最終話 勇者の修行は終わらない

 「ふ~っ! やっぱ、地に足付けて日光浴びるの最高~っ♪」


 青空の下、本殿の前で神官装束姿のヒナタが両腕を天に伸ばして叫ぶ。


 デジスターとの決戦から数日後。


 ヒナタ達は無事にそれぞれの家へと帰還していた。


 ブラックロジックのボスであるデジマザーを倒した事で、敵の侵攻は止まった。


 他の世界の残党の始末が気にはなったが、他所の世界へ行く方法はヒナタ達には無かった。


 「ヒ~ナ~タ~さ~ま~♪」


 鈴の音のような甘い叫び声が参道から響く。


 夏らしい、黄色いワンピース姿のチヨコが石段を駆け上がって来た。


 「チヨコ、何で唐草模様の風呂敷を背負ってるんだよ!」


 自分に駆け寄るチヨコの首の後ろには、丸く膨らんだ唐草模様の風呂敷。


 「お供えと、私達が食べる分のおはぎですわ~♪」

 「いや、どんだけあるんだよ?」

 「ざっと、八百個ですわ♪」


 チヨコを抱きとめたヒナタが呟く。


 「じゃあ、本殿にお供えに行くか?」

 「ええ、お勤めの後はヒナタ様と夏を楽しみますわ♪」


 チヨコと手を繋ぎ本殿へと向かうヒナタ。


 「ヒナちゃ~ん♪ 祝詞読んでピヨ~♪」


 ヒナタが本殿の扉を開けると、十五センチくらいの真赤なヒヨコが飛び出す。


 「チヨコ~? 腹減った~~っ!」


 同じく十五センチほどの黄色い小狸が、床に寝転がり前足で腹を鳴らす。


 「はいはい、ラーバード様もキンチョウ様もまずはおはぎを食べましょうね?」

 「どっこいしょ、ですわ」


 チヨコが床に風呂敷を下ろして紐解くと、笹皮に包まれたおはぎの山が現れる。


 あの戦いの結果、ヒナタ達の霊獣はパワーを使い切り小さくなってしまった。


 戦力がダウンでは有事の際に危ない。


 ヒナタとチヨコは、神に仕える者らしく霊獣の回復の為に供え物や祝詞に神楽にと奉仕に励んでいた。


 「ヒナタ、チヨコご苦労様です」


 本殿に祀られた神像からテルコも現れて、霊獣達とおはぎを食べる。


 ヒナタ達の祭神であるテルコも力を消耗し、供え物を食い回復に努めていた。


 「ぱくぱく♪ しばらく大規模な戦いは勘弁ですわ~♪」

 「ツルちゃん達も夏休みの宿題で忙しいしな」


 チヨコも霊獣に負けず、もりもりおはぎを食い出す。


 「ヒナタ様とデートに行きたいのですが、お家デートですわね」

 「まあ、海も海月が出て来たしなあ」


 ヒナタとチヨコが顔を見合わせる。


 しばらく休みたいと言うのが二人の本音だった。


 「二人には申し訳ないのですが、実はお話が?」


 テルコが申し訳なさそうに、ヒナタ達に口を開く。


 「……えっと、今度はどんな神命なんでしょうか?」

 「ふえっ? この流れでご神命ですの?」


 休み気分だったヒナタとチヨコが驚く。


 「テルコ様~? 何かあったの?」

 「え~? 今日は、ヒナタとスモウとって遊びたかったのに」


 ラーバードとキンチョウも休み気分が抜けて、疑問顔になる。


 「まあ、俺達は神に仕える身ですから」

 「致し方ありませんわね、世の為人の為の事でしょうし」


 ヒナタとチヨコは、頬を掌で叩いて気分を切り替える。


 「申し訳ありません、ご褒美はホッカイ島の温泉とお寿司食べ放題旅行です♪」


 テルコがヒナタ達に頼む。


 「ヒナタ様、これは気合いを入れて取り組むべきですわ!」


 チヨコがご褒美に釣られてやる気モードに入る。


 「いや、チヨコ? ご褒美が豪華だからってな?」

 「ヒナタ様との温泉旅行の為なら、たとえ火の中水の中ですわ~♪」

 「ちょ! 場所とか聞かずに走り出すなっ!」


 チヨコに手を掴まれ、本殿から連れ出されるヒナタ。


 「「霊獣武装っ!」」


 外へ出ると同時に、変身する二人。


 チヨコが指笛を吹けば、赤炎と黄雷の二頭の神馬も天から舞い降りて来る。


 二人は跳躍して神馬に跨ると、空へと駆け出して行く。


 「さあヒナタ様、温泉旅行の為に頑張りますわよ♪」

 「チヨコと温泉旅行か、確かに心が燃え滾るご褒美だな♪」


 チヨコと轡を並べて神馬を駆り、空を走るヒナタ。


 「二人っきりで挑むのも久しぶりですわ♪」

 「そうだな、最初の頃以来だぜ♪」

 「二人なら、ラブラブパワーでどんな敵でも蹴散らせますわ♪」

 「ああ、俺もそんな気がするよ♪ これからもずっと一緒で宜しくな♪」

 「はい、未来永劫私達はずっと一緒ですわ♪」


 二人きりになった事で想いを誓い合う二人。


 そして二人の目の前には、空飛ぶ鬼の顔のような黒い巨大な岩が見えて来た。


 「ロボットの次は空飛ぶ鬼ヶ島か、なら俺とチヨコで鬼退治だ♪」

 「はい、ヒナタ様のお共は私だけで十分ですわ♪」

 「頼りにしてるぜ、チヨコ♪」

 「お任せ下さい、私の日輪の勇者様♪」

 「ああ、渡る世間の鬼退治と人助けだ♪」

 「岩の口から敵兵が出て来ましたわ!」


 二人が鬼が島と陽んだ巨岩から、小鬼のような黒い甲冑を纏い槍や火縄銃で武装した空飛ぶ敵兵の群れが飛び出してヒナタ達へと襲い来る。


 「大小抜刀、二刀で行くぜっ!」

 「悪い小鬼さん達には雷ですわ! 超強力雷遁の術っ!」


 ヒナタは刀身に炎が燃え盛る刀で敵を切りすて、チヨコは敵軍の頭上に雷雲を作り稲妻を落として撃破する。


 「ヒナタ様、敵兵は蹴散らしましたわ!」

 「げげ! また敵が巨大ロボになったか!」

 「巨大化や怪人への変身は負けフラグですわ♪」

 「ああ、ツルちゃんはいないし霊力は食うが新しい具足のパターンで行くぜ♪」

 「かしこまりですわ♪」


 ヒナタとチヨコ、二人が並び手を取り合い輝き出す。


 輝きが収まれば巨大な岩鬼ロボと対峙するのは、二十メートルほどの金色の鎧武者風ロボットが現れる。


 「我らが名は日輪の勇者、相合具足・光天あいあいぐそく・こうてん! 闇を断ち切り世を照らす!」


 相合具足・光天、これもまた二人の霊獣達に無茶をさせているがヒナタとチヨコが編み出した新たな力の形であった。


 「行くぜチヨコ、俺達ならやれる♪」

 「ええ、私達の恋路はどんな害来者も蹴散らして進みますわ♪」


 光天の中で社交ダンスのように抱き合い、敵に向き合う二人。


 岩鬼ロボが唸りを上げて殴り掛かる! 


 「来ましたわ!」

 「避けるより突き返す、光天抜刀っ!」


 光天は腰の太刀を抜き、刀身を金色に輝かせて中段突きで迎え撃った!


 拳と突きのぶつかり合いに勝ったのは光天。


 岩鬼ロボは殴った右手首から先が消えていた。


 「敵の体、質量を持った邪気の類ですわね?」

 「再生して来た感じからそうみたいだな、けど相性でこっちの勝ちだ!」


 敵の体の構成を探りつつ、今度は黒い毛針の様な敵の砲撃の雨を刀で切り払う。


 「ヒナタ様、敵の核の場所は見つかりましたか?」

 「ああ、胴体のど真ん中に見えた」

 「では、決めてしまいましょう♪」

 「ああ、二人で決めるぜ金環の太刀きんかんのたちっ!」


 光天の中、ヒナタとチヨコが二人で刀を持ち円を描く様に振るう。


 光天はヒナタ達をトレースして刀で円を描き、光の輪を敵へと飛ばす。


 光の輪はハートの形に変形し、岩鬼ロボの胸を切り抜いて敵の全体を蒸発させた。


 敵が消滅した事を確認すると、血振るいをして納刀する光天。


 「これにて一件落着だな♪」

 「何処から来たのかわかりませんが、容赦なしですわ♪」

 「それじゃあ、一旦帰ろうか?」

 「ええ、ご褒美を戴いたら旅行の支度ですわ♪」

 「うん、現金なチヨコの笑顔も可愛いな♪」


 仲間達が見たら、惚気に砂糖を吐き出しそうなほどいちゃつく二人。


 大きな敵を倒しても、新たな敵が出て来てもヒナタとチヨコは止まらない。


 天に輝く日輪の如く、自分達と皆の明るい未来を目指して進んで行く。


 初めの事より成長はしたけれど、勇者の修行は終わらない。


 「もう、暫くは敵は出ないはずですわ♪」

 「いや、それはフラグじゃないか?」

 「フラグは打ち破る者ですわ♪」

 「チヨコとの未来の為なら、そうするか」


 ぐだぐだ言い合いつつ、これからもヒナタはチヨコと共に日輪の勇者として歩み続けるのであった。





                      日輪の勇者の人助け英雄記・完

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日輪の勇者の人助け英雄記 ムネミツ @yukinosita

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