98話 災婆堕天使
【ナユタ視点】
「シノブちゃんのッ!!
女垂らしッッッ!!!!!!」
織姫ココロの身体が宙に浮かび、目を開けられないほどの水色に輝く。
【 ♡エモとら変身バンク♡ ♡開始♡ 】
(※以下の演出は変身バンクなので、現実では0.001秒ぐらいで全てが終わる感じです)
まず最初に織姫ココロの紺色の水着が、バラバラになって弾け飛ぶ。
「んっ……」と言った織姫ココロが、目を瞑ったまま恥ずかしげに悦ぶ。
右脚と左手を上げて胸と股間を隠した織姫ココロは、白ニーソだけの真っ裸になる。「それもアリだな」と俺は呟く。
次に手首が円形に光り、7mほどの鎖が付いた金色の
首も同様に円形に光り、金色の
そして目を閉じたココロは、「白ニーソ+手枷首枷+全裸」の身体を後ろに大きく逸らす。
その時”不幸な事”に……じゃなく……”幸いな事”に、
ココロは前に大きく屈む。
「ぽん♡」という効果音と共に、背中から2mほどの真っ白な翼が生える。
続いてクセ毛の水色ショートヘアからツインテールが生えて、薄いピンクのインナーカラーが追加される。
そしてやっと、彼女の身体に
白スク水は、何故かお尻の生地だけが遅れて装着されたようで、「パンッ」と音がしてココロの小さなお尻が「ぷるん」と揺れる。
ココロが「んっ……」と息を漏らす。
ココロが目を開く。
いつもより色素が薄くなった紫の瞳が現れる。たおやかに微笑む。「きらん♡」というホログラムと効果音が出る。
そして最後にココロは、宙に浮いた状態で両手を広げたバレリーナのようなポーズをし、翼が横に大きく広がる。
白い羽を模したホログラムが散る。
【 ♡エモとら変身バンク♡ ♡終了♡ 】
そして「ドギューン!!」という効果音と共に、幅10mのロゴマークがど派手にスライドインする。
【
そんなココロの変身バンクを見た俺は、思わず呟いた。
「かわいい……」
金色の
それはもし彼女の内面を知らなければ、二次元専門の俺ですら一発でファンになるレベルの、完全なる美少女だった。
しかし、俺と同じようにココロの変身バンクを見ていたシノブが、何故か「いやっ!!」と叫び、両手で顔を押さえる。
驚いた俺は、思わずシノブに質問する。
「ど、どうしたんだ?シノブ……?
顔が真っ赤だぞ?
ていうか、その手……指が開いてるから意味が無いと思うんだが……?」
「ア、アレを見て下さい!!
プロデューサーさん!!」
「アレ……??」
「ココにゃんの白スクを見て下さい!!」
そう言われた俺は、長い鎖が巻きつくように漂う織姫ココロの身体を見た。
胸元の名札が無くなったココロのスク水は、シンプルな白いレオタード型の水着だった。
それを見た俺は感想を述べる。
「良く見ると確かに、ココロの胸が心無しかいつもよりさらに小さく見えるな。
あれは……どこからどう見ても、完全な無乳だ」
シノブが肯定しつつも、被りをふる。
「そ、そこも大きな変化ですが!!
もっと違うのは、その下です!!」
指の間から見えるシノブの視線を、俺は追う。
さっきも言ったが……
だから俺は、彼女の下腹部の変化に今まで気づかなかったわけだ。
つまり——織姫ココロの白スク水の股間が、不自然に“もっこり”している事に——。
そのもっこりは、「凸」を逆にした形ではっきりともっこりしていた。
つまり、そのもっこりの意味する事は……。
俺は思わず叫んだ。
「生えてるッ!!!!
ココロの股間になんか凄いやつが生えてるッ!!!!!」
赤く染めた顔を手で隠しながらシノブも叫ぶ。
「ココにゃんが!!!ココニャンの股の間が!!!!
凄い感じになってしまってます!!!
いやあああああああ!!!」
俺は無意識的に“自分の”と比べる。
「ワンチャン……あれは……俺のよりも大きいかもしれない」
シノブが独り言のように答える。
「プロデューサーさんの大きさについては、安心してください。大丈夫です」
「え?」
「……あ……」
……と言ったシノブは、動きを凍り付かせながらも顔を真っ赤にした。
水色の髪と白と金色の装備で身を包んだ織姫ココロは、いかにも南蛮風の天使っぽい出立ちだった。
まあ……股間はかなりもっこりしていたが……。
自分の身体を見ながら、織姫ココロは言う。
「これが……あたくしの、エモとら……
TSした影響の所為か、ココロの声は少し低くなっていた。
しかしその声質は、いつもよりさらに透明感が増していた。
自分の身体を抱き、白に近い紫の瞳を細め、ココロはうっとり微笑む。
「素晴らしい……。
快感の渦に飲み込まれて……
そのココロの笑顔は、性別を超えた普遍的な美しさをまとっており、同じ性別?の俺ですら心を乱すほどに妖しかった。
しかしここでセンシティブで変な雰囲気の場を、焦りまくった機械音声が乱す。
「やばい!!
やばすぎるぞ!!
なんか分からんけど、織姫ココロの方がエモとらしてしまったぞ!!
と、ともかく、なんか分からんけど!!そこもとども!撃つのじゃ!!!
今なら、なんとなかるかもしれん!!
撃て撃て撃て!!!」
その声で、存在感がほぼ無くなっていたイチモンジの事を俺は思い出した。
そうだ。今は戦闘中だったんだ。
ココロに““生えた”のが衝撃的過ぎて、完全に忘れてしまっていた。
辺りを見回すと、北奉行所の戦闘ヘリが一斉に銃口をこちらに向けるところだった。
ミサイルが装備されたヘリもある。
しかしそれらが発砲するよりも前に、紫色のホログラムが中に浮かぶ。
【
そして、どこまでも透明な少年のような声が響く。
「
ただ一人なんだ……」
ココロの身体を取り巻いていた鎖が、空中を縦横無尽に駆け巡る。
それは金色の電撃のように、俺には見えた。
その“電撃”が、戦闘ヘリを次々と貫く。
爆音が押し寄せる。
空中で起こる爆炎のウェーブがヘリポートの地面を焦がし、燃えた破片が降り注ぐ。
熱い!!焼ける!!
いやそれどころじゃ無い!!!
このままだとヘリポートが火の海になる!!
シノブの声が聞こえる。
「プロデューサーさん!!お姉ちゃん!!私の後ろへ!!」
その声に従って、俺とウメコがシノブの後ろに駆け寄った。
すぐにピンク色のシールドが現れて、火炎と飛び交う金属片から俺たちを守った。
しかし、その火炎は直ぐに収まる。
戦闘へリを殲滅した織姫ココロが、地上に降り立ち、大きな翼で突風を巻き起こしたからだ。
ココロの翼が火の粉によって赤く黄色く、照らされた。白スク水の彼女の身体は、金色に輝いて見えた。
その容姿は、ただしく「堕天使」だった。
まあ……けっこう、もっこりしてるんだが……。
両手を自分の胸に当てて、うっとりとしたココロは言う。
「どうかな?愛しいしのぶくん。
あたくしのこの身体は……きみのためにあるんだ……。
美しいと思わないかな?」
シノブが、首を横に振って言う。
「思いません!!
もっこりが狂暴すぎる……じゃ無くて……と、とにかく!
いつもの大人しくて優しいココにゃんが!
私は好きです!!」
織姫ココロは妖しく微笑んだまま首を傾げる。
「ウソは良くないよ。
君は優しい僕のことなんて、好きじゃないんだ……。
君の後ろに居るような……男性的な逞しさが、好きなんでしょ……?」
「だ、だからって!
ココにゃんが“男の子”になったからって、私が恋愛感情を抱くわけがありません!!」
そのシノブのセリフを聞いた俺は、「今のココロは、“男の子”じゃ無くて“男の娘”というジャンルなんだが」と思った。
ここで横に居るウメコが、俺に言う。
「ナユタ君……このままでは“マズい”わ……」
俺はシノブと会話をしているココロの股間を見ながら、ウメコの話に答える。
「ああ……アレは“マズい”な……いくらなんでも狂暴過ぎる」
「違うわよ。
ココロの股間の事じゃ無いわよ。
あなたの事よ」
「俺の事……ま、まあ……それもそうだな……。
一応俺はココロの恋敵って訳なんだから……」
「まったく……あなたって本当に、何も分かって無いのね……」
何故かウメコが、やれやれ顔で溜息をつく。
確かに俺は何も分かってないかもしれないが、そんな顔をされる理由は無い。
しかしここで突然、俺の左前の空間が歪み……金色の鎖が現れる。
シノブが叫ぶ。
「プロデューサーさん!!」
その瞬間、激しい金属音と火花が散る。
俺は呆気に取られて身動きすら取れなかったが……弾け飛んで行った金色の鎖から予想するに……俺はどうやら気付かない間に休止に一生を得たようだ。
俺の頬を血が伝う。
そして織姫ココロは、金色の鎖を再び身に纏いながら、少し低い声で微笑んで言う。
「シールドの合間を縫ったけど……弾いたね?
やはりしのぶくんは……本当に好きなんだね……その『にっくき男』のことが……」
微笑んだココロの目から、不自然に涙が流れて落ちる。
シノブが言う。
「プロデューサーさんは関係ないでしょ!!」
「僕がしのぶくんを得るためには、その男が邪魔でしかたが無いんだよ。
だから……分かってくれるかな?」
天使の微笑みのココロの瞳が暗く光る。
禍々しい紫色のホログラムが光る。
【
「こうすれば……振り向いてくれるよね……?
シノブくん??」
ココロの首枷と手枷が輝く。
それらは無数の蛇のように蠢き、シノブに押し寄せる。
「うっ!!!」
一瞬でシノブのピンクのシールドが破壊され、シノブが大きく仰け反った。
薄紫のセミロングヘアーが重力に逆らって浮く。
「シノブ!!!」
シノブの身体が防御体制のまま、飛んだ。
俺は反射的に吹っ飛ぶシノブの身体を受け止める。
しかし勢いは凄まじく、身体ごと3m後退する。
俺の全身の骨が軋んで、激しく痛んだ。
「大丈夫か!?シノブ??」
シノブは目を閉じたまま答える。
「う、うう……。
いえ…プロデューサーさんのほうこそ…」
安堵した俺は、怒り任せに目の前の『堕天使』に叫ぶ。
「やめろココロ!!!!
シノブは君の好きな人じゃ無いのか!!!!」
ココロは金色の鎖を地面に垂らしたまま、妖しく微笑む。
「『あたくしの好きな人』だって……??
なゆたくんにとっても、そうじゃないのかな?」
「話を逸らすんじゃ無い!!!」
「おやおや……ふふ。
ずっと、話を逸せているのは……きみの方じゃないかな??」
そしてココロは、再び翼を広げて宙に浮いた。ついでに白スク水の股間も、ちょっと浮いた。
じゃらじゃらと金色の鎖が音を立て、白い羽のホログラムが舞う。
「あたくしがしたのは、きみが しのぶくんに対してしているのと同じことだよ。
無意味に人を痛みつけて苦しめる……。
きみがしているのは、そういう行いだよ」
「なんのこと……」
ココロの冷徹な声が、俺のセリフを遮る。
「分からない……とは言わせないよ。
君は分かっててやってるのさ?
周りの人達を苦しめて惑わせて……愉しんでるんだろう??
あたくしにも、気持ちは分かる」
「……楽しんでなんていない」
「そうかな……??
あたくしは愉しいけどね……。
あたくしの身体で、たくさんの人を喜ばせて……狂わせて……痛めつけて……。
だからきみもそうやって……しのぶくんの心と身体を「搾取して」喜んでいるのさ……」
「俺がシノブを搾取だと!?」
声を荒げ始めた俺に対して、腕の中のシノブが言う。
「ナユタ……さん……?」
俺を見るシノブのグリーンの大きな瞳にスモッグの
怒りが鎮まり、俺は少し冷静になった。
だから俺は、考えた。
正直に言うと……情けない事だが、俺はココロの言っていることが理解できていた。
この仕事をはじめてからの俺は、LPだとか、恋愛感情だとか、女心だとか、秋の空だとか……訳の分からない事ばかりで混乱していたのも確かだが……
「役割の為」だとか、「仕事の為」だとか言って……俺は考えを先延ばしして来た。
そうすることで俺は、シノブに同接数を稼がせて、戦わさせて、エモとらさせてきたんだ……。
俺は、このクソみたいな社会が嫌いだが、そのルールに組み込まれているのも俺なんだ……。
俺がアカラにキレたのも……あれは、俺自身に対する怒りでもあった訳だ。
そしてシノブの涙の告白を聞いて、やっと俺は自分の中の“何か”が理解できた。
はっきり言って……カナタの人生を追体験した時には「荷が重過ぎる」と少しビビったが……シノブの告白を聞いて、俺にやっと決心が付いた。
何もかもが、遅過ぎる気もするが……仕方ない。
後悔はこれまでにも何度もしたが、もう嫌だ。
もう後悔はしたくない。
だから俺はシノブに今、言うんだ。
俺の正直な気持ちを……。
だから俺は、自分の胸の中で不安そうな顔をしたシノブに向かって言う。
「いまさらだが、謝る……。
すまない。シノブ。
実は……俺は君のことが……好きなんだ」
シノブの顔に、驚きの表情が浮かぶ。
微かに「……え?」と呟く。
俺は続ける。
「もちろんプロデューサーとして、あるいは役割として言っている訳でも無いし……。
『アイドルとして』とか『人間として』とか……そういう意味で『好き』って言っている訳じゃない……」
シノブの瞳が、さらなる動揺で揺らめいた。
俺は息を呑む。
彼女の瞳を真っ直ぐ見つめて言葉を続ける。
「俺は恋愛対象として、女の子として、シノブのことが好きだ。
シノブに最も性的に興奮するし、できればもっと君の事を知りたい。
クソで甲斐性なしのオッサンの俺が、君にこんな感情を抱いて良いのか分からなかったし……何より自信が無かった。
ただ今は何故か……ハッキリと言える……」
シノブの瞳から、涙が一筋垂れた。
その涙の理由は分からないが、俺は言う。
「俺はシノブの事が好きだ」
なぜか俺の視界が歪む。
しかし俺は、真っ直ぐにシノブの瞳を見てもう一度言う。
「俺はシノブのことが大好きなんだ」
そして俺は、黙ってシノブの顔を抱き寄せる。
シノブは大きな瞳をさらに見開いて、驚愕の表情を続けていた。
かまわず俺は、自分の顔を彼女に近づけ、薄紫のセミロングをかき分ける。
そして俺は、シノブの額に口づけした。
どこまでも甘いシノブの汗の香りがした。
シノブの身体が「びくん」と動く。
俺は彼女から離れる。
シノブはいつもより増して目を大きくして、はち切れないばかりに見開いていた。
至近距離のシノブと俺の息が、混じり合う。
そしてシノブが小さな声で言う。
「え……何?」
俺は、彼女の予想外のセリフに若干焦って聞き返す。
「……ん?……え??
何って……なに?」
「い、いま……プロデューサーさんって何を……私に……?」
「な、『何を』って言われても……」
「え、えっと……私の額に……プロデューサーさんの何か柔らかい雰囲気のやつが……くっついて……」
「あ、ああ……それは……
そ、そうだな……口づけ……だな」
「く、くりづけ……」
「
どっかの町の名産品か……??
俺が言ったのは……『口づけ』だ」
「と、ということは……
もしかして、ナユタさんが私に……『ちゅー』を??」
「あ、ああ……。
そ、そうだな……
『ちゅー』だな……」
と俺が言った瞬間、シノブの顔は真っ赤になった。
RGBで言うとR100%の「ド赤」だ。
目を突き刺す、どうしようもないほどの赤だ。
そしてシノブは、叫ぶ。
「ふわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
そして俺の胸の中で、手足をばたばたさせる。
「うわ!!急に暴れるな!!シノブ!!
お、怒ってるのか??」
「ち、違います!!めっちゃ嬉しんです!!!
ち、違います!!何を言わせるんですか!!!!」
シノブが真っ赤にした顔を、手で押さえる。
それと同時に、空中に赤いホログラムが映し出された。
【 エモとら :災婆鬼(サイバーデビル) 】
/// EMOtional TRAnsformation system
/// [ CYBER DEVIL ] mode
/// Forced Startup…
俺はそれを見て、素っ頓狂な声をあげる。
「え??な、なに??
シノブがエモとらすんの??
強制起動??
な、ななななんで??」
その瞳は、れいのごとくピンクの♡になっていた。
「誠におめでとうございます!!
ただいまシノブ様のLPが、正の値のカンストを振り切りました!!その値は30万!!!
理論値を何十倍も超えた快挙です!!ナユタ様!!
よって『ジュンアイ状態』に突入……。
【|災婆堕鬼《サイバーデビル】モードが強制起動されます!!!」
俺は同じ質問を繰り返す。
「い、いや、だから『なんで』シノブのエモとらが強制起動するんだ!?!?」
そして、ウインクをして言う。
「それは私にも分かりません♡♡♡」
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