108話 ニルバーナの果てで待ってる
【 ナユタ視点 ※少しだけ、時間が巻き戻ります。】
【 アルマゲドンまで残り1秒 】
「……え?」
彼女(?)の身体を覆っていた白スクは、真ん中から真っ二つに切り裂かれ、彼女(?)の白ニーソの周りに落ちていた。
それを見た織姫ココロは頬を赤くし、恍惚とした表情になって悦ぶ。
「は、はわわわわわわ!!
あたくしのスク水だけが斬れちゃって……
あたくしのお胸と!
おちんち……じゃ無くて、ブリーフが!!
みんなに見られちゃって!!
全世界に配信されちゃって!!
ふわぁぁぁぁぁっ!!!」
その瞬間、狂った色彩の地獄のような空間はココロの【TS美少女の凸の形にもっこりした純白のブリーフ】を残してモノクロとなった。
【 アルマゲドンまで残り0.2秒 】
【 パンツァー発動 】
全てが静止した空間で、俺はあまりの驚愕につぶやく。
「……え?
【TS美少女の凸の形にもっこりした純白のブリーフ】で時間が……止まった……?」
ここで普段なら【TS美少女の凸の形にもっこりした純白のブリーフ】を見ながら“考察“をはじめてしまうところだが……しかし、今の俺には時間が残されていない。
だから俺は【TS美少女の凸の形にもっこりした純白のブリーフ】から無理やり視線を剥がして、横を向いた。
【 時間停止 0.2秒経過 】
俺の視線の先には、涙が空中で固定された
ピンクのセミロングに加えて、センシティブ過ぎる衣装のシノブだったが……その悲痛に歪んだ表情は、夢に見たシノブの絶望の表情そのものだった。
その……衣装と対称的なシノブの表情に、俺の心は鷲掴みにされた。
だから俺は反射的に再び走り始める。
裂けるような胸の痛みをこらえて、静止したシノブの横を走って通り過ぎる。
「もう直ぐだ。もう直ぐ……全てをぶち壊してやる」
【 時間停止 0.4秒経過 】
俺はモノクロになってしまったスモッグの空を見上げる。
そびえる鉄塔の頂上には、通信アンテナが小さく見えた。
シノブ達の「チート兵器」の影響が無いアンテナ塔の周辺だけは、何かに切り取られたかのように無傷のままだ。
塵が舞い、破壊されたコンクリートにそびえるそのアンテナ塔の存在感は、あまりに唐突だった。
【 時間停止 1.2秒 】
俺はすぐに、鉄塔の足元に到着する。
そして天を見上げる。
H型の鋼材が幾重にも連なっていて、空は見えない。
しかしこの先に通信アンテナがあるのは間違いない。
俺は袴にぶら下がったC4爆弾を外し、右手に持った。
【 時間停止 1.5秒 】
そして頭上の鉄塔に向かって、爆弾を力の限り投げる。
が……しかし……俺のその行動は、何の意味も無さなかった。
なぜなら俺の手を離れた爆弾は、空中で停止していたからだ。
「は??」
【 時間停止 1.6秒 】
あるいは、頭の良いお前達ならとっくに気づいていると思うが……パンツァー発動中に俺の手を離れた物体は静止する。
紫電セツナに向けて拳銃を撃った時も弾丸は空中で静止したし、俺の鼻血も落ちて空中で静止した。
つまりそんな事はいまさらの事で、当たり前のことなんだが……満身創痍で左腕すら無くした俺は、完全に思考が停止してしまった。
【 時間停止 1.8秒 】
しかし時間がない俺はすぐに「カエル化現象」から戻り、心の中で叫ぶ。
『どこまでフザケたら気がすむんだ!?
俺の電脳はッ!!』
しかしそんなツッコみで事態が好転することは無い。
ただ無情に時がすぎる。
【 時間停止 2秒 】
あるいは……「爆弾だから空中で爆発させても鉄塔を破壊できるのでは??」と思うヤツもいるかもしれないが、そんな訳ない。
道具という物は、ちゃんとした方法で使わないと効率良く働かない物なんだ。
どんな優秀な爆弾でも、無目的に爆発させると威力半減どころの話では無い。
しかし迷ってる時間は無い。
「クソッッ!!これだけはッッ!!」
と叫んで
静止した時間の中で
俺は電脳を操作する。
【
【 時間停止 2.2秒 】
俺の意図を理解しているのか……長過ぎるレーザーの刃が赤黒く伸びた。
その長さは……15m以上にも達する。
【 時間停止 2.3秒 】
俺は右手をそのまま引き上げた。
もちろんレーザーに重さは無い。
天をも突かんばかりの長さの光刃は、軽々と持ち上がった。
モノクロの空に
俺の右手に、わずかな手ごたえが生じる。
鉄骨にぶつかった光刃が、鉄塔を簡単に溶断しはじめた。
しかしそのせいで、大量の火の粉が俺に降り注ぐ。
灼熱の“雪“が降り注ぎ、裸の俺の上半身を焼く。
モノクロだった景色が、降り注ぐ大粒の火の粉で真っ赤に染まった。
熱い!!
熱い!!!!
熱い!!!!!
しかし辞めるわけにはいかない。
この手を離すわけにはいかない。
俺は奥歯を噛み締める。
【 時間停止 2.5秒 】
髪が焼ける嫌な匂いが充満する。
肌が焼ける匂いもただよう。
しかし俺は、まっすぐ前を睨む。
黒い翼が生えた
だから俺はさらなる意を決し、
「
一際大きな火の粉が辺りに飛び散り、
さらに大量の火の粉が俺の体に降り注ぐ。
体中が熱いッ!!!!
痛いッ!!!!!!!!
骨まで溶けてしまうッッ!!!!!!
……が、しかし……
アンテナ塔は確実に真っ二つに溶断できたはずだ。止まった時間の中ではアンテナ塔は崩壊しないが、とりあえずの安堵が俺の心の中に芽生えた。
精魂尽き果てた俺は片膝をつく。
【 ナユタ様の魂の残量 ///40→19% 】
俺は身体を動かすことができず……呻くしか無かった。
「はぁ……はぁ……やった……ぞ……」
【 時間停止 2.7秒 】
片膝をついてコンクリートの地面を見たまま俺は考える。
『これで終わった……これで……アンテナ塔を破壊して……EQの配信を終わらせて……しかも、シノブのエモとらも解除される……』
——そう思った俺は、片膝をついたまま顔を上げた訳だが……。
俺の両目にシノブの【フンドシの尻】が飛び込んできた。
【 時間停止 2.9秒 】
本当はお前達にすら言いたくは無かったんだが……
つまりその【フンドシの尻】は、Tバックすら超えた感じの凄いヤツなんだ。
美少女の食い込んだ尻は最高だ。ヒノモトの宝だ。
これはお前達も全くの同意見だと思う。否定できるやつなんてこの世に居ないはずだ(※あくまでナユタ個人の意見です)。
特にシノブの深いカーブの安産型の尻は、ちょっと大きめで、それはそれは素晴らしい形で……つるつるでふわふわで、まんまるだった。
ヒノモト人女性らしい体系のシノブの尻は、富士山の脇に浮かぶ初日の出よりも美しかった。
少し話が脱線してしまったが……とにかくつまり……今のシノブの下半身は、脚絆を足に付けただけの『ほぼ全裸』に見える訳だ。
だから俺はこの時、逆の意味で冷静になることが出来た。
『シノブの尻が……
【 時間停止 3秒 】
これも今さらの話だが……シノブ達の武器は「ナノマシーン衣装」と呼ばれる
ナノマシーン衣装とは、植物繊維大のナノマシーンが集まって衣装を形成している。
そして「エモとら」とは、「ナノマシーン衣装」をオーバークロックさせて変身する能力なわけだが——この瞬間、俺の頭のなかで一つの疑問が生じた。
それは——
『エモとら中にWABISABIが機能停止した場合、シノブの
——という事だった。
【 時間停止 3.1秒 】
その疑問の結論が出るより先に、俺は走り出す。
もちろん……
お馴染みのセリフを吐きながらだ。
「なんでこうも上手くいかないんだッ!!
クソがぁぁぁぁあああッ!!!!!!!!!」
【 時間停止 3.2秒 】
疑問の答えは分からない……がしかし、そもそも俺がここに居るのには目的がある。
それは最初から俺の中では一貫している。
そもそも俺は、『シノブのあられも無い姿を配信に載せたくない』からここにいる訳だ。
だからこそ俺は——
——「基本無料の死にクソゲー」をして、
——ココロの鎖に虐げられ、
——ゾンビ達にボコられ、
——左腕を失い、
——火の粉で丸コゲになりながらも、
必死の決死のマラソンを続けているわけだ。
限界目前の俺の肺が、空気をなんとか吸い込む。
「はぁッッ!はぁッッ!!はぁッッ!!」
【 時間停止 3.4秒 】
だからつまり、わずかな可能性でも潰さないといけない訳だ。
なぜなら俺は今の
シノブの肌が衆目の元に晒されるのは、少しも我慢できないからだ。
当たり前のことだ。
愛する女の裸を全世界に配信して喜ぶヤツなんている筈が無い。
そんなやつは……
「はぁッッ!はぁッッ!!
約束どおり……俺がお前を守ってやる……からな……」
【 時間停止 3.6秒 】
必死で走った俺の目前に、シノブの背中が迫った。
『もうすぐ時間停止が終わる』
そんな予感が俺の
いやむしろ……異常なほどの焦りが生じた。
俺は走りながら、自分の
【 時間停止 3.8秒 】
しかし俺はそのせいで
「ッ!!!」
シノブの足元のコンクリートで頭を打ち付ける。
走った勢いのまま激しく頭を打ったせいで、目から火花が飛び散った。
【 時間停止 3.9秒 】
そんな事にも構わず、もがきながら袴を脱ごうとする。
しかしやはり、脚に絡まってうまく脱げない。
『クソ!!
時間が足りない!!
今回の時間停止が4秒より長くなるとは考えられない!!!』
【ウメコの破れパンツ】で発動した時間停止が4秒だったわけだから、【ココロのTSブリーフ】がそれより長いとは考えられない。
なぜなら俺は……やっぱ女の子が好きだからだ!!
この時の焦りまくった俺は完全に何も考えられない状況だったわけだが……しかし藁をもすがる気持ちの俺は、無意識で“それ“を起動した。
赤いホログラムが俺の目前に浮かぶ。
【
その瞬間、全ての動きがスローモーションで見えるようになった。
【 時間停止&久遠多無 3.901秒 】
今さら分かったことなんだが……
パンツァーと呼ばれるバイオロイドが作った「チート電脳」を積極的に使うなら——「チート暴力」するんじゃなくて、こうやって「電脳を活性化」するのが最も正しい使い方だと思う。
そうすればこうやって——時間の経過を緩やかにしたり、物凄い速さで行動したり——できるわけだ。
そして、賢いお前たちならもう既に理解していると思うが……
つまり今回の
まあ……そんなこんなも全部いまさら気づいた事なんだが……ブリリカの
『こぼれたミルクは盆に返らない』……ってな?
だから俺は、ため息まじりに呟いた。
「自分の死を目前にして無様に袴を脱ごうとしてるなんて、さすがに俺、ダサすぎないか?
……できることなら、もうちょっと穏やかな時間を過ごしたかったな……」
【 時間停止&久遠多無 3.902秒 】
ともかくそんな感じで、自分のバカさ加減にため息をついた俺は冷静になる。
見上げるとシノブの食い込んだ尻がすごい迫力で目に飛び込んできて「うほー」と言いそうになったが、そうじゃ無いんだ。
俺にはまだやることが残されているんだ。
だから俺は、立ち上がった。そのまま袴がずり落ちて、足元に溜まった。
俺の灰色のトランクスの間から空気が入り、少し肌寒く感じた。
【 時間停止&久遠多無 3.909秒 】
『まずは……シノブの胸を守らないと』
そう思った俺は、足元の袴を拾い上げてシノブの胸を覆おうとする。
しかし俺は今、シノブの後ろにいる訳だ。
シノブの黒い翼でシノブのおっぱい……じゃ無かった、胸が見えない。
俺はふたたび焦り始める。
カニ歩きの不審な動きで、時間停止したシノブの前に回る。
【 時間停止&久遠多無 3.921秒 】
紺色のビキニに包まれたシノブの胸は、モノクロでも輝いて見えた。
思わずそのCの谷間に顔をうずめ、柔らかさを顔全体で堪能したくなったが……違うんだ。今は時間が無いんだ。
俺は名残惜しい表情のまま、袴を使ってシノブの胸を隠した。
加えて袴の脚の部分を利用して、シノブの背中で結ぶ。
停止した時間の中でも、シノブの甘い髪の匂いが鼻腔をくすぐった気がした。
右手だけでその作業をするのはかなり難しかったが……まったく苦にはならなかった。
死の前に愛する女の肌にゆっくり触れれるなんて、最高じゃないか?
【 時間停止&久遠多無 3.935秒 】
そして俺は右腕でシノブの身体を抱きしめる。
その身体はどこまでも柔らかく、しかししっかりとした弾力で俺の裸の胸と重なりあった。
最高だった。
おそらくどんな高級布団を抱いてもここまで気持ちよくは無い。
そして、シノブの太ももに当たった俺の下半身がまたしても暴れ出すが……そうじゃ無いんだ。下半身をシノブに擦り付けたい訳じゃ無いんだ。
俺にはまだやることが残されているんだ。
そう考えた俺は、シノブの身体を真上に持ち上げた。
【 時間停止&久遠多無 3.947秒 】
俺は浮いたシノブの身体を、そのまま空中で静止させた。
すぐに自分の身体をシノブから離す。
シノブは立ったままの姿勢でモノクロのまま、不自然に空中に浮かんでいた。
そんなシノブを見ながら俺は、灰色のトランクスをおもむろに脱いだ。
元気になっていた
【 時間停止&久遠多無 3.966秒 】
ちなみにお前達はもう忘れているかもしれないが……今はまだ夏じゃない。むしろ梅雨前の季節だ。晩春だ。
完全な全裸になった俺の股間は、空気にさらされてスースーした。
しかし時間は無い。
時間停止したシノブに、自分のヤツを見せつけるプレイをする為にトランクスを脱いだ訳じゃ無いんだ。
俺は全裸のまま浮いたシノブの前に屈み込む。
そして自分のトランクスを広げ……それをシノブに履かせた。
【 時間停止&久遠多無 3.973秒 】
これでシノブの胸は俺の袴で守られ、下半身は俺の灰色のトランクスで守られる訳だ。
なんとも言えない格好だが……仕方がない。
この状況でわがままなんて言っていられない。
なにしろ隣では、【TS美少女の凸の形にもっこりした純白のブリーフ】の織姫ココロが悦んだまま時間停止している訳だしな……。
そして俺は、シノブをふたたび見る。
シノブの目からは、涙が溢れたままだった。
だから俺は、その涙を指でぬぐった。
【 時間停止&久遠多無 3.985秒 】
シノブの涙は俺の指の上で時間を取り戻し、流れた。
それを見ながら、シノブに話しかける。
「すまなかったとは思う……。
言い訳なんてして欲しく無いと思う。
だが……あいにく俺はバカで不器用なんだ。
シノブの命とシノブの肌のどちらも守る為には、こうするしか無かったんだ……。
あるいはシノブなら『どうしてプロデューサーさんはそんなにバカの変態さんなんですか?』……と罵るかもしれないが……。
もっと罵って欲しい……じゃ無くて……許してほしい。
俺だって、シノブの声をもう一度聞きたかったが……あいにく俺は地獄行きが決まってしまった。
だからシノブ……来世でまた会って欲しい。
来世でなら罵ってくれても良いし。
来世でなら俺にドロップキックをかましてくれても良い。フランケンシュタイナーなんて……ご褒美だ。
そしてその時になったら……
俺はやっと、君に言えるはずだ……」
モノクロのシノブの瞳と目を合わせた。
「……『愛してる。シノブ』……って……次の機会には、はっきり言える筈なんだ……」
そう言った俺の瞳からも、涙があふれたような気がした。
【 ジャスト4秒!! 】
【 パンツァー終了!! 】
【 アルマゲドンまで残り0.2秒 】
全てが動きを取り戻し、ピンクと水色の狂った色彩が戻ってきた。
宙に浮かんでいたシノブの身体が、俺の前に降り立つ。
真っ赤なシノブの両目が、驚愕の色を浮かべる。
【 アルマゲドンまで残り0秒 】
【
俺の身体が、浮き上がる。
俺は魂ごと、消え去ろうとする。
シノブの「ナユタさぁぁああんッ!!」という金切り声が再び聞こえた気がしたが……俺は最期のセリフを呟いた。
あるいはそのセリフが辞世の句であるのなら、「極まった変態」として輝かしいヒノモトの歴史に俺の名が刻まれそうだが……ともかく俺は、すべてが消え去ろうとする瞬間に、今生の別れとは全く縁遠いセリフを呟いてしまった。
世界がゆっくりホワイトアウトする中、俺は呟く。
「俺のトランクスを履いていも……シノブは最高に可愛いんだな……」
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