第4話 ダムでの実戦

 日曜日、天気は晴れ。


 早起きをして境内や参道の掃除と祈祷の練習をこなしたヒナタ。


 屋敷の畳敷きの居間に家族全員で集う。


 チヨコも今頃は自宅で朝食だ。


 「「いただきます♪」」


 今朝の献立は、米とアジの開きに豆腐と野菜のサラダとみそ汁に牛乳。


 丸い食卓を四人で囲む、カメの隣には小さいヒナタとも言うべき少年もいた。


 「テラス、ほっぺにご飯粒がついてますよ♪」

 「はい、気を付けます♪」

 「ヒナタ、醤油を取ってくれるか?」

 「はいよ♪」


 ヒナタの弟の小学生、テラスも加えての一家団欒。


 ごちそうさまと食事を終えて、全員で食器の後片付けを済ませる。


 それから素早く居間の四角く平たい、大型魔導テレビの前に集う一家。


 時間は七時二十五分、お楽しみの時間だ。


 「キューラブはいつ見ても良いな♪」

 「男のキューラブも格好良いよね、兄さん♪」

 「今日はボーイズキューラブの舞台、お父さんとテラスと見に行くわ♪」

 「ボイキューは、獣面ユナイターや勇者連隊の俳優さんも出てるからな♪」

 「行ってらっしゃい、俺はチヨコと鍛錬だよ」


 日曜の朝のアニメとヒーロー番組を家族で見る、ノボリべ家の恒例儀式であった。


 恒例行事を済ませると、ヒナタ達は立ち上がる。


 それぞれが今日の予定へと動き出すのだ。


 ヒナタは赤いパーカーに黒のストレッチパンツ、足はスニーカーで家を出た。


 「おはようございます、ヒナタ様♪」

 「おはよう、チヨコ♪ 可愛いコーデだね♪」


 ヒナタはチヨコの黄色いワンピースと、向日葵のポシェッ姿を褒める。


 「ありがとうございます、ヒナタ様は活動的ですわ♪」

 「すまない、鍛錬と聞いてこの格好にした」

 「良いんです、今日は鍛錬と言う名の地元デートですから♪」

 「精神の修行にはなるな、行こう」


 チヨコに手を差し出して二人で手を繋ぎ、丘を歩いて下る。


 「お、ご両人♪ 今日も仲が良いねえ♪」

 「カワ電さん、おはようございます♪」

 「おう、坊ちゃん嬢ちゃんおはようさん♪」

 「乾物屋さんもどうもです♪」

 

 近所にあるノボリべ商店街に入ると、氏子でもあり昔から知己のおじさんおばさんと商店の皆さんが声をかけて来るのに答えるヒナタ達。


 二人が商店街を出た所で、メジホに着信が入る。


 「おお、テルコ様からの神託だ!」

 「川の上流に邪気有り、急ぐが吉だそうですの!」

 「よし、ご祭神の言う通りだ行こう!」

 「はいですの!」


 ヒナタは人払いの結界の魔法を使い、その中でチヨコと共に霊獣武装で変身。


 ヒナタがチヨコを抱きかかえて空を飛び、現場へと向かう。


 チャガマ川のダムの水門の傍に降り立った、ヒナタとチヨコ。


 同じ場所にいたのは、上下レザー黒のジャケットとパンツ。


 パンクな服装をした、紫髪に灰色の肌の美青年。


 服装と身に纏う空気が、ダムと言う場所にマッチしない存在と遭遇した二人。


 「あ~ら? あんた達、もしかしてこの世界のヒーローの纏獣者って奴?」


 青年は、様子見をしていたヒナタ達に気付いた様子だった。


 ヒナタ達へと振り向き、おネエ口調で語り開けて来た青年。


 「そっちは、異世界から来たダムマニアじゃなさそうだな」

 「害来者がいらいしゃ、クライムアウターならお帰り下さいません?」


 対話ができるならと、まずは対話して情報を探るヒナタ達。


 「そうね、ここは地球の日本もどきな世界で荒らしたくなっちゃう♪」


 青年はヒナタ達の問いに答えて、気持ち悪い笑みを浮かべて害意を宣言する。


 「我が名はメリー♪ 地球から来たクライムアウターよ♪」


 メリーは後頭部から羊の角を出し、背中からは蝙蝠の翼を生やすと西洋の悪魔的な姿に変身した。


 「害意があるならばこちらも、この世を守るべく戦うまでだ!」

 「参りますの!」


 ヒナタは抜刀し、チヨコは両手に虚空から苦無を召喚して装備する。


 異世界から来た害悪、クライムアウター。


 昔からヒナタ達が住む世界に出現しては、悪事を為す存在。


 ヒナタ達はまだ詳しくは知らなかったが、メリーのようなクライムアウターとの戦いは彼ら纏獣者の使命の一つであった。


 「ヒャッハ~♪ 行きなさい、トループちゃん達♪」


 メリーは右手の指を鳴らすと光の魔法陣を作り出し、手下である黒い羊人間達をわらわらと召喚してヒナタ達へとけしかけた。


 「戦闘員か! やってやる!」


 ヒナタは刀を八相に構え、気合いを入れて刀身に真紅の炎を灯す。


 チヨコも苦無に緑色の風を纏わせた。


 敵の戦闘員である羊人間達が突っ込んで来たのと同時に、二人が武器を振るう。


 風と炎が合わさり、炎の竜巻が生まれれば戦闘員達を飲み込み一気に消滅させる。


 「あ~ら、やるわね♪ じゃあ、次は怪人よ♪ 出でよ災厄獣クロタウロス♪」


 メリーが空高く浮かび上がり、今度は地面に光の魔法陣を出現させる。


 「ヒナタ様、あの術は打ち消せませんか?」

 「あの手の術は下手に消すのは不味い!」


 ヒナタとチヨコは、左右横並びに背中合わせになって身構える。


 「ブモ~~~ッ!」


 魔法陣から唸り声と共に現れたのは、黒毛の猛牛人間。


 魔物とは違う異界からの怪物、災厄獣カラミティだ。


 「来たわね、クロタウロス♪ あいつらを倒しなさい♪」


 空から怪人をけしかけるメリー、怪人がメリーを見て頷き動いた。


 「チヨコ、一気に行くから追い風を頼む!」

 「わかりましたわ!」


 ヒナタがチヨコの前に立ち、燃え盛る刀を大上段に構える。


 チヨコが緑の突風を起こしてヒナタを突き飛ばせば、ヒナタは火の玉となり突進。


 クロタウロスは命令には従えても、知能は低いのか火の玉となったヒナタを恐れずに頭突きによる突撃を敢行した。


 「嘘っ! バカ、それは駄目っ!」


 空の上でメリーは、自分の判断が間違いだと気付くがもう遅い。


 「……成敗っ!」


 クロタウロスを一刀両断に焼き切って切り抜けたヒナタ。


 敵を仕留めた手ごたえはあったが、残心を決めつつ警戒する。


 


 ヒナタが納刀すると同時に、クロタウロスの骸は燃え上がり灰も残らず消えた。


 「お見事ですわ、ヒナタ様♪」


 チヨコはヒナタが怪人を撃破した事を喜んだ。


 「キ~~~~ゥ! 完全にこっちのミスだわ、今日の所は退いてあげるわよ!」

 「待ちなさいですの! 旋毛風カッターッ!」

 「待ちたくないわよ! 帰って酒場で自棄酒するんだからっ!」


 メリーは悔しがり、チヨコの放った風の斬撃を避けつつテレポートで逃げた。


 「ぐぬぬっ! 取り逃がしてしまいましたの!」

 「いや、今回はこれで上出来としよう」

 「でも、悔しいですわ!」

 「俺も悔しいが、ダムも俺達も守れたなら良しだよ♪」


 ヒナタがチヨコを抱きしめると、二人は変身を解除する。


 「取り敢えず、家に帰って父さん達に報告しよう?」

 「ですわね、地元デートの予定でしたのに」

 「悪党退治もデートの一種と言う事で、ありがとうチヨコ♪」

 「今日の所は、納得します」

 「じゃあ、帰ろうか♪」


 ヒナタとチヨコは、急いでダムから立ち去った。


 ヒナタ達が空飛ぶ屋形船で帰宅すると、マツタロウも屋敷に来ていた。


 「お帰り♪ 二人共、お手柄だったな♪」

 「ヒナタ、ご祭神から映像をいただいたが見事だった♪」


 タカミチとマツタロウが、二人を出迎えて褒める。


 「ありがとうございます、初陣は勝てました♪」

 「申し訳ございません、事件の主犯は逃してしまいました」


 ヒナタは礼を言い、チヨコはあやまる。


 「がっはっは♪ チヨコ、被害なしなら良いって事よ♪

 「そうだ、戦いで敵を倒すのは守る為♪ まずは家に上がりなさい♪」

 「チヨコ、入ろう♪」

 「はい♪」


 父親達の言葉にヒナタは頷き、チヨコの手を握り屋敷の中へと入る。


 「事の次第は大体そっちも把握してると思うけど、俺達は神託に従って出かけた先でメリーって言うクライムアウターと遭遇したんだ」


 居間に皆で集って座り、ヒナタが語り出す。


 「ダムで何か悪事を企んでいたようなので、交戦となりましたの」


 チヨコも続ける。


 「そうか、二人ともご苦労だった♪」

 「まあ、さっきも言ったが逃がした事は気にするな♪」


 タカミチとマツタロウが微笑みながら告げる。


 二人とも我が子の勝利と無事の帰還を喜んでいた。


 「チヨコ、今は初陣からの帰還を喜ぼう♪」

 「はい、ではお祝いですね♪」


 その日はささやかな宴となった。

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