第13話 救命の剣

 「何よ、今度は白いのってまたヒーローが増えてるじゃないっ!」


 アジトで災厄獣に街を襲わせる様子をライブ配信していたメリーが憤る。


 彼がパソコン越しにリアルタイムで見ているのは、ヒナタ達の世界で夕方の時間帯に起こした事件。


 電車を素材にした災厄獣とヒナタとチヨコだけでなく、ツルコが加わった戦いだ。


 「出たな災厄獣っ! 今度は電車かよっ!」

 「大蛇の如しでござるな、拙者が輪切りにいたそう♪」

 「いけませんの! 中には人が乗ってますの!」


 駅と駅の間の線路の上で、ヒナタ達赤白黄色の三色の戦士が電車が変化した鉄の大蛇に立ち向かう。


 「チヨコ、真っ向から頼む! ツルちゃんは、周囲に氷で足止めを宜しくっ!」

 「お任せあれ、忍法汽車変化ですわっ!」

 「こちらも任されよ♪」


 チヨコが印を結び黄色い汽車に化けて、体当たり。


 次にツルコが空に上がり氷の斬撃を放ち、敵の車輪や周囲を凍らせて止める。


 「日光浄化剣、昇華救命しょうかきゅうめいっ!」


 最後はヒナタ、汽車に変化したチヨコの背に飛び乗り更にジャンプ。


 光り輝く剣を大蛇の脳天へと突き立てれば、敵全体を白き光が包みこむ。


 鋼鉄の大蛇は、元の電車に戻り取り込まれた乗客達の心身を修復し復活させる神の御業を決めて見せた。


 だが今の自分の力量で最大の技を出して力を使い切ったヒナタ、よろめき電車から崩れ落ちる。


 「身バレ回避ですわっ!」

 「撤収でござるっ!」


 チヨコが汽車から巨大な茶釜に化けて、ヒナタを取り込み空を飛ぶ。


 ツルコもヒナタ達とは別の方向へと飛び去った。


 災厄獣にされた電車は十分の遅延となったが、無事に運行を再開した。


 「うっそ~~ん! 何なのあのチート能力わっ! 勘弁してよ~っ!」


 異次元にある安全なアジトの中で、メリーが泣き叫ぶ。


 動画は受けてメリーの財布は潤ったが、心は悔しさで痛かった。


 「こうなったら、飲みに行くわっ! ジャンジャン高い酒飲んでやるっ!」


 メリーは悔しさを紛らわせたくなり、ヤケ酒を決め込みアジトのドアを開けて行き付けの悪党専用の酒場へと出かけるのであった。


 黒幕のメリーがヤケ酒をしている事など、知る由もないヒナタ達。


 ヒナタは和室の布団の上で目覚める。


 「おお、ヒナタ殿がお目覚めでござる♪」

 「……ヒナタ様、良かった♪ ここは以前お邪魔した、ツルコ様の別邸ですわ♪」

 「……ああ、と言う事はあれで事件は片付いたのか良かった♪」


 目覚めたヒナタは二人から説明を受けると、ヒナタは安堵した。


 「敵を倒して事件解決したら安心したぜ、腹も減ったよ」

 「ならば、夜食を用意してもらうでござる♪」

 「私もお腹がすきましたの♪」

 「拙者もでござる♪」


 ツルコがパンパンと手を叩けば、緑の着物の女中さんが静かに襖を開けて現れる。


 ツルコが女中さんに、お茶と握り飯の用意を取頼み事をすれば女中さんは黙って頷き客間から退室した。


 「お二人共、明日からは連休ゆえに今宵はこちらに泊まって行かれよ♪」

 「ありがたく、泊まらせていただきますわ♪」

 「俺も、世話になるぜ」


 ツルコの申し出をありがたく受けるヒナタとチヨコ、チヨコも部屋を割り当てられて三人別々に休んだ。


 翌朝、女中さんが用意してくれた朝食を客間で三人は食べていた。


 「ツルちゃんも、おひつでご飯か?」

 「いやあ、拙者に力を与えて下さる霊獣様の関連で♪」

 「私達が食べる事で霊獣様にもお供えになりますの♪」

 「いや、それはわかるがなら俺ももっと食った方が良いのかな?」

 「いやいや、食事量はそれぞれでござる♪」

 「ヒナタ様、お替りならこちらから♪」

 「お二人は、良い夫婦でござるな♪」

 「高校を卒業したら、祝言を挙げる予定だよ♪」

 「ツルコ様からのご祝儀、期待しておりますわ♪」


 味噌汁、焼き魚、卵焼きを行儀良くいただく三人。


 食事を終えて、お茶を飲みながら語り合う。


 「しかし、昨日はお見事でござった♪」

 「ええ、電車も乗客の皆様も取り戻しましたの♪」

 「ラーバード様とテルコ様のお陰、助けられて何よりだよ」

 「救命の剣、手合わせの時も感じ申したが良き男でしたぞ♪」

 「私のヒナタ様ですから♪」

 「誰彼助けるってわけじゃないよ、敵は許さねえし?」

 「恐らく、あのメリーと言う怪人が黒幕ですわ」

 「どうやって、こちらに引きずり出せば良いのやらでござるな?」

 「それなんだよな、敵のアジトは神様でもどこかの異界までしかわからないって」


 ヒナタが昨夜寝る前に、テルコにメジホで相談してみた結果を語る。


 敵のアジトはこちらの異次元ではなく、異世界の異次元ではとの事。


 管轄している世界以外への、下手な干渉はできないと言われた。


 「他所の世界に向けて力を行使すれば、こちらが害来者になってしまいますの」


 チヨコが悔しがる。


 「歯がゆいでござるが、我らが理を乱すわけには参りませぬし他所の世界まで手が回りませぬよ神々のお力を借りられても我らは人の身でござる」


 ツルコも悔しそうに言う。


 「だな、俺らは俺らの世界で出来る事をするしかねえよな」


 ヒナタも、悔しがりつつどうすれば良いのかと悩んだ。


 悩んでいても仕方がないと、身支度を整えてヒナタとチヨコはツルコの別邸を後にした。


 「それではお二方、事件が起きればお呼び下され♪」

 「ああ、仲間はずれにはしないよ」

 「三人であのメリーを倒しましょう!」


 ツルコと別れ、二人で街をパトロールしに行くヒナタ達。


 一方、そのメリーは怪しげな場所にいた。


 天井や床から、牙の如く白い鍾乳石が突き出ている中で開かれる異形の酒場。


 テーブル席には生物的な者もいれば機械的な者も客として飲み食いや雑談に興じている怪人達の酒場。


 店名は『イービルイージー』と言う、カウンター席では白髪にモノクルの老紳士然とした灰色の肌の人間型怪人のバーテンダーがグラスを磨く店。


 老紳士の他にはバーテン衣装が似合わないタコ型やイカ型の怪人が、文字通り手足を動かして調理やら接客をこなしていた。


 「メリーさん、最近羽振りがいいですねえ?」

 「気分は下げ下げよ~? 楽に稼げる、良いシノギの場所だと思ったのにさあ?」


 カウンター席に陣取り、高そうな酒のボトルを五本ほど開けて飲みつつモノクルのマスターに愚痴をこぼすメリー。


 「おやおや、儲かるなら良いんじゃなかったんですか?」

 「こうして私が高いお酒開けて、マスターが儲かってるからでしょ?」

 「ええ、悪党ですからシノギは大事ですよ♪」


 メリーに優しく微笑むマスター。


 「流石ベテラン悪党ね、マスター?」

 「だから今、優雅に酒場を営みながら悪党ギルドのマスターができるのですよ♪」

 「スローライフで良い空気吸っちゃって、羨ましいっ!」

 「悪の年季が違いますからなあ♪」


 メリーの言葉を流すマスター。


 「いっそのこと、自分で戦っちゃおうかしら?」

 「良いんじゃないですか、たまには体を動かすのも健康的ですよ♪」

 「いや、悪党の健康ってどうなのよ?」

 「悪党だからこそ、健康は大事なんですよ♪」

 「そうね、じゃあ久しぶりにやってみますか」

 「何か、悪事の道具はご入用ですかな?」


 久しぶりに自ら現場で戦おうと思ったメリーに、必要な物を尋ねるマスター。


 「そうね、私の魂と記憶とボディのコピー保険とスーツを♪ 先払いで♪」


 メリーは虚空に穴を開けて、バケツ一杯分の金貨の入った白い袋を取り出す。


 「はい、確かに酒代込みでのお支払いありがとうございます♪ それではこちらのカードをどうぞ、地下の十四番です♪」


 金貨袋と交換で、メリーに黒いカードキーを手渡すマスター。


 「ありがと、それと裏切りは無しでお願いね♪ ブラックコインで支払うわ♪」


 メリーは再度虚空に穴を開けて手を入れて、黒いコインを取り出してマスターへと差し出す。


 「流石はメリーさん、抜かりがない♪ ブラックコインを戴いたなら、勿論♪」


 マスターは笑顔でメリーから、黒いコインを受け取った。


 ブラックコインは、自分より格上であっても雑魚であっても悪党達に絶対的な強制力を付与する裏切り防止の魔法のコイン。


 誓いを守れば一枚につき、どんな願いでも一つだけ叶えられる願望器。


 メリーは、席を立ち、戦いの準備に向けて酒場の地下へと向かった。

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