原初は宇宙を見る
かいわれだいこんぶ
はじまり
第0話 直進
「攻撃失敗!目標進路変更せず直進中っ!!、分離した、分離した小型、中型多数っ!」
「アリモオ地域周辺魔力量低下、魔力波通信不可能地域発生中です!」
「環境魔力低下地域からの撤退を許可、繰り返す、環境魔力低下地域からの撤退を許可!」
周辺の木々が無理やりなぎ倒され、根ごと吹き飛ばされ作られた広場には、片手に一メートルほどの棒のようなものを持った、魔量子スーツの上から、灰色のフルフェイスに灰色の追加抗魔力装甲で身を固めた男が立っている。
男の後ろには三人。少し離れた位置に立っていて、撤退ルートの確認をしている。男よりもほんの少しだけ軽装の装備をした三人だけ。
男の目線の先には、まだかなりの距離があるが、大きさのせいでその姿を見ることができる塊がある。巨大な鈍く輝く黒い潰れた塊が地面を揺らしつつ這いずり、山を削り、地面をえぐり、こちらに向かってきているのが見える。
ここからでも見えるほど大きな目標を見ながら準備を始める。
どうせもうすぐ聞こえなくなる無線を聞きながら失敗した時のことを考える。私はネガティブなのだ、口に出さないだけ許してほしい。
「原初による攻撃を実施、繰り返す原初による攻撃を実施」
「攻撃目標より撤退しつつ、魔力障壁を張れっ!巻・・・・込ま…るぞっ!
攻撃したら逃げるだけ、攻撃したら逃げられるはず。
失敗したら全部私のせいとかになるのだろうか、守りたい人はいるけどやっぱり死にたくないなあ。最後に見るのが魔物とか絶対嫌だ。嫌だ。
「魔力行船ジャーリア、攻撃後の魔力障害予想範囲からの撤退開始、以後目標に長距離魔砲による砲撃はできない」
「地…隊の撤…撤退……退が遅…ています!小型の魔……と交戦…ですっ!」
「原初による攻撃を実施する、地上部隊は撤退せよ、繰り返す地上部隊は撤退せよ」
怖い、ただただ怖い。物語の主人公ならこんな状況でもカッコいいセリフとか言えるんだろうな、主人公さんなら誰でもいいから助けてほしい。
長距離用照準棍を片手に攻魔力領域展開の準備をする。心臓がバクバクする、ちょっと手に力が入りにくい。
一度目を閉じて息を止め、そこから少しだけ息を逃がし、無理やり落ち着く。
そのままの状態で最後の通信を入れる。生き残れたら最後じゃないけど。
「攻撃準備開始、以後攻魔力領域で通信不可」
「了解、原初攻撃準備開始、原初の攻撃準備開始」
「私の回収部隊を除いて撤退してください、これから通信できなくなります」
「攻撃準備確認、以後通信不可了解、原初ノア、健闘を…」
目を開く。
もう攻撃するまで逃げられない。
段々と風で揺れる木々がゆっくりになってきた。
「撤……退……せ………よ……繰……」
「交…………戦……………中…………」
「原…………し……………」
音が聞き取れなくなった。
体が重たい。
凍結魔力核を生成。
圧縮魔力で包み込み、それをさらに圧縮。
周辺に凍結魔力核をさらに二つ生成する。
原初の周りに小さな三つの透明な塊と魔力靄が発生する。
原初を中心に半径二百メートルほどの範囲が攻魔力領域による魔力靄によりぼやける。範囲外から見ると木々は歪み、色はぼやける。
「……………こ…………」
「………」
凍結魔力核すべてに同じ作業を繰り返す、そこからさらに魔力圧縮を繰り返す。反発する魔力を領域で無理やり押さえつけ崩壊が起こるのを防ぐ。
攻魔力領域が少し小さくなり、範囲外になった木々は元の見た目を取り戻す。しかしすぐにまた魔力靄に覆われ歪みぼやける。
何度か小さな収縮と膨張を繰り返し、景色が揺れる。
次の瞬間巨大な魔力靄が揺れて急激に小さくなる。
半径百メートルほどに小さくなった、それと同時に空気を震わすような金属を引きずるような重く鈍い音が響く。その音は大きく長く広範囲に響く。
撤退していた部隊も、交戦中の部隊も、撤退先の司令部のある都市へも響き聞こえた。
音と同時に収縮した魔力靄の周辺が広範囲にわたり一瞬で凍り付く。
風で揺れ動いた木々や、地面から飛び出ていた岩、地面を隠していた草花など全てを凍らせた。
急激に小さくなった魔力靄がゆっくりと元の大きさに戻っていく。
一つ目の魔力圧縮による、一回目の魔力崩壊を抑え込めた。
まだ一段階目だから魔力濃度を限界まで上げてる体が軽く揺れる程度で済んだ。
巨大な鈍い金属音が響いてからしばらくして、もう一度先ほどと同じように巨大な魔力靄が急激に小さくなり、また同じ金属を引きずるような巨大な鈍い音を遠くまで響かせた。
その後しばらくしてもう一度同じ音が響く。その音は聞こえているものを不安にさせる音だと記録に残る。
三度同じ音が響き、魔力靄がまた元の大きさに戻る頃には周辺が広範囲に真っ白な景色に変わっていた。周辺の気温を下げ、そこにあるすべて物のを凍らせて。
三度、一回目の魔力崩壊を防いだまま、さらに魔力圧縮を続ける。
もう凍結魔力核が歪み過ぎてて、時間が止まってるような状態の自分でも確認が難しい。まだ目標はかなり遠くだ。
巨大な魔力靄の中が先ほどよりも景色が確認できないほどに歪み、ぼやける。その状態でまた小さな収縮と膨張を繰り返す。
何度も何度も先ほどまでとは違い魔力靄は小さな収縮と膨張を繰り返す。
その度に周辺が揺れ、白い景色が震えた大気により白い結晶をまき散らし、さらに白く染まっていく。
急に巨大な魔力靄が動きを止める。
静かになった周辺には風の音だけが聞こえる。
次の瞬間急激に魔力靄が収縮する。
半径三十メートルほどまで収縮し、さらに収縮後も揺れて歪むように魔力靄が形を変える。
同時に先ほど三度響いた巨大な音とは比べ物にならないほどの音が響く。
周囲のすべてを揺らし、重たい金属を叩きつけ引きずり投げ捨てるような、低く低く重たく鈍い音が先ほどよりも大きく広範囲へ響く。
誰もが思わず空を見るほどの、動きを止めてしまうほどの音を、小さくなった魔力靄の揺れと歪みが収まるまで響かせ続ける。
音と同時に周囲に先ほどまでの大気の揺れとは比べ物にならない衝撃がまき散らされる。白い景色があった場所はその白さをさらに濃く、さらに遠くまで広げ、周辺の気温さえさらに冷たく変える。
音が収まると息をするのも痛く辛い場所へと周囲の状況を変えていた。木々の葉は砕け、細い木も砕け、地面を隠す草花は全て白く変わり遠くへ散っていった。
二度目の魔力崩壊を抑え込んだ。
魔力をごっそり持っていかれたけどまだ大丈夫。
まだ大丈夫。
またゆっくりと魔力靄が真っ白な景色を飲み込みながら大きくなる。
男の後ろで少し距離をあけ待機していた三人は、三人でまとまり、体を覆う防魔力領域を維持しながらその光景を見て、今も周辺の状況を確認し、男を信じて撤退に備えている。
先ほどの収縮よりも少し間をあけてまた小さく小さく収縮と膨張を繰り返す。
そしてあの周囲のすべてを揺らし、重たい金属を叩きつけ引きずり投げ捨てるような、低く低く重たく鈍い音をまき散らし響かせる。
二度目の異音をまき散らし収縮した魔力靄は、先ほどよりも明らかにゆっくりと時間をかけ元の大きさへ戻っていく。
魔力靄が半径二十メートルほどまで収縮する。
三度目の、すべての音を合わせると六度目の音が響く。
その音はそれまでで一番長く響いた。
体が揺れる、気を抜くと体が崩れてしまう気がする。
音もしないはずなのに揺れてる音がする。
さらに重くなった体を動かす。
右手の長距離用照準棍が重たい、腕が上がらない。
あれだけ遠くに見えた魔物が、まだ距離はあるけどかなり近づいてきた。
大きいなあ。
収縮した魔力靄が半径五十メートルほどまでゆっくりと大きくなりそこで止まる。
魔力靄の中で作られた何かが三つ、男を中心としてゆっくりと周囲を回転し始める。
男が右腕を目標へ向ける。ただ真っ直ぐに。
音もさせずに男の周囲を回転する魔法はさらに回転を速くする。
男が装備で見えない口を動かし、何かを言った。
次の瞬間魔力靄から三つの中身の歪んだ氷塊が飛び出す。
一つ目の氷塊は巨大な魔物の塊の体、その側面の地面に勢いよく落ちると同時に周囲ごと白く染め吹き飛ばす魔力拡散による大爆発を引き起こす。
その魔力爆発は周囲の小型中型魔物をそれだけで崩壊させる。
魔物は側面での白い爆発の衝撃を受けた部分を抉り取られるように崩壊させつつも進む。攻魔力のそれは魔物から分離した部分を、小型中型の魔物へ変化させずにただの凍った岩へと姿を変えさせる。
二つ目の氷塊は魔物の正面よりも手前に落ちてしまう。
それでも魔物の進行方向で大爆発を起こしつつ、周囲に圧縮され無理やり二度の崩壊を止められた魔力が拡散し、周囲にまき散らされる。
魔物は爆発の中を巨大過ぎる体の表面だけでなく内側まで凍らせ、崩壊させつつも進むのをやめない。
魔力により体の表面を崩壊させ、体を小さくされながらも、周囲の魔力を取り込み体を岩にし崩壊させつつも、まだ巨大な魔物は進む。
当たれ。
次の瞬間、三つ目の氷塊が魔物に直撃した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます