第12話 鶴が舞う如く
「おお、ヒナタ殿♪ 姿勢が宜しいでござるな♪」
「冷静に、俺は俺のできる事しかできない」
「ヒナタ様、ご武運を!」
「次はチヨコ殿でござるよ♪」
ヒナタとチヨコとツルコの三人、霊獣武装をしたツルコは名前の通り白い鶴を模したフェンシングの剣士とバレリーナを混ぜたような装甲を纏っていた。
赤い火の鳥と鎧武者を模した装甲のヒナタとはまさに紅白。
ツルコは二刀流で、ヒナタは一刀流と剣も対照的。
キニーにより転移させられた異空間の剣道場で、まずはヒナタがツルコと対決。
「せ~~~~いっ!」
中段から進み、刀を振り上げ面に打ち込む。
ツルコはヒナタの打ち込みを避けず、片手の刀を上げて受け止めた。
「うむ、実に基本に正直な良い打ち込みでござる♪」
「やばい、突きが来るっ!」
「勝負の勘も良いでござるな♪」
ヒナタが飛び退けば、彼がいた位置にツルコの片手突きが来ていた。
「さあさあ、どんどんヒナタ殿の剣を見せて下され♪」
「ならば前のめりだ、てやっ!」
ツルコがほれほれ打って来いとばかりに隙を見せた場所へ、ヒナタが小手や胴を打ち込めばツルコが刀で受けて防がれる。
逆にツルコの二刀流による打ち込みも、ヒナタが刀で受けて守りやすいように先生が生徒に指導するかのように打って来る。
「ああ、ヒナタ殿は初々しい♪ ささ、受けてばかりではなく返して下され♪」
「ふ~っ! てりゃっ!」
翻弄されまくるヒナタだが、呼吸を整え、自分のペースで打ち込んで行く。
「基本に忠実であろうとする誠実な劍、良いでござる♪ こそばゆいでござる♪」
「せりゃっ!」
「はっ♪ こちらの一本でござる♪」
「……ぐっ、参りました」
ヒナタの面が振り下ろされる前に、ツルコの突きが彼の喉元で止められていた。
「いやあ、胸がときめき申した♪ ひたすらに基本の動きで戦って行く、実直な剣でござるな♪」
「マジで強いなこのお姫様、ハードな指導稽古だったぜ」
「いやいや、初心忘れるなかれと言わんばかりの誠実さ♪ これからは友として拙者も交えて稽古をして、強さを高め合いましょうぞ♪」
「では次は、私がお相手を務めさせていただきますわ!」
ヒナタとツルコが語り終えて選手交代、チヨコとツルコの対決だ。
黄色い狸と白い鶴、チヨコは二丁の苦無とこちらもある意味では二刀。
「これはまた闘気が熱い、滾る♪」
「……この方、気合い入れて行かないとやばいですわ!」
ツルコは胸の前で刀を交差させ、背中ら翼を生やして突進して振り抜いた。
チヨコは苦無を十字に交差させ、横滑り移動で回避をする。
振り抜かれたツルコの刀が苦無に当たる。
「流石は忍♪ 守りが上手い♪」
「剛剣ですわね、完全にヒットしたらヤバいですわっ!」
「ヒナタ殿は育て甲斐のある剣、チヨコ殿は結構できる腕前の剣♪」
鶴は攻撃性の高い鳥、獲物を狩るべく素早く振り返りチヨコを追いかける。
「忍は逃げ隠れしながら隙を突くのですが、隙がなさすぎですわっ!」
「またまた~っ♪ そんな事を言いつつもこちらの守りを切り崩そうと、果敢に攻めて来られてるではござらんか♪」
ツルコに対してチヨコは、分身で回避しつつ四方八方から攻める。
「風に雷に炎にと、チヨコ殿は多芸でござるな♪」
「攻撃を全部そよ風の如く受け流されては、褒められた気がしませんわ!」
「では拙者も、風の太刀・
ツルコが間合いを取ると、左右の刀を回転させて竜巻を起こす。
「流石に危ない、
ヒナタが割り込み、全身から熱光線を発射して竜巻を消し去る。
「何とっ♪ 女子を庇うとは、良き男でござるな♪」
「火が付いちまった、受け止めてくれよっ!」
「喜んで♪ お二人共、存分に参られよ♪」
「私達、二人そろえば手強いですのよ♪」
ヒナタが上段に構えて刀を燃やし突っ込む、チヨコは落ち葉を混ぜた疾風を起こしてヒナタの炎の勢いを増加させる。
ツルコも、刀だけでなく足も上げて回転させて冷気を起こし吹雪を身に纏う。
火の鳥となって突っ込むヒナタ、霊気の鳥となって突っ込むツルコ。
チヨコも、全身を赤熱化した茶釜に変えてヒナタと重なりツルコに体当たり。
炎と冷気のぶつかり合いは大爆発を起こし、三人は仲良く大の字に倒れた。
「はっはっは♪ 面白いでござる、これが力を持った友とのふれあい♪」
「……ヤバいなこのお姫様、大物すぎるよ」
「流石は一国の長の娘、ヤバいですわ」
「ああ、己をさらけ出してぶつかり合える友との出会い♪ 今日は何と良き日である事か♪ お二人共、これからお宜しくお頼み申す♪」
「ああ、あんたは俺達が抑えないとヤバい子だってわかったよ」
「じゃじゃ馬ならし、こなしてみせますわ」
「チヨコ殿も、中々に暴れん坊でござるよ♪」
「ツルコ様には負けますわ!」
「他の纏獣者も、べらぼうな奴らばかりなんだろうなあ」
「ヒナタ殿もべらぼうでござる、拙者のお墨付きでござる♪」
「嬉しくないお墨付きだぜ」
大の字のままで語り合う三人、ぶつかり合って見た事で距離が縮まった。
波乱の顔合わせの翌日、学校近くにある立派な武家屋敷にヒナタ達は招かれた。
放課後に校門を出たら、執事が豪華な黒塗りの高級車でお出迎えと言う状況で連れて来られたのでヒナタ達は学生服の姿のままであった。
「キューラブの浴衣ですの?」
「今放送しているキューフライハイだな、プレミアム通販で売ってた」
「ヒナタ殿はお目が高い、剣友だけでなくキュー友でござるな♪」
「ツルコ様、ヒナタ様は渡しませんからね♪」
池に鯉が住み、サングラスに黒服のSPが警護する庭。
掛け軸や壺がどれも高価そうな品物だらけの居間に集った三人。
人気アニメ、フライハイキューラブのキューフライハイがプリントされた水色の浴衣を着たツルコがバリバリと笑顔で干菓子を食っていた。
「どこからツッコミを入れたらいいんだ?」
「ボケ倒されてますわ私達」
「お二人共♪ そう、固くならずに♪」
「黒服さんとか女中さんとかが、気配で釘を刺して来るんだけど?」
「友の前と言えども、ある程度の姫君らしさは大事ですわ」
「公務ではござらんし、ここは別邸だから無礼講でござる♪」
「お前さんはご乱行だよっ!」
「やっとヒナタ様がツッコめましたわ!」
「友からのツッコみ、青春でござる♪」
「もしかして、キューラブは全部見て来たとか?」
「勿論、箱推しで課金してるでござる♪」
「国家的アニメだな」
「ロイヤルなボケはツッコみきれないですわ」
リラックス全開のツルコと会話する中、女中さんが襖を開けて静かに追加のお菓子の入った皿と新しいお茶を運んで来てくれたので会釈していただくヒナタ達。
「以前にも申し上げたが、我らは友でござるよ♪」
「友であるからこそ、礼も大事だから」
「ヒナタ様に同意です、友だからこそですわ♪」
「なるほど、確かに親しいからこそでござるな」
納得するツルコ。
「それで、ただ招いたと言うわけじゃないよな?」
「勘ぐり過ぎでござる♪」
「次にお招きいただくなら、低収入層な感じのセーフハウスでお願いいたします」
「世を忍ぶ、秘密の隠れ家的な奴でござるな♪」
「マスコミ対策などはどうされているのでしょうか?」
「その手の不逞の輩共は、御庭番達が速攻で処理しているでござる」
王族にちょっかいを出す、命知らずなマスコミはいなかったらしい。
「今後は三人で、オウカに仇為す害来者などを退治して参りましょうぞ♪」
「いや、三人しかいないのオウカシティには?」
「東の寄合所は、オウカが我ら三人で後は周囲の県に二十七人でござる♪」
「アサヒ列島全国を、百二十人で守るのは大変なお役目ですわね」
「もっと、神様や霊獣達に認められる人達が増えて欲しいよ」
「まあまあ、神々も下手な輩に力は渡せぬのでござろう」
神々に選ばれし纏獣者は、全国に百二十人。
自分達が身内のコネもありで、狭き門をくぐり抜けたのだなとヒナタは知った。
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