96話 キャッチャー・イン・ザ・パンツ

 万錠ウメコの——


【破れた黒タイツから覗くライムグリーンのパンツが破れ……その中から覗く肌色のとても丸くて美しい”双曲線”……要は……生尻なまじり!!】


——を目前にした俺は思わず息を飲んだ。


 真円に近い弧を描く“肌色の双曲線“は、重力と生地の圧力に逆らうように盛り上がり、迫力すら持って破れたライムグリーンからせり出している。

お尻最高。


 間近で見る“肌色の双曲線“は、柔らかそうでシミ一つなく、何よりも丸く、見るだけで俺の心は多幸感と性的興奮リビドーで満たされた。

お尻最高。


 ウメコは右手を伸ばして何かに捕まっているようなので、腰骨も右上に傾いている。

その事により大臀筋の円弧は左右にずれ、お互いで圧迫して反発して、深い素敵な谷を魅惑的に形成していた。

お尻大好き。


 そして引きちぎられたライムグレイの生地の下端は、彼女の左尻と右尻の間から、申しわけ程度に垂れ下がっていて、俺の情欲を可能な限りマックスまで増幅させる。


「この破れて垂れ下がったライムグリーンの意味する所は、つまり……ウメコの下半身が完全に露出してるって事だ……」


だから俺は、ウメコの部屋で過ごした一夜を思い出した。


そうだ俺は、あの時……ウメコのスケスケレースの向こう側を見たかったのに見れなかったんだ……。


 俺の下半身が電脳から切り離されて、一瞬で天を衝かんばかりとなった。


 強気で肉食系でいつも何かにつけて俺を責め立てるウメコの下半身が、今目の前で無防備に露出しているんだ。


我慢できる筈なんていない。


だから俺はライムグリーンの生地が垂れ下がる隙間に、人差し指を伸ばし続けた。


……が……しかし……届かない。


俺の手は、ウメコの股の間の数センチ手前の空間をうろうろするだけで、ツルツルに輝く生尻に触れることは叶わなかった。


空中でもがきウメコの尻に手を伸ばす俺は、「アダムの創造」という南蛮の絵の中で『神に向かって手を伸ばすアダム』のようなポーズだった……。


だから、創造主に見放されてしまった俺の心の中は漆黒の絶望で塗りつぶされ、涙すら溢れ、天を目指していた下半身さえも、ちょっとだけうな垂れた……はずだ。


 だから俺は嗚咽した。


 嗚咽しながら絶叫した。


「生尻!!すりすりしたかった!!!!触ってみたかった!!

 そして!!あの柔らかそうな“肌色の曲線“の間隙かんげきにっ!!

顔をうずめて感激してみたかったんだぁあああ!!!!」



【 0.5秒経過 】



 ひととおり絶叫した俺は絶望を振り払い、冷静を取り戻す。そうだ。俺はどっちかと言うとブッディストなんだ……。


ともかく理由はよく分からんが、今パンツァー中の俺は落下することは無いようだ。

ウメコの生尻に手を伸ばしてもそのまま空中に停止している事からも、それは明らかな事実だ。


つまり時間停止中に俺が行うべきことは、ウメコの生尻を触る事ではなく!……ぶら下がったウメコを救うことなんだっ!!



【 0.7秒経過 】



空中の俺が前に進め無いことは、さっきの行動で分かった。


大昔のアニメみたいに泳いでちょっと身体が動くみたいな事は、無いようだ。


だから俺は、なんらかの反動を使ってウメコの方に行かなければならない。


周囲を見渡すと、俺の左手の2m先に通信アンテナの鉄骨の柱が見えた。



【 0.9秒経過 】



 俺はなんとか身体を振り向かせて、シルバーに輝く柱を向き電脳刀サイバーカタナを抜く。


“突き”の要領で鉄骨に向かって電脳刀サイバーカタナを差し出すが、届かない。


あと俺の腕が5cm長ければなんとかなるんだが……残念ながら俺はヒノモト人の標準体型なので、腕と脚はそこまで長くない。



【 1.3秒経過 】



「この方法だけは使いたくなかったが……」


 と俺は言いながら、自分の電脳を操作して網膜ディスプレイにUIを浮かび上がらせる。


【!!電脳火縄銃サイバーレールガン起動!!】

【!!周囲3mの安全をよく確認してから、発砲しましょう!!】


 俺は諸肌を脱ぎ、左半身を露出させた。


 通信アンテナに正対し、開いた左手を構える。



【 1.7秒経過 】



 本来、電脳火縄銃サイバーレールガンに反動は無い。だからサイバーMODとして義腕に格納して使用できるわけだ。


つまり発射時の反動を利用してウメコのところまで行くことは出来ない。


 だが、弾丸命中時の爆発は別だ。


貫通力の高い電脳火縄銃サイバーレールガンの弾丸だが、今俺の目の前にある頑丈な鉄塔の柱に命中させると相応の爆発が生じるだろう。


その爆発を利用して、俺はウメコのところまで飛ぶ。


そうすれば、ウメコと共に安全に着地できるかも知れない。


【!!電脳火縄銃サイバーレールガン展開中!!】

【!!少々お待ちください!!】


 俺の左前腕部分の人工外皮が、放射状にひらく。


義腕から無骨な黒い鉄の銃身がせり出した。



【 2.2秒経過 】



【!!電脳火縄銃サイバーレールガン展開中!!】

【!!少々お待ちください!!】


 次に肘から上の人工外皮が割れて、90度回転する。


 鉛製の”火縄”が露出する。【※電脳火縄銃は、コイル状の鉛塊(=火縄)を分子カッターで微小の鉛片にカットして電磁力によって射出する銃。よってナユタが”弾丸”と呼称しているのものは”鉛片”のこと】


 その後、露出した人工骨が変形し、中から電極が下向きにせり出す。


 俺は義腕を右手でしっかりと支えて、待つ。



【 2.4秒経過 】



【!!電脳火縄銃サイバーレールガン展開中!!】

【!!少々お待ちください!!】


 肘から出た電極が逆方向に回転し、前腕の砲身の後部に「ガシャン」と接続される。


そして砲身から「弾丸加速用レール」が前方向に伸長する。


レールは3段階に格納されていたようで、モーター音と共に伸びる。


 俺は義腕を構えたまま、待つ。



【 2.9秒経過 】



【!!電脳火縄銃サイバーレールガン展開中!!】

【!!少々お待ちください!!】


 伸びるレールは、1.7m程に達した。


 これで俺の左肘からレールを含めた銃身長は、2m程になった。


電脳火縄銃サイバーレールガンの威力はレール長に比例する。


これぐらいの長さなら……目の前の鉄骨が溶解し、穴が空く可能性がある。


最悪……俺の義腕ごと吹っ飛ぶんじゃ無いか……。


 俺は人間としてはあり得ない長さに変形した義腕を構えたまま、冷や汗を垂らし、さらに待つ。



【 3.5秒経過 】



【!!電脳火縄銃サイバーレールガン展開中!!】

【!!少々お待ちください!!】


 跳ね上がっていた前腕の人工外皮が回転して水平に割れ、リアサイトとフロントサイトに変形する。


 俺の網膜ディスプレイに十字形のレティクルと、VRのトリガーがホログラムで浮かぶ。


 支える生身の右手が若干プルプルしてきたが……しかし俺はそのまま、もっと待つ。



【 3.9秒経過 】



 残った前腕の人工骨が変形してバイポットに変形を始める。


それを俺は待つ……つもりだったが……しかし、さすがに耐えかねて、叫ぶ。


「かっ!!かっこいいが!!

 そうじゃ無い!!

今俺が望んでいるのは、こういうヤツじゃない!!

 起動時間がこんなに掛かるなんて聞いていない!!

 このままでは!!

時間停止が終わってしm……」

 


【 ジャスト4秒!! パンツァー終了!! 】



 世界の色彩と音が戻り、時間停止が終了した。


 俺の身体が重力に暴力的に引っ張られる。しかし、電脳火縄銃サイバーレールガンは変形を続ける。


俺とウメコの生尻が、同じスピードで落ち始める。


マズイ!!このままでは、最高の尻とウメコを助けられない!!!


 しかしここで俺は機転を効かし、“電脳リンク“を使い頼りになる“美少女AI”を呼び出す。


【※AIとの電脳内での会話は超高速で処理できるので、以下の会話は0.001秒ぐらいで終わる感じです】


『へい!!SABIちゃん!!

 変形中の俺の電脳火縄銃サイバーレールガンを強制的に発砲させてくれ!!!』


 網膜ディスプレイ上に現れたSABIちゃんは、驚いた顔で言う。


『え!?びっくりした!?

電脳火縄銃サイバーレールガン……いつの間に展開したの!?

 ああ……ウメコの破れパンツでパンツァーしたのね。

それにしてもナユタ……』


 と言ったSABIちゃんは、蔑み顔で言う。


『……火縄銃レールガンと一緒に股間も伸ばして……もしかして……アタシに見せつけてるの?そういうプレイ?』


『プレイじゃない!!

これは生理現象だ!!

 今は気にするな!!』


『ふーん。

ナユタのって、いつでもすぐに伸びるのね……。

キモ……。

 ともかく分かったわ。強制発砲させてあげる』


 ……とSABIちゃんは俺の下半身の尊厳を著しく損ないながらも電脳火縄銃を強制起動する。


 電脳火縄銃サイバーレールガンに火が入り、電気的に唸る。


『もう分かってるかもしれないけれど……

このままだと鉄塔の柱が近過ぎるから、発砲するとアンタの義腕ごと吹っ飛ぶかも知れないわよ?』


『承知の上だ!!』


『それでも助けたいのね?ウメコを?』


『当たり前だ!!』


『じゃあ……アタシの事も……?』


『??……何のことだ?』


『……分からないのなら……良いのよ。衝撃に備えて?』

 

『あ、ああ……』


 次の瞬間、俺の左義腕が激しく閃光した。


火縄銃レールガンの甲高い炸裂音が聞こえる前に、視界が真っ白になる。


「ッッ!!!!!」


 声をあげる間も無く、左半身を莫大な衝撃が襲う。


 その事で俺は、キチク芸能社のトラックに轢かれた時の衝撃を思い出し、自分の左義腕がバラバラになる事を覚悟した。



【!!電脳火縄銃サイバーレールガンに甚大な損害が発生!!】



 そして衝撃により、俺の身体は空中で回転し、飛ぶ。


 しかし同時に、落ちるウメコの後ろ姿が急速に近づいた。


 俺は、逆巻く彼女のブルーのロングヘアーを右手でかき分ける。


彼女の腰を右腕で抱く。


ウメコの身体を引き寄せて叫ぶ。


「ウメコ!!

一人で戦わせてすまなかった!!」


ウメコの芯があるが柔らかな身体の感触と、匂いを感じ、俺は懐かしさと安堵を感じた。


その事で俺は、電子の世界で体験した万錠カナタとMATSUKOの最期をフラッシュバックした。


 レモンイエローの目を見開いたウメコは言う。


「ナユタ君!?!?」


 空中でもつれた俺達の身体は、慣性により回転を続ける。


 スモッグの空よりも青いウメコのロングヘアーが、俺の首に巻き付いた。


 俺は自分の居場所を確認する為に、あるいは自分を落ち着かせる為に言う。


「大丈夫だ……なんとか……

“蓮華に囲まれた涅槃の向こう側から”帰って来れたからな」




————




 サイバーレールガンにより空中で軌道を変え、斜め横方向に吹っ飛んだ俺とウメコは、ヘリポートのコンクリートの床に「不時着」した。


 衝撃に備えて、俺はウメコの頭を右手で抱え込み、左義腕で二人の身体をかばった。


サイバーレールガンがコンクリートに擦れて火花を散らす。


しかし衝撃は止まらず、俺達は抱き合ったまま横向きに転がった。


「く!!」

「あんっ!!」


 ウメコがちょっと変な声を出したが、今は勢いに身を任せるしかない。


こういう状態で変に動くと、かえって大怪我をする。


要は受け身ってやつだ。


 だから俺達はそのまま数メートル、ヘリポートの上を転がり続けた。


その最中にもウメコが声をあげる。


「んっ!……ナ、ナユタ君!!待って!!

 ナユタ君のが!!」


「声を出すな!舌を噛むぞ!!」


 俺達は絡まり合ったまま、転がり続ける。


「ち、ちがうの……んっ!……ナ、ナユタ君が……」


「俺が?どうしたって?」


 俺はウメコの様子に少し違和感を感じた。


なんかちょっと、声色が恥ずかしげなんだ。


 しかし回転は止まらない。


俺達は転がり続け、俺達の身体はさらに密着を増す。


ウメコの脚が俺の脚に絡まった。


「あんっ!

 ちょ!!ナユタ君!?

ま、待って!!」


「待てるか!!今は無理だ!!」


「ち、違うの!

ナユタ君が私に……んっ!

 と、とにかく!!

待ってって言ってるでしょ!!!!」


 と叫んだウメコは、俺を突き飛ばした。


横回転に縦回転のモーメントが加わる。


「うおお!!」

「きゃっ!!」


回転が複雑化した俺達はさらに絡まり合いねじれ合い、もうぐちゃぐちゃで、くんずほずれつとなる。


俺の視界は回転し、ウメコの青い髪や破れたタイツで一杯になった。もちろん尻も見えるし良い匂いもする。

体中めちゃくちゃ痛いが、まあ……悪くは無い。


 しかしその「どったんばったん」のお陰で急速にブレーキが掛かり、俺達の回転は止まった。


 ウメコの声が俺の胸の辺りから聞こえる。


「いたたた……ど、どうなるかと思ったわ……」


「そ、それはこっちのセリフだ……」


 視界を落とすと俺のはだけた胸の上に、ウメコのネイルの綺麗な指が見えた。


そしてさらにその下を見ると、ウメコの紺色のスーツとシャツが見え……その下には美しい曲線を描く真っ白な鼠蹊部が見えた。

そしてもちろん、鼠蹊部と太腿の間には、形が揃えられた美しいささやかな茂みが輝いている。


ん?……美しいささやかな茂み……?……と俺が思ったのも束の間……。


「ひいっ!!!」


 というウメコの小さな叫び声が聞こえた。


だから俺は思わず、彼女のレモンイエローの視線を追った。


 そして彼女の視線の先に俺は……千切れたライムグリーンの薄布が絡み付き、そして天を衝かんとそびえる俺の下半身を見た。


要はつまり……ウメコの破れパンツが、俺の盛り上がった袴の部分に巻き付いていた訳だ。


ライムグリーンの生地は良い感じで俺のやつを締め付けていたので、俺はほんのちょっとだけ良い気持ちを感じた。


 そして、上半身裸の俺と下半身破れタイツのウメコが絡まり合ったピンクな空間に、とつぜん、震えた“美小女の声が響く。


 薄紫のセミロングの美少女が、俺たちを見下ろして言う。


「半裸で絡みあって……。

プロデューサーさんのとつにパンツが絡み付いて……。

 いったいなにが……どうしたら……

そんな事に……なるんですか……?」


 そう言ったシノブのグリーンの大きな瞳は、小刻みに震え、光を失っていた。


 俺は一気に青ざめ、股間も元気をなくし、おれの腹の上にウメコの破れパンツがはらりと落ちた。


 そんな俺の網膜ディスプレイに、WABIちゃんが美人に現れて言う。


「ナユタ様……非常に残念なお知らせがございます……。

シノブ様のLPがたった今、マイナスに反転……。

その値は……-8900となりました……。

 つまりは、緊急事態でございます」


 そんなWABIちゃんの表情もどこか冷たく……呆れたような美人顔で俺を睨んでいた……。

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