第7話 百足退治
「温泉地の山に百足の怪物かあ?」
「今の所、登山客の目撃情報だけですわね♪」
「うん、温泉饅頭が美味いこの街を守らないとな♪」
木製駅舎のオダハコ駅から観光気分で出て来た、ヒナタとチヨコ。
東の寄合所からの依頼で、温泉で名の知れた隣の県を調査に訪れた二人。
ヒナタは赤、チヨコはピンクのパーカーを上着にボトムは緑のトレッキングパンツとハイキングのコーデ。
チヨコは休みの日にヒナタと二人での旅と言う状況と、駅で買った温泉饅頭を食べてご機嫌であった。
「いや、チヨコと旅は楽しいが仕事なんだよなこれ?」
「ヒナタ様、仕事は楽しく行いましょう♪」
「……むぐっ!」
呟いた隙を突かれ、チヨコの手で口に饅頭を突っ込まれるヒナタ。
駅前で夫婦漫才を終えると、魔導バスのロータリーに向かい目的地近くの乗り場から車体に広告が張られた赤いローカルバスに乗り込む。
「駅周りは商店街とかで賑わうのは何処も一緒だな」
「ですわね、観光地ですし」
バスから流れる景色が、自分達の地元と大体似た感じなのに親近感を感じた二人。
駅から離れても温泉地ゆえか、宿や土産物屋などが並び賑わう温泉街。
温泉街を外れた山の方の集落にある、クロタマ神社を訪れたヒナタ達。
境内に入り本殿に参拝してから離れの社務所に向かう二人。
社務所では艶のある長い黒髪の御子の少女が出迎えた。
「ようこそおいで下さいました、寄合所の方ですね?」
「はい、東の寄合所の依頼で参りましたノボリべとハチジョウです」
「宜しくお願いいたしますの」
「それでは社務所の中へお上がり下さい、お話はそちらで」
社務所の裏口から入り居間へ通されると、御子の女性と顔つきが似た宮司の男性と山伏姿のカラス天狗が座って待っていた。
「ようこそ当社へ、宮司のトビオ・クロタマです♪」
「この神社と契約している天狗衆のカラス天狗のハバタキだ、よろしくな♪」
トビオさんとハバタキさんが立ち上がり、ヒナタ達と握手を交わす。
「宜しくお願いします」
「お願いたしますの♪」
挨拶を済ませヒナタ達も座り、話を聞く事となる。
「お前さん達に退治してもらいたい敵は、災厄獣の可能性が高い」
「ハバタキさんが発見してね、家の方は纏獣者がいないから寄合所に」
トビオさんが語る、纏獣者は神様ごとに独自の基準で選ぶので神職の家系などでも選ばれなかったりで輩出されない場合がある。
「まあ、そう言うわけで案内はするから頼むわ♪ 災厄獣は、別の世の生き物だからどうにもこっちの技が効きにくくてよう」
ハバタキさんが軽く言いつつ溜息を吐く。
災厄獣とは、異界より来る場合や異界と混ざり誕生する怪物。
完全にこの世界の生物である魔物とは違い、異界の要素が混じる分この世界の武器や魔法での攻撃はおよそ九割がダメージカットされる。
異界の要素を持つ敵に対抗するには、同じく異界におわす神々や霊獣とこの世の命である人間が混ざったこの世の者ともあの世の者とも言えぬあいまいな存在となった纏獣者でなければ的確にダメージを与えて滅ぼす事は出来ない。
「では早速取り掛かりたいので、お願いいたします」
「お願いいたしますの」
ヒナタとチヨコがハバタキに頭を下げる。
「話が早くて助かる、じゃあ行こうか」
「宜しくお願いいたします」
ハバタキと共にヒナタ達は立ち上がり、トビオさん達に見送られて社務所を出る。
霊獣武装をしたヒナタは、同じく変身したチヨコをかけて空へと飛び上がり裂きいに飛んでいたハバタキの後に着いて行く。
「おや? 狸のお嬢ちゃんは飛べないのか?」
「飛べますが、飛行はヒナタ様で索敵や戦闘は私と分担しておりますの♪」
「他にもこれから連携を考えて行きます」
「仲の良いこった♪ 関係を大事にな♪」
空の上で軽口を言い合う三人。
ハバタキがムカデの怪物を目撃した場所へと降り立つ。
地面が削られ、何者かが這いずり進んだ跡で道のような物が出来ていた。
「一応お尋ねしますが、この地に百足の伝承はございましたか?」
「うんや、この
「確かに、オダハコ含むカナガラ県じゃ聞かないな?」
チヨコがハバタキに問いかけ、ヒナタもこの地域の伝承を思い起こす。
「神々が汚されたと言う危険ではなさそうですわね、臭いも違いますし?」
「うん、邪悪な妖気は感じるが霊性はないな」
「なら、ただの災厄獣だ頼んだぜ?」
「私達に、お任せあれですわ♪」
穿たれてできた道を駆け抜けた先には開けた場所。
待ち受けていたのは、二両編成の電車並のムカデの怪物であった。
「よし、結界は任せろ♪」
ハバタキが空を飛び、空中で印を結べば周囲がドーム状のバリヤーに包まれる。
「ありがとうございます、被害を気にせず行けるぜ!」
「街に出る前に成敗ですわ♪」
ヒナタは抜刀し、チヨコも両手に苦無を一本ずつ握りいざ勝負の時!
襲い来る百足の突進をジャンプで回避すれば、荒れた砂地が抉れる!
「重機と列車を混ぜた感じの敵だな!」
「では、電撃苦無の術ですわ!」
ヒナタ達は逃げ回りつつ隙を探る。
ただ逃げているのではなく、チヨコが苦無に電撃を纏わせて敵へと投擲した!
チヨコの放った苦無が百足の脇腹に刺されば、敵の体に電撃が流される。
百足は苦しみつつ悶えながら、口から紫色の毒液をまき散らした!
「危ない、チヨコ!
ヒナタがチヨコの前に移動し、庇いに立つ。
炎が燃え盛る刀を頭上で弧を描くように振り回せば、火炎の輪が生まれる。
燃え盛る輪から更に炎が立てば、降りかかる毒液を全て蒸発させて消し去った。
「感謝いたします、ヒナタ様♪ 今の内に止めを!」
「任せろ、昼間の内に戦えて良かった♪ 新技で行くぜ!」
ヒナタが両腕で弓を引く構えを取れば、光の弓矢が彼の手に装備される。
「集え日光っ!
ヒナタが引き絞る矢に日光が集まり、矢が金色の輝きを身に纏う。
放たれた矢は百足の眉間に突き刺さると、百足の頭から尻尾の方まで光で切り裂きながら貫いて進み怪物の体を破裂させて光の粒子へと変えた。
「……ふう、何とか決まったぜ」
「ヒナタ様、お見事でしたわ♪」
「一応、弓矢も馬も教わったのが役に立ったよ♪」
変身したままの姿で抱き合い、喜び合うチヨコとヒナタ。
「ほう、流石は神の遣わした勇者だな♪」
戦いの様子を見ていたハバタキは感心する。
「しかし、敵はさっきの一匹だけなのかな?」
「今の所、臭いでは敵の気配は消えておりますわ♪」
変身したので、嗅覚で索敵ができるようになったチヨコが空気に混じる妖気を臭いを嗅いで辿る事で敵を探すがヒットはせず。
「じゃあ、俺も探して見るよ」
ヒナタも空を飛ぶと、変身してマスクで覆った瞳に炎を灯す。
火の鳥の力で超人的な視力に加え、熱源を視覚で探知できるようになったヒナタ。
上空から敵の熱源を探すが、こちらでも探知には引っかからなかった。
「うん、こっちも熱源を見て敵を探したけれど見つからなかった」
「ならば、今回の戦いはこれにて一件落着ですわ♪」
「そうなら良いんだけどなあ?」
ヒナタは敵が本当に一匹であったのか?
正直、討ち漏らしがないかと心配になったがひとまずは勝ったと思う事にした。
「まあ、街に被害が出ず敵は倒したから良いんじゃないのか?」
同行者のハバタキが提案する。
ヒナタ達は、クロタマ神社へ飛んで帰ると元の姿に戻り降り立つ。
そして、社務所へと向かいトビオさんに事の次第を報告した。
「そうでしたか、この度はありがとうございました♪」
「また何か敵が出たなどがあれば、ご連絡をお願いいたします」
「何かあれば再び、参上いたしますわ♪」
礼を言われたヒナタ達は返事をして、神社を去り帰宅したのであった。
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