第4話
店内が収支管理ユニットで大盛り上がりしている中、それにくっついていたシミュレーション機能を立ち上げる。それを読むに、シミュレーションに突っ込める変数の量が少なかったり、比較用に記憶しておける総数が二つしかないなど、かなりかゆい所に手が届かない感じだった。
それでも、無いよりはマシなので、先ほどの【マナ・ソード】とか他の防具なりを突っ込んで収支計算を行っていく。
何秒に何発【マナ・ガン】を撃つのか、とかは入力できるのが幸い。
「俺も!俺にも管理ソフトを!」
「並べ並べ!」
そこまで広くない店内に押し寄せたプレイヤーでごった返し始めたので、新たに現れた、今度は明確に女の子な感じがある
「この店にある武器防具一覧もらえますか?」
「はい。こちらになります」
女の子の店員が手を差し出してきたので、それに手のひらを合わせてみると、『カタログが追加されました』とシステムメッセージ。情報の受け渡しってこうやるのか……、他の種族にはできないよね、これ。
もしかして、この情報受け渡しも後から購入するユニットとかになる!?
「あー、
ジョブ無しで色々な役割を持てるが故に、金銭や素材部分をボトルネックにする為なんだろうな……、取れるスキル量とかも考えると結構この種族余裕がないかもしれない。
ま、そういうのは承知でキャラメイクしてるんだ、さっさと防具とかも買って冒険に出かけよう。
その後、エネルギー収支に四苦八苦しながらシミュレーションで選択したのは、先ほどの【エナ・ソード】と【エナ・ピストル】それに加えて、この防具。
ウェアユニット【ウェイフェア】ランク2
|物理
|DEF 10
|EC 50
|起動時のECは多いが、維持のためのエネルギーは少ない。
|――歩き続けるコツは、いかに消費エネルギーを少なくするか、だ。
この【ウェイフェア】つまりは旅人の服はエネルギー収支管理ユニット上から見ると、Consumption EPつまり消費EPが毎秒5と燃費がいい。一方でECが50と割高なので、戦闘に入ってすぐに起動してしまうとEPが枯渇するというデメリットがあるが、あらかじめ起動しておけば消費EPが割安で済むという利点がある。
とはいっても、普段のエネルギー効率が落ちるというデメリットもあるのだけど。
というか、Activation EPとかConsumption EPがエネルギー収支管理ユニットから見ないとマスクデータになってるのが意地悪過ぎる。
そりゃ、皆慌てて買いに来るわ。
「うおー!消費EPが見える!」
「嘘!この装備ダメージ受けるごとに20EP消費だったの!?」
阿鼻叫喚の店内はさもありなん。マスクデータのせいでいつの間にか収支マイナスになってたりしたんだろうな……。
さて、収支の最終確認。
||Total Stock EP 120
||Generation EP 15/s
||Consumption EP 0/s
||EP Balance +15/s
|【メイン・ジェネレータ】
||Stock EP 100
||Generation EP 10/s
|【サブ・ジェネレータLv1】
||Stock EP 20
||Generation EP 5/s
|【ウェイフェア】
||EC 50
||Consumption EP 5/s
|【エナ・ソード】
||EC 10
||Activation EP 10
|【エナ・ピストル】
||EC 10
||Activation EP 5
|【リペアユニットLv1】
||EC 10
||Activation EP 20
|【スカイ】
||EC 20
||Consumption EP 20/s
素のエネルギー収支はプラス15。そして、【スカイ】を起動せず、【ウェイフェア】を起動している状態でエネルギー収支はプラス10。【エナ・ソード】と【エナ・ピストル】両方の効果を連打したら収支マイナス5に落ち込むが、どちらか片方であれば収支は0を上回る。
「ま、こんなもんでしょ」
本当はもうワンランク上の装備や、腕力をあげるユニットを付けたかったんだけど、そこまでやるとエネルギー収支が劣悪になるか、ちょうど0になって二進も三進もいかなくなってしまう。
こうなると、さっさと次の段階のジェネレータを解放したほうが良い。
「じゃ、最後にデザインを確認して購入っと」
【エナ・ソード】は少し幅広の片手剣。その腹には鉄の色よりも少し濃い色で樹形図のような回路が作られていた。鍔は無く、柄もデザインや意匠、滑り止めなどが一切ない灰色。
そして、それを格納する鞘も、細長い直方体で切っ先から柄まで全てを覆う物。起動コマンドを入力すれば、柄の部分が開き、そこから【エナ・ソード】を引き抜くことになる。
「左の腰に装備で良いか」
【エナ・ピストル】はシンプルなグリップ。銃身も短くトリガーガードをなぞっていけばそのまま銃身を触らずに銃口に触れられるほど。安全装置や、ハンマー、排莢する部分、スライドする部分すらない。
ぶっちゃけ、ぱっと見は拳銃の玩具と言う印象。しかし、その短い銃身の側面に溝が入れられているというアクセントで、まあまあ格好いいデザイン。
ホルスターは正方形の薄い箱。起動すれば薄い側面が開いて、そこから【エナ・ピストル】のグリップが飛び出てくる仕組みらしい。
「こっちは右の腰」
最後に【ウェイフェア】。これは上下一式のワンピースのような服。しかし、ウエストの部分が絞られていなかったりして、体のラインに沿うような形ではなく寸胴状で、スカート部分が蛇腹状になっておらず広がるようにもなっていない。腕とバイタルエリアと足、その部分を覆って保護するという機能だけに特化したような服だった。
恐らく
布であってもこれは防具、素材の布がかなり分厚くて、結構いい素材で出来ていそうだった。
「
ぶっちゃけ可愛くはないが、
ふと周りを見てみれば、消費EPが少ないことに気が付いたプレイヤー達が次々ウェイフェアに着替えていくのが見えた。明確なタンク構成ならもっと強力な防御力を誇る防具と盾を装備するんだろうけど、それ以外ならこれがエネルギー収支を含めれて一択になるだろうね。
それはさておき、これで準備は整った。次の目標は【サブ・ジェネレータLv2】としておいて、依頼の手紙を届けようじゃないか。
「エルストの北、ジフ村へ!」
次々店内に入ってこようとするプレイヤーをかき分けて、何とか外にでる。どこから湧いて出て来たんだ、多いぞ。
そして、エルストを南北に分ける大通り、つまり東西に伸びる道を行く。
大通りには、数多のプレイヤーのパーティ募集の掛け声や、露店の引き込みの声が響いていていて活気があった。このゲームではシステム的なパーティが存在せず、数によるごり押しもできる仕様。
経験値配分はその分薄くなるが、数の暴力という手が使えるのは良いし、パーティ人数と経験値配分のバランスを考えるのも一興だろう。
「ま、ぼっちには関係ないか」
親友もこのゲームをプレイしているのはしてるけど、彼女は彼女でソロプレイ大好き人間だから私はおろか他のプレイヤーとパーティを組むことはしばらく無いと思う。多分。私を差置いてパーティ組んでたらちょっと拗ねるぞ。
「フルーツジュースだよー」
「一杯頂戴」
「あいよ。10AU」
「味わえるのは液体のみーっと」
歩きながら木のコップに口を付けてフルーツジュースを一口。甘過ぎない、酸味のある清涼感ある味わい。実に美味しい。これで食事も食べられたらなー、よかったのになー。
そして、飲み終わって気が付く。この木のコップどうしよう問題。
周りを見ても木のコップを手に、辺りを見回しているプレイヤーが散見される。このゲーム、アイテムボックスの容量がかなり小さいから木のコップで一枠埋めたくないの分かるよ。とはいってもポイ捨ても日本人的に難しいよね、分かるよ。どうしようね?
「いっそのこと、回収業者とか出てこないかな?」
エルストを囲む壁の中から出る大門前で、コップを手にこのまま外には出られないと立ち止まる。回収業者いないかな?1AU渡すから引き取ってよこれ。
辺りを見回していると、一人の露店を開いている紫の布の塊を発見。布の塊とはいささか不正解で、ターバンを頭から体の下までグルグル巻きにした、かなり特徴的なプレイヤー。それなのに、周りの誰もその人の前で立ち止まることが無い。
それが不思議で、その人が広げているナイフも相まって、声をかけてみる気になった。
「失礼」
「……」
「もしもし?」
「……!」
最初は気づいていない無かったのか、無反応。それにもめげずに声をかけると、ビクッと体を震わせて顔、顔?らしき部分をこちらに向けてきた。体の動かし方的に、胡坐をかいていた、かな?布の塊だから分かんないけど。
「このナイフは売り物ですか?」
私の問いかけにこくこくと頷いてくる、布の塊。
「手に取ってみても?」
もう一度こくこくと頷いてくる布の塊。
真っ先に目についた、刺突に重点が置かれているらしい先端だけが両刃の、刃渡り15cmほどのナイフを手に取る。
近接武器【ナイフ】ランク2
|物理
|ATK 5
|鉄で作られたナイフ。
|毒が塗られている。
ATK 5だけど、毒が塗られているナイフ。こういう搦め手の装備は
他のナイフを手に取ってみても、そのすべてが毒が塗られていると表示される。毒にも色々あるけど、どうなんだろうか。
「この毒って、全部同じものなんですか?」
布の塊は、ふるふると首を振る。
つまり、毒の種類もマスクデータになるのかな?
「毒の種類を教えていただいても?」
これには、布の塊は固まってしまう。やりづらいな……この人……。
ただ、素だとしてもロールプレイとしても面白いし、個人的には好印象。
やりづらいのはそうだけどね。
しばらく布の塊が固まっていると、やがてターバンの端が並べられたナイフに伸びていく。恐らくその紫色の布の下には手があるのだろうなあ、なんて思っていたら、ナイフに触れる時に僅かに布の影から指と手の甲の半分くらいが見えた。
手の形からして女の子かな。
「……」
そして、彼女が無言でナイフをブロックごとに置くと、そのカテゴリごとに紙を置いていく。その紙を読むと出血毒、麻痺毒、神経毒の三つがあるらしい。
「じゃあ、一つずつ下さい」
すると、こくこくこくこくと、布の塊は先ほどよりも多く頷いてくる。可愛いな、この人。
システム上でAUとナイフをトレードしようと手続きを進める。購入品目が全て【ナイフ】と言う表記になっているが、これがこのプレイヤーが作った物であれば、せめて名称を変えて欲しかった。
あ、後ついでに。
「このコップも進呈します」
上乗せの10AUと一緒に木のコップもトレード欄に突っ込んでおく。すると、一瞬布の塊は固まるが、こくりと頷いて受け取ってもらえた。不満って仕草から見えるけど、許して。
そして、そこそこの量のAUと引き換えにナイフを手に入れると、この人とは会話も望めそうもないので立ち去ることにする。
「それじゃあ、ありがとう。良い買い物でした」
立ち去りながら何となく手を振ってみると、布の塊は左右に少し揺れて返事を返してくれた。やっぱ可愛いよこの人。見た目は余りにも不審だけど。
さて、ナイフはどこに装備しようかな?左右の腰はもうすでに埋まっているから腰に装備することになる……んだけど。
「いや、ユニットとして装備できないから、また個別にユニット必要にならない?これ」
なーんにも考えてなかったツケが回ってきました。念のためそこら辺の露店からベルトを見せてもらったが、
「しょうがない」
こういうのも醍醐味。しばらくはアイテムボックスの肥やしになっておくれ。今受けている依頼が終わったらすぐに装備屋に駆け込むからさ。
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