第6話 狙われた子供達を救え!

 「あ~っ、すっごく気持ち悪い! あのヒーロー共の所為だわ!」


 上下黒レザーのパンクルックを着て、頭に羊の角を生やした魔人メリー。


 ヤケ酒した自分を棚に上げてヒナタ達を恨む。


 二日酔いの痛みに悩まされつつ、ボロボロのソファから起き上がる。


 「ふう、朝の牛乳は美味いわ~♪」


 ぼろい洋間の隅にある冷蔵庫を開けて、紙パックの牛乳を一気飲み。


 勿論、腰に手を当てて飲むおっさんスタイル。


 見た目は青年に見えるが、おネエでおっさんのヴィランだ。


 「さて、どうしようかしら? 何か小遣い稼ぎに悪事でも働こうかしらね?」


 悪事は商売、フリーランスのヴィランなので組織の命令はないが支援もない。


 「やっぱ、現代人としては悪事もリモートで稼がないとね♪ 現場に出てヒーローとドンパチやるなんてガラじゃないわ♪」


 メリーは虚空から灰色の巨大な頭蓋骨と言う悪趣味なデスクトップパソコンやモニターやパソコンを置くデスクに椅子と仕事道具一式を取り出して素早く立ち上げる。


 「あ~、パソコンの立ち上げとか面倒! 悪の組織で下っ端戦闘員の社畜時代を思い出して憂鬱~っ!」


 メリーは昔の自分、全身黒タイツの戦闘員でのデスクワーク時代を思い出す。


 ぶつくさ文句を言いつつも、仕事の支度を整えたメリー。


 「さて、今日は飲み代の為に邪悪チューブに動画上げましょ♪ 内容は、怪人に異世界の幼稚園を襲わせて見たで♪」


 フリーランスの邪悪、メリーの陰謀が動き出した。


悪党も専用のサイトで動画配信をシノギにする、メリーもそこそこ配信で稼いでいた。


 狙いはダムがあったオウカシティの西の外れ、タヌキ山地区。


 都会のド田舎のベッドタウン、と言えば聞こえが良い古めかしくのどかな街。


 メリーは知らないが敵に回したヒナタ達の基地である、ノボリべ神社のお膝元だ。


 時折、隣の県の山野から巨大な魔物が出てきたりして冒険者や狩人が討伐で戦いになるので住民達も戦闘慣れしたヒーローも悪も暴れやすい県境の街。


 「ヒナタ、チヨコ、申し訳ありませんが大急ぎで現場へと投げ飛ばさせていただきます!」

 「ご祭神様が直接ですかっ!」

 「ヒナタ様、霊獣武装をっ!」


 学校に着いたばかりのヒナタ達は突然、主である神に呼び出され何処かへと放り投げられた。


 誰も見ていない空中で、変身したヒナタ達は地上を見下ろして原因を見つけた。


 「災厄獣が出たか、なら仕方ない!」

 「私達の卒園した幼稚園に敵、許せませんわ!」


 変身した二人の真下には幼稚園、警備をしていた冒険者の戦士が張り倒されて敵が園内に侵入していた。


 着地して災厄獣の前に立ちはだかるヒナタ達。


 「今日の敵は黒タコ人間か、許さんぞっ!」

 「冒険者さんには治癒の葉降らしの術ですの!」


 ヒナタが、抜刀して敵をけん制している間にチヨコが冒険者に傷を癒す。


傷病を癒す木の葉を虚空から降らせ、対象の手当をする忍法だ。


 「皆、纏獣者さんが来てくれたわ♪ 園の中へ入って!」


 温和な声で園児達を誘導する、狸獣人の女性の幼稚園教諭。


 園児達は素直に教諭に従い、避難する。


 「手足が何本だろうが、貴様の好きにはさせん! 炎羽輪舞えんばろんど!」


 ヒナタが背中から燃え盛る鳥の羽を射出し、炎の羽の群れをけしかける。


 黒ダコ人間は弾丸の雨となり襲い掛かる炎の羽に射抜かれ、燃え尽きた。


 「幼稚園の屋根の上だけに暗雲ですの!」

 「あっちが本命か! 行くぞ、敵が何匹来ようと守り抜く!」


 ヒナタがダッシュでチヨコ抱き抱えて空を飛び、幼稚園の屋根の上に立つ。


 落雷と同時に幼稚園の屋根の上に降り立たのは、太鼓を背負った赤鬼の怪人。


 「我は災厄獣ゴロゴロ! 小童共の臍を砕いてくれるわ!」


 ゴロゴロが両手のバチで背中の太鼓を叩こうとする。


 「そのような非道をさせると思いまして? 忍法豆蔓縛りっ!」


 チヨコが印を結び、彼女の両腕から豆の蔓が生えて来てゴロゴロの手を縛る。


 「必殺、日光浄化剣にっこうじょうかけんっ!」


 ヒナタが抜刀すると、刀身が金色の輝きに包まれる。


 「グワ~ッ! やられてたまるか~っ!」

 「往生なさいませっ!」


 チヨコに縛られつつも、ただでは死なないとばかりに悪あがきをするゴロゴロ。


 口から雷を吐き出して、ヒナタへと攻撃する。


 「日光浄化剣にそんな物が効くか!」


 ヒナタが金色の刀を振れば、ゴロゴロの雷が霧散化した。


 「止めだ、日光集中っ! 黄泉送よみおくりっ!」


 ヒナタの刀が日光を吸収し、金色の輝きを増す。


 中段の構えでヒナタは突進し、金色の黄昏の刃でゴロゴロの胴を横薙ぎに斬る。


 斬られたゴロゴロは、金色の光の粒子となって成仏した。


 「成敗、これにて一件落着かな?」


 刀を振るい、納刀するヒナタ。


 「お見事ですわ♪ 空も晴れて、周囲に邪悪な気配はありませんの♪」


 チヨコがヒナタを労う、周りの索敵も忍者らしく忘れてはいない。


 「ありがとうチヨコ、じゃあ飛んで立ち去ろうか♪」

 「はい、運んで下さいませ♪」

 「わかった、じゃあ後を濁さず去ろう♪」


 二人共変身を解かず、ヒナタがチヨコを抱きしめて空へと飛び立つ。


 「あ、鳥さんと狸さんが飛んでった~っ♪」


 それを目撃した園児の一人がはしゃぐ。


 「はいはい、皆お空に向ってお礼を言いましょうね♪」


 先生が園児達に礼を促せば、園児達は口々にありがとうと叫んだ。


 こうして、ヒナタ達は纏獣者としては初の人目に触れる戦いを制した。


 空へと飛び立ったヒナタ達、いつの間にか変身が解除されて黄泉色の空間にいた。


 「二人共、お疲れ様でした♪」


 テルコが現れてヒナタ達を労う。


 「ありがとうございます、テルコ様」

 「今回は驚きましたの」

 「ごめんなさい、ですが緊急の時には私の手で現場へと送らせていただきます」

 「かしこまりました」

 「致し方なしですの」


 ヒナタとチヨコがテルコへと頭を下げる。


 神の使徒たる纏獣者の大変さの一端を、味わった二人であった。


 「ここは、学校の裏庭か?」

 「私達、授業をサボってしまいましたわねヒナタ様?」

 「すまん、身代わりの式神札を用意し忘れていた」

 「緊急でしたから、いたしかたなしですの」


 現実の世界に戻って来たヒナタ達、送られた場所は学校の裏庭、


 二人がそれぞれの腕時計を見ると、昼休み前。


 悪党退治で授業を二時間ほどサボってしまった事になる。


 「ヘ~イ、二人ともお疲れ~♪」


 煙と共にダッキーが現れた。


 「ああ、地元に敵が出てな」

 「授業をサボってしまいまいした」


 ダッキーに対して溜息を吐く二人。


 「二人共マジメだね~♪ まあ、身代わり札は用意しておいた方が良いよ♪」


 ダッキーがけらけらと笑い、再び煙と共に姿を消した。


 彼女に相談しておけば、身代わりの用意などを頼めたかなと悔やむヒナタ。


 「過ぎた事は悔まず、お昼を食べて午後に備えましょう♪」

 「チヨコは前向きだな? うん、確かに悔むよりは飯でも食う方が良いな」


 気を取り直して食事を取ろうとするヒナタ。


 チヨコが両手で印を結べば、煙と共に重箱サイズの弁当が虚空から現れた。


 「はい、お弁当でございます♪ 私の手作りですので味と健康は保証済みです♪」


 チヨコが弁当の包みをキャッチしてヒナタに見せる。


 「ああ、ありがたくいただきます♪」

 「ええ、それでは場所を移していただきましょう♪」


 チヨコが弁当の重箱をヒナタに預け、再び印を結んで今度は屋形船を召喚する。


 ヒナタとチヨコは空飛ぶ屋形船に入り。空の上で優雅に食事を楽しんだ。


 一方、ヒナタ達に邪魔されたメリー。


 「ムキ~~~ッ! 投げ銭ジャンジャン来たのは嬉しいけれどムカつく!」


 ヒナタ達とゴロゴロの対決を、ライブ配信をしていたメリー。


 悪党も他の悪党がヒーローにやられるのは、面白い娯楽になるらしい。


 稼ぎにはなったが、ヒーローに負けたのは悔しいメリーであった。







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