第3話 転んでなんぼの道行き

 「まあ、坊ちゃんはわかりやすいしくじりだな♪」

 『ヒナタちゃん、あなたはまだ雛鳥だから転んでなんぼよ♪』

 「霊獣様の言う通りですわ、これからも修行に励みましょう♪」

 「ああ、こうなりゃ開き直って恥をかきまくって鍛えるよ!」


 

 ひとまず変身を解いて休むヒナタ達。


 力を与えられてみての初変身、チュートリアルを上手くこなせなかったヒナタ。


 悔しいが、父や師でもあるマツタロウから恥はかける内にかけ、後でとんでもないやらかしをしない為にと教わった事を思い出す。


 故にヒナタは、今は失敗できる内に失敗しておくと気を取り直す。


 「おお、流石は坊ちゃんだ♪ 悔しがりつつも立ち上がり、しくじりを恐れない勇気は良いね♪」


 マツタロウがヒナタの姿勢を褒める。


 「流石我が夫となるお方、お支え甲斐がありますわ♪」

 「逆におチヨは器用だが、だからこそ変な所でつまずかねえようにな?」


 娘であるチヨコを案じるマツタロウ。


 「再開だ、霊獣武装っ!」

 「霊獣武装ですわ♪」


 再び赤き火の鳥の武者となるヒナタ、黄色い狸の忍者の姿となるチヨコ。


 「今度こそズバッと、決めてみせる」

 「では、次は私がお相手いたしますわ♪」

 「そうだな、次は坊ちゃんとチヨコの二人でやって見な♪」

 「チヨコに、行くぞ!」

 「ええ、こちらもです!」


 ヒナタは抜刀し、太刀の刃に炎を灯す。


 チヨコは二本の苦無を両方の手に持つ。


 左の苦無には疾風を右の苦無には雷を纏わせた。


 「てりゃ~~っ!」

 「せいっ!」


 ヒナタは全身を炎に包んで突進、チヨコは風を纏い突進。


 炎の太刀と風の苦無がぶつかり合う!


 互いに退かず、金属音を奏でて武器を打ち合う二人。


 時折、間合いを取りヒナタは火炎弾を掌から発射。


 チヨコは風の塊で撃ち返すと飛び道具も交える。


 「隙ありですの!」


 チヨコが雷を纏った方の苦無を振るえば、ヒナタも脇差を抜いて受ける。


 互いに霊獣の力の使い方をぶつかり合いながら試し、己の体に馴染ませていく。


 「よっし、そこまでだ♪」


 二人が何合か、ぶつかり合いをしたのを見届けたマツタロウが止める。


 「流石チヨコ、手強いな」

 「妻たる者、夫を抑え込めなければなりませんから♪」


 変身を解いて、手を取り合うヒナタとチヨコ。


 ヒナタとチヨコは、学校などの暮らしに加えて霊獣武装の稽古に励む事となった。


 「さて、学校へ行くか」


  式神相手のチュートリアル戦闘を越えて、畳敷きの六畳間のヒナタの自室。


 箪笥の隣の鏡を見ながら、半袖の白シャツに黒のズボンと国立オウカ魔法高等学校の夏服に着替えたヒナタ。


 教科書やノートに筆記用具、呪符や小さい杖にご祭神の加護で魔法の武器と化した脇差と魔法の道具の支度をして玄関に行きスニーカーを履いて家を出る。


 「ヒナタ様、一緒に参りましょう♪」

 「ああ、宜しく頼む♪」


 ピンク色のセーラー服に紺のスカート、ヒナタと同じ学校の女子の制服に身を包んだチヨコが家の前で待っていた。


 「では、タヌキ忍法化け船の術♪」


 チヨコがベルトポーチから取り出した折り紙の船が、屋形船になる。


 ヒナタとチヨコが船に乗り込むと、船は空に浮かび上がり東の方へ飛んで行く。


 ヒナタ達と同じように、箒や絨毯や魔獣などに乗って飛ぶのは同じ学校の生徒達。


 魔法高校の生徒達は、訓練も兼ねた魔法での通学が認められていた。


 目的地である赤レンガの壁に囲われた広い敷地の建物群、魔法学校に着いた二人は船の高度を落として地上に降りて下船した。


 「おはよ~♪」

 「お~っす♪」

 「おっは~♪」


 明るく賑やかな声が響く、下駄箱近辺。


 ヒナタとチヨコも靴を履き替えて教室へと向かう。


 「ヘ~イ,ヒナッチとタヌッコ~♪ オッハ~♪」

 「おはよう、ダッキー」

 「おはようございます、ダッキーさん」


 色々な生徒達が行き交う廊下を歩いていたヒナタ達。


 自分達へ声をかけてきた同じ中学の知人、波がかった銀髪に狐耳で褐色の美少女ダッキーに挨拶する。


 「あんた達、ヤバくない? 火の鳥と狸が憑いてるじゃん♪」

 「神のご加護だよ」

 「ですの、そちらも神ではないですか」

 「イエ~イ、神ってま~す♪ じゃ~ね~♪」


 隣のクラスであるダッキーは、自分の教室へと去って行った。


 「彼女、あれでも神職の家の子らしいんだよな」

 「言い触らされるのは面倒ですの」


 纏獣者ユナイターだと言うことまではバレていないはずと思い、二人も自分達の教室に入る。


 黒板と向き合う形で三人で一つ分、と言う形の木の机が九個並ぶ教室。


 人間だけでエルフやドワーフなどの生徒が集い挨拶や雑談、メジホで魔導ネット見たりゲームを遊ぶなどしていた。


 「おはよ~♪」

 「おはようございますの♪」


 ヒナタとチヨコがクラスメート達に挨拶をする。


 「おはよ~♪」

 「お~っす」

 「おはようございま~す」


 挨拶を返してきたり会釈をするクラスメート達。


 ヒナタ達はクラスでは普通の人付き合いをしていた。


 ヒナタとチヨコは一番後ろの窓側の机に、チヨコが窓側でヒナタが真ん中に座る。


 「よう、神社の子♪ 今日もリア充だな」

 「ああ、これからもそうだよフィード」

 「はい、家はもう事実婚ですので♪」

 「流石クラス公認夫婦だな」


 緑色の短い髪のエルフの少年がヒナタの隣に座る、同じ机で学ぶフィードだ。


 「おはようございます、チヨコさん♪」

 「おはようですの、ダイヤちゃん♪」


 前の席からチヨコに語りかけるのは、赤毛の小柄なドワーフの少女ダイヤ。


 「やあヒナタ君達、おはよう♪ 今日も僕は輝いているだろ♪」


 廊下側の机からヒナタ達に近づいて来たのは、胸ポケットに赤い薔薇を差した金髪オールバックの美少年のアーサー。


 「おはようアーサー、キラキラしてるよ」

 「アーサー、お前さんメイク力みすぎだよ?」

 「アハハ♪ メイクも男のたしなみさ~♪」


 アーサーに呆れるフィード、気にしないアーサー。


 「お~っす、ヒナタ~♪」


 新たに入って来たのは、上下ファイヤーパターンの改造学ランを身に纏った目つきの鋭いオレンジのリーゼントの元気そうな少年。


 「おはよう、エンタロウ♪」

 「おはようございますの♪」

 「おう、タヌキもおっす♪」


 ヒナタが立ち上がり、リーゼントことエンタロウと拳を付け合う。


 「エンタロウは朝っぱらから元気だな~?」

 「おう♪ フィードは、肉食え♪」


 エンタロウ、クラスメートには大体優しい男であった。


 彼らのような個性的な友人達がいるクラスで、ヒナタ達は学んでいた。


一時間目は数学、眼鏡をかけた温和な顔の黒髪お団子頭の女性教師が黒板に数式や公式を書き生徒と教師の質疑応答。


 二時間目は、白衣姿の細身のエルフの男性教師による生物。


 三時間目は、真っ赤な肌に坊主頭で頭頂部に日本の角が生えた筋骨隆々の鬼族の体育教師による校庭での体育。


 男女共に白のシャツと黒のスパッツの体操服に着替えて、ラニングやストレッチを行いサッカーをする。


 「行け~っ、ヒナタ~ッ!」

 「任せろっ、せいっ!」

 「止めて見せるっ! ……、やばっ!」


 エンタロウからパスを貰いヒナタがシュートを放つ。


 キーパーのフィードは、横跳びで止めに行くが届かず決められてしまった。


 「よっし、決まったぜ♪」

 「やるなヒナタ♪」


 ヒナタとエンタロウがハイタッチし、試合終了。


 四時間目は古文、昔のアサヒ語で書かれた文学の解説やらを茶髪のドワーフの女性教師が魔法でチョークを浮かせて自動筆記で黒板に書かせながら行う。


 「ふう、今日の授業は終わりだな♪」


 今日は土曜なので授業は四時間目で終わり、フィードが体を伸ばす。


 他の生徒達は雑談したり、部活に行ったり帰宅したりと自由に過ごしていた。


 「そうか、俺は帰るよ小遣いは安いが家の仕事で札やら作らないと」

 「私もお手伝いですの♪」


 ヒナタとチヨコは立ち上がり教室を出て行った。


 「さて 、チヨコ? マツタロウおじさんから、デートでもして来いとメッセージが来てるがどうかな?」

 「まあ、お父様ったら♪ では、駅前通りで遊びましょう♪」


 ヒナタは、変身アイテムでもあるメジホに師匠であり未来の義父からのメッセージに溜息を吐く。


 チヨコは、父親からの恋のアシストに感謝していた。


 靴を履き替えて学園を出る二人。


 通学路を歩き、学生や社会人で賑わう駅前のビルの建ち並ぶ繁華街に赴く。


 通り沿いにあるマックスバーガーと言う大手ハンバーガーショップ。


 ヒナタ達は、同じ学校の生徒などで賑わう店内に入り店内で食べる事にする。


 「メガマックスセットをお願いしますの♪」

 「俺は、マックスジュニアセットで」


 チヨコは特大バーガーと抹茶ラテ、ヒナタは普通サイズのバーガーのセット。


 窓際の席に向かい当って座り、いただきますと言って食べる。


 「地元にもマックスはあるけれど、こっちの方が賑やかだな」

 「タヌキ山は、都会の中の田舎ですのものね」

 「都会でも地域差激しいよな」


 通う学校は都市部だが、地元は県境のニュータウンなヒナタ達。


 雑談しながら食事を取り、帰ってからの稽古に向けて英気を養う二人であった。

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