78話 ウメコの作戦4

【 織姫ココロ視点 】


 みんな。また会ったね。

ボクは織姫ココロ。ちょっとだけ、失礼するね。


 ボクは西アイドル事務所の軍用ヘリの中で、お外の景色を見ながら呟くんだ。


「はわわ……。

た、大変な事になってるよぉ……。

 ねぇ?見た?

SABIちゃん……??」


 SABIちゃんは、ちょっとだけ困った顔で、ホログラムで現れるよ。


「『見た』って言われても……。

アタシはAIだから常に『見て』いるんだけど……何のこと?ココロ?」


「ナナちゃんのおうちのお花畑で、タマキさんと爆発しながら戦っているやつの事だよ……?

 おっきくて……黒くて……乱暴で……グリーンに光っていきり立っているやつ……」


「ああ。『多脚戦車 ジョロウグモ』の事ね。

 核融合エンジン搭載の最新鋭の多脚戦車よ。

前腕二本のアタッチメントが簡単に交換できるみたいで、フレキシブルな運用が可能らしいわ」


「ち、ちがうよ……SABIちゃん。

ボクは、戦車さんの強さの事をきいているんじゃないよ……。

 ボクがきいているのは、あの脚のことだよ……。

あの脚の本数……。

多くて……わちゃわちゃしていて……。

 ボク……ああいうのを……ずっと見ていると……」


 そして僕は、全身を身震いさせて言っちゃう。


「は!!!!、はわわわわわわわ!!!!!!!!

……ね?

ゾワっとしちゃうんだ……」


「『ね?』じゃ無いわよ。

知らない・・・・わよ。そんなこと」


 そんなSABIちゃんのホログラムを、じっと見ながらボクは言うんだ。


「……SABIちゃん……ちょっと変わったよね?」


「え??何が??」


「何が……って言うと困るんだけど……なんか、どこか……。

 えっと、たとえば……

前のSABIちゃんなら『知らない』じゃ無くて……

『感情が分からない』って……言ってた気がするんだけど……」


 SABIちゃんは、ちょっとだけ驚いたような顔をするよ。


「そ、そうかしら……。

 アンタの気のせいじゃない?」


「そっか。ボクの気のせいか」


 それならきっとボクの気のせいだね。


 そしてSABIちゃんは腕組みをして言うよ。


「ともかく、あともう少しよ。

 ”準備”は良い?ココロ??」


「えっと……。

 SABIちゃん……?

 ……”準備”って……なに?

『あともう少し』ってどういうこと……?」


「降下作戦って言ったじゃない?」


「ボクでも……その、コウカサクセンの意味が……分からないんだけど……南蛮の国の名前?」


「違うわよ。ヘリで海外に行けるはず無いでしょ。

 アンタがヘリから飛び降りるのよ」


 そんなSABIちゃんの言葉に、僕はとってもビックリしちゃう。


「ふぇ!!

 こんなところから飛び降りると……死んじゃうよ??」


「それは、安心して」


 と、SABIちゃんが言ったと同時に、僕の衣装は普段着のダボダボパーカーから、スク水+白ニーソのアイドル衣装に切り替わったんだ。


(ちなみに……僕の普段着は、お尻まで隠れる水色のおっきなダボダボパーカーだよ。もちろんズボンは履かないよ)


 そしてスク水のその——滑らかながらもタイトに身体を締め付ける質感に、ボクはまたしてもビックリして、思わず「んっ」という熱い吐息を漏らしちゃう。


「は、はわわわわわわわわわ!!!!!

だ、だから!!

SABIちゃん!!

 お着換えの時は、先に言ってって!!

いつも言ってるよね??」


 SABIちゃんはにべも無く・・・・・、言うよ。


「いいじゃない。

 アンタ、よろこんでいるみたいだし」


「よ、よよよよよろこんでいないよ!!

 は、はははは恥ずかしくて喜ぶ人なんて居ないよ!?!?」

  

「ともかく、安心して。ココロ。

 アンタは落下するけど、ナノマシーン衣装の効果で死にはしない・・・・・・から……」


「し、死にはしない・・・・・・って……いったいどういう事?」


「やれば分かるって事よ。

ともかく、“ウメコの指定座標”に到着したわ!!

 いくわよ!!ココロ!!!」


「は!!はわわわわわわわわわわわわわ!!

 さ、SABIちゃん!!

 ちょっと、ま″……」


 とボクが言った瞬間、ヘリの床が開いて、スク水のボクの身体はお空に放り出されたんだ。


 だから僕は、成すすべもなく……


「はわぁあああああああああああ!!!」


 と言いながら落ちちゃったんだ。


もちろん、”兎魅ナナ救出作戦”に加わるためにね。




 あと最後に言っておきたかったんだけど……落ちる時の……


お腹がフワッてなる感じ……


けっこう……気持ち良いんだね?……


ちょっと、癖になっちゃうかも……。




—————




【ナユタ視点】


 

 5人になった敵サイボーグ兵たちの中から、声が聞こえてきた。


 「撃て!撃て!撃て!!

敵の攻撃の手が緩んだぞ!! 

 一気に畳み込め!!

アイドルを殺した者には『有給休暇』を支給する!!」


 すぐに俺達に弾丸が降り注ぐ。


「クソ!やつら勢いづいて来たな……厄介だ」


 ちなみにだが……最新式のサイボーグはパっと見は人間と区別が付かない。

もちろん俺達は、WABISABIの索敵機能でサイボーグと人間の区別が付くわけだが、意図的に”サイボーグらしさ”を残しているヤツか旧式のサイボーグ以外は、人間と同じ見た目をしている。


 俺は、遮蔽物に隠れながらWABIちゃんをコールする。


『次は、【拾捌18】番だ!!

 頭部に連続で3発ブチ込む!!』


『了解しました。順に、2時、11時、1時方向です!!』


 俺は身を乗り出し、AR表示を頼りに3連続で発砲した。


 それぞれの弾丸が、壁や天井で跳ね返り、【拾捌18】に襲い掛かる。


 1発の弾丸が【拾捌18】のヘルメットを吹き飛ばすが、残りの2発は明後日の方向に飛んで行った。


 俺の跳弾狙撃に大きく体勢を崩した【拾捌18】だったが、直ぐに戦線に戻り仲間に伝える。


「ただの跳弾狙撃だ!!

我々のバジャラ合金製の外皮は貫けん!!

恐るるに足りん!!

 敵は前方の3人のみ!!

このまま撃ち続けろ!!

『有給休暇』まであと少しだぞ!!」


 俺は再び遮蔽物に隠れてWABIちゃんに言う。


『クソ!!やはりサイボーグには連続で数発撃ち込まないと倒せない!!

 WABIちゃん??

跳弾狙撃の精度が落ちていないか??』


 WABIちゃんが申し訳なさそうな美人顔で説明する。


『ナユタ様。もうしわけございません。

先程の跳弾狙撃は、命中率が60%以下でした。

 現在、敵集団の直上ちょくじょうに「ガラス製の天窓」があり、跳弾のコースが限られていることが原因です』


『「ガラス製の天窓」だって……?』


 そう言いながら俺は、遮蔽物から顔を出して敵サイボーグ兵達の頭上を見た。


 WABIちゃんが言ったとおり、コンクリートの天井に4mの正方形のガラス製の窓があった。ガラスの向こうに、青白いスモッグの空が見える。


 確かに……あんなデカい窓があれば、敵に跳弾狙撃を加えるのは難しくなるだろうな。


 そう思った俺は音声通信でウメコに聞く。


『本当にこの場所で良いのか??

跳弾狙撃は出来ないし……ていうか、そもそも……ウメコの作戦の”仮想的な挟み撃ち”も完全にバレているんだが……』


 ちなみに前にも説明したが……爆発や激しい戦闘でウメコの黒タイツは脱線しまくっている。だから俺はウメコと話すたびに、黒と肌色の”市松模様”に彩られた脚に目を奪われないように努力を重ねていた。


 そんな”穴あき”の万錠ウメコは言う。


『ええ。この場所で良いの!作戦どおりよ!!

 むしろもっと敵を引き付けるわよ!ナユタ君!!』


 俺は拳銃をアサルトライフルに持ち替えながら言う。


『分かった。あんたの作戦……信じるぞ』


 ウメコは射撃をしながら音声通信で答える。


『ええ。私を信じて』


 そして俺は、アサルトライフルのスコープを覗き込もうとしたんだが……ふと敵の上を見ると……敵集団の真上にある「ガラス製の天窓」から紺色の丸い物体・・・・が見えた。


 それを見た俺は呟く。


「あの丸い物体・・・・は……もしかして……紺色の……スク水の尻?」


 次の瞬間、天窓は激しい衝撃音と共に割れた。


抜けたガラスは敵の頭上に降り、割れ、大量のガラス片があたりに飛び散る。


俺は思わず顔を覆う。


 次いで質量ある物体が床と激突する音がし、地面が揺れた。


「な、なんなんだ!?」


 それを見ていた万錠ウメコが言う。


「予定通りのタイミングね。よくやったわ。

SABIちゃんと……織姫ココロ」


 その声を聞いて俺は驚いて前を見た。


 巻き上がった塵が収まると、敵集団のど真ん中にはなんと……ウメコが言ったとおり、水色くせ毛でボクっ娘+ロリっ子の織姫ココロがいた。


 しかしそれ以上に俺が驚いた事は……織姫ココロのスク水の上半身が完全にはだけ、なんなら太腿まで完全にずり下がっていた事だった。


 要はこの時の織姫ココロは、太腿でグシャグシャになったスク水を除くと、一糸も纏わぬ産まれたままの姿だった訳だ。


きっと後ろから見えると、彼女の小さな尻がコンクリートの床に潰れている様子が丸見えになっているに違いない。


だから、織姫ココロを前から見た俺には、彼女のお腹どころか”神聖なる鼠径部”までもが丸見えになっていて、それを見た俺は思わず「彼女は”つるぺた属性“持ちなんだな」と呟いた。


 そして昼の光の中、織姫ココロのAの胸が輝く。


そのささやかながらも柔らかそうな三角錐さんかくすいの先端は、見事なまでの美しいピンク色だった。


 そんな織姫ココロは顔を真っ赤にし、自分の胸とギリギリの股間を見ながら、どこか悦んでいるような表情で叫ぶ。


「は、はわわわわわわわわわわ!!

 ボ、ボクの!スク水が!ガラスの破片で破れて!!

 衝撃でずり下がって!!

僕のお尻が!!冷たいコンクリートにくっついて!!!!

ほわぁぁ……」


 そしてその瞬間、敵のサイボーグ兵たちの視線は完全に織姫ココロに釘付けになった。


 敵の攻勢が完全に停止する。


 あるいはお前達からすると……「訓練されたブラック社員達がその程度の事で戦闘行動を停止するわけ無いだろ?」と思うかもしれないが……まあ俺も、この時まではそう思っていた。


だが、敵の肩を持つわけじゃ無いが……戦闘訓練において「ほぼ全裸の美少女がガラスをぶち破って突然登場したらどうするか?」みたいな訓練は無い訳だ。


 そして敵兵たちは全員男だ。


SABIちゃんも言っていたように、男は女の子のおっぱいを見ると思考が停止する。これは、この世の不変の定理ていりだ。富士山を見るとヒノモト人が感動するのと同じことだ。


 だからこの一瞬、敵のサイボーグ兵5人に完全な隙が生じた。


 そしてそんな意味不明かつセンシティブ警報の中でも「肉食系ブラック女神所長様」は、冷静に判断ができる。


 ウメコの音声通信が、俺達の電脳内で響く。


『WABIちゃん!!所員全員の視聴覚を遮断して!!

 スタングレネードを放つわ!!』


『了解しました!!』


 その音声通信の後、俺達の目と耳の感覚が、完全に消失した。


 暗闇と無音に包まれて俺は動揺したが……すぐに感覚は戻る。


 次の瞬間、敵サイボーグ達は目と耳を抑えて大混乱に陥っていた。


「クソ!!目が!!耳が!!」

「やられた!!スタングレネードだ!!」

「退避しろ!!いや!聞こえないか!!」


 そんな最大のチャンスを、ウメコが逃すはずが無い。


 アサルトライフルを連射しながら、万錠ウメコは肉声で叫んだ。


「シノブと織姫ココロは突貫!!

 私とナユタ君は援護よ!!

 一気に畳み込んで!!」


 俺達は一斉に言う。


「分かった!!」

「了解しました!!」

「はわわわ!!早くスク水きないと!!」


 キチク芸能社のタスクフォースのサイボーグ兵と言えども、目と耳をやられ、アイドル二人にボコられると成す術が無かったようだ。


さらにそこに、俺と万錠ウメコの弾丸が容赦なく降り注ぐ。


 俺達はものの数分で、サイボーグ兵5人を完全に制圧する事ができた。

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