79話 アンテナを目指せ1
周囲の安全が確認でき、一息ついた月影シノブが、万錠ウメコに言う。
「それにしても、おねえちゃ……所長。
まさか、ココにゃんのポロリを作戦に組み込むとは……”鬼畜”じゃ無かった、”えげつない”作戦を思いつきましたね……」
俺はニヤつきながら、”ここぞ”とばかりにツッコむ。
「さすがに”えげつない”は、可哀想だろ?
せめて”腹黒過ぎる”にした方が良いんじゃ無いか?」
ウメコがあきれ顔で俺達にツッコむ。
「シノブは天然だけど……ナユタ君はワザと私の悪口を言っているわよね?
ともかく……私も予想外でビックリしたのよ?
まさか織姫ココロが、ほぼ全裸で現れるなんて……」
シノブが何故か誇らしげに言う。
「その点に関しては、やはりさすがココにゃんです。
並のアイドルでは、あそこまで身体をはれませんから」
そのことについて俺は……「織姫ココロにとっての“アレ”は、体を張っている訳じゃ無くて“プレイの一貫”なんだ」と言いそうになったが、シノブはそういう方面には疎そうなので黙っておくことにした。
そんな織姫ココロは正気を取り戻したようで、既に自分のナノマシーン衣装を完全に復元していた。
ウメコは微笑み、自分の前に座っているスク水の織姫ココロに手を伸ばしながら言う。
「こんな場所とタイミングで申し訳ないけれど、あらためてお礼を言うわ。織姫ココロ。
そして、ようこそ。
西奉行所アイドル事務所へ」
ウメコの手を取った織姫ココロは
「あ、ありがとう……。ウメコさん。
す、
ウメコがすこし怪訝な顔をする。
「末永く……?」
ここで突然、正門の方角で爆音がとどろいた。
衝撃で床が揺れ、天井から塵が大量に落ちてきた。
シノブが真剣な表情になり、言う。
「爆音が聞こえたのは……タマキさんが戦っている方角ですね?
おねえちゃ……じゃなく……所長。
救援に向かわなくて大丈夫でしょうか?」
「タマキさんは大丈夫よ。
そこそこの敵を相手にしても、物ともしない筈だわ。
だから、今は私達が”アンテナ”を取るのが先決よ」
俺はそれに対して質問する。
「兎魅ナナ邸の『通信アンテナを制圧』して……『ネットワークを解放』するんだな?」
「ええ。そうよ」
シノブが挙手をして質問する。
「『アンテナを制圧』する意味が分かりません!!
”本丸”に突撃すれば良く無いですか?
理由を
織姫が「はわり」ながらそれにツッコむ。
「シ、シノブちゃん?……噛み過ぎだよ?
ウメコがシノブに、
「敵のジャミングは排除した訳だけど……屋敷のネットワークは兎魅ナナの戦闘AI——
だから、戦闘カラクリやタレットなどの防衛設備が、私達や敵の行く手を阻んでいるわけ。
加えて、兎魅ナナが立てこもる”本丸”は、より強固な防衛設備で守られている筈だわ。
以上のことから、兎魅ナナが立て籠もる”本丸”に侵入するためには、屋敷の『ネットワークを開放』して防衛設備を無効化しないといけないの」
ホログラムのSABIちゃんが、その説明をロリロリ続ける。
「サイバーネット経由で『ネットワークを解放』する為には、
シノブが驚く。
「じゅ、じゅうごねん!!!!
そうすると……私は32歳で……プロデューサーさんが44歳……。
お姉ちゃんは41歳……。
ま、まあ……それなら、逆に
万錠ウメコが、ツッコみながら説明を加える。
「何が、
……ともかくWABISABIの電脳戦だけでは、屋敷の本丸には侵入できないの。
だからアンテナを物理的に乗っ取って、”ネットワークを解放”する必要があるのよ」
全ての説明を聞いたシノブは得心したようで、「ぱあっ」と笑顔になり、「分かりました!」と言いながら大きく
そんなシノブの様子を見た俺は、「なんだ?その……昔のアニメキャラみたいなリアクションは……」と思った。
そんな“昔アニメ”なシノブは、内容を要約する。
「つまり……”本丸”に普通に侵入するとSABIちゃんかWABIちゃんが 苦労するので……『とにかく先にアンテナを乗っ取りましょう』って事ですね??」
SABIちゃんが少し困ったような顔になり、しかし肯定する。
「まあ……天然系のアンタたちでも理解しやすく説明するなら、そういう事になるのかしら……。
ともかく、これでココロも理解できたでしょ?」
しかし織姫ココロは、説明のあいだスク水の”肩ひもポジション”を気にしていたので、突然の名指しに滅茶苦茶“はわる”。
「は、はわわわわわわわ!!
……え、えっと……な、何の事かな?……SABIちゃん?」
そんな織姫ココロを見て、無言でヤレヤレ顔をしたSABIちゃんだったが……何かを思い付いたようで、俺の方を向き、笑って言う。
「そうだ!!
そう言えば今はナユタが、ココロのプロデューサーでしょ??
アタシの説明は彼女たちにとって冗長らしいから、ココロにはアンタが説明しなさいよ?」
「え?なんで俺が??
ていうか、サボんなよ。
SABIちゃんはAIだろ?」
「別にいいじゃない。
たまには私の事も
「まったく……SABIちゃん
まあ、仕方ない……。
このあいだの“借り”もあるし……分かったよ。俺が説明するよ。でも、今回だけだぜ?」
「ふふふ。それでこそ、ナユタね?
褒めてあげるわ。
AIに従順な人間ってのも……いいものね」
そんなSABIちゃんの蔑みに慣れた俺は、“従順に”作戦内容をココロに説明をしようとした訳だが……そんな様子を見ていたシノブが目細めて言う。
「プロデューサーさん……?
なんだか……SABIちゃん
むしろなんか……蔑まれて喜んでいませんでしたか?妙な”生々しさ”すら感じたんですが……。
もしかしてやはり、プロデューサーさん……”大奥”を現代に蘇らせるつもり……なんですか?」
「は?え?大奥?
現代に蘇らせる??」
—————
キチク芸能社タスクフォースを排除した俺達は、兎魅アナの屋敷の”外郭”を抜け、”内郭”に入っていた。
道中には僅かに残ったキチク芸能社の平社員がいたが、アイドル×2になった俺達の敵では無かった。
むしろそれよりも“厄介”というか……いや……”かなりめんどくさい事”があった。
外郭を抜け、内郭を本丸に向かって走る俺達に、ホログラムの
「このままの速度で進行しますと、天井から
壁の隠し扉の中から戦闘カラクリ『
接敵まで20秒です」
俺は、“2人のアイドル”に指示を出す。
「天井の
ココロ!
俺の目の前を走るスク水のココロが答える。
「うん……
学攻の授業でなんども倒しているから」
それに対してシノブが言う。
「タレット3台は私が一撃でやっちゃいます!
ココにゃん一人では
ココロがシノブを見て、潤んだ目で言う。
「シノブちゃん……カッコいい……ますます好きになっちゃう」
「
シノブは満足げに返答していたが……ココロのシノブを見る目が完全にハートマークだったので、俺はそこに“一方向的な百合の波動”をヒシヒシと感じ、なんとも言えない 気持ちになった。
ここで、WABIちゃんがホログラムでふたたび警告をする。
「会敵まで5秒!!カウントダウンを開始します!!……」
シノブが
俺達は走り続ける。WABIちゃんのカウントダウンは続く。
「3……2……1……」
WABIちゃんの「0」と同時に、防衛設備が稼働した。
コンクリートの天井からシルバーのタレットが3台、壁の隠し扉からブルーの戦闘カラクリ
ちなみに……戦闘カラクリ
アイドル二人は、すぐに戦闘態勢に入る。
「えい!!」
とシノブが飛び上がり、3本の
「ほぁ!!」
とココロが刀を振り、「極光閃」の電撃を繰り出す。
俺達の目の前は、3台のタレットと戦闘カラクリ1体の爆煙で包まれた。
俺は言う。
「残りは、
しかし、それに対してホログラムの
「あ……失礼しました。
あと、もう1体……来ます!」
というWABIちゃんのセリフを遮るように、前方のグレイの煙の中から戦闘カラクリが
それを見た万錠ウメコが叫ぶ。
「新手の1体は、”剣豪級”よ!!
装甲が分厚いわ!!
シノブ、ココロ!一旦下がって!!
……それと、ナユタ君!……」
そのウメコの呼びかけに、俺は答える。
「”跳弾狙撃”だな!!」
「ええ!!
剣豪級は、背面バッテリーが弱点よ!!
”跳弾狙撃”ならここからでも狙えるはずよ!!
WABIちゃんお願い!!」
それにはWABIちゃんが答える。
「了解しました!電脳リンクを起動!!
ナユタ様の電脳による”跳弾狙撃”を開始します!!」
俺の網膜ディスプレイ上に、緑色のエイムポイントが
俺は拳銃を構える。すぐに、WABIちゃんのオートエイムによる仮想的な
俺は「はふぁ」と言いながらも、正確に狙い通りに発砲した。
発射された弾丸は……カラクリ2体の間をすり抜け、壁や天井で4回跳ね返り……戦闘カラクリ「剣豪級」の背面バッテリーに命中した。
火花が飛び散り、パーツ片が飛び散った。
”剣豪級”は、一瞬動きが止まる。
……がしかし、直ぐに再稼働し、ココロに向かって突進する。
「はわわわわわ」
と、「はわる」織姫ココロ。
刀を構えて”へっぴり腰”になったスク水のココロは、少しだけ間抜けだったが……しかし、紺色のスク水の小さな尻の曲線には、ロリ的フェチズムがほんのり漂った。
それに対して万錠ウメコが言う。
「『極光閃』を打つのよ!ココロ!!
ナユタ君の跳弾狙撃で背面のバッテリーが露出しているはずよ!!今なら一撃だわ!!」
それを聞いた織姫ココロは再び——
「はわわわわわ!!」
―—と言いながらも、”剣豪級”に
激しくスパークした”剣豪級”は、ココロに対して刀を振り上げたまま停止し……すぐに崩れ落ちる。
その際、”剣豪級”の刀がココロのスク水の肩ひもをかすめたが、今回は”ポロリ”は無かった。
ココロが
そんな”焦らしプレイ”も“アリ”のか?
さすが『野外露出スキルlv.55』だな……。
そしてそんな間に、もう一つの戦闘カラクリ——
俺は周囲の安全を確認しながら、溜息をつく。
「流石は、トップR18アイドルの兎魅ナナの屋敷だが……内郭の防衛設備の物量……めんどくさすぎる……」
それに対して、WABIちゃんが美人ホログラムにて謝る。
「申し訳ございません……。
戦闘AI BASARAの通信防壁によりワタクシの索敵が十分に機能していませんので、アナウンスのタイミングが遅れてしまいました……」
俺はキリッとした顔で、WABIちゃんを慰める。
「WABIちゃんが謝る必要はない。
悪いのは屋敷のネットワークが解放されていない今の状況だ。いやむしろ、この世が悪い。
現実が糞ゲー過ぎるんだ」
美人に俺の疲れた心を癒すWABIちゃんは、天女笑顔でにっこりと言う。
「お優しいお言葉。ありがとうございます。
ナユタ様」
しかし……そんな俺とWABIちゃんのハートウォーミングな会話を黙って見ていたウメコが、「不吉な予言」を放つ。
「そうだったら良いんだけど……。
私の予想では……
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