第2話 二人の初変身

 祭神であるテルコから力と使命を与えられた、ヒナタとチヨコ。


 二人が本殿を出ると、待ち構える者達がいた。


 「父さん!」

 「お父様?」


 ヒナタとチヨコが驚く、まさにこれから相談しようとしていた父親達だからだ。


 「ヒナタにチヨコちゃん、事情は御告げで神様から聞いたよ」


 白い着物に紫の袴を着た、ヒナタに似た顔つきで黒髪に髷を結った精悍な男性。


 ノボリべ神社の宮司で、ヒナタの父のタカミチ・ノボリべが一人目。


 「おチヨに坊ちゃん、こっちも話は聞いたぜ? しかしついにこの日が来ちまったな、兄貴?」


 もう一人の人物は、丸坊主に日焼けした肌のがっしりした体型の男性。


 種族は人間に狸の耳と尻尾が生えている、狸獣人だ。


 顔は時代劇の主役をしていそうな、男っぽい格好良さ。


 着ている服は、地元消防団の黒い法被にグレーの股引き。


 とても忍者の長には見えないが、チヨコの父親のマツタロウ・ハチジョウ。


 「取り敢えず、家で話をしようか?」

 「そうだな、立ち話でするもんじゃねえし嫁さん達も呼ばねえと」


 タカミチとマツタロウの言葉に、ヒナタ達も頷き父親達について行く。


 和やかは尊しなごやかはとうとしな和の国、アサヒ列島国。


 和風建築な邸宅ノボリべ家の居間、茶色い木のテーブルを挟み

まるで見合いの如くノボリべ家とハチジョウ家が揃う。


 「まるで、お見合いみたいな感じねえ♪」


 ピンクの着物にふっくらとした温和な長い黒髪の愛らしい女性。


 ヒナタの母であるカメが言葉を漏らす。


 「まあ、おカメさんったら♪ 見合いなら赤ちゃんの時にしたじゃない♪」


 微笑みながら返事をするのは白いワンピースを纏た、金髪碧眼の細身だが出る所は出ている美しい女性。


 チヨコの母のオリーブだ。


 「二人共、そう言う話はまた後でで頼むよ」


 いや、そうじゃないだろとツッコむタカミチ。


 「おチヨが坊ちゃんと一緒になるのは万々歳だ、早く孫も見たいがそれはひとまず置いておこうぜ♪」


 マツタロウは妻達の話に乗る。


 「お父様、ありがとうございます♪」


 父に感謝するチヨコと、サムズアップするマツタロウ。


 「気持ちはわかる、私も同感だが説明をしてやろうな?」

 「流石はタカの兄貴♪ まあ、ようはテレビの変身ヒーローよ♪」

 

 タカミチが呆れる中、ものすごく要約したマツタロウ。


 「神様の力を借りて、この世と人の災いとなる位の厄介な悪党を懲らしめたりあちこちで縁が出来た民百姓の人助けするんだ♪」

 

 マツタロウが、ズバッと刀を振り下ろすポーズを取る。


 「大筋はそうだが、細かい所が色々あってな何でもできるわけじゃないんだ」


 タカミチが弟分の説明に補足を加える。


 「うん、神様や神獣の権能とご利益から外れ過ぎた事まではできないとか?」


 ヒナタが思いついた事を呟くとタカミチ達が頷く。


 「流石、坊ちゃん♪ 他には無闇な殺生は駄目とか、人道を重んじるとかあるな」

 「他の所では別だが、むやみやたらに正体を明かすのも禁止だぞ? お前達の個人の心身の自由と安息と、経済を守る為にもな」

 「正体がバレると、弁償だとかストーキングとかあれこれ頼んで来る奴らとかいるからな? 無用な、感謝も恩も怨みも売らず買わないって方が良い」


 父親達からの、世知辛い現実的な注意事項に納得したヒナタ達。


 「でも、各地の支援者や為政者に司法関係と必要な相手には素性は明かすし関係各所への報告と連絡と相談はしてるのよ♪」


 オリーブが微笑みながら話に加わる。


 それを聞いてヒナタは、限定的な正体の公開はしてるんだなと感じた。


 「母さん達も、他の纏獣者や支援者の家柄だったりと国内の纏獣者同士は色々と血筋やご縁の繋がりがあるのよ♪」


 カメも会話に加わる。


 「忍者と忍びの里と同じですわね」

 「纏獣者の従者が忍者の始まりとも言われていて、昔から付き合いがあるんだ」

 「忍者から纏獣者が出るのも納得ですわ」


 チヨコの言葉にマツタロウが答えて行く。


 「まあ、纏獣者ってのは完全に孤立無援ってわけじゃないんだ♪」


 タカミチがヒナタ達を安心させようと笑う。


 「他所には他所で纏獣者がいてと、組合のようなものはあるんですの?」


 会話を聞いていてチヨコが、互助組織のようなものはあるのかと尋ねる。


 「ああ、アサヒでは寄合所よりあいじょと言う組織が東西南北で四つある」


 タカミチがチヨコの疑問に答えた。


 「俺らは、東の寄合所に加盟してるから代替わりの報告はしておかねえとな」


 マツタロウが教えてくれた。


 「ちなみに母さんは、西の水の神様の纏獣者の一族でな」


 タカミチがついでに母の家柄について語る。


 「と言う事は、母方の従兄弟達も選ばれてるの?」


 ヒナタは、母方の親族達の事を思い出して呟く。


 「家がそうだからあっちも代替わりしてるかもね、連絡して見るわ♪」


 カメが息子の呟きに答える。


 「まあ、今すぐに戦えとは無責任な事は言わない」

 「そうそう、まずは地元できっちりチュートリアルをこなしてからってな♪」


 タカミチとマツタロウの言葉に、ヒナタとチヨコは安心した。


 「まあ、二人には学校もあるし纏獣者だからって日常を疎かにしては駄目」

 「神と人の間に立つ者として、物事を見極めるには世俗も知らないとね♪」


 カメとオリーブがやんわりと釘を刺す。


 両親達からの説明を受けたヒナタ達、そのまま流れで六人で朝食を取った。


 朝食後、今日は学校を休んで変身こと霊獣武装れいじゅうぶそうを試す事になったヒナタ達。


 上下白の稽古着姿となり、神社の裏にあるチヨコの実家のタヌキ山を訪れていた。


 ジャラジャラと石だらけの地面の開けた場所。


 ヒナタとチヨコはマツタロウと向き合う。


 「二人共、これからチュートリアル戦闘を始めるぜ」

 「はい、宜しくお願いします!」

 「望む所ですの!」


 武芸の師であるマツタロウに答えて礼をするヒナタとチヨコ。


 「おう、俺が召喚した式神を相手に変身して対戦だ」


 マツタロウが腰のベルトポーチから呪符を二枚取り出して放り投げる。


 空中で呪符が淡い光を放つと、五メートルほどの黒いガマガエルが出現した。


 「「霊獣武装れいじゅうぶそうっ!!」」


 ヒナタとチヨコが同時に叫び、携帯電話型ガジェットの画面を指でタップする。


 それぞれのガジェットの画面から、巨大な火の鳥と狸が飛び出す。


 飛び出した霊獣達は、召喚した者達の背後に回り込む。


 火の鳥のラーバードは、ヒナタの周囲を炎の壁で包み結界を張る。


 狸のキンチョウは、チヨコの周囲を無数の石を巻き上げた竜巻で守る。


 ヒナタとチヨコは、結界の中で霊獣が変化した鎧を全身に装着して行く。


 結界が消えると赤と黄色の装甲に身を包んだ、二人の戦士が立っていた。


 ヒナタが全身に纏った赤い装甲は、火の鳥の具現化。


 頭頂部が燃え盛る炎の如く逆立った鳥の頭を模したフルフェイスマスク。


 スケイルメイルのような同部の装甲の上には、白地で背中に太陽の模様が刻れた陣羽織。


 左の腰には、金の柄に赤鞘の大小の刀を二本差しにした武士風の姿。


 チヨコが纏った黄色い装甲は、頭部のマスクはタヌキを模したフルフェイスのマスク。


 首から下は茶釜のようなビスの付いた胴鎧に手足もビスの付いた籠手と具足を装着と茶釜から手足と頭を出した格闘型のタヌキと言う風体の姿であった。


 ヒナタとチヨコのこれが初の変身であった。


 『ヒナタちゃん、チュートリアルだから抜刀してズバッと行って見て♪」

 「はい、行きます!」


 霊獣の指示を受け、ヒナタは大の刀を抜き上段に構える。


 刃に炎が灯ったのを感じて、踏み込めば背中が爆発し、全身が火の玉となってガマガエルに向かい飛んで行き衝突。


 刀を振り下ろす前に体当たりだけで標的を撃破し、ヒナタは前のめりに倒れてから立ち上がった。


 「……これが霊獣でブーストされた力、制御法を身に付けないと動けない」


 初手でしくじって、与えられた力を制御できるようになろうと思ったヒナタ。



 「私も参ります、足と両手に意識を集中。 参りますっ!」


 手足に風を纏ったチヨコは疾風の如く突進し、ガマガエルの腹を風を纏った拳で撃ち抜いて粉砕し切り抜けて残心を取った。


 「坊ちゃんは力に振り回されてるな、おチヨは我が娘ながら決まってやがる」


 マツタロウは両者を見比べて、娘の資質に唸った。

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