日輪の勇者の人助け英雄記

ムネミツ

第一章:勇者修行開始編

第1話 ヒナタ、祭神に選ばれる

 巨大な亀が空を飛ぶ、青く晴れた空の下。


 アサヒ列島国、オウカシティの外れにあるノボリべ神社の境内。


 真紅の本殿を中心に周囲を緑の森に囲われ、灰色の石畳が敷かれた参道を一人で黙々と竹箒で掃く少年がいた。


 短い黒髪のそこそこ目鼻立ちの整った良い顔と、筋肉が鍛えられている体付きをした白い着物に浅黄色の袴姿の少年。


 「ふう、今日もいい天気だな♪」


 境内や参道の掃き掃除を終えた少年は、作業を止めて両手を天に伸ばす。


 まだ朝の早い時間だが、丘の上にある境内は日の光で照らされて明るかった。


 「ヒ~ナ~タ~様~♪ おはようございま~す♪」


 少年、ヒナタの名を呼びながら石段を駆け上がりやって来るのは一人の美少女。


 緑の着物に黄色の帯に足は白い足袋。白い肌に金髪碧眼おかっぱ頭に豊満ボディ。


 狸の尻尾と耳が愛らしい少女の名はチヨコ・ハチジョウ。


 くるっと前方に回転ジャンプで、ヒナタに抱き着きにかかるチヨコ。


 「おはよう、朝が早いなチヨコ♪」


 ヒナタはチヨコを避けずに受け止める。


 「はい♪ お掃除はお終いですか? 他のお勤めは?」


 西洋人の血か、金毛で発育の良いチヨコがヒナタに色々と尋ねて来る。


 「ああ、後は本殿での祈祷かな? その後は、朝飯と身支度してから学校だ」

 「では、お供いたします♪ ご祭神様へのお供え物もご用意いたしましたし♪」

 「祭神様も喜ぶよ♪」

 「内助の功です、ノボリべ神社と我がタヌキ党の繁栄の為に♪」

 「お祭りでは、いつもお世話になっております♪」

 

 ヒナタが社務所と授与所が一体化した小屋に裏から入り、竹帚を片付ける。


 待っていたチヨコと脇から本殿に入る。


 本堂正面に鎮座する、金で出来た美しい女神の像。


 両脇に眷属である火の鳥と狸を従え、背中に太陽を背負った女神像に向かい正座して恭しく一礼するヒナタとチヨコ。


 太陽の女神テルコヒメと、神獣ラーバードとキンチョウがノボリべ神社のご祭神。


 チヨコが用意した供え物の握り飯三つを神像の前に備え、ヒナタが祝詞を唱える。


 「……かけまくもかしこきテルコノオオミカミ」


 ヒナタが祝詞を唱え始めた途端に、神像が輝き出す。


  「これは一体何が?」

 「俺にもわからん!」


 祝詞の途中で光に包まれた、ヒナタとチヨコの二人。


 ヒナタとチヨコは気が付くと、周囲の空気が黄色で白い雲が漂う空の上にいた。


 自分達も大地の如く固いが、白い雲の上に立っていた。


 「ここは、もしや黄泉の国とか言う神の狭間か?」

 「伝説に聞く、神の世と人の世の間の異空間ですのね♪」


 ヒナタとチヨコは、幼い頃に聞いた伝承を思い出していた。


 人の世と、神の世の狭間に黄泉色の世界があり、神が人に用がある時はまず狭間の世に招いて神託を告げると言う伝承だ。


 「我が末裔ヒナタ♪ それと、我が神使の末裔チヨコ♪ 大きくなりましたね♪」

 「もしやあなたは、家でお祀りさせていただいているテルコ様ですか?」

 「まさかの、ご祭神様とご対面ですの!」


 ヒナタとテルコは、自分達に語りかけて来た声の方向を見やり驚く。


 二人の目の前に現れたのは、赤い巫女袴に白の巫女装束を纏い背には桃色の羽衣を浮かべた美しくも温和な表情の豊満な体型の女性。


 頭に太陽を模した金の冠を被った亜麻色の長い髪の美女。


 相手の外見の特徴から二人は自分達が拝む女神像を思い出し、平伏した。


 魔法や神がいる世界とはいえ、実際に自分達が崇めている神と対面する事になるとは思いもしなかった二人であった。


 「ヒナタちゃん、今日の祝詞も良い感じよ♪」

 「チヨコ、握り飯が美味いのはモテるぞ♪ 流石は我が末裔♪」


 女神テルコに続いて現れたのは、幼い少女の声でしゃべる赤い火の鳥ラーバード。


 おどけた感じの男性の声でしゃべるのは、茶色い狸のキンチョウ。


 女神テルコに仕える霊獣達であった。


 「顔を上げなさい二人共♪ 今日はあなた達に授ける物があります♪」


 テルコがヒナタ達に顔を上げさせ。手を差し出させる。


 「二人には、次代の纏獣者てんじゅうしゃとなる力を授けます♪」

 「……えっ! 纏獣者って、俺達がですか?」

 「私達が、神と人の間に立つ勇者に選ばれたんですの?」


 ヒナタ達の言葉に微笑んで頷くテルコ。


 二人はテルコから拳で握れるサイズの四角い携帯電話を授けられた。


 授けられた物を見て驚くヒナタ達。


 「これは、魔導携帯電話メジホに見えるな?」

 「メジホですの、神様と繋がる携帯電話ですの?」


 神様から与えられたのは、赤く平たい携帯電話型のガジェット。


 メイジフォンことメジホと呼ばれるタイプだ。


 太陽を中心に左右に狸と火の鳥が侍る御神紋入り。


 「神器って、剣とか武器じゃなかったのか?」

 「伝承では武具ですわよね? 現代にあった形ですけれども?」


 勇者の神器が、ヒナタ達が普通に日常で見るアイテムな事に二人は驚いた。


 「色々戸惑うのはわかります、ですがこれはあなた達の一族の使命なのです」

 「お前達の父や祖父も、纏獣者として戦って来たんだぜ♪」

 「あちこちで、悪党退治とか人助けとかして来たのよ♪」


 テルコやキンチョウ、ラーバードが語る。


 「そう聞くと断れないな、俺の番がきたならその使命お受けします!」

 「私も、ヒナタ様と共に歩み未来へと繋げますわ♪」


 ヒナタとテルコは、神から与えらえた使命を受ける事にした。


 霊獣の力を纏いし超人的な勇者、纏獣者。


 霊獣の力と己を一体化し、鎧として身に纏う事からユナイターとも呼ばれる存在。


 自分達が時折ニュースで見るヒーローになるとは思わなかったヒナタ達。


 父親達がそのニュースの存在であったと知ると、内心は少し複雑ではあった。


 「正直、子供の頃にちょっと憧れてたんで嬉しいです♪」

 「知ってるわ♪ 今こそ夢に向かてっ飛んで行くのよ、ヒナタちゃん♪」


 ラーバードが翼をはためかせて、優しくヒナタに語りかける。


 実は今もヒナタは、纏獣者に憧れているのである。


 日曜の朝に魔導テレビで放送されている、纏獣者を題材にしたヒーロー番組。


 獣面ユナイターの事を思い出して呟くヒナタ。


 「理想と現実の差に苦労するとは思いますが、私も苦労を分かち合います」


 やや夢見がちなヒナタとは違い、一応現実よりなチヨコも気合を入れる。


 「チヨコは強い女だな、素敵な嫁さんになれるぞ♪」

 「はい、ヒナタ様の妻の座は渡しません!」


 自分の子孫であるチヨコを見て微笑むキンチョウ。


 チヨコのような獣人は、人に変じた霊獣と人間の混血がルーツだ。


 「いや、本人の傍で何を言うんだよ」

 「ご本人の前だから言うのです♪ 幼い頃よりお伝えしてまいりましたが♪」

 「やばい、チヨコには勝てない」


 恥ずかしくなるヒナタ。


 「良いじゃない♪ 二人は生まれた時から事実婚みたいなものだし神公認よ♪」

 「外堀どころか、本丸落とされてるんですけど俺?」

 「狸は狡猾だけど身内は大事にするから、安心しなさいな♪」


 美少女ボイスで、世話焼きおばちゃんみたいな事を言うラーバード。


 「チヨコ、坊主がお前を意識し出したぞ? 逃がすなよ?」

 「はい、確実に決めますわご先祖様♪」

 「坊主も、チヨコを大事にしろよ?」


 子孫の恋愛のセコンドをするタヌキの霊獣、こちらも世話焼きおじさんだ。


 神の使命から恋愛話になり、ヒナタのメンタルはグロッキーだった。


 ヒナタとチヨコの恋の勝負は、チヨコが優勢であった。


 「あらあら♪ 貴方達二人なら、安心して力を託せますね♪」


 子孫達の仲睦まじさにテルコが微笑むと、ヒナタ達は現実空間へと戻された。


 元の本殿に戻って来た二人、互いに向き合い話し合う。


 「……取り敢えず、父さん達に相談しようか?」

 「ええ、おめでたい事ですしね♪」


 神から使命と力を与えらえたヒナタとチヨコ、彼らの物語が動き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る