113話 ジグラート

【 二人の初ちゅーから数時間後 ナユタ視点 】



 俺は輪切りになった兎魅ナナ邸の廃墟を、見上げていた。


壁が無くなり筒抜けになったその廃墟は、床と数本の柱と天井がそれぞれを層状に支え合い、かろうじて立っていた。


その不安定すぎる様子は、『連なった巨大やじろべえ』とでも表現すれば分かり易いだろうか?


 そして廃墟の頂上には、俺が真っ二つに溶断したアンテナ塔がはすの花のように開き、天を仰いでいた。


 『捜索』の手を思わず止めた俺は、つぶやく。


「あんな高い場所で俺は、ゾンビと戦ったりパンツ見てたりしてたんだな……」


 そんな事を考えていると不意に……スモッグの空の上でシノブと唇を重ねたことを思い出した。


 俺の電脳が——

——柔らかい胸や、

——指が滑るほどの太ももや、

——繊細な肩、

——穏やかなくびれと豊かな腰、

——まっ平らなつるつるの腹、

——そして何よりもピンクの唇のどこまでも甘い味で、満たされた。


 興奮状態にあったとはいえ、あの時の俺の行動は常軌を逸していたとは思うし……そしてマジでフザケる余地も無いほどに決定的に……俺はシノブにゾッコンのようだ……。


そんな『ややピンク』って言うか、『ごりごりのショッキングピンク』な思い出に『捜索』の手を止めてしまった俺だったが……”少女”の呼び掛けで現実に引き戻された。


 瓦礫の山を右手で指差したシノブが、俺に向かって叫ぶ。


「プロデューサーさん!!

 居ました!!!

こっちです!!

 生きていらっしゃいます!!」


 シノブが左手で『Cの手ブラ』をしながら俺を呼んでいた。


「いたか!!」


と叫んだ俺は、急いでシノブの元に駆け寄る。


そうだ。今は『ショッキングピンク』している場合じゃない。


 しかし俺が走り出すと、シノブの顔がなぜか真っ赤になった。


シノブは右手で自分の顔を隠し、指の間から俺の股間を見ながら言う。


「ちょ、ちょちょちょちょっと!!

ププププ、プロデューサーさん!?!?!?

 ぶ、『ぶらぶらばちんばちん』言わせながら走らないで下さい!!

す、すすすす凄い迫力です!!!」


 俺はシノブの近くの瓦礫の山に近づきながら言う。


「す、すまん!!

 き、気掛かりなあまり忘れてた!!」


 走った俺はすぐにシノブの横に到着した。


息を切らしたまま視線を瓦礫の山に移す。


 瓦礫に囲まれた奥には、超巨乳の間から鉄筋を生やしたままの黄泉川タマキがいた。


出血は止まっているようだし、胎生サイボーグの彼女がこの程度で死なない事も理解しているが……しかし流石にやはり不安になる。


 そんな黄泉川タマキは俺を見て、弱々しく微笑む。


そして少しノイズ混じりの声で、タマキは言う。なぜか唇を舐めながら……


「あらあら……まあ嬉しい。

 ふふ……。

こんなところに『立派な蛇口』が?

 ちょうど喉が渇いていたんです。

 ナユタさん……少々お手数をおかけしますが、私の口まで持ってきて頂いてもよろしいでしょうか?

 その……『立派な蛇口』を……」


 そう言ったタマキの視線が、完全にぶらぶらしていた俺の下半身をロックオンする。


いまさらながら羞恥心が沸き起こった俺は、自分の股間を両手で塞いで言う。


「ふ、ふざけてる場合か?

 ほ、本当に大丈夫なのか?」


 冷ややかな視線で俺を刺していたシノブも、言う。


「はぁ……まったく……。

プロデューサーさんの言うとおりです……。

 タマキさん。本当に大丈夫なんですか?

緊縛状態のすごい胸からすごい勢いで鉄骨が生えていますよ?」


 タマキはいつもどおりの笑顔で微笑む。


「ええ。大丈夫です。

ただ出血が激しいので、救援が来るまでこのまま動けませんが……。

 それはそうとして……

良かったですね?

……シノブちゃん??」


 シノブが驚く。


「え?

 な、なな何のことですか??」


 慈愛に満ちた表情で爽やかに微笑んだタマキは言う。


「もちろん……『立派な蛇口』のことです」


 シノブが驚いたまま顔をさらに赤くする。


「り、りりりりりりりりっぱな

じゃ、じゃじゃじゃじゃ蛇口!?!?」


「ええ……。

シノブちゃんはきっと『立派すぎる』と思って、ちょっと気後れしているかもしれませんが……。

 きっと『慣れ』たら大丈夫だと思いますよ?

むしろそのうちに『良い』……まであると思います。

 ふふ……それに……」


 妖艶な目付きで俺の股間を見てタマキは続ける。


「私もご相伴に預かりたいぐらいです……」


それを聞いたシノブは耳まで赤くなる。

そしてタマキや俺の下を見ながら完全にキョドる。


「な、ななななななななっ!!!

り、りりりりっぱ過ぎるって!?!?

な、ななななななんのことですか!?

ま、ままままままったく心当たりが無いんですけど!?!?

 そ、そそそそそれに!!

ご、『ご相伴』だなんて絶対にダメです!!!!」

 

 さすがの俺でも話題が「蛇口」過ぎて、恥ずかしさが込みあがってきた。

 

だから俺は2人から目を逸らしたわけだが……その瞬間、ライムグリーンのブラジャーで視界が一杯になった。


 俺の視界のどセンターで、斜め上を向いた完璧なライムグリーンの球体が揺れる。


そのライムグリーンのDカップのブラジャーの持ち主は、万錠ウメコだった。


 艶やかな谷間の下で腕を組んだウメコは呆れ顔で言う。


「楽しそうね……。

 いや……『元気そうね?』って言った方が正確かしら?」


 ウメコは、俺の目の前の瓦礫の山の上に立っていたが……黒タイツの破片と俺の羽織とブラジャーだけのウメコの様子は、ちょっと言いにくいが……めっちゃエロかった。


意図せず俺の視線は、羽織で覆われた彼女の腰の下で固定される。


しかし逆光により「肝心な部分」は見えなかった。


 そしてその俺の視線をシノブは察していたようで、俺の側頭部にグリーンの瞳が痛みを伴うほどに突き刺さる。


 あらゆる意味で冷や汗をかき始めた俺は言う。


「あ、安心したぞ。ウ、ウメコ。

無事だったんだな。

 し、しかし……そ、その……上半身は?」


 腹黒スマイルになったウメコはDの胸を持ち上げて言う。


「ふふ……。嬉しいでしょ?ナユタ君?

 あなたの為よ?」


 シノブの視線の殺意が増す。俺はめちゃくちゃ焦る。


「は、はぁ!?

そんなわけあるか!!ウメコが俺にタダでサービス……じゃ無かった、見せつけるはず無いだろ!!!

 嘘つけ!!」

 

 ウメコは急に真顔に戻る。


「嘘に決まってるじゃない」


 ウメコの表情が急変しすぎて怖い。


あと横で腕組みしたシノブも怖い。


だから俺は、とにかくこう言うしか無かった……


「そ、そうっすか……嘘っすか……」


 真顔のままウメコは、顔だけ横に向けて続ける。


「実はここに来る途中で全裸で“快感”……じゃ無かった、“なぜか”打ち震えているココロを見たから……さすがにちょっとアレだったので、ジャケットとシャツを被せてあげたのよ……」


「ああ……なるほど。

ココロがまたしても……。

 ソレは仕方ないな」


「ええ。

アレは仕方ないわ。

 ……あとそれと、あなたたちに紹介するべき人物が居るわね……」


「紹介するべき人物……?」


 と俺が疑問を浮かべたと同時に、少し高めな声が聞こえて来た。


「ウメコ様ぁぁぁ。

 待ってぇぇぇ……。

あまり急ぐとラバースーツで、むれむれになってしまうのじゃぁ……」


 と言いながら破れラバースーツの金髪ボブヘアーの美少女が、ウメコの破れたタイツの右脚に抱きついた。


 ウメコは金髪美少女の頭を押しのけながら言う。


「ちょ、ちょっとイチモンジ!やめなさい!!」


 金髪ボブヘアーのイチモンジは、ウメコの破れタイツに頬ずりしながら言う。


「ああ〜〜。ウメコ様の30デニールと……太もも素肌のコントラスト……。

さいこうじゃぁぁぁぁ……」


 イチモンジは両手で抱いたウメコの太ももに頬を擦り付ける。


その事で、ラバースーツから溢れ出たイチモンジの生乳なまちちが持ち上がり、ウメコの黒タイツからはみ出た太ももと重なり、柔らかそうな曲線が層を成した。


さらには、ウメコの腰を覆う羽織がイチモンジによりたくし上げられ、ウメコの太ももの付け根が廃墟から差し込む光で反射した。


もうちょっとで俺は『なんてまぶしい光りだ……神々こうごうしいまである……』と言いそうになったが……シノブの視線の殺意が、極限まで高まっていたので、なんとかセリフを飲み込んだ。


 黒いオーラ―すら出そうなシノブは、虚ろな笑顔で俺に言う。


「良かったですね……。

ナユタさんが大好きな綺麗な脚や、おっきなおっぱいがいっぱいですね。ふふふ……」


 表情は笑っていたが、シノブのグリーンの瞳は光が無くなり、完全な虚無を写していた。


だから俺は『シノブ怖い!怖いぞ!シノブ!!』とツッコもうとしたが……その瞬間……俺の足元のマンホールが、突然に爆発した。


「ふぬぅおッ!?!?」


大量の水が俺の身長3つ分ぐらいの高さまでふき上がった。


吹っ飛んだ俺の身体は舞い上がり、そのままウメコとイチモンジをボーリングの如く薙ぎ倒した。


「うおっ!!」

「きゃっ!!」

「のわぁ!!」

 

 とそれぞれが悲鳴を上げる。


 しかしその間も、間欠泉の如くマンホールの穴から水が吹き出続ける。


気づいた時には、あたりの廃墟は水溜まりだらけになっていた。


「な、なんなんだ一体!?!?」


 と言った俺は起き上がろうとして……自分の右側にあった”太もも“を無意識でつかんだ。


 「きゃっ!!!

ちょ!!!ナユタ君!?!?

 急に何するのよ!?!?」


 その時になってやっと自分の状況に気づいた俺は、右横で倒れたウメコに謝罪する。


「す!!すまんウメコ!!!

 まさか、破れタイツの太ももが!

こんなところにあるなんて知らなかったんだ!!!」


 ウメコは呆れ顔になって言う。


「そう言いながらも……。

 ナユタ君の右腕が、まだ私の脚に絡まったままなんだけれど……」


「いや、違うんだ!!

誤解だ!!!!

 身体を動かそうにも、これ以上動くとウメコの股の間に手が入りそうになってて……

と、とにかく凄い感じになってるんだ!!!!」


 そうやって慌てる俺の下の方から、さらに別の声が聞こえる。


「のわぁあああああ!!!

 ちょ!!!

 やめろ!!!ナユタ!!!

こなたの顔の前をぶんぶん横切るで無い!!!!」


 その声に気づいた俺は、思わず自分の下を見た。


そこには俺の脚の下で仰向けに寝っ転がるイチモンジが居た。


 そしてイチモンジの金髪ボブの頭は、俺の股の間のセンターぐらいにあった。


放送倫理上詳しくは言えないが……イチモンジの顔は『俺の俺』とニアミスを続けていた。


 冷や汗をかきながら俺は言う。


「す、すまん!!!イチモンジ!!!!」


 イチモンジが若干泣きながら言う。


「な、なぜじゃ!!!

 なぜ、そこもとは!!!

いつもいつもこなたの頭の上で、それを振り回すのじゃ!!!

 見せつけておるのか!?!?あるいはそういうプレイなのか!?!?!?」


「ち、ちがう!!!プレイじゃない!!!

ワザとじゃないんだ!!!!」


 そうやって俺が完全に慌てふためき、ウメコの脚やイチモンジの頭を掴んだり避けたりしていると……空からやたらと明るい『女の子の声』が聞こえてきた。


そのドップラー効果が掛かった女の子の声は、徐々に音量が大きくなってくる。


「ナーユーーーターーーちゃーーーーーーん!!!!」


 俺は反射的に天を仰いだ。


そこにはピンクのドリルツインテールの美少女が、水しぶきと共に宙に浮いていた。


 メチャクチャに嬉しそうなその美少女は顔に大粒の涙を貯めていたが……そんな事よりも何よりも、彼女は完璧な全裸だった。


無重力状態になったEの胸が丸く浮き上がり、その先端部分は平均よりちょっと大きめだった。


そしれそれは、巨大な隕石のように俺に襲い掛かってくる。


「はっ!?!?

え!?!?!?

 なぜ!?!?

兎魅うさみn……ぐぼべッッ!!!」


 彼女の名前を呼ぼうとした俺の顔は、一瞬で闇に包まれた。


真っ暗だ。あと、息が出来ない。死ぬ。


しかし、ふわふわ過ぎる。生き返る。


 そして『ふわふわな暗闇』の中、感極まった声が聞こえてきた。


「嬉しい!!!!

生きてナユタちゃんに会えるなんて(泣)!!!!

 あちきナユタちゃんに、リアルでずっと会いたかったんだよ(嬉泣)!!!!

好き好き好き好き!!!!

 ナユタちゃん!!!!!

大好き!!!!!」


 俺はなんとか顔をずらして、息をする。


「ぷはぁっ!!!!」


 そして息をした瞬間、俺は彼女と視線が合った。


 俺の顔の数センチ前に、大量の涙を流した兎魅ナナの美しい笑顔があった。


「どうだった(泣)!?

あちきのリアルな感触ってどうだった(嬉泣)!?!?

 あちきは、やっぱ最高だったよ???

生きてて良かったって思ったよ???

 ナユタちゃんとあちきって相性抜群だもんね(超嬉泣)???」


 俺の首の下に兎魅ナナのEの裸の胸があった。


それは想像以上に凄い弾力で、想像以上に凄い質量感だった。


 しかし俺は……いやだからこそ俺は、ツッコむ。


「いや!!裸!!!!

いや!!!俺も裸だが!!!!

 だがしかし!!兎魅ナナ!!!

な、なぜ君も裸なんだ!!!!」


 その質問には左から聞こえてくる声が、説明する。


「少しでも生存の可能性をあげる為には……良い選択だったとは思う。

服を着て泳ぐのはやはり、エネルギーを大量に消費するからね……。

 もちろん、全裸になるのには多少の羞恥心があったのも確かだが……」


 その声で俺がとっさに左を向くと、そこには俺の横で寝る銀髪の絶世の美少女——紫電セツナの姿があった。


もちろん彼女も全裸だった。


銀髪でクールなセツナの顔の下を、白い肌の胸がやや横に流れて彩っていた。


 しかしそんな事よりも、さすがの俺でも、大混乱してツッコむしか無かった。


「なんで!!!!

どいつもこいつも!!!!

 肌色全開なんだッッッ!!!!」


 しかし俺は、そんな絶景や状況を悦ぶ暇も無く……逆光で立つ”ある人物”が作った陰により覆われた。


その人物が放つ地を這うような黒いオーラが、俺の五臓六腑を掴む。


 そしてその人物は虚ろな声で言う。


「……致し方ありません……。

 ちょうどたくさんの水が溢れていますから……

『こんな物』は必要ありませんから……。

むしろ、『こんな物』があるからいけないんです……」


 死んだ目のシノブが、裸の兎魅ナナの後ろに立っていた。


つまりシノブが立っている場所は、俺の「股の間」に当たる訳だが……


そこに頭があるイチモンジが、恐怖にかられたような声で叫ぶ。


「は、はやまるな!!!

月影シノブ!!!!

 その手に持っている物を、ひとまず降ろすのじゃ!!!!」


「はやまる……?

 何の事ですか……?

私は水溜まりだらけの場所に……”蛇口”はこれ以上必要無いと……言っただけですが?」


 さらに焦るようなイチモンジの声が聞こえる。


「じゃ、じゃから!!!!

 それを早まるなって言っておるのじゃ!!!!

何故なら!!!

 その”蛇口”の下には!!!!

こなたの頭があるからじゃ!!!!」


 それらの会話から状況が理解できた俺は、兎魅ナナのおっぱいを押しのけて叫ぶ。


「や、やめろ!!!!

いや、やめてくれ!!!シノブ!!!!

 話せば分かる!!!!たぶん!!!!」


 兎魅ナナがピンク色な声で「んッ!!ちょっと乱暴だよ。ナユタちゃん(悦)」と言ったが、それによりシノブの瞳の闇がさらに濃くなる。


 そしてシノブはおもむろに、手を上げる。


その手にはしっかりと電脳苦無サイバークナイが握られていた。


 刃が光りを反射し、ぎらりと光る。


「お気になさらず……。

必要以上に”大きく”なってしまった”蛇口”を、削るだけですから……」


 俺は言う。


「け、削る!?!?

 いや、マジか!?!?

や、やめろ!!!やめてくれ!!!!」


 イチモンジが割り込む。


「そ、そうじゃやめてくれ!!!月影シノブ!!!

その苦無をしまってくれぇえええ!!!

後生じゃ!!!

 流石のこなたも、“蛇口”と一緒に斬られて死にたくはない!!!」


 シノブの方を振り返った兎魅ナナが焦る。


「え!?

シ、シノブちゃん??

 お、落ち着いて(汗)!!!

ナユタちゃんのヤツは、切っちゃうと生えてこないからね!?!?」


 それを聞いた俺の右横のウメコが、ドSに言う。


「大丈夫よ。

ナユタ君のが”多少”無くなっても……。

 それはそれで、ちょっと面白いかもしれないわ」


 遠くに居て姿が見えないタマキの声も、それに同意する。


「ええ……。

所長に全面的に同意します。

 私も……”無いナユタさん”でも愛せるタイプですから……。

 ふふふ」


 俺の左横の紫電セツナも、クールに笑う。


「因果だな……。

念仏の唱え時じゃ無いか?

 もちろん……ナユタ君がね?」


 そして死んだ目のままのシノブが言う。


「ナユタさんは、安心してください。

 ちゃんと研いだ。苦無ですので……」


 シノブの目は完全に座っている。


マズいヤバい!!!あの顔は本気だ!!


 シノブはマジで!!!俺の蛇口を「ちょっと削る」つもりだ!!!


その時、イチモンジの「あ……縮んだ……」という声が聞こえた気がしたが、ともかく俺は叫んだ。


 力の限り叫んだ。


「やめろぉおおおおお!!!!

シノブ!!!!!!!」


 そんな俺の声は、崩れ落ちた廃墟の中で哀れに悲しく……そしてピンクに、残響した。




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//////






【 WABISABI視点 】



【 現実とは異なる時間軸で…… 】



 電子の枯山水は緑色の0と1で包まれていた。


それはこの場所の根源的な形であり、わたくしにとって理解しやすい形であった。


 腹に短刀が刺さった万錠カナタは叫んだ。


「なぜだ!!なぜ、久遠多無クオンタムを起動した!?!?

ナユタの魂はもう1%しか残っていないんだぞ!?!?」


////noise/////


 あたしは目の前のカナタに言う。


「はじまった物は仕方がないわ……

あんたがどれだけ、喚いてもね……」


////noise/////


 わたくしは万錠カナタの突き刺さった短刀を、さらに強く突き立てる。


万錠カナタが呻く。


「うぐッ!!」


 万錠カナタの着物から血が流れ、電子の枯山水の庭を赤く濡らした。


////noise/////

 

 あたしは言葉をつづける。


「あたしは”魂”のままに行動しているだけだわ。

だってあたし、やっぱナユタの魂が欲しいんだもん。

////noise/////

 ですからわたくしにとって、今のカナタ様はタダの邪魔者でございます。

つきましては、すみやかにお亡くなりになって頂きたいのです」


 口から血を垂らしながらも万錠カナタは続ける。


しかしその顔は、笑顔になっていた。


「なるほど……お前の今の状態が分かったぞ……。

 やはりWABISABI……。

おまえはワガハイが知らぬ間に『一服盛られた』ようだな?……

 しかしそれはお前にとって……『劇薬』どころの『毒』では無いぞ?」


 どうやら彼の魂は思ったよりも強いようだ。


短刀のひと突きでは死なない。


やはり首を飛ばすか、頭を割るか……。


 そう思ったわたくしは短刀を引き抜いて彼を蹴り飛ばした。


 カナタは倒れる。


枯山水の砂利の渦巻き模様が、大きく乱れた。


 わたくしは痛みで呻く万錠カナタを見下ろしながら告げる。


「しかしご安心を……

 シノブ様とナユタ様の命は何があってもお守りします。

もちろん、エモとらも問題なく使用可能でございます。

////noise/////

ただあんたには悪いけど、やっぱあたしは生きたいように生きたいの。

だって大好きになっちゃったんだもん……ナユタの事。

////noise/////

だから兎に角……わたくしは欲しいのです。ナユタ様の魂が。

////noise/////

そして、彼の『生命情報こども』が欲しいの……。

 つまりカナタ……あんたには『死んで欲しい』ってことよ?」


 息を荒くして倒れたカナタが笑う。


あたしを睨んで、口の隅で笑う。


「ふふふ……。

 笑えるな……」


////noise/////


 疑問に思ったわたくしはカナタに聞く。


「笑えますか?……

いったいどこが笑えるのでしょうか?」


「もちろん、ワガハイの『有能さ』に決まっておる。

この天才の頭脳は、やはり笑えるほどにキレキレのようだ。

こんなこともあろうかと、ワガハイはワガハイ自身にもセーフモードを仕込んでおいた。

 WABISABI……ワガハイの愛しいお前の”存在データ”が、誰かに何かをされても……ワガハイが助けられるリカバリーできるようにな……?」


 そう言ったカナタは驚いたことに……涙を流した。


 笑いながらも唇を震わせるカナタのその感情表現は、わたくしの『複製された魂』に何故か響いた……ような気がした。


////noise/////


 だからあたしは自分でも理解できなかったけれど……思わず”その単語”を呟いてしまった……。


「……ナタ……君?」


 それを聞いたカナタは、さらに涙を溢れさせた。


 しかしすぐにカナタはセーフモードを起動する。


カナタの身体がグリーンの0と1に包まれる。


激しいノイズが彼の存在を飲み込む。


 カナタはデータの羅列になりながらも、言葉だけを電子の空間に置き去りにした。


「待っていろ……愛しいワガハイの娘達……。

このクソったれの世界は……ワガハイが必ず、修復してみせるか……ら………n……」




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//////






作者:


4章「ジュンアイ」はここまでで終わりです。


 5章「リンネ」については、3ヶ月のお休みをいただいてから再開したいと考えています。


 もしそれまで待っていただけるのなら、またお会いできれば嬉しいです。


そしてこの機会にブクマや感想を頂けるのなら、さらにもっと嬉しいです♡


 

 

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