第26話 神馬一体

 南の寄合所で、ヨミコ様の試練と言う名のお仕置きを乗り越えたヒナタとチヨコ。


 次の日からは仲間達と修行だと、早朝から変身して山中で神馬を走らせる。


 ただそれぞれの愛馬を足場の悪い山の中で走らせるのではない。


 馬を走らせつつ、魔法により虚空から現れた空飛ぶ目玉のような的を変身したヒナタ達は節会でも使った纏獣者の魔力を吸う神弓を用いて射抜く流鏑馬やぶさめを行っていた。


 素早く移動して射撃で敵を仕留めると言う、移動射撃の技術は今後に役立つ。


 「うおっと~~っ!」

 「うおっ、ツルちゃんっ!」

 「ツルコ様っ!」


 ヒナタ達が驚く中、ツルコはずるりと走る馬から姿勢を崩し落馬しそうになるも踏ん張り自力で起き上がる。


 「ツルコ様、凄いですの!」

 「ああ、あれは普通なら落ちる」


 ヒナタとチヨコもツルコに感心しつつ、愛馬を走らせ弓を射る。


 ツルコに起きたトラブルは、霊獣武装で変身して射なければ大惨事だ。


 三人は、山の主である女神ヨミコが魔法で出して来る動く上に光の玉を飛ばして反撃して来る目玉型の的を相手に馬を操り動き回りながら弓を射て狙い矢を放つ。


 馬を駆り移動と回避を行い、弓矢で敵を狙い戦うと複数のタスクを必死に脳で処理し体を動かしてこなして行く。


 流鏑馬の稽古を終えて戻って来た三人、下馬して神馬を神世へと戻し変身を解く。


 朝から頭も体もへとへとになるが、一休みに入ると口も滑らかになる。


 「ふう、何と言うか赤炎との仲が深まった感じがするぜ」

 「私も、黄雷ちゃんと上手く走れている気がしますの♪」

 「拙者も、白雪に好かれてきた気がするでござる♪」


 射撃の技術だけでなく、自分達の相棒である戦神馬との絆を深める意味もあるこの流鏑馬の稽古。


 語り合う三人の元に宿坊からミクラさんがやって来る。


 「あんた達お疲れ様、朝ごはんができてるよ♪」

 「おお、至福の時が来たでござる♪ 待ってましたでござる♪」

 「こちらのお料理も美味しくて、覚えがいがあますの♪」

 「ありがとうございます、ミクラさん♪」

 「何、私も気に入ってくれてうれしいよ♪ タマミ達は、ダイエットに悪いとかカロリーが高いとかうるさくてねえ♪」


 トヨコとタマミは山の裏側にある滝で、滝行をしつつ素振りと剣術の稽古。


 ヒナタ達東組と、トヨコ達の南組が朝は別から午前は別の場所で、午後からは合同で稽古に励んでいた。


 「戻りました~♪ 東の皆さんもお揃いでしたか♪」

 「あ、ヒナタ達も朝稽古上がりね♪ 一緒にご飯食べましょう♪」


 噂をすればと、トヨコとタマミも戻って来る。


 「タマミ様もヒナタ様の魅力に気付かれたのですね♪」

 「ん? ヒナタは良い奴だけど、弟みたいなもんかな♪」

 「私は、節会でお会いしたチャトラ様の方が興味が♪」

 「おお、コイバナでござるな♪」

 「チヨコ、俺らは先に飯に行こう?」

 「ええ、エネルギーを補給しませんと♪」


 ワイワイ皆で和室に集まり、運動部の合宿のような朝食の時間。


 お膳には身の大きな焼き魚の切り身や卵焼きにサラダ、昔話盛りとでも言う位の

山盛りのごはんに味噌汁に漬物と美味そうな朝食が並ぶ。


 皆で行儀よく手を合わせていただきますと、食事が始まる。


 「食べながらでいいから聞いとくれ、ヒナタ君達は神馬一体じんばいったいの儀式に挑んでもらうから」


 ミクラさんが、部屋の端でチヨコやトヨコにツルコと食いしん坊質の飯のお替りを装い渡しつつ今日の予定を語る。


 「えっと、神馬一体って何でしょう?」


 ヒナタが橋を止めてミクラに尋ねる。


 「あんた達、凄い事すんのね? パワーアップじゃない♪」

 「ですねえ、私達はまだもらえていないのでできませんのに」


 タマミとトヨコがうらやましがる。


 「ふむ、一体どのような儀式なのか気になるでござるな♪」

 「どのような儀式であろうと、乗り越えて見せますわ♪」

 「ああ、まだ時間があるとはいえ本格的な敵の襲撃に備えておかいと」


 敵はまだまだこの世界の侵略を諦めていない、ツジギリロイドの同型機と思われる敵が何度か霊地を襲っては仲間達に撃破されていると聞かされたヒナタ達。


 ヒナタは早く自分達も戦列に加わり、仲間達と共に敵に立ち向かいたかった。


 正直ヒナタは内心、自分がやらかした事でチヨコとツルコを巻き込んでしまったと負い目を感じていた。


 「ヒナタ様、お顔が暗くなっておりますわ♪」

 「むぐっ!」


 ヒナタの顔に陰りを感じ取たチヨコが卵焼きを箸で掴み、ヒナタの口に突っ込む。


 「ヒナタ殿、笑う門には福来るでござるよ♪」

 「食事時に辛気臭い顔しないでよね? はい、私のブロッコリーあげるから♪」

 「タマミさんは、好き嫌いは行けませんよ♪」

 「トヨコ、ちがうの! これは友情の贈り物なの!」


 仲間からの奇妙な励ましを受けるヒナタ、卵焼きを食い終えてから喋る。


 「悪い、それと皆ありがとう」


 仲間達に礼を言うと、景気づけに食事をお替りし出すヒナタであった。


 食事が終われば片付けは全員で行い、次は境内の清掃作業を行う。


 神の戦士たるもの、力を借してくれる神への奉仕活動は怠れない。


 掃除が終われば、神馬一体の儀式の始まりだ。


 ヒナタが達三人に加えトヨコとタマミと全員が本殿の前に集う。


 「これより、ヒナタ、チヨコ、トヨコの三名の神馬一体の儀式を執り行います」


 紫の袴と正式な所属を纏ったミクラさんが、ヒナタ達の前で宣言する。


 「ではまず、ご祭神の加護をお授けします」


 ヒナタ達がミクラさんに一礼すると、ミクラさんが剣鈴を各自の頭の上で鳴らして蛍のような金色の光の玉を振りかけて行く。


 光の玉を浴びたヒナタ達は、どこか心地良い感覚を覚えた。


 「それでは俺から、霊獣武装れいじゅうぶそうっ!」


 ヒナタからまずは本殿と鳥居の間の参道に立ち変身、更に戦神馬である真紅の龍馬の赤炎を呼び出しその上に跨る。


 「行くぜ赤炎せきえん神馬一体じんばいったいっ!」


 ヒナタが馬上で叫べば赤炎がいななき、主ともども燃え上がる。


 燃えさかる炎の中で、メカのようにメタリックな姿へと変じた赤炎がバラバラに分離しヒナタの全身を守る追加装甲となり纏わり装着される。


 炎の中から現れたヒナタは、龍馬の頭が胴鎧で手足が巨大な籠手と脚甲と言う重厚な真紅の甲冑を纏った姿へと変化した。


 「神馬一体、大具足・赤炎おおぐそく・せきえんっ!」


 三メートルほどにサイズアップしたヒナタが名乗りを上げる。


 「お見事でござるな♪ では次は拙者と白雪が参る♪」


 ツルコの叫びを聞き、ヒナタは空中に舞い上がり場所を開ける。


 ツルコが変身し、白雪に跨り神馬一体を宣言すれば彼女の周りに吹雪が起こる。


 吹雪が晴れると、ツルコも胸部に白馬の頭の胴鎧を纏っていた。


 だが、ツルコの場合はヒナタとは違い背中に巨大な翼と前足が変化したであろう二門の砲身が付いたジェットパックを背負いツルコ自身の両足に白雪の後足が変化した脚甲が装着された姿へと変じた。


 「神馬一体、砲戦具足・天馬白雪ほうせんぐそく・てんましらゆきでござる♪」


 ツルコが可愛らしく名乗りを上げる。


 「最後はチヨコ殿でござるよ~♪」


 次はチヨコの番だとツルコも翼を広げて、空へと舞い上がる。


 「では、トリは私が参ります♪ 神馬一体ですわ♪」


 変身したチヨコが黄雷に跨り叫ぶ。


 黄雷は雷を発して身震いし、全身を肥大化させメタリックな姿に変じるとチヨコを振り飛ばす用の直立。


 チヨコも愛馬の意を組み跳躍すれば、直立した黄雷が体を開いて人型の重機もどきへと変形し降下したチヨコを収納する。


 チヨコの神馬一体は、小型の人形重機に狸の忍者が乗り込んだような姿となった。


 「神馬一体、攻城具足・黄雷こうじょうぐそく・こうらいですわ♪」


 チヨコも可愛く名乗るが、アームの先が龍の頭となったパワーローダーを纏った姿は強そうであった。


 かくして、神馬一体と言う新たな力を得たヒナタ達はこれにて研修を終え待ち受ける実戦の時に臨む事となったのであった。

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