第5話 東の寄合所へ

 地球と言う世界から来た悪人、害来者メリーを撃退したヒナタとチヨコ。


 学校に神事にと敵に備えつつ、ひとまずは平穏な日常を過ごしていた。


 昼休み、ヒナタはチヨコと校内にある魔術競技場にいた。


 学校でも術や戦の修行はできる。


 戦う為の力を鍛えると言う理由で、この魔法学校に進学したのだ。


 弁当で回復したら、術の修練。


 競技場の本体は空き教室ほどの広さ。


 床に描かれた魔法陣から異空間へと転移して、戦闘訓練が行える。


 「じゃあ、舞台の設定は岩山で行こうか?」

 「ええ、お昼に食べた分のカロリーを使いましょう♪」

 「魔法は魔力だけじゃなくて、カロリーも使うんだよな♪」


 チヨコと軽口を言いながら、ヒナタが指で印を結ぶ。


 ヒナタがイメージを魔法で競技場内にいる、見えない精霊に伝達する。


 ヒナタのイメージに、精霊が応じて床の魔法陣が輝き術式が起動した。


二人の姿がその場から消え、次に現れたのはあちこちに石や岩が転がる岩山。


 岩山で向かい合う、学ランとセーラー服の少年少女。


 「昼休みの術比べだな♪ 行くぞ、チヨコ!」


 ヒナタが開始を宣言する。


 「参ります、忍法・岩五月雨にんぽう・いわさみだれっ!」


 チヨコが指で印を結び術の名を叫べば、ヒナタの頭上から岩の雨が降り注ぐ。


 「こっちは、神術形代結界しんじゅつ・かたしろけっかい!」


 ヒナタは素早く懐から紙で作った人形の束をばら撒き、結界を張る。


 「パーにはチョキ、木枯らし五連こがらしごれんですわ♪」


 次にチヨコは、木の葉舞う五つの旋風を発生させてヒナタへと襲い掛からせる。


 「ならばこちらも、火の鳥八羽ひのとりはちわだ♪」


 ヒナタも指で印を結び、小さな火の鳥を八羽ほど生み出して木枯らしへと飛ばす。


 木枯らしと火の鳥がぶつかり合い、爆発して双方が消滅。


 「残りの三羽は、法螺貝でっ!」


 チヨコが虚空から法螺貝を召喚して、吹き鳴らして火の鳥の残機を霧散化させる。


 「泥水合遁でいすいごうとん、泥沈めの術っ!」


 続けてチヨコが右手で印を結び、左手を大地に付ける。


 ヒナタの立っている地面が急激に液状化し泥となり、足場を奪いにかかる。


 「それなら、火翼ひよくっ!」


 ヒナタは背中から火の鳥の翼を生やして、空へと舞い上がる。


 「マジックレイン!」


 ヒナタが、タクト状の杖を懐から取り出し、光の矢の雨を降らせる。


 こちらは家で習った神術ではなく、学校で習った西洋魔法だ。


 「雨ならば、番傘回しの術ですの♪」


 チヨコが虚空から赤い番傘を取り出して開き、魔法を防ぐ。


 傘を差したチヨコが美しい姿勢で愛らしく笑顔で回って舞えば、虚空に無数の開いた番傘が現れてヒナタへ襲い掛かる。


 「おっと、まだまだ♪」


 襲い来る番傘のビット攻撃を飛び回り回避し、チヨコの眼前に着地。


 だが、チヨコは煙を上げて姿を消した。


 「隙ありですわ♪」


 ヒナタの後ろからチヨコが叫び、番傘での面打ちが振るわれる。


 「お互い様だよ♪ 今日は、俺の勝ちだ♪」


 だが、チヨコが不意打ちをしかけたヒナタもまた陽炎の幻。


 ヒナタがチヨコを後ろから抱きしめる。


 「む~っ! 子供の頃のように、私に化かされて下さいませ♪」

 「いやいや、勘弁してくれよ」

 「妻たる者、夫を抑え込めねばなりませぬので♪」


 魔法の撃ち合い化かし合いは、ヒナタが一本取ったと言う事で終わり。


 二人は現実空間へと戻り、競技場を後にした。


 午後は、教室で魔導科学基礎と言う座学。


 「魔導科学とは魔力から導かれる学問です、かつては戦闘の技術として利用されて来た魔法や魔力を生活へと転用するべく編み出されて行きました」


 小柄で白髪、鷲鼻に眼鏡をかけた半袖シャツにネクタイの上に毛糸のベスト。


 紳士的な装いのノーム族の教師、ホワイト先生が黒板に板書しながら語る。


 「中でも、雷魔法から見つかった電気は火でも風でも水でも地でもそんあ属性の魔力からでも生み出せる生活のエネルギーとして有名ですね♪」


 ホワイト先生が微笑みながら語ると、皆が黙って頷く。


 放課後、授業が終わりヒナタ達はシティの東のホシジマ区へと向かう。


 移動手段は、チヨコの忍法で生み出した空飛ぶ屋形船。


 オウカ湾に繋がるソメダ川が流れ、シティ随一の魚市場がある下町。


 「狐の石像、この神社はどこか知り合いの気配がしますね?」

 「だな、俺もそう思う」


 地上へと降り立ったヒナタ達。


 目的の場所に着いては見たものの、どこか既視感を感じた二人。


 ダッキー稲荷神社と石柱に記された社名から、二人は知り合いを思い出した。


 「あっれ~♪ ヒナタっちとタヌッコじゃん、ど~したん♪」


 ギャルな狐娘ダッキーが、境内に入ってすぐの社務所から現れた。


 「どうしたって、霊獣が見えてるんだからわかるだろ?」

 「そちらも纏獣者の関係者ですよね?」

 「うん、家が寄合所♪ やっぱダムで戦ったの二人だったんだ♪」


 ダッキーに案内されて神社の中へ入るヒナタ達。


 本殿に上がると、銀の狐耳と尻尾を生やした美しい女性が二人を出迎えた。


 「ようこそ、ノボリべの御子達よ♪ 我が名はキニ―、この社の祭神です♪」

 「私のママ♪ ここら東の一帯の、神様達のまとめ役やってるの♪」


 ダッキーが自慢げに語る。


 「ざっくりですが、娘の言う通りですこれから宜しくお願いしますね二人共」

 「はい、宜しくお願いいたします」

 「いたしますの」


 ヒナタとチヨコは神であるキニ―に対して、平伏し礼をする。


 ヒナタ達は、キニ―から互助組織である寄合所について説明を受けた。


 神々や他の寄合所との仲介や連絡などを、この神社で行っている事。


 こちらから頼んだ仕事は、できる限り受けて貰えると助かる事。


 定期的な集まりをするので、参加して欲しい事。


 仕事には報酬を支払う事、寄合所への頼み事は内容によっては有料と言う事。


 「冒険者組合の神様バージョンか」

 「概ねそのような物です」


 ヒナタの呟きに、キニ―が答える。


 「ダッキーさんは、纏獣者ではないんですの?」


 チヨコがダッキーに尋ねてみる。


 「私はママとのハーフだから、二人みたいに変身とかできないんだ♪」


 神との混血であるダッキーは、霊獣に近い存在なので霊獣は纏えないらしい。


 「その代わり、娘には時折ですが調査や連絡役を頼んでいます」

 「お小遣い沢山もらえるから♪」


 ダッキーとキニ―の狐の親子が交互に語る。


 「じゃあ、俺達のメジホに連絡先交換とかしておくか?」

 「ですの♪」

 「おっけ~♪ はい、式神飛ばしたから♪」


 ヒナタ達がメジホを取り出すと同時に、ダッキーのメジホから白く小さな狐が飛んできてヒナタ達のメジホと行き来をする。


 かくして、ヒナタ達はダッキーと言う連絡役との縁が出来た。


 「では、改めてメリーと言う害来者については他の寄合所にも情報を流しますね」

 「はい、宜しくお願いいたします」

 「そう言えば、こちらには私達以外の方はおられませんの?」


 ヒナタがキニ―にメリーの事を伝える中、チヨコが他の纏獣者について尋ねる。


 「いるよ~♪ ただ、纏獣者の情報は仲間内でも簡単には教えちゃ駄目って言われてるからごめ~ん♪」


 ダッキーがチヨコに謝る。


 「いえいえ、情報の管理は大事ですの♪ いずれ、他の皆様方と顔合わせなどができる際にはご連絡をいただけたらありがたいですの♪」


 チヨコが答える。


 「他の者達にもいずれ席を設けましょう、その時はテルコに連絡をします」


 キニ―が二人に告げた。


 「ありがとうございます、では俺達はこれにて失礼させていただきます」

 「同じく、失礼させていただきます」

 「二人ともまた学校でね~♪」


 ダッキーに見送られて、ヒナタ達は寄合所を後にした。


 チヨコの術で出した空飛ぶ屋形船に乗り、家路に着くヒナタ達。


 「しかし、これからどんな戦いが待っているやらだな?」

 「できれば、学業や商売に影響のない時でお願いしたいですわ」

 「同感だけど、悪党はこっちの都合とか気にしないからなあ」

 「悪党も、盆暮れ正月や祝祭日などは休めば長生きできる物を」

 「正義も悪も働き方に改革が必要だよな?」

 「人生設計は善悪問わず大事ですわね」


 屋形船の中で語り合うヒナタとチヨコ。


 日々の暮らしを営みつつ事件に備え、有事の際には動くしかないか結論となる。


屋形船がノボリべ神社に着陸すると、二人が船から出てくる。


 「チヨコ、夕食は家で食おう♪ 師匠達も呼んでさ♪」

 「はい、喜んで♪ 両家の親睦をさらに強めましょう♪」


 ヒナタがチヨコを夕食に誘えば、チヨコがメジを取り出して連絡する。


 ヒナタ達がノボリべ家の屋敷に入る。


 「おう♪ チヨコも坊ちゃんもお帰り♪」

 「師匠、早いですね」

 「ヒナタ様、お屋敷と我が家は術で繋がっておりますのよ♪」

 「そういや、実質二世帯同居みたいなもんだったな」


 マツタロウに出迎えられたヒナタが呟く。


 ヒナタとチヨコはそれぞれの家族が揃った状態で夕食を取り情報交換をした。

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