第三章:勇者修行節会編

第15話 節会の始まり

 「それでは皆さん、夏祭りの会議を始めさせていただきます」


 ヒナタが会議室のホワイトボードの傍で発言する。


 集った面子はマツタロウとタヌキ党の面々、タカミチに商店街の商店会長。


 エンタロウとマキコさんもいた。


 場所はノボリべ神社の手前にある二階建ての一軒家、ノボリべ町会館。


 ヒナタが進行役、チヨコが書記とお茶くみで夏祭りの会議だ。


 ノボリべ神社の夏祭りは商店街と協力して行う。


 神輿や山車が練り歩いたり、商店街にも出店が出るからだ。


 ヒナタ達も祈祷などの神事を行うので、話し合いが行われた。


 会議室のドアが開きタヌキ山地区の警察署長と、ヒナタ達がツルコの別邸で見た黒服達が会議室へとやって来た。


 「おいおい、署長さんはともかくそちらさんは?」

 「マツ、あれは王室省の方だよ」

 「まさか、坊ちゃん達がらみか?」


 マツタロウが黒服達を気にすると、タカミチが答える。


 黒服の一人が、王室警察軍の名刺をマツタロウに差し出した。


 「噂に名高いロイヤルブラックか、恐ろしいけど頼もしいな」

 「私達が、ツルコ様とご縁が出来たので」

 「遊びに行きたいと」

 「まあ、警備体制が強化されるならありがたいわな♪」


 マツタロウにヒナタとチヨコが説明する。


 「いや、ヒナタ達は王族と知り合うって半端ないな?」

 「お姫様もお神輿担ぐのかねえ?」


 神輿の担ぎ手で来たマキコとエンタロウが呟く。


 商店街の会長は固まっていた。


 王室が絡んだことにより、計画に手を加える事が多くなり会議は長くなった。


 「何やら申し訳ござらん」

 「いや、そりゃ王族だから仕方ねえよ」

 「ご家族とお国が、ツルコ様を大事にされている証拠ですわ♪」

 「かたじけない」


 会議の翌日、ノボリべ神社の社務所に来ていたツルコが謝る。


 タカミチとマツタロウもいた。


 「しかし、王族から纏獣者が出てたのは俺らの親世代ぶりだな?」

 「そうだな、姫には息子達がお世話になっております」

 

 マツタロウが呟き、タカミチが礼をする。


 「いえいえ、こちらこそお二方にはお世話になっており申す♪」


 ツルコも礼を返す。


 「祭りと言えば、寄合所で言われて纏獣者として参加する神々の祭りの節会せちえもありそちらの話も先輩方をしたかったのでござる」


 ツルコが語る。


 「節会か、東の代表は坊ちゃん達と姫様に加えて五名とは寂しいねえ?」

 「まあ、新人に楽しんでもらおうと言う心遣いなのかもしれないが?」


 マツタロウとタカミチが呟く。


 「参加競技が結構あるんだよな、他の二人には今度会うけど」

 「まあ、何とか打ち解けて行きたい所ですわね?」

 「そうでござるな、まだ見ぬ二人は地元の防衛が忙しいようでござるが?」


 人のお祭り、神々のお祭り。


 どちらの夏祭りにも参加せねばらないヒナタ達であった。


 時は流れ三日後、東の寄合所に五人の少年少女が集っていた。


 「は、初めましてっ! ツクシマ県から来たチャトラ・アサミヤです!」


 短い茶髪の天然パーマに眼鏡をかけた小柄な中学生の少年チャトラ。


 着物に袴の神官装束、チャトラも神社の子らしい。


 女子に緊張しているか、赤面しながら名乗る。


 「ど~も♪ ナリハマ県から来ました、サクラ・イルカっす♪」


 こちらも女子中学生だが、髪の毛ピンクで瞳がキラキラ美少女だった。


 来ている服は。巫女服とこちらも神社の子の様子。


 纏獣者に選ばれるものは、神と縁が深い家の者が多い。


 「何か、俺らもだがあっちも大変そうだな?」

 「県の代表を背負ってるのですから、致し方なしですわ♪」

 「宜しくでござる、我ら五名で頑張りましょうぞ♪」


 ツルコが優しく微笑みかければ、チャトラは倒れた。


 「大変っす、チャトラ君しっかりしてっす!」


 サクラがチャトラを起こして活を入れる。


 「何でしょう、不安ですわ?」

 「大丈夫、チャトラ君みたいなのは変身すれば強いタイプのはず?」

 「アニメなどでは、お約束でござるな♪」

 「そっすね、期待大っす♪」

 「あ、あの~? 何か、圧がこわいです~っ!」


 ヒナタ達の期待に泣くチャトラであった。


 「じゃあ、誰がどの競技に出るのか決めた方が良いのかな?」

 「皆それぞれ、得手不得手がござろうからな♪」

 「自分、水泳とか海関連のスポーツが得意っす♪」

 「僕は、弓とか流鏑馬が得意ですっ!」


 サクラとチャトラが得手をアピールする。


 「頼もしいでござるな♪」

 「ああ、当日はどうなるかわからないがありがたい」

 「一人で複数の競技に出る事は減らせそうですわね♪」


 この五人で頑張ろうと言う事で、顔合わせは終わった。


 サクラもチャトラも学校は夏休み。


 だが彼らも神社の子。


 家の夏祭りや神事の手伝いと、ヒナタ達と似た立場らしく早めの解散となった。


 夏祭りはヒナタ達の所の方が時期が早く、出店が並び祭囃子が鳴り響く。


 ヒナタとチヨコは神事の手伝いや、朝から来客の対応に追われていた。


 ツルコと縁が出来た事で、彼女を警護する地元警察や御庭番に王室の警察軍たる近衛の人達とも報告に連絡に相談とやり取りが増えた。


 「各々方、ノボリべ神社と地活性化の為にいざ出陣っ♪」

 「おお~~っ♪」


 ツルコ本人は、法被にさらしに足袋と白いお祭り衣装に身を包み神輿に担がれる。


 神輿の上でわっしょいわっしょいと叫び、大団扇を扇ぎ盛り上げるツルコ。


 マスコミにも取り上げられ、確かに地域の活性化に貢献してくれた。


 「やれやれ、今年はいつもより忙しいぜ」

 「ここで盛り上げて、ひと稼ぎしておきたいですわ♪」

 「そうだな、ツルちゃんが来てくれたのは助かったよ」


 夜になり社務所にて、かき氷と焼きそばを食べて一休みするヒナタとチヨコ。


 ツルコは神輿の次は山車に乗り鐘を鳴らして、盛り上げる。


 「さて、次は櫓の周りでの盆踊りだな?」

 「ツルコ様のおかげで花火も上げられますの♪」

 「財力は力だな、マジで」

 「私達も参りましょう♪」


 食べ終えて立ち上がり社務所を出るヒナタとチヨコ。


 本殿の前に建てられた櫓ではツルコが待っていた。


 「お二方、さあ共に太鼓を打ち鳴らしましょうぞ♪」

 「ツルコ様、ハイテンションですわね」

 「特別席での観覧だけだったらしいからな、楽しんでもらおう」


 ヒナタとチヨコも櫓の上に上り、三面太鼓で空いている位置に着く。


 「いざ、盆踊りでござる♪」

 「おっし、俺も気合入れて行くぜ♪」

 「私もですわ♪」


 櫓の周りに浴衣や法被の人々が集まり、太鼓の音に合わせて踊り出す。


 『ヒナタちゃん、素敵よ~~~っ♪』

 『チヨコ、負けるな~~っ♪』

 『ツルコ、遠慮なく行きなさい♪』


 ラーバード、キンチョウ、氷鶴と三体の霊獣が空の上に顕現すれば歓声が上がる。


 「霊獣様だ、霊獣様が顕現された~~~っ♪」

 「ご覧下さい、神の使いである霊獣が三体も会場に顕現いたしました♪」


 年寄りが感極まて叫んだり、取材に来ていた白い浴衣姿のエルフの女性レポーターが驚く。


 人々の歓声や驚きの声もリズムにと、櫓の周りの上空を舞い踊る霊獣達。


 「ヒナタ達、頑張ってますね♪ 彼らの陽の気がこちらに伝わります♪」


 神世にて、現世の様子をスクリーンを作って見ながらお供えされた焼きそばやお好み秋にかき氷を楽しむテルコ。


 「霊獣達も楽しそう、ならば私も祭神として皆を労い言祝がねばなりませんね♪」


 テルコは屋台グルメを楽しむ手を止めて、瞬間移動を行い現世へと降臨した。


 開かれた本殿に鎮座する女神像が輝き、金色の光条を放つ。


 「皆様、ご覧下さいっ! 本殿から金色の光が放たれ、櫓の真上に神々しい女性が出現いたしました、宮司のタカミチさんあれはもしやご祭神様でしょうか?」


 レポーターがタカミチにマイクを向ける。


 「はい、あのお方こそ当神社のご祭神のテルコ様です♪ 皆様のお陰でご祭神様がご降臨なされました」


 取材に答えるタカミチ、魔法があり神や霊獣などの実在は認められている世界でも普通の人々には神に遭遇する機会は滅多にない。


 『民達よ、そなた達に祝福を♪』


 櫓の上からテルコが微笑みながら呟き、金色の光の粒子を天から降らせる。


 花火も上がる中で空に女神が降臨し、人々に祝福を授ける。


 ノボリべ神社の夏祭りは、大いに盛り上がったのであった。

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