第1話 過去からのこんにちは
私には子供がいる。
今日も玄関の段差に座って木の棒で文字を書く練習をしたり、彼が唯一使える魔法を浮かべて一人で遊んでいる息子の白髪が増えた後姿を見て考える。
夫との間にできた私にとっては二人目の子だ、私たち一家にとっては三人目の子だ。
名前はノア。四歳の男の子だ。
上の兄二人とは違いだいぶ落ち着いているし、危なっかしいこともしない。子供のころからあまり泣かないし、好き嫌いもせずによく食べる。一度教えれば素直に言うことを聞くが、嫌なことは顔に出る。
たまに変なことをするが手のあまりかからない、かわいい素直な子だ。
ただ…彼は魔法が一つしか使えない。
それに生まれたこと頃から片眼が銀色の瞳、年々白髪も増えてきている。見た目も女の子のようで、あまり私たちに似ていない。
性格と見た目のせいで同じ年頃の子や、少し年上の子達とはいじめではないけどうまくいっていない。
ただ本人はあまり気にして無いらしく、どうやったら魔法がうまくなるのか、魔法を長く使える方法を聞いて来て教えてもらったことを、実践しながら一人で遊んで楽しんでいるようだ。
生まれてしばらくして受けた検査でも私と夫の子供であることは確かだったし、国が私達の町に派遣してくれている医者も「親子関係は確実、血液を使った検査も数回行った結果間違いはない。おそらく先祖の誰かに似たのでしょう。魔法の方は珍しい症状ですね」と言っていた。
夫婦仲が悪くなったなどということはなく、夫のもう一人の妻である彼女にも可愛がられている。
私達には女の子の子供がいないので、ノアにかわいい服を着せて二人できゃあきゃあしているのだ。
ノア本人はものすごく嫌そうな顔を隠しているつもりだろうが、服を着せられ表情の無くなった顔も整っていることもあって可愛らしい。
今も手のひらに水で魚?のようなもの形つくり、生きているように動かそうと難しく悩むような顔をさせてうんうん考えている姿が可愛らしい。
ただ将来は水の魔法しか使えないので働ける場所は限られるだろう、知らないことを教えてあげると喜ぶので学業関係で職を得るのか、どうするのかは今から不安だ。
「畑に水を撒けるから農家になる」
とノアが考えて言ったときは感心したが、魔法で生み出したものは魔力が残ったままだと生物に対して影響が強すぎることを、ぼかして教えてあげるとすごく驚いていた。
たまたま買い物に行くとき連れて行ったエルフ夫婦のやってるお店で、魔法の話を教えてもらったのが嬉しかったのかすっかり魔法好きだ。
あまり好き嫌いの激しいエルフに魔法のことなどを楽しそうに聞くのはやめてほしいのだけど、今のところあの夫婦も丁寧に教えてくれているようだ。
エルフは見た目が目立つ上に魔力も凄く長寿、完全に私達魔人の上位種族だ。
一般的に私たち魔人種は男性が体格的を大きく、女性が魔力を大きくするのが普通だ。男性は成長期に魔力を鍛えずに肉体を鍛え、肉体に魔力を使い強くなる。女性は成長期に肉体ではなく魔力を伸ばすことが多いため体格は男性ほど大きくならない。
もちろん男性でも魔力を伸ばす人もいるし女性でも大きな体格を持つ人もいる。
まあ魔力を伸ばすのは痛みに似たものを伴うので女性の方が耐えやすいというのもあるだろう。
まだまだ小さい子供だが、一種類の魔法しか使えないノアが変に期待をして勘違いしないか不安だ。エルフは私達とは違いただ一定年齢まで成長するだけでに体も大きく、魔力も増えていくのだから。
ただ、あの子が珍しくわかりやすく興味を持っている以上、他人と比べて不利なことでも見守るつもりだ。
さすがにこの前みたいに魔法で生み出したばかりの水を食べようとしたら怒るが。
エルフ夫婦のところへ行って事情を説明したところ、ノアに食べるのはやめた方がいいと苦笑まじりで言われてしまった。
魔法に含まれる自分の魔力を食べても意味がない、魔力を使い切っては魔力自体の許容量が増えないし魔力回復も遅れる。
そんな当たり前のことをエルフ夫婦にわざわざもう一度教えてもらっていたくらいだ。
それ以降は教えられた通りに練習をしているのだろう、魔力を使い切らないようにああやって掌の水の形を変えながら。
そういえば今日は近隣に魔獣が出たとかで国軍の方たちがこの町に寄っていくはずだ。目撃された時もまだ大きくなかったというはずだし、大丈夫だとは思うが子供達には改めて言っておかないとだめだろう。
ここも随分大きくなって防壁なども作り替えられたがやっぱり魔獣の情報を聞くたびに不安になる。この地方では魔物が現れることはほとんどないだろうが、代わりに魔獣は数年に一度は生まれる。
仕方のないことだけどやっぱり不安だ。
念のために地下室の物資の確認や掃除をしておいた方がよさそうね。避難の仕方もあたらめて確認しないといけない。
私は考えながら作業していた手を止め、できたものを見つめる。何回か見直し問題がないことを確認する。
「ノア~、新しい洋服を作ってみたの、着てみてくれる?」
魔法で遊んでいたノアがびくっと肩を揺らしてこちらを振り向いた。
その振りむいた顔はすごく困った表情をしていて可愛かった。
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