83話 中堅アイドルと戦おう2

 8人に分裂したイチモンジが、刀を手にしていっせいに笑う。


「「「「「「「「ナハハハ!こなたの夢幻ゆめまぼろしの剣術!うけるがよい!!」」」」」」」」


8人になった”彼女達”は、走り、飛び上がり、それぞれに襲いかかってくる。


 モデル体型のアイドルがテカテカ桃色ラバースーツを着て、しかも8人に分裂して襲ってくる様子は、”ある意味において”夢のような光景ではあるが……全員が虚無僧笠をかぶっているとなると、それは異様な光景ではあった。


 8つの虚無僧笠と、8本の刀と、8つの桃色のくびれと、16の桃色のDカップが、群れを成して向かってくる訳だ。


その様子には”奇妙シュール”さと”性的さフェチズム”が混ざりあい、混沌カオスが極まっていた。


 ウメコが、イチモンジ(のうちの一人)にライフルを発砲しながら言う。


「ココロ!!

 ナユタ君!!

集まって!!分散するとやられるわ!!」


 俺も、目前のイチモンジ(のうちの一人)に発砲しながら言う。


「そう言われても!

 目の前が桃色過ぎて!!」


 ココロも、イチモンジ(のうちの一人)と鍔迫り合いをしながら言う。


「はわわわわわわわ!!!」


 しかしここで突然、忙しい俺の網膜ディスプレイ上に、SABIちゃんが”アイドルステータス”を大写しにする。


― Idol Status―――――――


/// イチモンジ ///

lv. 37

バトルスタイル : サイボーグ 浪人

属性:のじゃ 顔隠れ モデル体型 イジられ 元アイドルヲタ


攻撃 : 180  防御:100 ボーカル : 54 ダンス : 56 可愛さ : 75


【 陽キャ:50 陰キャ:50 パリピ:50 厨二:30】


スキル : 剣術 lv.32 

    ラバースーツ lv.45 虚無僧笠 lv.31 S字ライン lv.29

    ☆一文字八刀流


――――――――――――――


 急に視界がグリーンの文字だらけになった俺は、めちゃくちゃに焦る。


「ちょ、ちょ!!??

今はやめてくれ!!SABIちゃん!!

 文字で前が見えない!!」


 しかしSABIちゃんは皮肉めいた表情でステータスの横に現れ、笑いながら言う。


「あはは。いい気味ね。

 “二次元専門”とか言ってるクセに、人間のアイドルを見る度に鼻の下を伸ばしているナユタが悪いのよ」


「り、理不尽が過ぎるぞ!!SABIちゃん!!」


 その瞬間、イチモンジの刃が光る様子が網膜ディスプレイの隅で見えた。


「うおおお!!」と叫びつつ、俺は紙一重でイチモンジの剣閃を避ける。


斬られた前髪が2、3本、宙を舞っていた。


 だから俺は必死の形相でSABIちゃんに苦情を申し立てる。 


「ほら!?見たか!!??SABIちゃん????

 正に“髪一重”で!!死にかけたぞ!!??」


「知らないわよ。そんな事。

 アタシのせいじゃないわ。

アタシはちゃんと、戦闘AIとしての役割を果たしているんだから」


「確かにそれはそうだが!!

 いくらツンデレキャラとは言え、戦闘中に視界を文字で埋め尽くすなんて……

”嗜虐心”が強すぎるぞ!!SABIちゃん??」


 しかしSABIちゃんは、意地悪な顔で反論を続ける。


「感情の無いAIのアタシに、”嗜虐心”なんてある筈ないじゃない??」


 そんな会話中の俺に、イチモンジが再び刀を振りかぶった。


 俺はイチモンジに向けてライフルを撃つ。


イチモンジはその弾丸を避け、バク宙を繰り返し、俺との間合いを取った。


「さすが中堅アイドルだな……。多少の銃撃なら避けてしまうか……」


 イチモンジの刀の間合いから出てホッとした俺だったが……しかし油断は出来ない。


 何故なら他のイチモンジが、桃色ピチピチで俺の右前に迫っていたからだ。


 あるいはお前たちの中で……『サイボーグって分裂するのか?それとも、現実に干渉するホログラムなのか?ヒノモトの技術水準ハンパないな』と思っているヤツが居るかもしれないが、そんな話、俺だって聞いたことが無い。


 さすがはヒノモトを代表するメガザイバツ——キチク芸能社所属のアイドルって事なのか?一文字八刀流は超技術の塊なのか??


だから分裂したイチモンジと戦いながらも、俺達は大いにビビってる訳だ。


 ともかく俺は全速力で後ろに走り、”イチモンジ達”から間合いを取ることにする。


 ウメコの指示とは違うがしかたが無い。自分の身すら十分に守れないのであれば、ココロの

戦闘支援プロデュースうんぬん以前の話だ。


 そんな俺にSABIちゃんは聞く。


「イチモンジのステータスを見てどう思ったかしら?」


 俺は正直に感想を述べる。


「死にそうでそれどころじゃなかった」


「ふふ。笑える。

でも、今のアンタならイチモンジの剣術も意外と大丈夫だったでしょ?」


「SABIちゃんが笑っている事には、まだ納得いかないが……。

 しかし、確かにそうだったな。

 セツナの音速レベルの剣閃に比べるとマシだった」


「なんだかんだ死線をくぐると……

『ポンコツの電脳で腐った魚のような目で甲斐性もない残念な人間』でも成長するものね」


「SABIちゃん……

俺への罵りスキルが、天元突破しているぞ。

 ワンチャン、EQより俺の事を罵っているぞ」


 俺がそう言っている間に、SABIちゃんが俺の網膜ディスプレイ上を左右に移動し、イチモンジのステータスを消す。


 彼女が目の前を通った瞬間とても良い匂いがしたが、AIであるSABIちゃんに匂いがある筈が無い。とにかく気のせいだったが……非現実的に浮遊するグリーンのツインテールのSABIちゃんは、控えめに言っても、南蛮のアニメの妖精よりもとにかく可愛いくて、とにかく美少女だった。


 SABIちゃんは言う。


「さすがは中堅アイドルのイチモンジね。

戦い方を心得ているわ。

 アンタたち”三人の集結を阻止”している訳ね」


 俺は走りながら質問する。


「イチモンジが”三人の集結を阻止”……か……。

 しかし、それはなぜだ?SABIちゃん??」


 SABIちゃんは真っ平の胸の前で腕を組み、またしても挑発するようなツインテールの笑顔で言う。


「なぜだと思う??」


 これまでのSABIちゃんとのやり取りで流石の俺にも分かってきたが……SABIちゃんが質問に質問を返す時には意味がある。


 まあ……言い方は”ちょっとだけ”嗜虐的で高圧的で……ややドM向けではあるが……。


 だから俺は振り返り、八人の”イチモンジ達”を見ながら考えた。


そして、ふと気づいた事を言う。


「8人のイチモンジが入れ替わり立ち替わり、俺達に襲い掛かってきている訳だが……

 実際に戦っているのは3か4人ぐらいなんだな……」


「良いところに気づいたわね」


「八人もアイドルが居れば、三人の俺達は袋たたきに合いそうだが……

 今のところ、そうはならない……。

 もちろん……俺の命は紙一重で助かり、ウメコの黒タイツの穴は大きくなり、ココロの肩ひもも千切れそうでヤバイ状況である事に違いは無いんだが……」


「……『思ったよりヤバく』は無いわね?」


「ああ……そのとおりだ。思ったよりヤバく無い……。

つまりだから……八人のイチモンジが全員で一度に襲ってきている訳じゃない」


 SABIちゃんはロリっぽい腰に手を当てつつ、片手を軽くあげて質問を続ける。


「話をちょっと変えるけど……イチモンジが八人に増えたのは何故だと思う?あれが全て実物だと思う?」


「そんなはずないだろ?

イチモンジが、イソギンチャクとかプラナリアとかなら話は別だが……、

彼女はどう見たって普通の”ピチピチ美少女サイボーグ”だ。

 分裂するはずがない。

だから、増えたイチモンジは実物じゃない。ホログラムだ」


「そう。あんたの言うとおり、分裂したように見えたイチモンジは全てホログラムよ」


 というか……イチモンジは、一文字八刀流の事を「こなたの夢幻ゆめまぼろしの剣術‼︎」と言っていたはずだ。


つまり彼女の必殺の剣術は、発動初期段階でいきなりネタバレしていた訳だ。どうやら、イチモンジはかなりのバカ……じゃなかった、“おっちょっこちょい“なアイドルっぽいな。


 笑顔のSABIちゃんは、再び腕組みをして話を続ける。


「つまり増えた7人のイチモンジは、ホログラムって訳だけど……、

手の込んだことに、AIのアタシ達も現実と誤認するように”実在情報”が組み込まれているわ。」


 俺は、ココロと剣戟けんげきを繰り返すイチモンジを見る。

イチモンジの剣閃がココロの脇腹を掠めた。”はわる”ココロ。


スク水の生地がはらりと落ち、ココロの脇から背中の生地が大きく破れ、白い脇腹とつるりとした背中が見えた。それに気づいて頬を染めるココロ。


 ヤバイ。放っておくとココロがまたしても全裸になってしまう。

ココロは悦ぶかもしれないが……しかし、”色んな意味”で戦闘不能になってしまうだろう。いま戦闘に参加できる人間が減ってしまうのは、流石にマズイ。


 俺はSABIちゃんとの作戦会議に戻る。


「ともかく……話を元に戻すが……。

 イチモンジが俺達”三人の集結を阻止”する事と、奴の分身がホログラムである事には何か関係があるんだな?」


「そう思わない?

だって、”手品”にはタネがあるに決まっているでしょ?

 ヤツが意図的に何かを狙っている場合、それは高確率で『手品のタネを隠す行為』のはずよ。

 つまり、本来は物理的な攻撃が不可能なはずのイチモンジのホログラム達がアンタ達に襲いかかって来ているのは、「タネ」つまり……何らかの“仕組み“があるはずよ」


「なるほど……一文字八刀流の“仕組み“か……。

それさえ理解できれば……ヤツとの戦闘の勝機が見つかりそうだな。

 さすが『戦術特化タイプのSABIちゃん』と言ったところか?」


 SABIちゃんは腰に手を当てて無乳の胸を張り、自慢げなポーズを取る。胸の上のコアが誇らしげにグリーンに点滅する。


「ふふ。当たり前じゃない?

この程度の作戦提案。ヒノモト最強のアタシの演算能力を持ってするなら、お茶の子サイサイよ」


 SABIちゃんの“作戦提案“を聞いた俺は、可愛くも慎ましい胸を見ながら、自分の顎に手を当て少しだけ考え込んだ。


 そんな俺の様子を見たSABIちゃんは、笑顔のまま質問する。


「あんたのその顔……何か思いついたって顔かしら?」


「察しが良くなってきたな?SABIちゃん」


「アンタと生死をかけて現場にあたるのも、今回で3度目だもの。

アタシの“擬似感情ニセモノの感情“でも、ナユタの考えている事が類推できるようになってちゃったわ。」


 続けてSABIちゃんは、笑顔のまま俺に聞く。


「……それで、どうしたいの?ナユタ?」


 だから俺は、笑顔で答える。


「SABIちゃんのパンツが見たい」


 それまで笑顔だったSABIちゃんの笑顔が、一瞬で曇る。


「え?」


 だから俺はサムズアップしてもう一度、言う。


「拙者は、SABIちゃんの見事な黒のTバックを拝見したいでござる!!」


 そう言った瞬間、SABIちゃんの笑顔は1ピクセルも残らず消え失せ、そこには明確な蔑みの表情が浮かんだ。


 そして『グリーンの究極のツインテールロリAI美少女」は、ゴミか害虫を見るような視線で俺を見下し、定番の“蔑みセリフ“で俺を罵ってくれる。


「まじでッッッッ!!……

キッッッッッモ!!!!!!」

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