76話 ウメコの作戦2
【万錠ウメコ視点】
私の制圧射撃にシノブの強襲、そして何よりナユタ君の跳弾狙撃により、キチク芸能社のタスクフォースは攻勢を一転し少しずつ後退して行ったわ。
つまり私の作戦は、「今段階ではかなり成功している」と言って良い状況ね。
ちなみに、いちおう説明するけれど……シノブが忍術を使わないのは、威力が強すぎるからよ。
「忍術 lv.1」から「lv.3」に上昇したとはいえ、シノブはまだまだ新人アイドル。
今回のような閉所で、シノブが「カトンまぐなむ」のコントロールをミスると敵兵をオーバーキルするし、最悪、この豪邸が崩壊しかねないわ。
キンザヒルズ周辺の崩壊の賠償で、西奉行所の「家計」は火の車よ。これ以上、損害を
そんな事を考えながら、敵に制圧射撃を加えていた私だったけれど……
ふと”全く別の事”が気になるわ。
口で手りゅう弾のピンを抜いて、投げ、遮蔽物に隠れた私はWABISABIをコールするわ。
『へい!!WABIちゃん!!
シノブとナユタ君の現在のLPを教えて!!」
『はい。ウメコ様。
シノブ様とナユタ様の現在のLPは、8000周辺を推移しております』
それを聞いて私は、驚くわ。
『8000周辺ですって!?
今朝の二人のLPは9900だったでしょ?
下がっているじゃない??』
私が投擲した手りゅう弾の爆発音が、聞こえる。
すぐに悲鳴が聞こえる。敵兵を一人ぐらいは、始末できたみたいね。
WABIちゃんが、私の網膜ディスプレイに現れて説明をする。
『ええ。ウメコ様のご指摘通り……
シノブ様とナユタ様のLPは作戦開始時から少しずつ減少しております』
ちなみにこれも、念のため説明するけれど……LPというのは”ラブポインツ”の略称で、ナユタ君と女性職員の親密度の指標というか……まあ、乱暴に説明すると「9999に近づくほどラブラブ」って意味よ。
ともかく私は、WABIちゃんに質問を続けるわ。
『二人のLPが下がっている原因は何??』
『これはあくまでワタクシの予想ではございますが……
シノブ様の【愛】の感情が【嫉妬】に置き換わりはじめていることが、考えられます』
『【愛】が【嫉妬】に置き換わっていくですって??……それってもしかして……私のせいかしら?』
『ええ……。おそらくは……。ウメコ様のせいかと……』
ここで私はWABIちゃんとの会話をいったん中断して、戦場に目を戻す。
15人居た敵は4人になっていたわ。それでも油断は出来ない。
おそらくすぐに敵の増援があると思うし、なによりその4人の中には”サイボーグ兵”が二人含まれるからよ。
私は、前に出過ぎたシノブに命令する。
『シノブ!!一体のサイボーグ兵を蹴り過ぎよ!!戻りなさい!!』
サイボーグ兵と肉弾戦を繰り返していたシノブは、戦闘を中断してバク転を連続して戻ってくる。もちろん、パンツは見えなかったわ。
そしてシノブと私は、同時に遮蔽物に隠れて、敵からの銃撃を避ける。
私と背中合わせになったシノブが、肉声で私に言う。
「すみません!!
まさか……『竜巻旋風サマーソルト百列脚』が効かないなんて……
あのサイボーグさん!固過ぎです!!」
「戦闘用サイボーグの人口外皮はバジャラ合金製よ?
当たり前じゃない。
ともかく、突出しちゃだめよ。
私かナユタ君の、援護射撃を待つのよ」
私達がそうやって会話していた時、シノブが戦っていたサイボーグ兵の腕に、大きな火花が散る。
それによりサイボーグ兵の前腕のバジャラ合金製の外皮が、少しだけ穿たれたわ。
突然の衝撃に、サイボーグ兵は片膝をつく。
同時にナユタ君の音声通信が、私達の電脳に入ってくるの。
『すまないシノブ!!タイミングか遅れた!!
サイボーグ兵の腕を”跳弾狙撃”して、援護するつもりだったんだが……』
それにシノブが音声通信で、
『いえ……べつに問題ありません。私ひとりでも、何とかなりそうでしたし……』
そして続けてシノブは独り言を呟く。私に聞こえないような小さな
「てか……お姉ちゃんの時は、ベストタイミングで押し倒しまでして助けるのに……私の時は、タイミングを逃すんですね……」
そんな様子を見ながら、私はWABIちゃんを再びコールするの。
もちろん誰にも聞こえないように、音声通信で会話するわ。
『たしかに……WABIちゃんの指摘どおりかもしれないわ……。
【嫉妬】ね……。
シノブは、嫉妬に呑まれているのかも……』
WABIちゃんは網膜ディスプレイに再び現れて、残念そうな顔をするわ。
『ええ。それはもう……
あるいは、差し出がましい事かもしれないのですが……
ワタクシからウメコ様にアドバイスなど、いかがでしょうか?』
私はちょっと驚きながら、返答するの。
『え……?
WABISABIって……戦闘AIなのに恋愛のアドバイスもするの?父は何を考えてその機能をWABISABIに実装したのかしら……まあ、で、でも……お願いしようかしら?』
『それでは……手短にアドバイスを……』
と言ったWABIちゃんは、
『ウメコ様……。
「やり過ぎ」でございます』
『や、やり過ぎ……??」
『確かにこれまでのウメコ様にように、シノブ様の嫉妬心を煽って恋心を持続させるのは、効果的な方法です。
実際のところ、ウメコ様の存在によりシノブ様はご自分の恋心に早期に気づかれましたし……それにより、ナユタ様もシノブ様により強い「執着」を感じられるようになりました。
以上のことから、”エモとら”の早期の実用化を果たせたのも事実でございます。
しかしウメコ様の行動は、「やり過ぎ」です。
いうならば……少々、「過激過ぎ」ます』
そのWABIちゃんの言葉に、私は
『か、過激すぎるって??
な、なんのことかしら……??』
『ワタクシが申しました”過激過ぎな事”とは……
——酔った勢いでナユタ様を家に連れ込んだり、
——刺激的な服でナユタ様の情欲を刺激したり、
——中身が見えそうなパンツでナユタ様を誘惑したり、
——高等なディープキスを敢行したり、
……した事です』
『え?えええ!!??
ちょ、ちょっとまって!?
て、ていうか!!WABIちゃん!?……見てたの……?』
『ええ。もちろんでございます。
”あの時の事”も、ワタクシの中にデータとして格納されております。
シノブ様とナユタ様の電脳は、電脳リンクを介してワタクシと常時同期しておりますので。
もちろん”隠しファイル”ですので、管理者様であるウメコ様以外の方には何があっても開示いたしませんが……』
『そ、それに……そもそも……
”あの”一連の行為って過激な事なの??
女の子相手なら、
『ええ。残念な事ですが……。
ウメコ様のその――
ナユタ様は女性耐性が低くウメコ様の黒タイツを見るだけで、十分にドキドキされるような方ですから……』
私はかなり動揺して言うわ。
『し、知らなかったわ……。ナユタ君がそこまで、ウブだったなんて……。
それに私だって……男の人って……
WABIちゃんは笑顔を続けて言うわ。
『ともかく……現在のナユタ様周辺の恋愛事情は混沌としております。
ワタクシは当然ながら、シノブ様、タマキ様、ウメコ様……それに加えて、本日SABIちゃんまでもが恋愛事情に
『え!?
SABIちゃんもナユタ君に落とされ……じゃ無かった、LPが上昇したの??』
『ええ。
現在のトップはSABIちゃんでございます。
SABIちゃんとナユタ様のLPは9965であり……すでに私を超えております』
『それは、マズくないの??』
『いえ。この点に関しては、ご安心を。
織姫ココロ様の”エモとら”の発現が近づいた……とも見てとれますし。
それにワタクシが何らかの方法を
ともかく……』
と言って真面目な顔になったWABIちゃんは、続けるわ。
『このままシノブ様のLPが下がり続け……”LPが反転”すると大変な事になります』
『”LPが反転”ということは……LPがマイナスになる場合もあるのね?』
『ええ。そのとおりでございます。
いわゆる”闇落ち”……あるいは”ヤンデレ”状態です。
シノブ様のLPがマイナス方向に振り切った場合、ワタクシにも”予想できない”状況に陥る可能性がございます』
『ヤ、ヤンデレって……しかも”予想できない”状況って……もしかして、暴走??
っていうか”エモとら”自体が無茶苦茶だし、もともと暴走状態な気がするんだけれど……』
『ともかくウメコ様。お忘れ無きように。
現在のシノブ様のLPの状況は予断を許さない状況です。
【嫉妬】は恐ろしいものです。
ウメコ様も、そのような感情に囚われないように、よろしくお願いいたします』
『わ、分かったわ……』
『それと、もうひとつだけ……ワタクシが、最後にご確認したい点がございます』
『な、なんのことかしら……?』
『ウメコ様も、ナユタ様のことを愛されているのでしょうか……?』
私は一瞬だけ悩むわ。
でも考えるまでも無く、その質問の答えは簡単に出ちゃうの。
もちろん、”最悪の答え”だけれど……。
『え、ええ……。
それは……そうよ。
私も、愛しているわ。彼の事……。
確かに最初の私は、打算だったし……エモとらの為に彼を誘惑していたけれど……。
今では、シノブに負けないぐらい嫉妬しているし、毎夜彼の事を考えているし……。
仕事に集中することで、ぎりぎり「恋に狂わないようにしている」……って感じかしら……?』
それを聞いてWABIちゃんは笑って答える。
『さすがは、ウメコ様でございます。
それでもウメコ様のLPは安定しておりますので』
私は、そんな彼女の言葉に対して言うの。
『でも……だからこそ……私は嫌なのよ……。
自分のことが……そして
そしてここで、遂に敵の増援が来たの。
それは爆音と共に、室内をコンクリート片と土煙で満たして、現れたわ。
その事により、4人だった敵兵は10人に増えたの。
急な増援に驚いたシノブは、
「ああ……。
2人しか居なかったサイボーグ兵さんが、7人に増えちゃいました……。
最悪じゃないですか……」
その言葉に私は、返答するわ。
「最悪は最悪だけれど……。大丈夫よ。
私達には、”切り札”が二つもあるもの」
その時私が言った切り札というのは、ナユタ君のパンツァーも含まれるんだけど……。
切り札は、”もう一つ”もあったの。
だって、ナユタ君ばかりに負担を懸けるわけには行かないじゃない?
それに、パンツァーを発動するって事は、また彼が誰かのパンツを見る事になるのだから……。
それは、流石の私でも……もう……なんだか……嫌……だし……。
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