77話 ウメコの作戦3

【黄泉川タマキ視点】


 みなさん。ごきげんよう。少し失礼しますね。


 私、黄泉川タマキは、兎魅ナナちゃんの豪邸の大きな門の前でおとりとなって、敵兵を引き付けております。


 この場所は広々としたヴィクトリア調の庭園です。


 庭園の花壇には南蛮の数々の美しい花々が咲き誇っていますが、今は弾丸やロケット弾が行き交い、”戦場”と化していました。


 花々がはかなくもあわれに舞い散る中、私は右手で持った機関銃マシンガン掃射・・します。


「ガガガガガガガガガガガガガガガガ」と

機関銃マシンガンが火を吹き、排出された薬莢が、色とりどりのパンジーの花の上に山となっていきます。


 それにより、私を取り囲んでいた23体のカラクリアンドロイド兵は、次々と鉄屑となります。


 目前の敵をあらかた殲滅した私は、右手の機関銃マシンガン砲身ローターの回転を止めて、呟きます。


「屋敷の中に、またしても増援が入り込みましたね……。西アイドル事務所のみなさん……ご無事でしょうか……」


 みなさんからすると……「じゃあ、音声通信で連絡を取れば良いじゃん?」と思われるかもしれませんが、事はそう簡単にはいきません。


 キチク芸能社タスクフォースさん達のジャミングドローンは撃破しましたので、無線封鎖は解かれましたが……屋敷内の無線通信は、兎魅ナナちゃんの電脳戦特化型AI BASARAばさらにより通信防壁が張られていますので、簡単には連絡を取れないのです。


 そんな困り果てた私に向かって、10数発のライフル弾が跳んで来ます。おそらく遠くのスナイパーからの狙撃ですね。


私は、ふくらはぎに格納された小型ジェットエンジンにより”ホバー移動”し、くるりと水平に回ります。


私が移動した後に、燃えた花々が舞い上がります。


私は、9発の弾丸を避ける事が出来ました。


しかし、残り4発程の弾丸は避ける事は出来ません。


 ですので私は、サイボーグ用の照準プログラムで瞬時にそれらをロックオンし、左手のサブマシンガンで一発ずつ丁寧に・・・撃ち落としました。


 要は、こんな感じで……門付近にいる大量の敵兵さんや敵カラクリアンドロイドとの戦闘のお陰で、私は西アイドル事務所のみなさんと連絡する時間もとれないんです。


 私は、ふたたび呟きます。


「キリがありませんね……。こちらも増援につぐ増援……どうやら、キチク芸能社さん。引いては『サイバー坊主EQ』さん……。

 本当に兎魅ナナちゃんの電脳が、欲しいみたいですね」


 そんなことを言っていると、私は上空に敵影を感知しました。


 豪邸の上にマッコウクジラのような形の、シルバーのVTOLが浮かんでいます。


「あれは……輸送用の大型VTOL。

本日の私は、対空ロケット砲は装備しておりませんが……」


と言いながら私は、その「キチク芸能社」のロゴマークが書かれた大型VTOLに向けて、機関銃マシンガン軽機関銃ライトマシンガンを構えました。


どちらの銃も電脳で、”連射速度最大”に設定します。


「ダダダダダダダダダダダダダダダ」と、

「ガガガガガガガガガガガガガガガ」という

連射音と共に機関銃から大量の薬莢が排出され、私の足元のパンジーの花壇は「空薬莢のゴミ集積場」の様相を呈してしまいます。あらあら。


その私の”連射速度最大”の斉射により、大型VTOLの「キチク芸能社」のロゴマークに大きな穴が開きます。


そのことにより大型VTOLは爆発炎上し、墜落を始めますが……


 しかし、なんという事でしょう。


その墜落する大型VTOLの中から、何か「とても大きな物」が落ちてきます。


 その瞬間……


 【 !!ロックオン感知!!ミサイル接近中!! 】


 という文字が私の網膜ディスプレイに浮かび上がります。


 間髪入れず、その「とても大きな物」から白煙と共にミサイルが飛んできました。


 私はローターが回転中だった機関銃マシンガンで、そのミサイルを撃ち落とそうとしたのですが……ヤってしまいました。


機関銃マシンガンは”連射速度最大”の射撃により、砲身が真っ赤になってオーバーヒート状態だったのです。


「もう。こんな時に……仕方のない子ですね」


 と言った私は、「ドォン!!」と機関銃マシンガンをその場に捨て、背中の武装固定具ウエポンラッチから電脳薙刀パイルバンカーを取り出します。


 間髪入れず私は電脳薙刀パイルバンカーの刀身を突き出し、ミサイルに”挿入しイれ”、真っ二つに割ります。


もちろん大爆発が発生しました。


 爆風で私の胸が大きく暴れ、巫女服から露出し、ミニスカートは裏返り、私のお気に入りのパンツが丸見えになってしまいます。


 本日の私は、ブラジャーを忘れてしまっていましたので、ナユタさんがこの場に居たら、時間停止しながら卒倒しかねないような痴態を晒してしまいます。


あらあら。まあまあ。せっかくの機会が、もったいないですね。


「まったく……私……”激しい”のは好きですが、”乱暴”なのは嫌いです……。

でも、流石に、”前戯”は終わりのようですね……」


 ——と私は電脳薙刀パイルバンカーの刀身を、「ガキン!」と収納しながら呟きました。


 そんな私の前に、高さ3mの「真っ黒なバジャラ合金製の塊」が立ち塞がっていました。


 それは、8本の長い槍のような鋭利な脚に、グリーンに光る排熱溝がめだつ”機械仕掛けの蜘蛛”のような兵器でした。


 私は花びらと白煙で見え隠れする、”機械仕掛けの蜘蛛”に向かって言います。


「以前にあなたの”お友達”をかせたのは……”霊峰防衛戦”の時でした……。

あの時は、2時間もかけて”プレイ”しましたが……今日の私には時間がありません。

 少々ものたりないかもしれませんが……あなたには、早めにってもらいますね??」


 そのセリフと共に私は、背中の外皮を剥離パージさせます。

 

 私の背中の外骨格から蒸気が立ち昇り、くろ揚羽蝶あげはちょうの羽のような排熱板が展開されます。

要は私……背中の外骨格とオプション後付けの排熱板が“丸見え”になっちゃったんです。


ちょっと恥ずかしいですね?


【 義体オーバーブースト開始!!活動限界にご注意ください!! 】


 私はその警告を無視し、小型ジェットエンジンを噴き上げます。


 花壇の花々は一瞬で灰になり、粉雪のように舞い上がりました。


 そして私は、超音速音ソニックブームと共に、”機械仕掛けの蜘蛛”もとい——「多脚戦車 ジョロウグモ」に電脳薙刀パイルバンカーをかまえ、突貫を開始しました。




【ナユタ視点】



 屋敷の外から大きな爆発音が聞こえ、続いて生じた大きな振動に、戦闘中の俺ですらただならぬ異変を感じた。


「屋敷の外……もしかしてタマキか?」


 しかし俺がその事を考える間もなく……


【 グレネード接近!!退避ください!! 】


……という文字が網膜ディスプレイに現れる。


 俺はとっさに全力で前に飛び込み、遮蔽物から飛び出す。


 爆音とともに、俺が隠れていた遮蔽物が爆裂する。


コンクリート塊が雨あられのように、俺にふりそそぐ。


『プロデューサーさん!!死にましたか??』


 と、月影シノブの“電脳リンク(思考同期)”が入った。


 『この状況で適したセリフは「生きてますか?」だろ?』と俺は心の中でツッコみながら“電脳リンク(思考同期)”で返答する。


『大丈夫だ!ギリギリ死んで無い!!』


『良かった。

(まだ、ちゅーもしてないのに死んじゃ嫌)

……じゃなかった!!プロデューサーさん!早く私の元へ!!』


『(え!?シ、シノブと接吻!?良いのか!?)

……じゃなかった!!すまない助かる!!シノブ!!』


『(え!?プロデューサーさん?私とちゅー、したいの??)

……じゃない!!援護します!!そのまま伏せていて下さい!!』


 そして、シノブの電脳苦無サイバークナイが灰色の煙を切り裂き、俺の頭上を飛んでいく。


それにより敵の弾幕が、一時的に止まる。


俺はすぐに立ち上がり、灰色の煙の中、シノブが居るであろう方向に走る。


爆煙で前は全く見えなかったが、俺はとにかく全速力で走った。


 そして煙を抜けるとそこには……雪国……じゃなく、唇があった。


シノブの唇は、ピンクでぷるぷるでつるつるだった。


 俺は思わず声を上げる。


「うおおおおお!!」


 シノブの唇も声をあげる。


「ほわぁあああ!!」


 俺とシノブは、なんとか体勢をそらしてお互いの唇をギリギリでかわした。


しかし俺の勢いがつき過ぎたせいで、俺たちは絡まり合い倒れ込む。


 はたと気付くと、俺は両手でシノブの胸を押さえ付け、コンクリートの床にシノブを押し倒していた。


『指を押し返してくる弾力とこの質量感。本人が言っていたとおり、形の良いCだな』と俺は思った。


 シノブの目は薄紫のセミロングで隠れ、顎が上がり、アイドル衣装から鎖骨が大きく露出していた。荒い息で胸は上下していた。


俺の両手で潰れたシノブのCの胸は大きく盛り上がり、アイドル衣装のえりから溢れ出し、いつにない迫力ある形に変貌していた。


 頬をピンクに染めたシノブの横顔が、吐息を漏らす。


「あ、……ん……」


思わず俺は生唾を飲み込んだ。


 しかしすぐに俺は冷静になり、大慌てでシノブからはなれて正座をし、謝罪する。


「す、すすまない!!シノブ!!

 ち、ちち違うんだ!!君の胸を揉みたかったわけじゃない!!

 唇を回避……い、いや!それは間違いじゃないが不適切だ!!

と、とととにかくすまない!!」


 シノブも顔を真っ赤にし、正座して謝罪する。


「い、いいいえ!!良いんです!!

 わ、わわ私だって、こんな場所に胸を放り出していたのが悪かったんです!!

 そ、それに……強引な感じがちょっとエッチで良かっ……い、いえ!!違います!!

わ、私に何を言わせているんですか!?

 と、ととととにかく!!

プ、プロデューサーさんのっ!!

“ハプニング系ラブコメ変態主人公”!!!!」


「ど、どさくさに紛れて俺に新たな属性を追加して罵るな!!」


 そんな俺達の漫才を、アサルトライフルの射撃音が遮る。


 銃弾の雨が、俺達の頭上を飛んで行った。


 俺とシノブは思わず振り返る。


 そこには右手にアサルトライフルを構えながら、いつに増して怖い顔の万錠ウメコが居た。


「そんなところで正座していないで早く隠れて!!

2人して死ぬわよ!!」


 シンプルに怖かった。


 だから俺とシノブは、「「はい!!すみません!!」」と言いながら、すぐに大きなコンクリート製のオブジェの裏に隠れた。


 万錠ウメコもライフルを射撃しながらそこに隠れ、言う。


「やはり……これだけの数のサイボーグ兵は、三人では厳しいわね」


 そんなウメコは、続けてシノブに聞く。


「シノブ?

 電脳苦無サイバークナイは、あと何本あるの??」


「サイボーグ兵さんを一体行動不能にするのに3本……

プロデューサーさんを助ける為に1本……

 残り4本です!!」


 ウメコは険しい表情のまま前を見る。


 そこには敵のサイボーグ兵が6人居た。


 俺は言う。


「キチク芸能社のサイボーグ兵……

さすがのバジャラ合金だな。

沈黙させるのに、超振動刃ヴィブロブレイド電脳苦無サイバークナイが3本必要なのか」


 シノブは敵の方を見て言う。


「おそらくサイボーグ兵さんの頭か心臓を狙えば一発なんですけど……。

私は”殺さず”を誓ってますので」


 俺がそれに返答する。


「その方が良い。シノブの年齢で人の殺生せっしょうなんてするもんじゃ無い」


 そして続けて、俺は万錠ウメコに聞く。


「どうする?……敵のサイボーグ兵の増援に押されているぞ??

 やっぱ……

パンツァーを使うか?」


 その俺のセリフには、なぜかシノブが反応する。


「もしかして、お姉ちゃんのパンツを見るつもりなんですか?!

プロデューサーさん!!」


 俺は隣で銃を構えるウメコの“しかっりと丸い”タイトスカートの尻を見ながら、反論する。


「今は緊急事態だ。

俺は目の前にある“ウメコパンツ”を見る!!えり好みしている状況じゃない!!」


 それに対してシノブは真顔で食って掛かる。


「でも本当は『やったぜ!!“破れタイツ”と”ウメコパンツ”のマリアージュ!!最高かよ!!』って考えているんでしょ??」


「マ、マリアージュ!?どこでそんな言葉を覚えたんだ!!

俺は”ウメコパンツ”にこだわっている訳じゃない!!“ウメコパンツ”が目の前にあるから、仕方無いんだ!!」


「絶対ウソです!!

プロデューサーさんは重度の脚フェチですから……『”ウメコパンツ”から伸びる美脚を堪能するんだ!!黒タイツ越しの”ウメコパンツ”だ!!うほほい!!』

とか思っているはずです!!」


「や、やめろシノブ!!断じて違う!!

 た、確かに多少は”ウメコパンツ”を見たい気持ちはあった。

この際だ、それは認めよう。

 しかし流石にそこまで”ウメコパンツ”で妄想をはかどらせていなかった!!

俺は純粋な気持ちで真面目に”ウメコパンツ”と向き合うつもりだった!!』


 ここで万錠ウメコが、遂にマジギレする。


「何度も”ウメコパンツ”って言わないで!!!!!」


 俺とシノブはそろってビビッて言う。


「「す、すみません!!」」


 流石に恥ずかしかったのか、ウメコは顔を少し赤らめていた。


そんなウメコはかなり可愛いかったが、シノブがまだ俺の事を睨んでいたので、鼻の下は伸ばさないように俺はなんとか耐えた。


 ウメコは続ける。


「と、ともかく……

 パンツァーを使う必要は今は無いの!!

 このまま耐えて!!

 ”この場所”ならイケるはずよ!!」


 俺とシノブは、同時に疑問を口にする。


「「”この場所”なら……??」」


「そうよ!

今の”この場所“が良いの!

 これで私の作戦……『仮想的な挟み撃ち』が、『本当の挟み撃ち』になるのよ!!」


 そう言って万錠ウメコは、敵に向かってライフルを発砲した。

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