第二章:勇者修行交流編
第8話 乗騎の修行、戦神馬ゲット
オダハコでの百足退治から一週間後。
ヒナタ達は地元やオウカシティ周りでの事件と学生生活に追われていた。
「……くっ、敵よりも試験の方が手強かった……」
「……右に同じくですの……」
ヒナタとチヨコは、地元の甘味処の奥にある座敷席で向き合いうなだれていた。
チヨコは尻尾もだらりとうな垂れて、垂れ狸であった。
二人共普段なら人目や身だしなみに気を付けているのだが、今日に限っては試験明けで身も心もダウンしていた。
「お客様、クリーム氷あんみつ二人前でございます♪」
作務衣姿の女性の店員さんが、あんみつの寒天がかき氷になった品を運んで来た。
「待ってましたわ♪」
甘味の臭いに反応したチヨコの上体がシャキっと覚醒して起き上がる。
ヒナタもゆっくりと上体を起こし、頼んだ品をいただく。
「く~~~~っ♪ 冷たい、甘い、美味い♪」
「三拍子揃って、脳の疲れがバッチリと消えましたわ♪」
あんみつの甘みが、ヒナタ達の心身の疲れを回復させる。
二人の脳みそは、試験明けの所為か甘い物が普段よりも美味く感じていた。
「何と言う事でしょう、とても美味しく感じます♪」
「色々片付いたからかな? 甘みが染み込む♪」
氷あんみつの甘みに耽っていたヒナタ達だったが、二人のメジホに着信が来た。
「ご祭神様からだな、メッセージを事前にくれるのはありがたい」
「ヒナタ様、氷あんみつを撮影してお供えいたしましょう♪」
ヒナタがメッセージを確認している間に、チヨコが追加で三つほど注文する。
追加で配られた氷あんみつをチヨコがメジホで撮影すれば、氷あんみつから光が出てきてメジホへと吸い込まれた。
チヨコのメジホには、ご祭神様と霊獣達が氷あんみつを食べている姿の画像と感謝の返事が届いていた。
「こっちにもお供えを召し上がられているお姿が届いたが、現物はどうする?」
ヒナタが、残る三つの氷あんみつを見て呟く。
「勿論、残さずいただきますわ♪」
「だな、二人でなら行けるか♪」
若さで甘味を食い切ったヒナタ達であった。
それぞれの家に帰宅したヒナタとチヨコ。
二人には騎乗動物の試験案内が届いていた。
「これがご神託の内容にあった話か、俺達に馬に乗れと?」
ヒナタが案内を見て納得した。
タヌキ山地区には、競馬場や各種乗り物の運転免許の試験場がある。
「俺とチヨコに。騎乗動物免許を取れと言う事だな」
自室で案内書類を見ていたら、記入済みの申込用紙が付随していた。
次の日曜日、ヒナタとチヨコは乗馬クラブに似た場所に来ていた。
タヌキ山地区警察騎乗動物運転免許試験場と言う、公的な施設だ。
馬や召喚魔法などで呼び出す騎乗可能な魔法生物にも、運転免許がいる。
ヒナタもチヨコも、ジャケットにズボンにブーツにヘルメットと言う服装。
ヒナタは赤いジャケット、チヨコはピンクのジャケットとどちらもレンタル品だ。
ジャケットには、受験番号付きのゼッケンが背中に貼られている。
警察官でもある試験官に見られながらヒナタとチヨコは、それぞれが馬に乗り指定されたコースを巡ってと実技試験を行う。
バイクや原付免許に普通免許があれば、騎乗動物の免許では学科試験は免除されると言う謎な仕組みであった。
「ふう、何とか終わったぜ♪」
「後は発表と講習ですわね♪」
試験場の中にある食堂で、合格発表を待つ間に食事を取る二人。
借りたジャケットなどを返して、ヒナタは赤いパーカーにジーンズ。
チヨコは黄色のワンピースと私服に戻ってのランチだ。
二人とも食べているのはタヌキ蕎麦とカレーのセット、そこそこ美味い。
ランチを終えて待合室の電光掲示板を見ると、二人の番号は表示された。
「これで、原付だけでなく馬も乗れるな♪」
「馬だけでなく、中型迄の魔法動物もですわ♪」
ヒナタとチヨコは、受付にて原付に加えて騎乗動物の項目が書き加えられた免許証を受け取る事ができた。
免許を受け取った後は、教室で交通ルールやマナーなどの講習を映像を見ながら受講して試験は終了となった。
「うん、でもただ免許を取れってだけじゃなさそうだな?」
「免許がいるお仕事を頼まれるかもですわね?」
二人は、ノボリべ神社に戻り社務所の中で寛ぎながら語り合う。
畳敷きの居間でちゃぶ台に向き合って座り、お茶を飲みつつ一服。
お守りや御朱印などを求める参拝客はおらず、授与所はお休み。
ヒナタの父のタカミチも祈祷の依頼を終えて、自宅で寛いでいた。
寛ぐ二人のメジホに着信が来たので、ガジェットを確認する二人。
「合格祝いのメッセージと、やっぱり仕事の依頼が来たか」
「夜に神世へと、お招きただけるそうですわ♪」
「神世での仕事なら、現実に影響はなさそうだな?」
「明日の学業に響かなければ良いですわね」
「まあ、明日の事は明日の自分達に任せてきっちり今日の使命を果たそう」
「明日は明日の風が吹くですわね♪」
「花も嵐も踏み越えて行こうな、チヨコ?」
「はい、私達は一蓮托生です!」
「ありがとう、チヨコがいるから戦える!」
「お互い様様ですわ!」
ガシッと手を握り合うヒナタとチヨコ、二人は幼馴染のカップルから命を預け合う人生のタッグパートナーへと急速に成長し出していた。
夕食後、神世に行く為のお清めの意味も含めた風呂などの身支度を整えたヒナタとチヨコは本殿で待機する。
ご神体の女神像が光を放ち、二人を包み込む。
「ヒナタ、チヨコ♪ 良く来て下さいました♪」
「二人共、最近はナイス活躍よ~♪」
「おうおう、力を貸してる俺達も嬉しいぜ♪」
金屏風の中の様な黄色い、世界で女神テルコと霊獣達が出迎える。
「お招きありがとうございます、俺達への仕事とは?」
「どのような修行も使命も果たす所存ですわ!」
ヒナタとチヨコが女神達に答える。
「気負わないで下さい、二人には疲れさせてしまい申し訳ありません」
「今日は二人にご褒美よ♪」
「格好良い乗り物、
「勘の良いヒナタならわかるはずです、戦神馬を使った神々の催しが近いのです」
テルコは申し訳なさそうに告げる。
「いえ、騎乗免許から予想はしておりました」
「私達、流鏑馬も心得ておりますわ!」
神から物を授かる、授かり物を使う出来事があると言うのは予想できていた。
「まあ、事前に連絡と準備しろと手回しをして下さるのはありがたいです」
「その点は、ありがたいですわ」
「愛しい子孫であるあなた達に苦労を掛ける分、助力は惜しみません」
「私達、ブラックな神様じゃないからね?」
「戦いも人生も、手厚くサポートするぜ♪」
神と霊獣達とのやり取りを終えたヒナタ達は、流れる雲に乗り移動する。
「これは、豪華で古風な厩舎ですわね?」
「雲の上の金の厩舎、ここに俺達の戦神馬がいるのか?」
到着した場所は、白い雲の上に建つ金で出来た厩舎と柵で囲われた広場であった。
「昼間の試験場を思い出しますわ」
「ここは、俺達が使えるんですよね?」
乗馬クラブのような場所を見て、ヒナタがテルコたちに尋ねる。
「ええ、勿論です♪ あなた達の休憩小屋もありますよ♪」
テルコが笑顔で肯定する。
ヒナタ達は厩舎へと向かい中へと入ると、二頭の子馬が繋がれていた。
「……伝承で見た戦神馬とは大違いの、プリチーな子馬さんですの♪」
「可愛いな、俺達が武装するとこの子達も変身するんだろ♪」
黄色い肌の子馬達を見て、心が癒されるヒナタ達であった。
「ヒナタの言う通りです、戦神馬は乗り手と共に成長します」
「と言う事は、俺達が頑張れば立派な戦友になってくれるんですね♪」
「頑張りましょう、ヒナタ様♪」
子馬達を見て、チヨコが気合を入れる。
ヒナタ達は、二頭の子馬を立派な乗騎へと育てようと誓った。
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