1-4「出逢い」
「
宙に出現した赤い魔法陣から小さな火球が使い魔を捉える。
「ギャギャギャギャ!」
身体が燃えているというのに使い魔は笑いながらその身を朽ちさせた。
「……!」
その光景には一抹の不安と一筋の恐怖が頭に媚びれついてしまう。
それでもこの場で立ち止まる訳にはいかない。
ルークはひたすらに森を駆けていく。
不気味な木々に影の奥で姿見えずとも気配を感じる使い魔達。
僅かに聞こえる下卑た笑い声がこの恐怖に一役買っているだろう。
ここはレッドスケアの外れにある森【アリスキテラ】。
レッドスケアとその隣の魔女の国【ウィッカ】との国境にある。通称“魔女の森”。
試験はこの森を3日間生き残れ。というものだった。
この魔女の森は実際に魔女狩りの任務で訪れる事もある危険な場所であり、常に魔女の使い魔が森に潜んでいる。
その為ここでは
しかしヴェゼールが求める強い者というのはこの理不尽な試験でも生き残る者なのだろう。
ルークは3日間分の体力を消費しすぎないよう魔女の森を少しずつ移動していた。
入口付近に居られればよかったがポーンの転送魔法で気付けば森の中枢付近に飛ばされてしまった。
恐らく全員がランダムにこの森に配置されたのだろう。
一人で使い魔蔓延るこの森を生き残るには恐らく幾つか作戦が決まってくる。
一つはあまり動かずにじっと身を隠す方法だ。
使い魔は人間より五感に優れているがそれでも完全な索敵能力を誇る者が殆どという訳では無い。
ならばある種イチかバチかで見つかりづらい場所で姿を隠すというのも一つの手だと言えるだろう。
もう一つは仲間となるべく同じ試験者を探して徒党を組むというものだ。
そうすれば生存確率は格段に上がる。
一人で難しい事でも複数人ならどうにかなる事もあるだろうからだ。
そしてこの作戦にはルークにとってもう一つ大きな意味を持っていた。
「うわぁぁ!誰か!助けてくれぇ!」
左耳に入ってきた野太い悲鳴にルークは足を止める。
視線の先には同年くらいの少年が使い魔に襲われていた。
使い魔は個体によって強さが変わる。
使い魔内の種族の差もあるが殆どの強さは個体によって決まるものだ。
先程倒したからといってまた瞬殺できるかは保証はない。
しかしそれでもルークに迷いは無かった。
「
キラキラと光り輝く黄金色の剣が使い魔に突き刺さる。
使い魔は刺さった場所から崩れるようにその姿を消していった。
「ギャギュギャギュ!」
一切躊躇する事なく魔法を放つ。
自らの魔力を消費してでもだ。
ルークにとって徒党を組む事のもう一つの大きな意味。
それは人が死ぬ可能性が減るという事だ。
ルークは幼い頃に母を亡くしている。
その後育ててくれた祖父も昨年、この世を去った。
その事もあってかルークは“死”というものに敏感だった。
“死”というのは誰にでも訪れるものであり二度と会えなくなるもの。
その相手が自身にとって大事な人であればある程に自分の身体が欠けたように感じる。
そんな想いはもう二度としたくない。
実はルークにとって誰かと共に行動する事は危険もはらむ。
しかしそれを分かっていても見捨てて走り抜ける事などできないのだ。
助けられ涙を流す少年にルークは笑顔を向ける。
「みんなでこの試験を生き残ろう。絶対だ」
バレてはいけない秘密も、死なせたくないエゴも、どちらも強欲に手に入れてみせる。
ルークは試験をまた一歩踏み出した。
実に暇だ。
ナイトは暗にそう思った
試験も今日で最終日。
時折見かける死体から察するにこの試験では中々の人間が死に瀕しただろう。
そうして
話したことのない男共などどうでもいいがそれでも何も感じない程腐っていないと自負している。
自分の力不足とはいえ意味も分からず使い魔に殺されるというのは浮かばれない。
そんな事を考えながらナイトはトボトボと歩いていた。
死人が出る程の試験だがナイトにとってはこの試験はそれほど大変なものではなかった。
使い魔にやられる程やわではないし、3日間寝ずに過ごすなどこれまで幾度となくやってきた事だ。
寧ろちゃんと寝れた事の方が少ない。
どちらも可能なナイトにとってあと一日というのはただ時間の経過するのを待つのみの暇な時間なのだ。
ふと近くに話し声が聞こえてナイトは立ち止まる。
言葉がハッキリして聞こえる事から人間だろうと予測できる。
「暇だしな……」
ナイトは声のする方へ足を向けた。
木の陰からひょこりと顔を出すとそこでは複数人の試験者達が無数の悪魔達と戦っていた。
その光景を見てナイトはまず「馬鹿だな」と思った。
徒党を組むという発想は生き残る為に悪くない選択肢だ。
だがしかし人を増やせば増やす程敵に見つかる可能性も上がるリスキーな作戦とも言えるのだ。
しかも全員逃げずに戦っている。
ナイトが徒党を組む作戦を唯一評価できるのはトカゲの尻尾を切れるという点だ。
人が増えればその分尻尾切り要因も増える。
特に自分より弱い者なら尚更囮にしやすい。
しかし目前の男達は逃げずに戦っている。
逃げる能力が単に無いだけなのか。
いや、恐らく最前線で戦うあの二枚目が要因しているのだろう。
奴が他の者達を守りながら戦っている。
誰よりもボロボロになりながらだ。
「くだらねぇ……」
そんな事になんの意味があるのだろうか。
どうせここにいる男達もあの二枚目の強さにあやかろうと着いて来たに過ぎない。
ナイトと同じようにトカゲの尻尾切りを目的に来た者もいるだろう。
なんならここにいるのが全員とも限らない。
人間なんてのはそんなものだ。
平気で嘘をつき、息をするより裏切る事に慣れている。
産まれたばかりの子供ですら捨ててしまう生き物なのだ。
そんな者達に助ける価値など無い。
本気でそう思う。
それなのに何故かナイトはあの二枚目から目が離せなかった。
「大丈夫だよ!もうすぐ全部倒せる!」
何度も攻撃を庇ったであろうボロボロの様相。
それでも安心させようと周りの無能に声をかける。
「僕が誰も……誰も死なせないから!」
なぜあの少年はあれほど人の為に命を賭けられるのか。
余程の馬鹿でなければデメリットの大きさは分かっている筈だ。
いや、
「絶対……!死なせない!」
「…………」
突如木の陰から黒いオーラのような物が使い魔を消し炭に吹き飛ばした。
全員の視線がオーラの出てきた方向に傾く。
ナイトは自分でも不思議そうに魔法を出した右手を眺めていた。
どうでもよかった筈だ。くだらないと思った筈だ。
それなのに身体が動いていた。
「危ない!」
ボーッと立ち尽くすナイトに使い魔が一体向かい、ルークが叫ぶ。
しかしその使い魔は瞬きをする間に消し炭と化した。
ナイトはルークを見た。
知りたい。自分の変化の訳を。この少年の本質を。
騒ぎ立てる使い魔達にナイトは右手を掲げる。
「
右手に現れた黒い魔法陣から不気味な黒い竜巻が巻き起こる。
竜巻は使い魔
突然現れた【悪童】に命を救われハテナを浮かべる男達。
ナイトはパッとルークの前に立って言った。
「お前名前は?」
突然の質問にルークも驚きながら答える。
「る…ルーク・ストロベリーです」
ナイトは少しだけ顔の距離を離した。
「そうか。俺はナイト・スノードロップ。俺はお前が知りたい」
「え!?」
この日、ルークとナイトは出逢った。
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