第30話 陸轟、吠えるっ!
「ここが奴らの陣地か?」
「魔導パソコンの中のような世界ですわね」
「チヨコ殿、多趣味でござるな? しかし、戦った分腹が減ったでござるな?」
「いや、ツルちゃんさあ? 俺らの今の動力、カロリーなんだけど?」
「ツルコ様、ごめんあそばせっ!」
チヨコがツルコの口に手を当てる。
「むぐうぅっ! にゃ、にゃにをっ! おろ? 腹が満ちたでござる♪」
「こんな時の丸薬タイプの忍者食ですわ、一粒で十食分♪」
「チヨコ、それは下手に食わせたら太ってダメな奴じゃ?」
「この形態なら無問題ですわ♪ ヒナタ様もどうぞ、私が愛情を込めて作ったイチゴ味の忍者丸薬ですわ♪」
「ありがとう♪ 懐かしいな、丸薬食うの」
「どういたしまして、私の丸薬造りの腕前は上達してますのよ♪」
チヨコがヒナタに丸薬を渡しつつ、自分も丸薬を装甲越しに取り込み食べる。
腹が減っては戦はできぬ、それは自然の道理。
忍者の家の子であるチヨコは、日ごろから兵糧などの用意を怠らなかった。
自分とヒナタの生存率を高める為に、丸薬状の非常食も用意しておいたのである。
急な戦いから、三位一体具足・貫薙で乗り込んだ敵地。
パソコンの基盤の如き大地に、SFタッチで無機質な建物の群れ。
中央には白い巨塔。
甲高い警報音が鳴り響き、雲霞の如く敵の哨戒機の群れが現れる。
五メートル程でヘリの如くプロペラで空飛ぶ白い人型ロボの群れ。
敵はどの機体も、黒いライフル一丁と言う武装だった。
「来たな有象無象共っ、寄らば斬る♪」
「いや、ツルちゃんエネルギー使い過ぎるな!」
「ある程度倒したら、一旦身を隠しましょう!」
「うむ、心得た!」
敵のビーム攻撃の雨を氷の刃で弾き返し、動き回りつつ近づく相手は切り捨てる。
「ヒナタ殿、一気にお願いいたす!」
「わかった、一気に行くぜっ!」
「この手のコロニーっぽい場所は火気厳禁がお約束ですわ!」
ヒナタの意思に呼応し、貫薙の両足のブースターから超高熱の熱波が放たれる。
チヨコの読み通り、デジスター内部の全防火装置が作動し全てが白に染まった。
「今の内に一時潜伏でござる!」
「煙に巻くのは忍者の十八番ですの♪」
「俺らの隠れられそうな場所は何処かな?」
ヒナタ隊は地上に降りると、三位一体を解き分離した。
地上に降りてみた三人は身を隠しながら、デジスターの内部を探る。
「どう見ても、我ら人の暮らせる場所ではござらんな」
「まあ、悪の組織の前線基地に生活性を求めるのが無理筋だよ」
「機械の類と私達、私達生身では何もかも違いますからね」
地上の敵である、動くゴミ箱と言った敵ロボットを刀や苦無で撃破しつつ進む。
工場とゴミ処理場が混ざった施設を見つけた彼らは、一旦身を隠す場所にした。
「この中から出ないと不味いな、日光があれば技も無限に戦えるのに」
悔しがるヒナタ、この敵地の中では補給も休息もままならない。
「ブラックロジックと言う輩、とことん我等とは相いれぬでござる」
ツルコも憤慨する。
「私達、有機物ですしね」
「やはり、あの白い塔を目指すべきでござろうな」
「あそこが、本拠っぽいし何か出口がありそう」
「もしかすると、機動エレベーターと言う奴かもしれませんの」
「ならば、あの塔を上がりヒナタ殿に宇宙から破壊していただくでござるよ♪」
「おっし、それしかねえな」
「では、塔の攻略と脱出作戦の開始ですの♪」
丸薬を分け合い、カロリーを補給しつつ三人は考えを纏める。
ヒナタ達は運よく見つからずに済んだので施設を出て、三位一体で合体した。
「私の陸轟にお任せあれですの♪ 皆様、前進ですわ♪」
「駆け抜けるでござるよ♪」
「砲手は任せろ♪」
黄色い上半身に赤い巨腕、下半身が白いタンク形態と言うべき姿の
目的地である中心部の白い巨塔へと進んで行く。
「チヨコ殿、敵が出て来たでござる!」
「このまま問題ありませんわ、ヒナタ様お願いいたします♪」
「オールロック、ぶっ放すぜ!」
わらわらと空から集まって来た敵に対し、陸轟の両腕操縦担当のヒナタが動く。
機体の外では陸轟が両腕の五指を開き、十本の指から金色のビームの嵐を放つ。
空に咲き誇る爆炎の華の下、力強く疾走する陸轟。
敵の次の手は、無数のゴミ箱ロボットが合体して生まれた巨大なレンズの目と巨腕を持つ白い人型ロボ。
敵の人型ロボが目から極太の赤いビームを放つ。
「何の、ヒナタ殿と拙者なら躱せるでござる♪」
「あらよっと、ってな♪」
ヒナタとツルコの操作により、巨腕を活かした側転で回避する陸轟。
「お返しですわ、茶釜ダイナミックですの♪」
チヨコの操作で両腕を上た陸轟が、虚空から巨大な茶釜を生み出して投げ飛ばす。
敵ロボットの目玉は茶釜により粉砕され爆発した。
だが、敵もそう簡単に倒れてはくれない。
周囲から素材であるゴミ箱ロボを集めて、己の体を再構成させた。
「ちいっ、リソース使い放題だな!」
「気張るでござるよヒナタ殿!」
「ええ、私達は負けられませんの!」
敵の攻撃を避けながら突っ込む陸轟が、敵ロボットと組み合う。
「さあ皆様、息を合わせて参りましょうっ!」
「チヨコ殿、噛まれてるでござるからなるはやで決めて下され!」
「チヨコに合わせるのは得意だ!」
「では、スモウファイトの基本技にして必殺の上手投げですわ~~っ!」
陸轟が敵ロボットに噛み付かれながらも、上手投げで白い塔へと投げ飛ばす。
哀れな敵ロボットは、白い塔からの迎撃ビームで消滅した。
白い塔からも、陸轟へ向けてビーム攻撃が飛んで来る。
「あぶねえ! 潜らねえと近づけねえぞ?」
ヒナタが操作し、ブースターを噴射させてバックステップで避ける。
「ではツルコ様、潜りますのでドリルをお願いいたします!」
「承知いたした、アイスドリルでござるっ!」
ツルコが担当する、陸轟の下半身のタンク部分。
人間でいう両膝から氷で出来たドリルが生れ、床をえぐって地下へと潜る。
「ドンパチしながら地下通路らしき場所の目星をつけておきましたの♪」
「流石忍者でござるな、チヨコ殿♪」
「うっし、最後の丸薬ブーストだ地下から突き上げに行くぜ!」
ヒナタ達は陸轟の内部で丸薬で燃料補給を行い、広大な地下通路を爆走した。
「コピーマザー! 敵が地下から侵入してきます!」
一方、白い塔のコアルームではオペレーターのアンドロイドが慌てていた。
『慌てる事はありませんオペレーター、敵の目的は脱出なら出せば良いのです』
「コピー、ではなくオリジナルのデジマザー! 了解いたしました!」
上位命令が届き、陸轟を追い出すべくコンソロールの操作を行うオペレーター。
敵の動きを知らぬ陸轟は、敵兵を轢いて粉砕しながら地下通路を進んで行く。
「……ふむ、敵の動きが変わったのでござろうか?」
「もしかして、何処かに誘導デモされているのか?」
進む中で、隔壁を下ろされ進路変更をさせられるヒナタ達。
「確かに怪しいですが、ここはこのまま進みましょう」
「うむ、ボスがいたら倒せば良いでござる♪」
「RPGじゃないんだが、倒すしかないよな俺達としては」
「ええ、ボスがいたなら倒せばクリアですの♪」
チヨコも怪しいと思ったが、あえて敵の手に乗る事にした。
陸轟が辿り着いた場所は、アニメで言う所のロボットの発射台のような床。
「これ、もしかしてカタパルトか?」
「おお、当たりでござったか♪」
「わかりませんが、皆様ご神馬にしがみついた方が良いですの!」
陸轟の内部でヒナタ達が愛馬にしがみつくと同時に、カタパルトが作動し彼らはデジスターの外の宇宙へと弾き出されたのであった。
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