4-2「戦う意味を持つ」
「やめなさい!そんなのバレた瞬間極刑で死ぬだけよ!」
ジュスティーヌは珍しく怒鳴った。
何せ自分が心から尊敬する憧れの男の孫娘がその命を無駄にしようとしているのだ。
「……魔女狩りの国レッドスケア……この国は魔女を決して許さない…!特に隠れて住む魔女をね……」
ジュスティーヌにとってもこの国は間違っていた。
その昔確かに魔女は初代王アーサーを殺した。
しかしそれはもう100年以上も前の事だ。
それなのに魔女とこの国は争いを止めない。
それどころか進んでいく魔法の成長は毎年のように両国の死人を増やすばかりだ。
これでは憎しみの連鎖は決して無くならない。
永久に人が人を恨み続けるだけだ。
何せこの国はただ魔力を持って産まれた女児というだけで処刑する。
産まれて母親に抱かれる事なく命を絶たれた赤子もいた。
そんなイカれた国でルークがどうにか15歳まで隠れて生きて来れただけで奇跡と言えるのだ。
それなのにルークは魔女を殺す魔女狩りに入るという。
「……復讐のつもりなら……気持ちは分かるわ。貴女程でなくてもアタシも貴女のお母さんには感謝していた……エリア13で育った礼儀も常識も何も知らないアタシを貴女のお祖父ちゃんとお母さんは一緒に受け入れてくれた………」
ジュスティーヌは唇を噛み締める。
「アタシの心が他の人と違うのも笑わずに認めてくれた!」
その瞳、その表情には怒りと憎しみが入り混じって顔を歪めていた。
「けど……仕方ないのよ……この国に一人で喧嘩を売っても犬死にするだけ……けどそんなのジュピターさんもリリィ姉さんも望まない!」
ジュスティーヌも悩み、怒ったのだ。
ジュスティーヌ本人はそれを実の娘には敵わない想いと言うだろうがルークにとっては同じもの。
自分の母と祖父を愛してくれる想いに優劣などないのだ。
ただそれは嬉しいだけ。
ルークは涙を堪えるジュスティーヌの瞳を見つめた。
「僕は……私は復讐する気なんてないよ。ただ知りたいだけなの。この国の歴史の真実を………お母さんが殺された
頑固にルークは真っ直ぐと話す。
実によく似ているではないか。
人を恨まない優しい祖父ジュピターと。
決めた事は天地がひっくり返っても変えない頑固な母リリィの姿に。
心を決めたストロベリーの人間はテコでも動かない。
ジュスティーヌは大きく息を吐いて笑った。
「あはは………!仕方ないわね。ただ絶対死なないと約束しなさい!アタシも協力するわ……貴女の求める真実を探す旅を!」
動かないなら動かさなくて良い。
壊れないように見ていればいいのだから。
ルークはジュスティーヌと固い握手を交わした。
ジュスティーヌは話を無理矢理変えるかのように両手を叩く。
「さて!今日呼んだのは他でもないわ!貴方達に色々教える為よ!」
元気一杯なジュスティーヌにラパは青ざめながら首を傾げる。
「…色々?い……嫌や……アンタの色々とか怖すぎやろ!」
半泣きのラパにコニーは不思議そうに首を捻った。
何があったのだろうか?しかしラパは決してそんな事を明かしはしないだろう。
カイも不思議に思ったがラパのあまりに本気の表情に聞くのを止めた。
「あら?やっぱアンタ可愛い顔してるわねぇ……今度こそ
生気の抜けた絶望の表情。
仲間のそんな顔をまさかこのタイミングで見る事となろうとは流石に経験豊富なナイトも想像していなかった。
のっけから脅していくジュスティーヌにヴェゼールは大きくため息をつく。
「何しようとしてんのか知らねぇが止めろジュスティス。話が進まん」
ヴェゼールが言うとジュスティーヌはクネクネと唸った。
「仕方無いわねぇ!ヴェゼールが言うなら止めるわぁ!」
いやもうホントに止めてほしい。
何ならもう今すぐ帰りたい。
叶わない希望に焦がれてラパは一筋の涙を流したのだった。
「魔力とは……」
みんなが知ってるだろう知識から始まる語り始め。
しかし勉学の好きな者にとっては「もしかしたら知らない事があるのでは」と興味を引き立てる。
ナイトとラパに至っては既に寝そうだ。
挨拶の後合流したカイザー達クローバー班は真面目に席に座り、ジュスティーヌの話を聞く。
何故授業をしているのか、それはヴェゼールからの指令だった。
「お前達2班はまだ入隊してすぐの班部隊でありながら二つ名を持つ魔女を相手に追い詰めた。それは隊部隊の隊員達でも容易なことじゃない」
ヴェゼールは淡々と続ける。
「こっちとしてはお前らも“戦力”に数えたい。遠征に連れて行くかは別としてな」
ヴェゼールの淡々とした話にポーンが続いた。
「だからまず君達には2つ頼みたいんだよねぇ」
「2つ?」
ルークの質問にポーンは頷く。
「まず1つ知識をつける事。強くなりたい奴で頭使わない奴は一生強くなれないからねぇ……だからまずは知るんだ。より強くなる為の基礎知識を」
「そして2つ目はとにかく任務をこなせ」
ヴェゼールはシンプルに伝えた。
しかしこれでは伝えきらない事を分かってるポーンは話を付け足す。
「噂によると君達は遠征目指してるらしいからさぁ。その為にはやっぱり国民に認知される事が大事なんだ………ていうのがヴェゼールの考え」
冷徹な男からは想像し得ない考えに視線が集まった。
ヴェゼールは尚も淡々と話す。
「俺達は国民の税金で遠征の準備を行い国民の税金で生活してる。誰かも知らん奴に守られる国民の気になれ。俺ならお断りだ」
ヴェゼールの話をポーンとジュスティーヌは少し嬉しそうに聞き続けた。
「何より自分達がなんの為に戦っているかを明確にしろ。他に理由を持って戦うならそれでも良い。だがまだ何もない奴は命を懸けて国民を守る事を“正義”としろ。そして守る国民を見ろ。それが俺の考え……ある種の願いだ」
冷徹な無敵の男の口から語られたのはやはりイメージと違う考え方。
しかし淡々と語られたその想いが“気高い”ものである事くらいはこの場にいる5人にも分かった。
印象が変わり、ほんの少しの信頼を向けるには充分な時間だったのだろう。
返答が言葉にならないまま、その日は解散した。
「ソーチョーの考えも経緯も分かるねんけど……ベンキョーは好かんねん……」
ジュスティーヌの黒板による挿絵付きの授業はゆっくりと熱を上げていく。
今更何を言っても勉強会が終わる理由は無いのはラパも理解している。
しかし嫌いなものは嫌いなのだ。
最大の味方であるナイトはもう目を閉じてじっと座っている。
「寝とるやん……」
ラパが味方の裏切りに憂う中も勉強会は進んでいた。
何せ嫌がっているのはナイトとラパだけなのだから。
「魔力っていうのはね?魔法を使う為に必要なモノで、持って生まれた見えない臓器みたいなものよ。人によって魔力の高さは違っていて魔力が高い方が当然魔法でもできる事が多いわ」
当然のように使っていた魔力。
何となく人によって高い低いがあるのだろうと思っていたが実際にそういった予備知識を教えて貰える人間は数少ない。
魔力持ちは遺伝しやすいがそうでないパターンの人間もいる。
そうなれば知識を持つ者が周りにおらず自己流で進むしかない。
ルークやナイトなんかはその口だ。
ルークは母から魔法は教われていない。
ナイトも身内にそんな人間はいよう筈もない。
出来るだけ知識を得る為図書館に通い文献を読み漁ったルークはまだ他の同境遇の人間よりは知識があるがそれにも限界がある。
なのでこういった授業は実は非常に嬉しいのだ。
食い入るように話を聞くルーク達にジュスティーヌはニコリと笑って授業を続ける。
「基本的に誰にでも魔法の得意不得意っていうのは存在するわ。カイザー君なら錬成魔法が得意でラパペッサは更に細かい槍の錬成魔法が得意って具合ね」
ジュスティーヌは三人並んで座るルーク、ナイト、ビショップを見た。
「あのヴェゼールなんかもそうだけど貴方達みたいに誰でも彼でもオールマイティーに魔法を使える訳じゃないの。まぁ当然よね」
今年は三人も天才がいる。
ジュスティーヌは心でそう思った。
「さて、次はお待ちかね光魔法と闇魔法についてよ」
一番聞きたかった話になり、ルークは横で眠りこけるナイトを肘で小突く。
少し嫌そうな表情ながらナイトは薄目で目を開いてジュスティーヌの言葉を待った。
ジュスティーヌは少し微笑ましそうに話し始める。
「……まず魔法っていうのは初代王アーサーの妻、リリスが原初の魔女マーリンに最初に教えたのが始まりと言われているわ」
「リリス……マーリン……」
ルークの呟きを耳に入れながらジュスティーヌは続けた。
「そのリリスが教えた魔法こそが“闇の古代魔法”ってやつよ。いわば私達人間にとって最初の魔法……原初の魔法なんて言われたりもするわ」
ぶっちゃけナイトにはナンノコッチャといった内容だったが真面目な顔で話を聞くルークを見て何も言わずに座っていた。
ルークにも流石にリリスやマーリンなど歴史書の名前が出て難しい内容だが覚えておくにこした事はない。
ルークが頷きジュスティーヌを話を続ける。
「そして“光の精霊魔法”っていうのはその暫く後、この国のお隣さんの国に住んでる“妖精”達が教えてくれたモノよ」
「ヨーセー?あのなんか国境あたりで時々とぉ〜〜くに見えるちいこい奴やんな?」
ラパのケロッとした質問にジュスティーヌは頷く。
「あら?貴方ちゃあんと話聞いてるのね?嬉しいわぁ…!」
「え…ええから話して下さい…!」
顔を青ざめるラパにルークは苦笑いで視線を戻した。
「まぁその貴方が見たっていうのが“妖精”ね。妖精は“妖精の国”で住んでいて昔からこの国とは懇意にしてる仲よ」
二つの伝わった魔法。
闇魔法は初代妃リリスから。
光魔法は妖精達から。
知らない真実は二つの魔法を使うルークとナイトにとっては知っておくべき事実だろう。
ルークはしかと話を受け止めた。
「貴方達聞いてくれるから話し甲斐あるわねぇ!じゃあどんどん行くわよぉ!」
熱が完全に入り切ったジュスティーヌは意気揚々と話を続けていった。
因みにナイトは殆どの時間寝ていた。
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