第11話 スモウ稽古と白い鶴

 「……い、いらっしゃいませ?」

 「ごっつぁんです♪ 大きくなったな、少年♪」


 土曜日の朝早く、境内の掃除をしていたヒナタ。


 先日観戦した格闘技、スモウファイトの王者の突然の来訪に驚いていた。


 黒い浴衣に身を包んだ、ガタイの良い銀杏髷のナイスガイ。


 西のスモウキング、ウシダイオーだ。


 「この間、アリーナで化け物に餅にされたのは君だろ?」

 「……はい、お恥ずかしい限りです」

 「恥はかいて良い時は幾らでもかいて良い、経験値だ♪」

 「お世話になった恩返しだ、経験値稼ごうか♪」

 「ゲームするんですね?」

 「結構ね、ゲームも後でフレンド登録しよう♪」


 裏手のドヒョウリングの上、変身した姿で向き合う。


 黒い牛の戦士の正体は、やはりウシダイオー関であった。


 「弓馬だけでなく、スモウファイトも含めて武芸は神事。 先輩として一丁胸を貸すよ、はっけよい♪」

 「残った~っ!」


 大地からエネルギーを汲み上げるように四股を踏み、全身から炎を燃やして突っこんで行くヒナタ。


 「熱くて良いねえ、響いてる♪ 良い具合に基礎が組まれてるよ♪」

 「スモウもできる師匠がいるので!」

 「マツタロウさんか、確かにね♪」


 ヒナタの突進を受け止め、鍛えてきた成果を認めるウシダイオー。


 「さあ、止められたらどうする♪」

 「退かずに、進みます!」


 止められても体から炎を燃やし、前に進もうとするヒナタ。


 「良いね♪ けど、正解の一つでしかないよっと♪」

 「ヤバイ、ならっ!」


 ウシダイオーから頭突きの動きが見えたので、離れるヒナタ。


 「そ、ナイス判断♪ 仕切り直しってあるから、引いても良い♪」


 ヒナタを褒めつつ、ぶちかましで突っ込んで来るウシダイオー。


 「ここは回り込むで!」


 ウシダイオーの突進を回避し、回り込みを狙うヒナタ。


 「そうそう、一か八かで突っ込むのもありだけどその手も良い♪」


 ウシダイオーも突進をキャンセルして、くるりと回りヒナタと向き合う。


 ウシダイオーは、体格は大きいが小技もこなす柔軟な戦い方をする戦士であった。


 ヒナタは、ドヒョウの上でみっちり稽古を付けられたのだった。


 稽古の後は、ノボリべ家で飯を食って行ったウシダイオー。


 鳥居の前で彼が帰るのを見送る事にしたヒナタ。


 ウシダイオー関が、ヒナタに語りかける。


 「それじゃあ、俺は興行もあるから帰るけど次は寄合所合同の節会で会おう♪」

 「それって、他の人達の交流の席って奴でしょうか?」

 「そうそう、レースやスモウやらのお祭り騒ぎで土地に元気を配るんだ♪」


 後は神様とかに聞いてくれと言い、ウシダイオーは去って行った。


 「なるほど、前に言われた催し物ってそう言う事か」


 馬に乗ったり、スモウの稽古をしたりとこれまでの事が繋がった。


 「ヒナタ様、私ともおスモウを取りませんか?」

 「チヨコとはバリファイトになりそうなんだけど?」

 「ええ、離しません♪」


 チヨコが突然背後から現れて、ヒナタに抱き着いた。


 「大事なお稽古でしたから遠慮いたしましたが、私の方も構って下さいませ♪」

 「ああ、チヨコは俺の大事な半身だからな♪」

 

 ヒナタもチヨコを抱きしめる。


 「そう言えば、寄合所の節会って何か聞いてる?」

 「両親からは、そのような催しがあるくらいしか?」

 「東の寄合所にも顔を出さないとな、まだまだわからない事だらけだ」

 「他の東の所属の方に会う前に、他所の寄合所の方とお会いしましたの」

 「まあ、縁があったって事だな」


 二人で本殿に歩いて行き、ご神体の女神像の前で祈り神世へと赴く。


 「ヒナタ、牛神の使徒に随分と揉まれましたね♪」


 女神テルコが微笑む。


 「ガッツでは、ヒナタちゃんも負けてないわ♪」


 火の鳥ラーバードが、サイドチェストのポージングをする。


 「良し、俺も一丁スモウを取ろうか♪」


 タヌキのキンチョウが、四股を踏む。


 「テルコ様、節会とは一体どのような催し物でしょうか?」


 チヨコが尋ねてみる。


 「節会ですか、そんな時期ですね♪ 簡単に言えば、神とゴリンピックです♪」


 テルコが笑顔であっけらかんと言う、ゴリンピックは国際的なスポーツ大会だ。


 「戦神馬でのレースに、スモウファイトに、弓矢に剣術にと色々よ♪」

 「一部の競技は賭け事でもあるから熱いぜ♪」


 人間ではスポーツに博打は混ぜるといけないのだが、神々では違うらしい。


 「何と言うか、ずいぶんとべらぼうな話だな?」

 「私達はどのような種目に出れば宜しいんですの?」


 聞いてみたら聞いてみたで、とんでもない話だった。


 「選手の出場の割り振りは、寄合所で決めるとの事です♪」


 テルコが笑顔で答えた。


 「ヒナタちゃん達なら、どんな種目でも行けるわ♪」

 「チヨコ、舟は人力でこげるよな?」

 「人力のボートレースがあるんですのね?」


 ラーバードとキンチョウの言葉に、チヨコが嫌な顔をする。


 「もしかして、馬を使うのは競争と流鏑馬の二種類でしょうか?」

 「西洋から来たジョストなどもありますね♪」


 テルコは子供の運動会を見に行く気分であった。


 「キンチョウ、あんた変な賭け方するんじゃないわよ?」

 「おいおい、儲かる方に賭けるのがばくつだぜ?」


 霊獣達はギャンブラーの目になっていた。


 ヒナタ達は、愛馬の世話をしに行くと厩舎の施設が増えていた。


 「流鏑馬コース、いつの間にできたんだろうか?」

 「ヒナタ様、気にしたら負けですわ♪」


 二人は赤炎と黄雷を連れ出して矢筒を背負い弓を持ち、愛馬に乗ると流鏑馬コースに挑む。


 「うん、馬の速度に矢を射るタイミングにと難しいな」

 「黄雷ちゃん、ペースダウンですわ!」


 馬を走らせながら的を狙い弓を引いて矢を射る、ヒナタ達の初めての成績は命中率三割であった。


 日曜日、東の寄合所を訪れたヒナタ達は本殿で平伏していた。


 「あ、頭を上げられよお二方っ! 拙者は今は、世を忍ぶ仮の姿なので何卒同年代の若者同士らしくフレンドリーにお願い申し上げる♪」


 平伏するヒナタ達におろおろしているのは刀を脇に置いて正座し、白い着物に青い袴の黒髪ポニーテールのサムライ美少女。


 「恐れ多すぎます、自分が有名人だと自覚なさって下さいツルコ姫っ!」

 「まさか、姫君が纏獣者であられたとは露知らずですわっ!」

 「……うう、困り申した? 父上は、世を忍ぶ仮の姿ならば平気だと?」

 「ご自分の御尊顔、バンバンテレビやメディアで出てますよね?」


 ゆっくりと頭を上げるヒナタ達、まさか国家元首である国王の娘がまだ見ぬ仲間であったとは思いもしなかった。


 「……な、何とっ? それでは、後程お二人には交友の印籠をお渡しすると言う事で友人づきあいをお願い申し上げる♪」


 ツルコがヒナタ達ににっこりと微笑む。


 「それでは、宜しくお願い申し上げます」

 「お願いいたしますの~っ!」


 圧倒的に社会的立場が上のツルコに、ヒナタとチヨコは従うしかなかった。


 「姫と言っても、上には兄が五人もおるので後継ぎとは縁がござらん♪」


 ツルコが語り出す、寄合所の長のキニ―は席を外していた。


 「いや、大事な一人娘でしょう?」

 「ですです」

 「他所に何人か、母親の違う姉妹がおり申すよ♪」

 「そう言う事をさらりというなっ!」

 「ヒナタ殿、ナイスツッコミでござる♪」

 「心臓に悪いボケは、ご遠慮いただきたいですの」

 「はっはっは♪ 母違いの姉妹は本当でござるが姫ジョークでござる♪」

 「色々ぶっ飛んでるな、このお姫様」

 「恐ろしい子ですの!」

 「いやあ、腹を割って話せる友とはありがたいものござる♪」


 ツルコの方は、ヒナタ達へとずいずいと心の距離を詰めて来ていた。


 「で、ツルちゃんはどう言う戦闘しタイル?」

 「ヒナタ様、相手に乗せられてますわ!」

 「おおっ♪ ちゃん呼びとは嬉しいでござるな、ではお互い姿を変えて見せあいましょうぞ♪」


 ツルコの提案に、ヒナタはヤバいと思ったが後には退けなくなっていた。

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