1-3|盗難

 オーウェンとイリスは医務室を出て、そのまま魔剣士学園を見て回ることにした。


 太陽がイリスの快復を祝福するように輝いている。時刻は10時くらいだろうか。


 魔剣士学園には様々な施設が存在する。魔剣士学園に通う学生は、15歳から19歳までの青少年少女が通う、学園都市スカラロポリスの中でも1,2を争う大きな学校だ。


 魔剣士は、魔法を使って身体強化をしたり、武器を強化したりする剣士のことである。一般には魔法を使えない剣士よりも強いとされ、魔剣士学園を卒業した後は商隊や王族などの護衛隊や、王国軍に就職するのが一般的である。


 そのため、この魔剣士学園は国立の学校のような優遇を受けており、スカラロポリスの中にある学校の中でも有数の土地の広さを誇っている。


 オーウェンは、魔剣士学園の敷地内にある闘技場、図書館、講義室、研究棟、学生寮などを紹介しながら回った。


 学校の敷地内は広いので、朝から校内を回っても昼を過ぎてしまう。


「イリス、おなか空いてないか?」

「少し、おなか空いているかも。」


 オーウェンがそんな気遣いを見せると、イリスはその好意を受け取る。グゥゥゥ〜、と腹からも好意を受け取る音がする。イリスは顔を赤らめてそっぽを向いてしまい、オーウェンはくすくすと笑った。


「ふふっ、それじゃあお昼にしようか!朝から何も食べてないもんね。」

「そ、そうね。早くお昼にしましょう。」


 * * *


 イリスとオーウェンは、魔剣士学園を一通り回り終わったので街に出て昼食を摂った。


 昼食を摂った後二人は、街に出て魔剣士学園の外を見て回った。どこに行けば衣類を買うことができるのか、どこに行けば食料を手に入れることができるのかなどをイリスは知ることができた。


 街を回っていると既に陽は西に傾いていて、もう1,2時間もすれば空が夕焼けに染まる頃だろう。

 そんな時間だったからか、オーウェンは疑問に思っていたことをイリスに尋ねた。


「そういえば、イリス。この街に滞在するのにどこか宿はあるのか?」

「へ?」

「泊まるところだよ。野宿するわけにもいかないだろ?」

「宿なんか取ってるわけないじゃない。ここの街には海を漂って流れ着いてきたのよ?」

「確かにそうだな。よし、じゃあ宿を取りに行こうか。キミが男だったら俺の部屋に泊めてあげることもできるんだけど、男子寮だから女の子は入れないんだよね。」

「そうなのね。助かるわ。」

「じゃあ、こっちから行こうか。知り合いの宿屋への近道なんだ。」


 オーウェンはそう言って右側にある路地を指さすと、裏路地に入っていった。



「イリスは魔法が使えるのかい?」

「魔法は…使ったことはないわ。どうやって使うの?」

「頭の中で、どんな現象を起こしたいのかをイメージするんだ。例えば…」


 オーウェンが歩きながら右手を出して、手のひらを上向きにする。


「手の上に火が現れるようにイメージすると…ほら!」


 そういうと、オーウェンの右手の上にボウッと音を立てて小さな火の玉が現れた。


「イリスもできると思うよ。やってごらんよ。」

「やってみる!」


 イリスもオーウェンのまねをして右手の手のひらを上にした。目を閉じて、頭の中で手のひらに火の玉が燃えている様子をイメージする。


「んんっ……!」


 ボウッッ!!


「わっっ!!」

「あれ?炎が出た…?」


 イリスはポカンとした表情で間抜けた声を出した。イリスが出した火は、オーウェンのものより数倍は大きな火の球だった。オーウェンは驚いたように口を開く。


「ああ、びっくりした。キミ、すごい魔力量だね。同じ程度の魔法でも、魔力量が大きいほど強力な魔法を出すことができるんだ。おそらく僕と同じ火の球を出そうとイメージしたのだろうけど、大きさが桁違いだ。」

「そう、なの?」

「ああ、そうだよ。まあ、魔力の出力は自分の力で制御できるようになるから、たくさん魔法を使って覚えていくと良いよ。」


 イリスがオーウェンに魔法の使い方を教わりながら路地裏を歩いていると、前からローブを目深にかぶった中年の男が路地の反対方向から歩いてきた。


「魔法は詠唱して使うこともできてね。たとえば…」

「…スティール…!」


 ローブの男がつぶやくように言うと、ローブに隠れている男の右手がほのかに光を帯びる。男がにやりと笑った。


「『風よ、吹き荒れよ!』って詠唱すると…あれ!?」


 オーウェンは急に軽くなった胸元を両手で抑える。今まで首につけていた上下に長い双四角錐のペンダントがオーウェンの首からなくなっていることに気が付いた。いきなり軽くなったので、無くしたとしたらたった今、この一瞬のうちに、だ。


「ペンダントが無い…!ペンダントが無い!」

「急にどうしたの?」

「首からかけていたペンダントが無くなったんだ!たった今!!」

「そんなことあるわけ…」


 ローブの男はその会話を聞き、オーウェンが自分が盗ったことに気が付いたと勘違いし走り出してしまった。もちろん、オーウェンはその怪しい行動を見逃すわけがない。


「あいつだ、イリス!ちょっと捕まえてくるから待っていてくれ!」

「ええっ!?私も行くわよ!あなたの大切なペンダントなんでしょ?」

「ありがとう、イリス!このお礼は必ず!」


 ローブの男を追って、イリスとオーウェンは来た道を戻るように走り出した。

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