第21話 スモウスクランブル!

 「選手の皆さん、最後の競技はスモウスクランブルです♪」


 闘技場の中央に、控室で寛いでいたヒナタ達を含む選手達を集めて兎が叫ぶ。


 神から神気を集める競技会の節会、最後の種目はスモウファイト。


 通し矢まではチームとしての競技大会、


 しかし、このスモウスクランブルは個人戦。


 性別もチームも関係なく対戦して一番勝った選手が、今年の福男または福女。


 神々の祝福を受け、幸の多い年を過ごせるのは誰か?


 闘技場が変形し巨大なドヒョウリングが形成される、神の闘技の始まりだ。


 「ついに会えたなヒナちゃん、勝負だ♪」

 「ヒナちゃん言うなっ!」


 まずはヒナタ対トラゾウ。


 白虎の力で雷を纏う張り手を繰り出すトラゾウの猛攻を、火の鳥の回復力で耐えながら燃える張り手で突き返すヒナタ。


 「くぅっ♪ 流石は我が親友、ソウルブラザーだなっ!」

 「いや、今日が思い切り初対面だっつうの!」


 互いの頭突きがぶつかり合う瞬間、ヒナタの脳にトラゾウと楽しく遊ぶありない記憶が流れ込む。


 「思い出したか、俺達の記憶を♪」

 「チヨコやエンタロウ達の欠けた記憶はいらん! お前との友情は俺が決める!」

 「なるほど、未来はこれから作るのか♪」


 再びの張り手のぶつかり合い、からのぶちかまし対決で爆発が起こる。


 「お前が膂力なら、俺は火力と燃焼力と爆発力だっ1」

 「何っ! 俺の足が浮いたっ!」

 「熱が生む浮力も追加で行くぜ、ロケットバーストッ!」


 背中と足裏から大爆発を起こして推進力を生み、トラゾウを押し出したヒナタ。


 「ふっ、やるなヒナちゃん♪」

 「やかましい、暇な時でもオウカに遊びに来い」

 「ああ、そうさせてもらおう♪」


 トラゾウを起こすヒナタ、彼らの奇妙な友情が始まる。


 「トヨコ殿、リベンジつかまつる!」

 「私、スモウでも強いんです♪」


 ツルコとトヨコの取り組み、剣でのリベンジに燃えるツルコと余裕のトヨコ。


 組み合いから押して来たトヨコ、膂力と火力のハイブリッド押しスモウだ。


 「パワーはお見事なれど、勝つのは拙者でござるよ♪」


 ツルコが体を開きサイドに回る、振り上げた両腕は氷塊に包まれていた。


 「叩き込みでござる!」

 「しまったっ!」


 トヨコの背に、ツルコの両腕が振り下ろされるとトヨコは地面に倒れて敗北した。


 「お見事でした、次はリベンジさせていただきます」

 「うむ、トヨコ殿なら大歓迎でござる♪」


 ツルコも倒したトヨコを起こして抱えと、ひとまず二人でドヒョウから下りる。


 この二人の間にも、ライバルと書いて友と言う友情が芽生えた。


 選手が入れ替わり立ち代わりで闘いを繰り広げる、スモウスクランブル。


 次の相手も女子同士、鮭の纏獣者のチエと海豚の纏獣者のサクラだ。


 「おりゃ~っ! 素顔のヘアカラー、かぶってるっす! 同担拒否っす!」

 「こっちのせりふです~っ!」


 サクラとチエも、双方バチバチに衝撃波を出しながら張り手を繰り出していた。


 お互い能力や属性が被っており、自分達の手だけではなく魔法を使い巨大な張り手型の水流を作ってもぶつかり合う。


 互いに埒が明かないと思った二人が選んだ手も同じで、ぶちかまし。


 鮭と海豚のぶつかり合いの結果、どちらも衝撃でドヒョウリングから弾き飛ばされての負けとなった。


 「弓では負けたが、スモウじゃ負けないよ♪」

 「僕だって、やればできる!」

 「う、この子何か可愛い♪」

 「うおおおっ!」

 「え、そう言えば私って今男子と組み合ってる? は、恥ずかしいっ!」


 トモコとチャトラ、熊と蛙の戦士がぶつかり合う。


 前へ前へと頑張って押して行くチャトラであったが、地の力と重さに勝るトモコとの差は中々覆せない。


 「決めた、この子連れて帰る♪」

 「な、何を言ってぐわっ!」


 トモコのサバ折りで、チャトラは残念ながらダウンしてしまった。


 「あらら~♪ 蛙の子、大変やね♪」

 「スモウスクランブルは運否天賦、残念ですわ」

 「私が勝ったら、ヒナちゃんちょ~だい♪」

 「絶対に渡しませんわ!」


 緑の亀と黄色の狸の死闘が始まる。


 ウォータージェットの如く背中から水を噴き出し、ぶちかまして来るアユミ。


 チヨコは動かず胴を突き出して迎え撃つ。


 アユミの頭がチヨコの腹に当たった瞬間、ボワンと音を立ててチヨコの腹が膨らみアユミを弾き返す。


 相手の隙を突くのは忍びの十八番、黄色い汽車に変化したチヨコがお返しにと突進をぶちかます。


 「う~、チヨちゃんの意地悪~っ!」

 「いいえ、これはお仕置きです♪」

 「私だって、ヒナちゃん好きなんよ~?」

 「親戚として好きなのは結構ですが、ヒロインの座は私で固定ですので♪」


 場外へとはじき出されて負けて悔しがるアユミ。


 鉄壁の正妻力を発揮して、堂々とアユミを下したチヨコであった。


 「……ほう、面白い女だな♪」

 「……な、何よ変な奴っ!」

 「俺に惚れて見ないか♪」


 リンドウとタマミの対決、タマミの猛攻を暖簾に腕押しと避けるリンドウ。


 「終わりだ」

 「しまったっ!」


 タマミの首の後ろに手を回した形で組み、リンドウは彼女を捻り倒した。


 東西南北のチームの区別なく、総当たりでぶつかり合うスモウスクランブル。


 一度負けたから終わりと言うわけではなく、負けた選手でも気力があれば再びドヒョウリングに上がり勝負を挑み勝ち星を狙うと言う戦いが続く。


 チーム戦では負けたが、個人では勝ちたいと思う選手を応援する神々が見守る中。


 「まさか、チヨコが最後の相手になるとは!」

 「ヒナタ様、お覚悟を!」


 最後の大一番は、霊獣の回復効果で戦い続けられて来たヒナタと変幻自在の技の引き出しで勝ち抜いて来たチヨコとのカップル対決となった。


 ヒナタにとって精神的に一番やりにくい相手だが、やるからには真剣勝負。


 逆にチヨコにとっては、邪魔が入らず全力でヒナタと触れ合えるご褒美タイム。


 両者共に四股を踏み、手を付いて見合い立ち会う。


 生まれた時から一緒の二人、待ったなしでぶつかり合う!


 両者共にドヒョウリングの中心で、手足を燃え上がらせたり巨大化させたりして術も使いながらの張り手や蹴手繰りに頭突きと打撃の応酬。


 「これで決める、バーニングトルネード!」

 「あ~~~れ~~~~っ!」


 打撃の応酬からチヨコの足を払い崩したヒナタが、彼女を炎の竜巻を起こしながらぶん投げる。


 「ヤバイ、やり過ぎたかっ!」


 慌てたヒナタは背中から炎の翼を生やして飛び上がり、チヨコをお姫様抱っこで受け止めて降り立つ。


 湧き上がる拍手と大歓声、取り組みを見ていたツルコにサクラにチャトラは溜息。


 「先に土俵外に足が付いたのはヒナタ様なので、私の勝ちですわね♪」

 「……げげっ、しまった~~~~っ!」


 ヒナタはスモウファイトのルールをチヨコに言われ、自分が負けた事に気が付く。


 かくして、スモウスクランブルの勝者はチヨコとなり節会の競技は全て終わった。


 「それでは、今年の優勝はチーム東の皆さんです♪」


 闘技場の中心で行われた表彰式、客席や対戦相手から拍手を送られたヒナタ達。


 スモウスクランブルで負けて、死んだ魚の目になったヒナタに変わり代表としてツルコが賞状と盾を受け取ると再び万雷の拍手が鳴り響いたのであった。


 競技が終われば大宴会、闘技場が宴会場へと変化する。


 卓球台の如く幅広の赤いテーブルの上には、文字通り金色に輝くご馳走が並び変身を解いた選手達は宴会モードに変わる。


 「ほらほらヒナタ殿、落ち込んでは駄目でござるよ♪」

 「先輩、お疲れ様でした♪」

 「パイセン、本当に良い人っすね♪」

 「……うう、チヨコずるいよ」

 「お~っほっほ♪ 私、愛されて幸せですわ~♪」


 落ち込むヒナタの隣では、福女に選ばれて頭に金の冠を被ったチヨコが喜びの高笑いを上げる。


 他の選手達は、笑い合いながらご馳走を食べたり連絡先を交換したりと楽しむ。


 こうして、今年の節会はヒナタ達チーム東が優勝をして幕を閉じたのであった。

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