第17話 猛烈競馬

 「ここが控室、天国ですわ~♪」

 「お疲れ様、チヨコ♪」

 「おめでとうでござる♪」

 「まずは、一種目ですね♪」

 「次も頑張りましょう♪」


 チヨコを迎え入れるヒナタ達、ヒナタがチヨコを抱きしめチャトラとサクラが座布団を用意したり飲み物や菓子を出して労う。


 「残りは五種目っすね、次は誰が出るんだろ?」


 サクラがちゃぶ台にあった、競技のパンフレットを見ながら呟く。


 「同じ馬を使うのでも競争と流鏑馬はまた別なんだ?」


 チャトラもパンフレットを確認する。


 「どのみち、どなたかは複数の競技に出番がございますわね?」

 「うむ、であれば別の競技で汚名返上も可能でござるな♪」

 「気合い入れて行くっす♪」


 チヨコの呟きにツルコとサクラが答える。


 西の控室でも話し合いが行なわれていた。


 「アユミは二位か、まあやったじゃねえか♪」


 ガタイの良い坊主頭の神官服の少年、トラゾウが笑う。


 「三位か最下位の予想でしたから、恐れ入りました」


 鹿の角と耳を持つ少年、シカメも感心する。


 「ああ、予想外の活躍だった♪ アユミはそれで良い♪」


 右目に黒い眼帯をした金の瞳を持つ少年、リンドウも微笑む。


 「次は競馬ね、行く人は頑張って♪」


 白い狐の面を被った少女、ヨシノも面の下の目を笑わせる。


 「皆ありがとう♪ 次の人も頑張ってな♪」


 アユミは笑顔でお茶をすすりながら仲間達に答えた。


 「ごめん、負けちゃった!」


 控室でタマミが仲間達に頭を下げて謝る。


 「なんくるないさ~♪」


 猫娘のマヤが慰める。


 「落ち込むなんてらしくない、元気出せ♪」


 体育会系な馬耳娘のセンリが、笑顔でタマミの背中を叩く。


 「大丈夫です、私の劍で仇を取ります!」


 剣術少女のトヨコも微笑む。


 「でも、敢闘賞で神様達からお祝いが届いてますよ♪」


 金髪の少女ステラがタマミに届いた、お祝いの品入りのバスケットを見せる。


 「う、嬉しい♪」


 タマミは嬉し泣きをした。


 「おっし、次の競馬は私ががんばるか♪」


 センリは立ち上がり、頬を叩いて気合いを入れた。


 チーム北の控室も和やかであった。


 「チエちゃん、凄かったよ♪」


 茶髪の馬耳娘、コマがチエを褒める。


 「おう♪ 菓子食うか?」


 熊耳娘のトモコが菓子の入った皿を差し出す。


 「牛乳も飲みますか?」


 羊娘のサオリもチエを気遣う。


 「後は、他の競技で頑張ればまだ優勝のチャンスはあるね♪」


 黒髪ロングの鹿娘のユキが笑顔で語る、節会の優勝は総合で決まる。


 一種目の順位が低くても他で勝てれば目はあると、希望を抱く。


 「そうだね、通義の競馬はコマちゃんに頑張ってもらうね♪」

 「任せて、南のセンリとも走りたいし♪」


 駒が立ち上がりガッツポーズを取る、馬など人が乗り物にする神の力を持つ者は戦神馬には乗らず自分で走るらしい。


 第二種目は競馬、参加する選手達が闘技場の中心へと集められる。


 選手が集えば、闘技場の内部が変形し陸上のコースに変わる。


 競馬であってもターフではない。


 「それでは第二種目の競馬、選手の皆さんは位置について下さい♪」


 兎が宣言する。


 「一番外側が俺か、頼むぞ赤炎せきえん♪」


 四番コースに立つのは変身したヒナタ、愛馬の赤炎の頭を撫でる。


 「東は龍馬か、だが俺の黒丸も負けてはおらん」


 三番コースは蛇を模した黒い装甲を纏うのは西のリンドウ。


 乗っているのは黒い大蛇の黒丸、競馬だが馬以外に乗る者もいる。


 二番コースに立つのは、白い馬の装甲を纏ったセンリ。


 最後の一番内側の内輪である一番コースも、茶色い馬の装甲を纏ったコマ。


 馬の霊獣の纏獣者は乗り物には乗らない、己の足で走る事が誇り。


 「それでは、スタートです♪」


 中央で兎がピストルを射ち合図を鳴らす。


 「最初から全力、蛇目発動っ!」


 リンドウとその乗騎の黒丸の金色の目が輝き、エネルギー波を発射する。


 「おおっと、リンドウ選手初手から獲物の動きを止める蛇の目を使った!」


 兎が実況も行う。


 客席からはブーイング。


 「甘いぜ、燃えろ赤炎っ!」


 ヒナタと赤炎は自分達を燃やして駆けだす。


 「そんな物っ!」

 「負けてたまるか~~っ!」


 センリもコマも蛇の目の呪縛を破り駆け出す、この様子には観客の神々も大歓声。


 「ちっ! ならば実力で行くのみだ!」


 リンドウも黒丸の体を這わせて、歩く歩道のように進ませる。


 客席も冷え室の仲間達も熱く勝負を見守っていた。


 「ヒナタ、出来れば三着以内でお願いします!」


 テラスが客席で馬券を握りしめて呟く。


 節会の競技は、選手に賭ける事ができる。


 掛け金も配当も、天に浮かぶ大祝杯だいしゅくはいよりもたらされる神気。


 賭けの熱気も神気となって大祝杯に吸われる。


 神々にとって節会で神気を稼げば、多くの人々にご利益を授けられるので子の節会は夏のボーナスの稼ぎ時とも言えるイベントなのであった。


 選手である纏獣者達にとっても、使える神の神気が高まれば自分達のパワーアップにもつながるので頑張らねばならない。


 「パイセン、走れ~っ♪」

 「ヒナタ様こそ大本命ですわ~っ♪」

 「頑張って下さい、先輩!」

 「捲るでござるよ~っ♪」


 チーム東の控室ではチヨコや仲間達が応援する。


 仲間を想う気持ちは何処も同じ。


 「リンドウさ~ん、気張って~♪」

 「いや、その応援は気が緩むだろ?」


 アユミの応援にトラゾウがツッコむ。


 「最初の蛇目はちょっとまずかったかな?」

 「そうね、あの人中二病だから」


 シカメとヨシノがリンドウを案じる。


 北と南の控室は、どちらも同じように真剣に仲間を応援していた。


 「フレ・フレ・コ~~~マ♪」

 「頑張れコマちゃん♪」

 「負けるなコマちゃん♪」

 「けっぱれ、コ~~~マッ♪」


 一丸となって、リズム良く応援するチーム北。


 「かっ飛ばせ~、セ・ン・リ♪」

 「がんばれ、がんばれセンリ♪」

 「野球の応援みたいですが、頑張って下さいね」

 「たっくるさりんど~♪」


 チーム南もモニターを見ながら応援していた。


 「うおおおっ! 行け、赤炎っ!」


 相手選手の妨害など器用な事はしてられないヒナタ。


 馬に乗せてもらっているんだ。馬に沿えと父から教わった事を守り愛馬に己の力を注いでブーストして走ってもらう愛馬に任せるスタイル。


 「……く、他の奴らの炎や衝撃波への防御で攻めに手が回らんか!」


 リンドウも動くのは黒丸に任せて、自分は防御に徹するスタイル。


 「うおおおっ! 南が一番だっ!」

 「けっぱるべ~っ!」


 センリとコマは体に衝撃波を纏い、バチバチぶつからせながら走る。


 こちらはヒナタ達には目もくれず、一進一退でライバルに勝ちたいと猛烈に走る。


 戦神馬や騎乗動物にも劣らぬ速さのセンリ達。


 二人で、ぶっちぎっていたがカーブでヒナタ達に追いつかれる。


 ここでアクシデント、カーブで結界を解いたリンドウがセンリの衝撃波とヒナタの炎を受けて乗っていた黒丸の頭から弾き飛ばされる。


 「しまったっ!」


 受け身を取り、再度黒丸に飛び乗り追いかけるリンドウ。


 「……お、お腹空いた~~っ!」


 大きな音を腹から鳴らして減速したのはコマ、彼女はパワーはあるがエネルギーの消費量も多く燃費が悪かった。


 「ちいっ! あいつ、私との勝負を舐めてんのか!」


 ライバルのだらしなさに怒るセンリ、いま彼女と並ぶのはヒナタであった。


 ゴール手前の直線、ヒナタとセンリのどちらが一着か?


 空腹に耐えつつコマも頑張って走る。


 「勝負は諦めぬものが勝つのだ♪」


 番狂わせは続く、リンドウが予想外の追い上げでヒナタ達に並んだ。


 ダークホースならぬ、ダークスネーク。


 これには神々も盛り上がった。


 勝つのは馬か蛇か龍馬か? 


 「負けてたまるか、全力ブーストだっ!」


 ヒナタが赤炎にありったけの力を注ぐと、爆発が起こる。


 それはミサイルか流星か? 


 一着でゴールを決めたのは、ヒナタであった。


 二着はリンドウ、三着はセンリ、四着はコマ。


 「ヒナタ選手、最後の最後でぶっぱなしました~~っ♪」


 万雷の拍手が鳴り響き、紙吹雪が舞う。


 ヒナタ達チーム東は、第二種目でも好成績を勝ち取ったのであった。

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