2-6|審議・審議結果

 校長室では、デボラ校長、メイド服に着替えたミア、オーウェンが先のイリスの模擬戦についての意見を交わしていた。


 デボラ校長がミアに尋ねる。


「ミア、イリスと戦ってみてどうでしたか?」

「はい、イリスは剣の腕前はまだまだかと思いますが、あの魔力量をうまく制御して戦えていると思います。特に、わたしがやった風の魔法での防御を、見ただけで真似てすぐに実践で使える、というのは賞賛に値します。」


 デボラ校長はミアの方を見ながら話を聞いていた。デボラ校長は同意するようにうなずくと、次はオーウェンに尋ねる。


「あなたが試験官だとするなら、イリスのことをどのように評価しますか?」

「ミアの言ったような評価になりますね。剣技はまだ磨かなくてはならない所が多いですが、魔法制御に関しては一流といっても問題ないでしょう。応魔石を破壊してしまうくらいの魔力の持ち主ながら、その魔力を非致死性の魔法にまで抑えて使うことができますから。」

「そうですね。イリスほどの魔力量があれば、魔法を使って人を殺すことなど容易いでしょう。」


 デボラ校長はオーウェンの評価を聞いて、ミアの評価を聞いた時のように同意するようにうなずきながら所感を述べる。デボラ校長は、これまでの二人の評価を聞いたうえでの、自分の意見を話した。


「私も、二人の評価におおむね同意です。剣はまだつたないですが、魔法の扱いにはけている。おまけに応魔石を破壊するほどの魔力量です。さらに研鑽を積めば良い魔剣士になることができるでしょう。」


 オーウェンもミアも、デボラ校長の次の言葉を待っているかのように、校長を見ながら黙っている。


「ただ剣の腕前は、やはり1年生のどの学生にも劣ると思います。その点、戦ってみてどう思いましたか、ミア。」


 自分に振られたミアは、先の模擬戦を思い出しながら答える。


「確かに、最初の方はこちらに攻めてこずに防戦一方でした。最後の一撃も力に任せて叩き切りに来たような一撃でした。」


 ミアは、一拍置いて評価を続ける。


「しかし、剣術を彼女よりも嗜んでいるわたしの攻撃を全て防いだり、いなしたりした技術には目を見張るものがありました。やはり、先ほどデボラ校長もおっしゃられたように、研鑽を積むのが良いと思います。これほどの逸材を逃してはならないと愚考します。」


 ミアの評価に、デボラ校長は、わかりました、という表情をしながらうなずいた。デボラ校長はオーウェンの方を向く。


「五日間イリスを指導した教官として、今のミアの評価と、私が言った、研鑽を積むのが良い、という意見はどう思いますか?」

「今のミアさんの評価はおおむね正しいかと思います。校長の、研鑽を積むのが良い、という意見にも賛成です。彼女は呑み込みが早かったので、教えたことをすぐにできるようになりました。今回が防戦一方の戦いになってしまったのは、やはり剣術を学んで日が浅いからだと思います。」


 オーウェンも自分の意見を述べる。デボラ校長はその意見を聞いて、目をつぶって少しの間考えるような表情をしていた。それを止めると、オーウェンに命令した。


「わかりました。それではイリスをこの部屋に連れてきてください。」



 審議結果がどのようになるか、そわそわしながら待っていたイリスのいる応接室にオーウェンが現れた。


「イリス、審議が終わったから校長室に行くよ。」

「やっと終わったのね。オーウェンは結果を知っているの?」

「いや、知らないよ。キミがこの学園に入れるように、高評価はしておいたよ。俺にできるのはここまでかな。さあ、行こうか。」

「ええ。」


 イリスは緊張した面持ちでオーウェンの後をついていく。応接室と校長室は隣の部屋同士なのだが、いやに遠く感じる。


 オーウェンが部屋に入るのに続いて、イリスも部屋に入る。


 デボラ校長はいつものように顔の前で口を隠すように手を組んでおり、その口元は見えない。ミアも、そばにほとんど無表情で立っているだけで、その表情から審議の結果がどうなったのかを推測することはできない。


 デボラ校長はまず、イリスにねぎらいの言葉をかけた。


「イリス、試験お疲れさまでした。五日間のオーウェンの指導にも耐えて、頑張りましたね。」


 イリスは、まさかデボラ校長からねぎらいの言葉をもらうとは思っていなかったので、若干返事が遅れる。


「…あ、ありがとうございます。」


 デボラ校長はイリスの返事を聞いて、満足そうにうなずく。


「あなたの模擬戦を見て、三人で話し合いました。三人の意見はおおむね一致していました。」


 デボラ校長はそこで一度区切る。


「あなたへの評価はおおむね、魔法の扱いには長けていて問題ないが、剣術の扱いには少々鍛錬が必要、というものでした。」


 イリスはやはり剣術がだめだったか、と肩を落とした。デボラ校長は言葉を続ける。


「その剣術の潜在能力と、魔力量の大きさを見込んでこの学園への転入を許可します。」


 デボラ校長はそう宣言した。イリスは一瞬、何を言われたのかを理解できずに呆けた顔をしたが、転入することが許可されたのだと理解し、ホッと安堵の息をついた。


 デボラ校長はイリスを見て、少し相好を崩した。


「それでは、これから転入手続きをするので、少し待っていてください。」デボラ校長はミアの方を向く。「ミア、書類を用意してください。」


 ミアが、かしこまりました、と部屋を出ていった。

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