第20話 想いを通す通し矢
「ただいま~っす♪ さあ皆の衆、褒めて讃えて持ち上げて欲しいっす♪」
チーム東の控室へと帰って来たサクラ、遠慮なく調子に乗っていた。
「流石はサクラ様ですわ♪
「よ、天下一♪」
「すごいっす♪」
「立役者♪」
「は~っはっは♪ 笑え笑え~っす♪」
ヒナタ達も本心からサクラを讃える。
何せサクラが一位を取った事で、自分達のチームが現在トップの座にいるのだ。
「サクラ殿、お菓子でござる♪」
「コーラジョッキでお持ちしました!」
「マッサージさせていただきますわ♪」
「扇がせていただきます」
「うむ、くるしゅうないっすよ~♪」
ヒナタが団扇でサクラを扇ぎ、チャトラがコーラをジョッキに入れて彼女に差し出しと奉仕する。
ツルコは菓子の載った盆を差し出し、チヨコはサクラの肩を揉み解す。
「パイセン達、甘やかしサンキューっした♪ 自分、調子ノーマルに戻しまっす」
サクラの宣言で、ヒナタ達は奉仕ごっこを止める。
「サクラ殿は可愛いでござるなあ♪」
「うおっ? 国家のお姫様に頭撫でられるって何すか?」
「サクラ様は可愛い後輩ですわ♪」
「チヨパイセンまで! いや、可愛いっすけどね自分?」
ツルコに頭を撫でられたサクラが照れて慌てる。
「次の種目は弓、選ばれたのは僕ですね」
「お、チャトラ君の出番か♪ 楽しんで来てな♪」
「チャトラ殿、ご武運を♪」
「行ってらっしゃいませ~♪」
「ガンバっす♪」
「うっす、行って来ます♪」
ヒナタ達はチャトラを送り出した。
「シカメ、お疲れ様だったな?」
「三位を取っただけでも偉いぜ、シカちゃん♪」
「リンドウさん、トラゾウさんありがとうございます」
チーム西の控室ではリンドウとトラゾウがシカメを労わる。
「貴方は立派に戦った、チームの誇りよ♪」
「シカちゃんはえらい♪」
ヨシノとアユミもシカメを慰める、一位だけが勝利ではない。
一度負けても次は勝ち、三位と結果を掴んだシカメの健闘を仲間達は讃えた。
「次は弓か、俺の剛力は素手だけじゃなく弓でも光るぜ♪」
トラゾウが仲間達に笑顔を見せる。
「トラゾウさん、頑張って下さい♪」
「トラちゃん、がんばってな~♪」
「アユミ、その声は可愛いけれど力が抜けるからね?」
「いや、弓なら力が抜けた方が良い」
仲間達が弓の競技に選ばれたトラゾウの事を応援したりあれこれ語る。
「おう、まあ色々ひっくるめて俺の腕前を見せて来るぜ♪」
ガタイの良い少年、トラゾウは笑顔で控室を出て行った。
「ごめ~ん、頑張ったけど負けちゃったさ~♪」
「嬉しそうに言わないの! まったく」
チーム南の控室、二位となったマヤはあっけらっかんとしていた。
タマミは呆れていた。
「マヤさんのお気持ち、何となく共感できます♪」
「さな、好敵手との対決は楽しいからな♪」
トヨコとセンリは、マヤの気持ちが何となくわかるような気がしていた。
「次は、私の番ですね♪」
「ステラ~? 頑張ってね?」
「タマミさん、弓はリラックスしているのが大事なんですよ♪」
ステラがタマミに微笑む。
「うんうん、ステラちゃんは良い事言うさ~♪」
「いや、マヤはリラックスし過ぎだろ?」
ステラの言葉に乗ったマヤにセンリがツッコむ。
ステラは仲間達の様子を眺めながら、のんびりマイペースで微笑んでいた。
チーム北の控室は、空気が重かった。
「うん、サオリちゃんは頑張ったよ」
「そうだぜ、サオリはベストを尽くした!」
「……悔しいです、南のあの猫女とか!」
「うんうん、西の奴も小憎らしかったわね」
「西の選手は、そんなに恨んでない感じですねサオリさん?」
「はい、西の子はちょっと好みの男子だったです♪」
「ちょ、マジか? コイバナか!」
仲間達でサオリを慰めるチーム北。
仲間達の優しさにサオリも落ち着いてくる。
「よっし、次の弓では私が頑張る!」
熊耳娘のトモコが立ち上がり気合いを入れる。
「トモちゃんのパワーなら百発百中だよ♪」
「コ~マ~? 調子に乗らないの!」
ユキがコマを窘める。
「トモコさん、四股踏んで気合い入ってます!」
チエが四股を踏むトモコを見て驚く。
チーム北の闘志が再び燃え上がった。
東西南北の代表選手達が闘技場の中央に集う。
「はい、いよいよ節会もこの弓術と最後の総当たりスモウの二つ!」
兎が選手達の前で叫べば、客席も盛り上がり天空の大祝杯に神気が注がれる。
「この弓術で行う競技は、通し矢です! 西の方はおわかりでしょう♪」
兎が競技の内容を語る。
通し矢とは、百二十メートル先の的に向かい矢を放ち射通す競技。
アサヒ列島国では、弓は刀剣と長物と馬術とスモウファイトに並ぶ五大必須科目。
国に仕える戦士である武家や、神に仕える戦士の社家は古来より通し矢等の競技で弓の技を磨いて来た。
参加選手全員が社家の子の纏獣者達も、幼い頃より習って来た武芸である。
特に
去年の節会の弓術一位もチーム西が取っているお家芸。
筋骨隆々とした白い虎の装甲に身を包んだトラゾウは、連覇を狙っていた。
「昨年と同じく、矢の数は五本。 百メートルごとにぶら下がった的を射抜いて最奥の五百メートル先の的を射抜いた矢の数が多い選手のチームが一位です♪」
兎が解説する、通常の通し矢は的は一番奥の一個のみだが節会では距離の目安も兼ねた四つの的を必ず射抜いた上で最奥の的へ当てねば得点にはならなかった。
闘技場が変形し神社の軒下風の射場へと変わり、選手達が並ぶ。
弓矢は全員同じ物。
おめでたい色の赤い弓に白い矢が、兎より手渡されて行き競技が始まる。
「行きます、良く見て空気を読み水の気を矢に込めて アクアニードル!」
緑色の蛙を模した装甲を纏ったチャトラ。
手足をボコボコとバンプアップさせて弦を引き絞り、矢に水属性を付与して射る!
彼の放った屋は水流を纏い水の錐と化して飛び、次々と射抜いて行き最奥の的のど真ん中に当てる。
「良いなあの少年、ヒナちゃん以外にも興味深い奴がいたな♪」
トラゾウは余裕の笑みをこぼすと、雷の神気を鏃に纏わせて射る。
彼の矢も稲妻のように途中の的を射抜いて行き、最奥の的を射抜いて割る。
「あらら~♪ 皆さん、素敵ですね~♪」
金色の龍の装甲を纏い、変身前と別人と言う位マッシヴな姿になったステラ。
彼女の放った矢は龍が火を噴くが如く、炎を纏い的を貫き通していった。
「相変わらず、南は派手だな? こっちも行くぜ!」
白熊の装甲を纏ったトモコ、鏃に霊気が集まり放たれた矢は流星の如く虚空を駆け抜けて全ての矢を射抜き通した。
一射目は全員が見事に矢を射通す事に成功した。
「あら? ちょっとお腹が空いたかもです?」
二射目、四個目の的で矢が止まったステラが違和感を告げる。
「当然だ、この弓矢は俺達の魔力を吸うからな♪」
「魔力を吸われても構わない、気を練り集中して射抜くのみ!」
余裕のトラゾウと真剣なチャトラ、二人共二射目も見事に最奥の的まで射通した。
「ようは、吸われても動じないほど体力と魔力があれば良い!」
トモコも、呼気を整えて魔力を周囲の空気から取り込んで射る。
彼女の矢も最奥の的まで射通した。
三射目、昨年の一位のトラゾウは機械の如く冷静に弓を弾き搾り稲妻の矢を放つ。
チャトラもトラゾウを追うように、穏やかな川の如き心で矢を射て成功させる。
「北の意地を見せてやる!」
トモコは燃える闘志で集中力を高め、弦を引き絞り矢を射る。
彼女の放った矢は氷柱となり途中の的を粉砕しつつ飛び、最奥の的を射止めた。
「私も、次こそは~♪」
ステラも矢を光らせ放つ。
だが、彼女の矢は四つ目の的を射ぬいた所で光を失い落ちてしまった。
「ふん♪ 弓だけでなく矢も魔力を吸うと言ったろ? 自分と霊獣の魔力と筋力だけで引かず、鼻呼吸で空気から取り込みつつ同時に足裏で地面から気を取り込み魔力を錬って弓を引け♪」
魔力が切れかけて来たステラや、腕が疲れて来たトモコを見てトラゾウが呆れつつコツを教える。
「そうか、大地からも気を汲み上げればいいのか♪」
「ちいぅ、余裕かよ!」
「トラゾウさん、見た目の割に器用なんですね~?」
「がっはっは、マッチョが器用でないと誰が言った♪」
四射目、トラゾウの言葉を素直に受け取ったチャトラは放水銃の如く真っすぐに全ての的を射抜き通した。
コツを教えたトラゾウ自身は余裕で四射目もこなす。
「足裏と鼻から同時だ? できるか!」
トモコは、足裏から気を汲み上げて練るのはスモウファイターとして理解できた。
ただ、弓も弾きつつ魔力も練りと複数の動作を同時に全てはこなせず放った矢を外してしまう。
ステラも同じく、魔力の練り上げはできたがこちらはカロリーの消費で弓を引いて放つと言う肉体的な面で力を入れて引けず失敗。
最後の五射目、ツートップはトラゾウとチャトラの東西。
三番手はトモコ、最下位はステラとなっていた。
トモコとステラ、北と南の選手は最後の一射と気合いを入れて弓を射るも魔力切れで変身が解けてダブルダウン。
「ほう、やはり残ったのは東の少年か♪」
「あの、二歳差位ですよね?」
「高校生からすれば中学生も少年だ、いざ勝負♪」
「望む所ですっ!」
トラゾウとチャトラの五射目の矢、二人の矢はどちらも最奥の的へと進んで行く。
「……く、俺としたことが最後に外してしまうとはな♪」
「……やった、ど真ん中射抜けたっ♪」
トラゾウの矢は、的の下に刺さりチャトラの矢は見事にど真ん中を射抜いていた。
弓術の競技の第一位は、チャトラが勝ち取りチーム東の総合一位は保たれた。
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