1-2「ナイト・スノードロップ」

 魔女狩りの国【レッドスケア】。

因縁根深い魔女以外の国民には手厚い待遇を与える裕福な国。

しかしそんなレッドスケアでもスラム街・・・・と呼ばれる地域がある。

レッドスケアの最北地に位置する区画、通称【エリア13サーティーン】。

そこには身内に魔力を持って産まれた者がいない人間などが住み着く。

レッドスケアは永く魔法と共に生きてきた国であり、魔法を使うには生まれつき魔力を持っていなければならない。

しかしその魔力というのは非常に遺伝性が強い性質がある。

時折突然変異的に魔力を持って産まれてくる事もあるが基本的には身内に誰か魔力を待つ者がいる場合が殆どだ。

そうなると必然的に魔力を持つ者がいない血筋も存在してくる。

直接的な差別は国内には無いがそれでも魔力を持つ者がいるのといないのでは肩身の狭さが変わる為、いつの間にかそういった人間はエリア13に集まっていった。

不遇な人間が集まれば強い劣等感が募る。

気づけばエリア13はレッドスケアで唯一治安の悪い地域となってしまったのだ。

 そんなスラム街エリア13にも悪ガキがいる。

特に手のつけられないのはその悪ガキが魔力を持って産まれてきた時だ。

 「おいナイト・・・またテメェか!」

怒鳴りつけるガラの悪い男。

その視線の先では跡形もなく更地と化した家の跡地と複数名の倒れた男達。

そしてその中心で一人の少年が不機嫌そうに立っていた。

「うるせーなぁ……コイツラが俺の機嫌を損ねただけだろうが」

少年の右手には黒いオーラのような物が纏わりつき硬く拳が握られていた。

少年の名は〈ナイト・スノードロップ〉。

スラム街エリア13に産まれながら強力な魔力を持つ少年。

しかし名前の書かれたドックタグと共にゴミ捨て場に捨てられていた為に国側からの発見が遅れてしまった。

ナイトの元に国の使者が訪れたのは今からほんの3年前の事。

ナイトが一人で12年間生き抜いてからだった。

人格の大きな形成時期をたった一人スラム街で過ごした事で彼は周りの人間を信用しなくなってしまった。

他人を信用しないナイトは魔女狩りへのスカウトに来た国の使者を一切迷うこと無く蹴散らした。

本来ならば直ぐに警察隊が赴き身柄を確保するところだがナイトのあまりの強さを国王が気に入り、今もまだ自由の身でいる。

 魔女狩りへの入隊は特例を除き、15歳の誕生日を迎える年だ。

そしてナイトは今年15歳になる。

本来ならばスラム街生まれの天才魔女狩りが爆誕するところだ。

しかし使者に対するナイトの答えは“NO”だった。

「魔法を好きに使えるのは悪くねぇ。だけど国に従う気はねぇ」ナイトはそう言って使者を右手一本で倒してしまった。

 「ナイト!テメェのせいで俺等までしわ寄せ・・・・が来たらどうすんだゴラァ!」

遠目から距離を保ちながら一人のガラの悪い男が怒鳴り散らす。

合わせるように周りの人間達もナイトに罵声を浴びせた。

罵声が飛び交う中ナイトは不機嫌そうに頭を掻く。

「うるせぇって言ってんだろうが」

ナイトは鋭い視線で罵声に顔を向けた。

「ここに住んでて国に従いたい奴なんざいるわきゃねぇだろうが」

強い怒りの篭った言葉。

裕福な国で唯一秩序のない街だ。

そこで生まれ育って国に対して献身的な想いを抱く者もそういないだろう。

 「だが、そうでなければお前は極刑となるだろうな」

集まった野次馬の後ろから低く落ち着いた声が発せられる。

野次馬は声の主がナイトと目が合うようにその一直線から退いた。

「………あ?誰だお前」

男は貫禄を持った歩みでゆっくりとナイトの前で立ち止まる。

「俺はヴェゼール・ダンデライオン。インクィズィション・トゥループスの総長兼第一部隊の隊長だ。所謂魔女狩りのトップだと考えて構わない」

ただ立っているだけなのに異様な存在感を感じる。

スラム街で育ち幾度か経験した危機が意味を成さないのだろうと理解させられた。

何かをするでもない威圧感。

 【無敵】のヴェゼールはナイトを見据えながら話を続けた。

「お前はエリア13では珍しく魔力を持って産まれた。それに加えて大した魔法訓練も積んでいないのに現隊員を圧倒できる程の戦闘力を持つ」

ナイトは何も言わずに話を聞く。

「“強い”っていうのは何も頼もしいばかりじゃない。その頼もしさと同等以上の危険性も持ち合わせているという事だ」

「………何が言いてぇんだよ」

静かに言い返すナイト。

ヴェゼールは冷徹に返した。

「お前が魔女狩りへの入隊を断るならこの場で殺す」

明確な殺意とそれを実行しうるであろう存在感。

ヴェゼールは冷たい視線でナイトを睨んだ。

しかしナイトも言われっぱなしは性に合わない。

当然言い返す。

「殺す?俺がそう簡単に殺されるわけ……」

「いや。死ぬよ。お前はここで」

未来でも視えているのだろうか。

いや違う。視えているのではなく確定してるのだろう。

余程の馬鹿でも無ければ相手と自分の距離・・は測れる。

血の気の多いナイトだがそれだけはこの瞬間理解した。

 「チッ…………」

聞こえるような舌打ちでナイトは視線を低く逸らす。

「じゃあどうすりゃいい?」

距離を測り終えて拳を納めたナイトにヴェゼールは淡々と答えた。

「3日後の正午に城に来い。そこで入隊試験が開催される。それに参加しろ」

「チッ!」

舌打ちを返事と受け取ったヴェゼールは直ぐに振り返り踵を返す。

野次馬達はわらわら・・・・と道を空けてヴェゼールと距離を離れた。

その後先程一層不機嫌になったナイトに触れまいと野次馬達はそそくさと退散し、ナイトは複雑な表情で拳を握りしめていた。

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