第6話 僕5歳

 先日この世界で生まれて五年経ち、五歳になった。

 

 その日に食べた大きな鶏肉をこんがりと焼いたものに、かいわれ大根と玉ねぎのようなもののサラダが美味しかった。

 

 この世界にはマヨネーズに似たものが存在する。キマネの実といって色は薄緑の、大きさは梅の実と同じくらいの大きさで、実と種を一緒に潰して混ぜ合わせるとマヨネーズを少しサッパリさせたような味になる。それを鶏肉とサラダにつけて食べるのが凄く好きだ、毎日食べたいと思えるほど美味しかった。


 記憶にある野菜などと形が似ていても、名前や色が違うのも最近はだいぶ慣れてきた。似たような味の調味料も色や形、名前は違うが存在しているし、いずれこういうことも気にしなくなっていって、気にも留めなくなったら忘れているのかもしれない。

 こういうことは覚えてるうちに書き留めておくのがいいのかもしれないけれど、今のところそういうことはほとんどしていない。見たことも読めもしない知らない言語らしきもので書かれたメモ書きを大量に隠すのは難しいし、そんなものが大量に出てきたら親は心配するだろうし、見つかる相手によっては面倒ごとが起きるかもしれない。

 

 便利だったものは似たようなものがあるし、よく知らない知識を全く違う世界で試すというのが怖いというのもある。変に記憶の中の世界を意識して、常識も価値観も危険度も違うこの世界でとっさの時に悩んだりする方が危ないし、何かあったときに嘘でごまかしてあとからつじつまが合わなくなったりするよりは、最初からそうなる可能性を残さない方がいいと思ってる。


 ただ、前の名前と子供の頃に飼ってたペットの名前くらいは忘れないように何回か地面に書いたりして、そのたびに不思議な気持ちになる。


 味覚の好みも前とは変わっているし、音痴じゃなくなっていたし、高所恐怖症でもなくなっていたし、涙もろくもなくなっていた。性格の変化は自分ではわからない。記憶がある分精神年齢が高いといえるのかもしれないけど、他の人に聞けるようなことでもないし、話したところで変わったことは戻らないのだし、自分の中でいつか納得できる理由が見つかったらいいな、くらいの気持ちだ。




 観察日記をつけていた植物は白と濃い黄色の綺麗な花を咲かせた後、しばらくしたら枯れてしまった。事前に花が咲いた後は枯れてしまうと教えられていたけど日々の日課だったので少しだけ寂しい。種も回収したので植木鉢はすでに空っぽで綺麗に洗って庭の隅っこに置いてある。


 兄たちは観察日記を丸写ししていて母達に怒られていた。記録を丸写ししそうだなと思っていたので簡潔に書いておいて正解だった。詩的な表現なんて一切できないけど、もしそんな文章を書いていたら詩人を二人生み出していたかもしれない。



 文字の練習は毎日しているので五歳にしてはかなりきれいな文字を書けるようになったと思う。新聞も知らない単語があれば教えてもらって覚えていってるので、たまに書かれている難しそうな内容の発見や実験の記事も読めるようになってきた。内容は専門的なことを書かれていて理解はできないが。

 

 気になる記事といえば海はものすごく危険なとこらしく、海上施設の建設が再開されたと記事になっていた。

 この世界の水辺は危ないというのは何回も言われているので知識として知っていた。なんでも魚が物凄く巨大な種類が多く、丸呑みされたりする事件があるそうで、小魚がいっぱいいて綺麗な小川でも水深が深い場所があるなら子供は近づかない方がいいそうだ。

 記事になっていた海も、化け物みたいに巨大な魚や生物がいるようで、人が食べられたりすると餌場と思われて危険な生き物が集まってくるようだ。


 海上施設建設の再開は、建設途中に魔力嵐の直撃でダメになった施設とは違う浮体構造物?というもので作られるそうで、成功すれば海の研究が進むみたいなことが書かれていた。


 いつか海は見てみたいけど、わざわざ危ないといわれてるところに行くつもりはないので是非とも建設してる人たちや研究者の人たちには頑張ってもらいたい。




 そんなことを考えたりしながら今日も庭で魔法の練習。

 五歳になったので玄関前のスペースから庭へ移動した。庭だったら母達が見ていなくても平気だろうという事で、庭から出ない約束をして魔法の練習中である。まだ学校に通う年齢ではないので、兄たちが学校に行ってる間は静かな庭でいろいろ考え事しながらひたすら水を眺めてる。


 魔法の練習をするためには魔力が必要で、魔力を増やすためにはご飯を食べないといけないので、お昼ごはんまではあまり魔力を使わない方法で練習している。頭の大きさほど水の塊を眺めながらグニグニと形を変えて魔法の感覚を覚える。


 自分の持ってる総魔力量は食前と食後で変わるし、なんとなくしかわからないけど一応感覚的にはわかるようになった。無くなりかけると魔法の制御というか発現がずれる感じがする。一度使い切ってしまったときは魔法が全く使えない感覚と言ったらそのままだが、自分の中の引っ掛かりが無くなったような、強引に言い換えると筋肉痛でそれ以上動かない状態の痛みのないバージョン?といえばいいのか、そんな感じだった。体力と同じでまだいけるまだいける、あっ無理だの感じといえばいいのか言葉にすると難しい。


 一度だけ魔力切れになったときも、魔力切れで気持ち悪くなるとかは無く、その状態でも動けるし、眠くなったりもしなかった。


 魔力の減る感覚もタイミングも若干わかってきて、魔法で水を出した瞬間に減った感じがする。その後ずっとグニグニといじってるだけだとほとんど減ってる感じはなくて、その水を凍らせたり、霧状にしたり、熱湯に変えるときも少しだけ魔力が減ってる感じがした。水を熱湯に変えるときと、凍らせたものを熱湯に変えるときで、魔力の減った感じが同じ位なのは不思議だ。これも魔法が大きくなるほど魔力の減る感覚が増えた。

 

 出した魔法を遠くに飛ばすには魔力を使って押し出す感じと言ったら説明にならないので、両サイドから強く抑えて後ろから押すと、勢いよく飛んでいく感じといえばいいのか、とにかく発現させた魔法は魔力で飛ばせるらしい。


 魔法を発現させることのできる場所も自分の魔力が届く範囲のみだった。掌の上や自分の目の前なら簡単に魔法を出すことはできるけど、目視できていても離れてる場所には無理だった。距離がある場所で魔法を発現させるならそこまで自分の魔力を伸ばす感じで余計な魔力を使わないといけない。


 自分の周囲に存在する環境魔力を使えばいいんじゃ!というのも無理な話でむしろ周囲の魔力は自分の魔法制御の時に邪魔な感じがする。エルフのお兄さんに聞いたら魔法は自分の魔力を使って発現させるもの、環境を利用する場合は自分の魔力で強引に干渉させるしかないといっていた。

 干渉とは何ぞやと思ったけれど、バケツに入った水に干渉する場合、自分の魔法で発現させた水と魔力でかき混ぜて無理やり操るといえばいいのかとにかく力業だった。これも魔力量が多ければ周囲の水をうまく使えるかもしれない。


 魔法の威力をあげる方法で思いついたのは、雪玉に石ころ入れる凶悪な理論方法で魔法で実験してみた。結果は無駄に魔力を使うから魔力量がもっと増えた時には有効だと思った。これも干渉と同じで水の中に入れる石が大きければ大きいほど、水の中で持ち上げて移動させたり、浮かんだ水の中から落ちないように維持するので魔力を使ってる感覚がしたので、これも魔力量が増えてからだと思う。


 魔法で水を作りその中で氷を作るとかも実験してみたけど、綺麗な形で凍らせるのは難しく、作ることはできたけど練習が必要そうだった。

 熱湯の中に氷を作る場合も同じで、なぜか減る魔力はたいして増えてないのに難易度が上がった感じで、練習している最中だ。


 こんな感じでいろいろ試してるけど、今は下手に変なこと考えていろいろ試すよりも、魔力増やした方がいいのはわかった。ただ魔力がどれだけ増えてるのかは毎日魔法をいじってるけど、魔力切れ寸前までのギリギリのチキンレースはしてないので、よくわからない。多分増えてるんだろうけども、いろんなことを試すとその分使う魔力が増えてて結局は質も大事だけど量なんだなあと思った。

 

 庭で練習してるから、庭を魔力を含んだ水でびちゃびちゃにはできないし、大きな魔法は作るのもちょっと怖いし、魔力量のこともあるので小さな実験を繰り返して日々実験中だ。



 少し大きめの氷の塊ですら凶器なのに、他の種類の魔法とかでできそうなこと考えるとかなり危ないと思う。兄たちが火の玉ボールを投げてた時も思ったけれどこの世界は危険だ。ケガしないようにこれからも身を守るためにも魔法の練習は続ける。


 そりゃ軍人さんや教会の人が良く見回りをしているわけである。この町の軍人は評判いいみたいだし安全のために頑張ってほしい。教会の人はたまに、町の中で清掃活動をしているのを見かける。



 学校に行ったら魔法の授業とかあるのだろうか、魔法に呪文とか本とか杖とか使うような感じじゃないけど、どんなことを教えてもらえるのか気になる。兄たちはつまらないと言っていたし多分体を使うよりは頭を使う授業なんだと思うが。一種類しか魔法使えないのでそれで成績下がったら嫌だな、と思いつつ知らない歴史とか教えてもらえるのは少し楽しみでもある。

 友達は年齢的なこともあって、たぶんできにくそうな感じがするし、思春期とかこの場合どうなってしまうのかの方が気になるかもしれない。

 

 まだ学校行くようになるまでは時間はあるし、今はよく食べてよく寝て魔力も体も大きくする。父は背が高いしムキムキなので将来ガタイのいい大人になれそうで楽しみである。

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