプレじみた人もいる。


 俺は堂々と彼らの脇をすり抜ける。すると、談笑していたはずの彼らの声がぴたりと止んだ。


 それもそのはず、俺は上下共に黒のジャージ。小脇にドローンを抱えており、どう見ても場違いだ。


「おい、あれマジかよ」

「コンビニじゃないんだぞここは」

「だれか止めろよ」

「面白そうだしほっとこうぜ」


 見た目で判断したい奴らは好きにすればいい。


 俺は背後から聞こえてくる嘲笑を無視してダンジョンに足を踏み入れた。


 白い光の膜のようなものをくぐると、目の前に平原が広がっていた。


 丘の稜線から青臭さを孕んだ風が降りてくる。頭上に広がる青空には太陽が燦燦と輝き、髪が仄かに熱を持つ。


 ここは屋内のはずなのに、なんで景色が外なのかはわからない。


 ただ無限に広がっているわけでもなく、ある一定の場所まで行くと【見えない壁サイレント・ウォール】によって行く手を阻まれるそうだ。


 そういったファンタジーな驚きもあるが、一番驚いたのはダンジョンなのにワイファイが飛んでることだな。


「さーて、と」


 俺は撮影のセッティングを始めた。



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2023/06/16 誤字を修正しました。

2023/06/27 またまた誤字を修正しました。教えてくれた方、ありがとうございます。


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