第2話 夢の続き

 掌の上で水の形をグニグニと変えてクジラをつくる。


 思った通りに水を動かすのは難しく、細くしようとすると分裂してしまい、それをくっつけようとすると太くなってしまう。


 頭の中では完璧なクジラが存在してるのに掌の上ではミミズのエイリアンがうねうねとしている。何とか頑張れば魚には見えるようになったけど、記憶の中の最大の哺乳類とは似ても似つかない別の生き物だ。


 絵心がないので頑張って形として残せないかを試しているけど全然うまくいかない。継続は力なりとは言うもののこれはまだまだ先が長そうだ。



 最初は夢だと思った。


 夢を見ているときのような「これは夢だ」と気付けない感覚といえばわかりやすいかもしれない。


 知らない言語に、知らない光景、思うように動かない体。


 ただもう四年も夢の中で寝て起きてを繰り返していれば、これが夢ではないということくらいは理解できた。


 夢の中で夢を見て、それが怖い夢で起きても夢の中だったとか真面目に考えるだけおかしくなる。


 これは現実だと認めてしまえば色々とあきらめもついた。


 言語を覚えることから頑張って、色々なことを見て知って覚えた。



 そんなこともあり人生で初めての体験、二度の人生でといっていいのかはわからないけど魔法の練習中である。


 家族みんな、父親も、二人の母も、上の兄二人も魔法を使えるし、どうやらこの世界では魔法を使えること自体は珍しいことではないみたいだ。


 ただ他の人とは違い一種類の魔法しか使うことができないけど。たまに血液をとって検査をしてくれる医者の人が言うには一種類の魔法以外が使いにくい人はいるけど、一種類しか使えない人はすごく珍しいと。


 一種類といっても水に関係してれば良さそうなので練習次第で何とかなるはずだ。


 魔法の練習方法も、魔力を増やす方法も知ることができたし、あとは努力あるのみ。



 親の買い物についていったお店で物凄い美男美女夫婦がいると思ったらエルフだったのも驚いた。


 少し長い耳も、スタイルの良さも夢かと思うくらいだった。

あの見た目で魔力も多くて長生きなんて上位種って言われてるだけあるなと思った。


 そんなエルフから魔法のことを聞けたのはラッキーだったし、たまに連れて行ってもらえた時に魔法について聞くと教えてくれる。



 魔力を使い切ると魔力量が増えるという映画などでよくあるパターンがやってはいけないことだとは思わなかった。

 考えてみれば当然のことで池の水を全部抜いても池自体が大きくなるわけではないし、一度無くなってしまうと元に戻るまで時間がかかるのは当たり前だ。


 そして魔力を残しておいた場合と、使い切った場合では魔力が回復するまでの時間に大きな差がある。

 これは一回無知な時に試してなかなか魔力が回復しなくて焦って確認したから間違いない。



 一度使い切ってしまうと回復の前に魔力を生み出す状態から始まり、そのあとに魔力を増やす状態になる。ゼロから一にするのは時間がかかるが、一から二にするのは楽ということ。



 結局のところ魔力を増やしたければある程度使って、魔力を使い切らずに栄養のある食事をとることが大事なんだそうだ。


 体が大きくなる時期に、つまり子供の頃にこれをすることによって徐々に魔力量が増えると。

あとはお金をかけて増やす方法もあると聞いた。



 睡眠自体は魔力回復には関係なく、体の成長や健康維持に必要なだけで、寝るだけでは魔力が回復することはないみたいだ。

 必ず食事をすること、これが魔力回復において忘れてはいけないことだった。



 何もせずとも魔力が回復するのはエルフだけ。


 こんな説明を四歳にわかりやすいように説明してくれた親とエルフ夫婦に感謝である。



 ちなみに一日の長さが三十時間で、一か月が大体三十五日、一年が四百二十日だったりする。



 あとこの世界で他にも驚いたことは月が二つあることだ。一つは丸いが、もう一つは若干崩壊してるというか砕けてる感じで凹んでいるのが見える。


 落ちてこないのか心配だけどちょっとずつこの星から離れていってるそうだ。

家にあった本を読んでもらっていた時に知った。


 本には本当は三つあったが大昔に消えてしまったとも書いてあった。


 星も見たことある星座なんて見つかることもなく、違う宇宙なのかそれともすごく遠くの宇宙なのかは、見る度にいつも思ってることだ。





 他には獣人がいることや、魔物や魔獣がいることも驚いた。


 獣人は見たときにコスプレかと思って驚いたけど、魔物魔獣は実物を見たことがないので公開されている絵や、写真で見ただけだが。



 これも映画などではおなじみだけど、魔法の世界は中世っぽい感じだと勝手に思っていたのが全然そんなこともなくて、テレビや中継は無いけどそれ以外は似たようなものが結構あったし、むしろこっちにしかないようなものも結構ある。


 一家に一台魔力で動く発電機のようなものもあるし、たまに見る車っぽいものにタイヤが無かった。



 そういうものを見るたびにこれは夢なのではと思うけど夢ではないようだ。




 あとは何だろう、家の一階部分には窓が一切なくて玄関も二階にあることも特徴的だと思う。魔法がある世界だとこれは一般的なのかもしれないけど。


「なんで一階には窓がないの?」

「悪い人や、魔獣が家に入りにくくするためよ」


 一度気になって聞いたときに言っていたし、確かに魔法使える人がいっぱいいたら防犯的にもその方がいいんだろうし。


 あと二階にある窓ガラスはもの凄く分厚い、というより家の壁とかも分厚いし玄関の扉も銀行の金庫の扉のように分厚い。


 これは防犯以外にもこの世界特有の魔力嵐のせいでもある。大型台風みたいなものが海水の魔力を多く含んだ状態で上陸すると長く広範囲に魔法をまき散らすのと同じになるという何ともふざけた現象が起こる。


 当然台風だけではなく、大雨や大雪の時も環境魔力を多く取り込み同じ現象が起きる場合があり危険である。


 確かに嵐の時はものすごい音が外から聞こえきたし、家の地下室に家族全員避難したこともあった。




 地震については起こる地域と起こらない地域があるみたい。この国では起きたことがないようだったけど家が耐震設計になってるので、やはり被害のある地域があるんだろう。


 こうして考えてみるとこの世界って魔物や魔獣のような化け物がいて、魔法ぶっ放すやつがいて、危ない災害がおこるやばい世界だ。


 やっぱり身を守るためにも魔法は上手に使えるようになった方がいい気がする。


 この小さい子供の体じゃ格闘技のような戦闘行為なんて無理だろうし、今できるのは魔法の練習と知識をつけることくらい。


 一種類しか魔法が使えないけど頑張るしかない、種類が少ないのなら量で勝負するしかない。いっぱい食べて魔力を増やそうと思う。



 決意を新たに魔法の練習を続ける。


 水の形を頑張って変えるように、伸ばすように動かす。




 その時母の声が後ろから聞こえた。



 ……たまに可愛い服を着せるのはやめてほしい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る