第16話 開会

 ノボリべ神社の夏祭りは大盛況で終わった。


 人の世の祭りは終わっても、神世の祭りはこれから。


 ヒナタ達にとっては神世の祭りこそが本番であった。


 黄色い空の神世の世界。


 巨大な円形闘技場の中にヒナタ達はいた。


 ヒナタとチャトラは白い着物に浅葱色の袴。


 チヨコとツルコとサクラは赤い巫女袴。


 他の寄合所の代表も同じ服装で中央に整列していた。


 客席には様々な神々が座り見守っている。


 ヒナタ達の前に現れたのは、ピンクの兔耳を生やしたピンク髪に赤い瞳の美少女。


 「皆様初めまして、司会進行は今年の干支である兎が務めさせていただきます♪」


 兎が名乗り解説を端圓た。


 「四つの寄合所に所属する若き纏獣者達二十名、競技にて競い合いご来場の神々から神気を集めていただきます♪」


 闘技場内の壁に巨大なモニターが現れ、映像を流して図解してくれる。


 「集まった神気は、アサヒ列島各所に振り撒かれ国と人々に運気と活力の加護として授けられます♪」


兎の説明が続く。


 「勿論選手の皆さんにも、優秀な成績を出したり優勝すれば神様からのご褒美がいただけますよ♪」


 兎が語り終えると同時に、客席から拍手と歓声が沸き起こる。


 客席の神々の体からは金色の光の粒子が放出され、天空に浮かぶ巨大な朱塗りの盃に吸い込まれて行いった。


 「それでは今年の節会を、開催させていただきます♪」


 再び歓声が沸き起こり、神気が盃に吸い込まれた。


 「頑張って客席を沸かせて、あの杯を満たすのが全体のミッションか」

 「大きな杯ですわねえ♪」

 「皆の衆、気合いを入れて参ろう♪」

 「う、うっす! 頑張りまっす!」

 「自分もめっちゃ、頑張ります♪」


 ヒナタ達、チーム東は気合いを入れる。


 「あれが東の代表かあ♪」

 「今年こそ我ら北が勝ちますよ♪」

 「フン♪ 細い奴らね、可愛いけど?」

 「北の方がグルメでも負けてない」

 「お肉も魚介も、北こそ一番♪」


 馬耳娘、鹿娘、熊娘に羊娘に人魚娘。


 獣人と魚人族によるチーム北は、全員巫女服の美少女チーム。


 優勝を狙い気合を入れて円陣を組む。


 「あ~、ヒナちゃんがおった~♪ 久しぶり~♪」

 「おいおい、親戚トークは後にしろよ?」

 「北にも鹿と熊がいるんだよな?」

 「オウカには負けられませんわ」

 「西こそアサヒの中心ですし」


 こちらは昨年の覇者、チーム西。


 一人だけおっとりした調子の美少女は、ヒナタの従姉妹のアユミだった。


 白い狐の面を被った少女やガタイの良い熊耳の少年、鹿の耳と角を持つ少年。


 五人目は黒い眼帯をした色白の短い髪の美少年と、チーム西は只者ではなさあそうだった。


 最後にスポットが当たったのはチーム南。


 「北の馬には負けんっ!」


 鼻息を荒くするのは日焼けした健康的な美少女、こちらも馬獣人。


 「剣なら任せて、一刀で決めます♪」


 グレートソードばりの長さと太さを持つ木刀を担いで笑うポニーテール少女。


 「私も頑張ります♪ もぐもぐ♪」


 カステラを懐から取り出して、食べる金髪で丸い感じの美少女。


 「女子野球で鍛えた腕を見せてやるわ♪」


 茶髪にツインテールの美少女がどこからか取り出したバットを構える。


 「はいた~い♪ チーム南、がんばるさ~♪」


 褐色金髪の猫耳娘が元気そうに叫ぶ。


 チーム南も全員女子であった。


 それぞれのチームが、優勝を目指して気合いを入れつつ第一競技の発表を待つ。


 「それではお待ちかねの第一競技、舟漕ぎレースの選手発表です♪」


 司会の兔がモニターを腕で指す。


 東:チヨコ・ハチジョウ

 

 西:アユミ・マンネン


 南:タマミ・カマド


 北:チエ・エリモ


 「よし、チヨコなら行ける♪」

 「ご期待に応えて見せますわ♪」

 「万能のチヨコ殿なら安心でござる♪」

 「先輩、お願いしまっす!」

 「チヨパイセン、ガンバっす♪」


 ヒナタ達は、チヨコなら行けると期待を寄せる。


 「アユミ、行けるな?」

 「勿論、任せて♪」

 「亀さんで大丈夫かしら?」

 「心配ですけど、家で水なら彼女しかですね」

 「まあ、俺らで挽回すりゃいい♪」

 

 チーム西はやや不安げであった。


 「チエちゃん、けっぱれ♪」

 「負けるなよ、蜂蜜食ってけ♪」

 「気を付けてね、チエちゃん」

 「海も川も鮭の神様の加護を受けたチエちゃんなら行けます♪」

 「うん、頑張って漕ぐよ泳ぐ方が得意だけど」


 仲間の応援にチエはイクラのように赤面した。


 「任せて、ガツンとかっ飛ばして行くわ♪」


 ツインテールのタマミが叫ぶ。


 「流石は野球部さ~♪」

 「体幹は良さそうですよね♪」

 「タマミさん、タヌキにはお気をつけて?」

 「北には負けたらいかんよ?」

 

 チーム南は、一部に北へのライバル心が強すぎであった。


 選手が決まれば競技の用意、残りのメンバーは四方に別れた控室へと向かう。


 控室は畳敷きの十畳間の和室。


 座布団にちゃぶ台、奥にはトイレや内風呂と旅館のようであった。


 「パイセン達♪ 冷蔵庫はふいードリンクやアイスに食べ物がいっぱいっす♪」

 「壁に大きいモニターが付いてますね、家のテレビもこうならなあ♪」

 「神々のお心遣いに感謝でござるな、饅頭が美味いでござる♪」

 「くつろげるってありがたいな、始まるぞ♪」


 ヒナタ達はモニター越しにチヨコを見守る。


 チヨコ達が霊獣武装で変身をして闘技場の中央へ集まる。


 彼女達のいる場所が中州になり水で満たされると同時に、手漕ぎの小舟が四艘よんそうほど中洲の岸に出現した。


 外周から順に一番は緑の亀を模した装甲のアユミ。


 二番は、白い兎を模した装甲のタマミ。


 三番は銀色の鮭を模した装甲を纏ったチエ。


 四番手の内周は、黄色い狸モチーフの装甲のチヨコ。


 「それでは皆さん、スタートです♪」


 中州の上で兎がピストルを撃ち、合図を鳴らせば各自が一斉に漕ぎ出した。


 「亀と狸に後れを取る兎はいないのよっ!」


 まず飛び出したのはタマミだ。


 「兎に勝つのは亀なんよ~♪」

 「鮭も負けてませんから!」


 アユミもチエも必死にかいで水を漕いで進む。


 「愚かな兎さんですこと、狸は化けますのよ♪」


 チヨコは尻尾を水に浸し、超高速回転をさせて推力を得つつ漕ぎ爆速でトップに躍り出た。


 「おおっと、狸はあざとい♪ この舟漕ぎは、ただの手漕ぎボートレースではありません、術の使用や妨害もありのバトルレースです!」


 兎が叫ぶ。


 「ちいっ、狸の癖に生意気なあっ!」


 タマミも魔力を集中し、船をジャンプさせて追いかける。


 「あ~~~れ~~~っ♪ と~~ま~~ら~~ん♪」


 わざとらしく間延びした声を上げながら、アユミは自分の船を回転させて渦潮を起こしてチヨコやタマミにチエの船を引き寄せて我が身諸共転覆させた。


 「え、えげつないっす!」

 「チヨ先輩、大丈夫っすか?」

 「従姉殿、過激ではござらんか?」

 「いや、アユちゃんはああいう子だから制御不能なんだ:


 控室でヒナタがたじろぐ。


 転覆で仕切り直し、再度舟を漕ぎ出すチヨコ達。


 「流石はアユミ様ですわね、デスが義理の従姉妹とはいえ負けませんわ!」

 「亀が伏兵だったか! 術がなくても、腕力でやってやるわ♪」

 「お、恐ろしい子です! ですが今度こそ流れを登り切って見せます!」

 「さ~、仕切り直してのんびり行きましょか~♪」


 ハプニングからの再スタートに、客席の神々も熱くなり神気を放出する。


 「北の熊女じゃないけれど、パワーよ!」


 野球で鍛えた体幹で、しっかりと立ち舟を漕ぐタマミ。


 「ぎ~~~こ♪ ぎ~~こ♪ どんぶらこ~~♪」


 大事なのは自分のペースと、ペース重視で漕いでいくアユミ。


 「飛べない鮭は、ただの鮭っ!」


 船で水面を飛び跳ねて進み、トップに出たチエ。


 「させるかあ!」


 だが、二番手のタマミがジャンプし飛び蹴りでチエを舟から落とす。


 結果、チエとタマミは水の上に落ちてタイムロス。


 勝負は、風を起こして進むチヨコと水流を起こして進むアユミが一二を争い三番手はガッツで追いかけるタマミで四番手はチエ。


 「最後に勝つのは亀さんなんよ~♪」

 「狸が兎に沈められると思ったら大間違いですの♪」

 「兎をディスるな~~~っ!」

 「諦めません何度でもっ!」


 タマミとチエが追いついて四艘がゴール前で並び、ラストスパート。


 それぞれが霊獣の力を放出し、獣のオーラがぶつかり合いながら進む。


 チヨコとアユミが同着、三位がチエで四位がタマミ。


 「白熱の激闘、一着は判定! 結果は、チーム東のチヨコ選手が一着です!」


 兎がモニターを見ながら叫ぶ、同時ゴールに見えたチヨコとアユミだがチヨコの船がわずかに先にゴールを抜けていた。


 「やりましたわ、ヒナタ様~~~っ♪」

 「う~~~、悔しい~!」

 「三位、頑張りました♪」

 「ごめん、負けちゃった」


 悲喜こもごも、船を中州に着けて降り立つ四人。


 「おっし、流石チヨコだ♪」

 「お見事でござる♪」

 「……凄かったっす」

 「パイセン、流石っす♪」


 控室で喜ぶヒナタ達、チーム東は順調な出だしを飾れたのであった。

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