第10話 相撲戦士登場

 「助かったぜヒナタ、ありがとうな♪」

 「うん、何か大変だったみたいだね?」

 「ご無事で何よりですわ♪」

 「いや、化け物が出たのも驚いたがユナイターを見ちまったよ♪」

 「そういや、ライバルチームの人達は生きてたんだって?」

 「ああ、おネエの悪魔にマシンを奪われて簀巻きにされてたってよ?」


 後日の教室、ヒナタとチヨコはエンタロウに祈祷の礼を言われた。


 災厄獣から助けた事ではない、身バレはしていないはずだから。


 礼のついでに聞かされた話で、ヒナタはメリーの仕業かと溜息を吐いた。


 「まあ、なるべくご無理はなさらずにですわ」


 チヨコもエンタロウに語りかける。


 「相手から来ねえ限りは、そこまで無茶はしねえよ♪」

 「エンタロウはそう言う性分だからな。 まあ、本当に無事でよかったよ♪」


 ヒナタは正直な感想を述べた、友達に死なれるのは嫌な物だから。


 「夜の道路にいきなり災厄獣が出るって、ヤバいなアーサー?」

 「う~ん? それよりも、僕の美しさの方が危険さ~♪」

 「うん、お前の頭のヤバさが危険だな」


 フィードとアーサーはエンタロウの話を聞きつつ、教室の隅で漫才をしていた。


 「そうだ、これは俺からの礼だ♪ まあ、新聞屋からの貰いもんだけどな♪」

 「ああ、ありがとう♪」

 「スモウファイトのチケットですわね、豪華なお弁当付きの席ですわ!」

 「二人で楽しんで来てくれ♪ 俺はスモウよりバリファイトの方が好きだから♪」


 エンタロウがヒナタ達に渡したのは、二枚のチケット。


 アサヒの伝統格闘技、スモウファイトの観戦チケット。


 リングの傍のSSR席、その後ろのSR席、更に後ろのR席に最後列のC席。


 貰ったチケットは、最前列のSSR席であった。


 SSR席の観客は、豪華なお弁当にドリンクに帰りのお土産の特典付き。


 マニア垂涎のチケットである、新聞屋の景品にしては豪華であった。



 円形の舞台、ドヒョウリングの中で神の戦士スモウファイター達がぶつかり合う。


 打撃に魔法に、投げや関節技もある立ち技の格闘技だ。


 女性のプロ選手もおり、チャンピオンはスモウクイーンと呼ばれる。


 男子のチャンピオンはスモウキングだ。


 エンタロウの言うバリファイトは、寝技ありの近代総合格闘技。


 ヘビー級の選手には、スモウファイターからも転向者もいる。


 若者には、スモウよりはバリファイトの方が人気であった。


 「エンタロウなら、バリファイト選手目指せば良いのに?」

 「そう言う道もありだな、まあ今はバイク転がすのが楽しいぜ♪」


 ヒナタの言葉にエンタロウが答える。


 このチケットが、ヒナタ達に新たな出会いの縁を結ぶ事になる。


 「スモウファイトか、誰が出るんだ?」

 「スモウキングの、ウシダイオーって人だけど?」

 「あらあら♪ 懐かしいわね、家の神社に来てもらってた人よ♪」

 「出世してからは、呼ぶのに値上がりしたから疎遠になってしまってな」


 ヒナタが家での夕食の時に、チケットの話をすると両親が懐かしがる。


 昔は、ノボリべ神社でもスモウファイターを呼んでいたらしい。


 「そう言えば、ドヒョウリングが家にもあるよね? あそこでやってたんだ?」


 話の中で、ヒナタが本殿の裏手にあるドヒョウリングの事を思い出す。


 「ああ、何とか維持はできているがファイターを呼ぶにはお金が足りなくてな」

 「ヒナタもチヨコちゃんも、小さい時は見てたでしょ?」

 「そう言えば、エンタロウもいて三人で見たような?」


 母親に言われて、記憶を辿ろうとするヒナタ。


 「まあ、スモウファイトをしてない期間が続いたから仕方ないさ」

 「タヌキ党の人達が、トレーニングに使う位だよね今は?」

 「その使用代がリングの維持費なの♪」

 「世知辛いなあ」


 世の中を動かすのはお金であった。


 ヒナタ達が日常を過ごしている間、メリーもアジトで日常を過ごしていた。


 悪党達の集まる酒場で飲んだり、稼いだ金で遊んだりの遊び人暮らし。


 「悔しいけれど、やっぱりあいつらとの戦いは受けるのよね」


 パソコンで動画の閲覧数や投げ銭の入り具合を確認し、溜息を吐く。


 ヒーローに負けるのも商売の内だが、悔しい事は悔しい。


 下積み時代は打倒ヒーローに燃えていたが、独立してからは方針を変えた。


 「メインのシノギで稼ぐにはウケる動画が必要ね?」


 他の動画やネット検索で、売れ筋の悪事をリサーチするメリー。


 採石場で対ヒーローの為の必殺技の訓練は時代遅れ、悪の努力もデジタル特化だ。


 「モンスター作るのも時間かかるのよね、素材の調達とか」


 前回のモーター災厄獣は、現地で奪った素材で即席製造したので弱かった。


 「あら? あっちにも相撲があるのね、国技ぶち壊しとかロックじゃない♪」


 メリーはネット検索で、ヒナタ達の世界のスモウファイトを知った。


 メリーの悪だくみが、またもやヒナタ達の日常と交差しようとしていた。


 観戦当日、シティの東にあるリングと客席の上は屋根なしの円形競技場。


 客席の四方に巨大モニターがある建物の名は、スモウファイトアリーナ。


 客席全体の七割が埋まる大入りの夜の部、東側の最前列の席にヒナタ達はいた。


 「キングが出るまで三試合ありましたが、どれもベストバウトでしたわ♪」

 「ああ、炎と氷の頭突き対決とか凄かった」


 幕の内弁当も美味しくて楽しく観戦していたヒナタ達。


 次はキングが出る最後の取り組み。


 「ひが~し~♪ トチ~トリ~モチ~♪」


 行司と呼ばれる審判にして進行役が、選手を呼び出す。


 「に~し~♪ ウシ~ダ~イオ~♪」


 東のキングのトチトリモチと、西のキングのウシダイオーの名が呼び出される。


 だが、東の方から現れたのは鏡餅に手足が生えた三メートルほどの怪物だった。


 怪物の出現に騒然となるアリーナ。


 「さ、災厄獣ですわ!」

 「最悪だな、やるしかない!」

 「隠形すればバレませんわ!」

 「ああ、霊獣武装!」

 

 二人は素早く周囲から身を隠して変身する。


 敵が出たなら放置できない。ドヒョウに上がって叫ぶ怪物に挑む。


 「モチ~~ッ!」

 「ぐわ~っ!」

 「気持ち悪いですわ~っ!」


 鏡餅災厄獣は、口から餅を噴き出してヒナタ達を絡めると上手で放り投げた。


 観客は逃げたので人的被害は無し、餅が衝撃を吸い込むのでアリーナの物損もないがヒナタ達は壁にくっついて動けない。


 チヨコの電撃は餅に吸い込まれ、ヒナタの炎は餅の柔らかさを増して逆効果。


 「ドヒョウに上がるなら、スモウを取れっ!」


 アリーナに響く大声で、西の方から黒い牛の纏獣者が巨体を揺らしてやって来た。


 「牛の纏獣者ユナイター?」

 「寄合所からの援軍でしょうか?」


 餅から抜け出そうと苦戦するヒナタ達。


 「そっちの坊ちゃん達は見物してな、アリーナとドヒョウは俺のステージだ♪」


 大声だが優しい口調で、ヒナタ達を止める牛の戦士。


 「お客様達もご照覧あれ♪ キング同士の取組前の特別ファイトでございます♪」


 牛の戦士の叫びに観客達も沈静化して座りなおした。


 鏡餅の災厄獣は牛の戦士が語り終えるまで、何故か動かなかった。


 牛の戦士と鏡餅が四股を踏み、互いに見合ってぶつかりあう。


 牛の頭突きが、鏡餅の頭突きを弾けば突っ張りの嵐が巻き起こる。


 「そらそら、張り手の餅つきだぜモチ関よう♪」

 「モチ~~~ッ!」

 「誰にやられたかは知らねえが、元に戻してやるぜ合掌捻りっ!」


 張り手合戦を制した牛の戦士が、全身を肥大化と言うか巨大化させて相手を捕えると合掌捻りを叩き込んだ!


 捻り倒された鏡餅の災厄獣の体から、黒い煙が抜け出すと災厄獣は東のスモウキングことトチトリモチ関の姿に戻る。


 同時に、ヒナタ達を捕えた餅も消えたので二人はドヒョウを降りた牛の戦士に駆け寄り礼を言う。


 「ありがとうございました」

 「お恥ずかしい限りですの」

 「な~に、今日はお客さんで来たんだろ♪ 気にしなさんな♪」


 牛の戦士は笑いながら、ヒナタ達の背中をバシバシと叩く。


 牛の戦士は去って行き、トチトリモチ関も回復する。


 運営による協議が行われた結果。


 止まっていたウシダイオー関との取り組みが始まった。


 「今回は駄目だったな、恥ずかしい」

 「次は汚名返上ですの!」


 スモウキング同士のベストバウトを見ながら、ヒナタ達は気合いを入れ直した。

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