75話 ウメコの作戦1

 敵のキチク芸能社タスクフォースは俺たちとの間合いを詰めようと、一斉に移動を開始した。


 銃弾が飛び交う中、俺はWABIちゃんに、”電脳リンク“を用いて跳弾狙撃の指示をする。


【以下、『』で囲まれたセリフは電脳内での会話です】


『まずは4番の男だ!

 遮蔽物から遠い!ガラ空きだ!!』


 俺の電脳内でWABIちゃんの美声が響く。


『2時の方向の壁面を狙って下さい!

弾丸の入射角はワタクシのほうで、【微調整オートエイム】いたします!!』


 言われたとおり俺は、右前のコンクリート壁に向けて拳銃を構える。


 壁面に射撃位置エイムポイントが、グリーンの”AR表示”【※現実には投影されない拡張現実による表示】として現れる。


それと同時に、俺の左義腕の位置が少しだけ「すっ」と移動する。


 そのとき俺は左義腕に、WABIちゃんの”美人な指“でれられたかのような幻覚を感じた。

細い繊細な指が「そっ」と撫でるような感じ……と言えば分かるだろうか?


ちょっと気持ち良いじゃないか。微調整オートエイム


 そしてすぐに、俺の電脳内にWABIちゃんの美声が響く。


『撃ってください!!』


 俺はWABIちゃんのボディータッチによる快感を一旦忘れて、引き金トリガーを引く。


 爆発音のあとに拳銃がブローバックし、薬莢やっきょうが排出される。


 発射された弾丸は、前方の壁をえぐり、コンクリート片を飛び散らせながら跳弾した。


そしてその弾丸は天井でもう一度跳弾し、【4】とAR表示された男の頭を、正確に撃ち抜いた。


 音も無く【4】の男は、その場に崩れた。


4】のAR表示が網膜ディスプレイ上で、フェードアウトして消えた。 


 おそらく【4】の男は、自分が死んだ事にすら気付かなかったのかもしれない。


それぐらいに、ヒノモト最強の戦闘AIであるWABIちゃんの”跳弾狙撃”は正確だった。


 俺は遮蔽物に隠れたまま、ふたたびWABIちゃんに指示をする。


『次は【拾参13】だ!!

 ヤツは、いまから直ぐに遮蔽物に隠れる!

背後から跳弾狙撃したい!!

 ここからは完全に死角だが……いけるか??』


 WABIちゃんが答える。


『了解しました!!

お任せください!!

 6時・・の方向に撃ってください!!』


 それを聞いて俺は驚く。


『ちょっとまて……6時・・だって?

俺の真後ろじゃないか??

 この屋敷全体は五角形だが……

屋敷を一周でもさせるつもりか??』


『いえ。そのような長距離での跳弾狙撃は不可能です。

 しかし、ご安心ください。

 ワタクシの跳弾計算では、6時の方向への発砲により、【拾参13】様への狙撃が98.87%の確率で成功する計算です』


 俺はWABIちゃんのその言葉を信じて、自分の真後ろに身体を向ける。


 そこには確かに、グリーンのAR表示による射撃位置エイムポイントが示されていた。

それは俺から10mほど先にある、コンクリート壁に掘られた”みぞ”だった。


 拳銃の電影照準ホログラムサイトに視線を固定したまま、俺はWABIちゃんに聞く。


『あの”溝”を狙って撃てってことか??』


『はい!!そのとおりでございます!!

 【微調整オートエイム】!開始します!!

 ワタクシに、お身体をゆだねて下さい!!』


 俺は「超絶美人AIに『お身体をゆだねて下さい』と言って貰えるのはなんかエロいな」と思いながらも、拳銃を構えたまま身体の力を抜いた。


 直ぐに俺の脇腹と両肩が、WABIちゃんの”仮想的で”繊細な指使いにより、数ミリ動かされる。


 その、【微調整オートエイム】のソフトタッチによって俺は思わず、「ほわぁ……」と言う情けない声を漏らしてしまった。


 すぐに”美声”が俺の電脳内で響く。


『ここです!!撃ってください!!』


 情けない表情を引き締めて、俺は拳銃を発砲する。


拳銃の反動が、俺の腕から肩までしっかりと伝わる。


 放たれた弾丸は、真っすぐに目標の”みぞ”に吸い込まれる。


その、溝の角で跳弾した弾丸は、溝に沿って方向転換する。


それは驚いたことに、発砲した方向とは逆に向かって溝の中を”流れ”始めた。


 つまり、敵に対して真後ろに撃ったはずの弾丸が、溝に沿って敵の方向に向かいはじめた訳だ。


 弾丸は、火花をまき散らしながら溝の中を進む。


 「ギャリリ」と音を立てながら、弾丸が俺の真横を通る。


 俺は振り返る。


 弾丸の向かう先には、敵と交戦中の万錠ウメコのタイトスカートの尻があった。


 俺は『マズイ!!丸いウメコのケツに穴があく!!』と思ったが、弾丸は溝の中にあったコンクリート製の凹凸おうとつに当たり、跳ね返る。


 俺は思わず、息を呑んだ。


 そしてふたたび跳弾となった弾丸は、ウメコのはす向かい・・・・・の壁で跳ね返り、さらに天井で跳ね返り、シノブのシールドの横を掠めて、真っ白な床材を派手にブチまけながらさらに跳ね返り、そして最終的に、【拾参13】の頭を真横から貫いた。


 ふたたび音も無く、【拾参13】は崩れ落ちた。


拾参13】のAR表示が消失する。


 俺は、唖然として思わずつぶやく。


「マジかよ……5回跳ね返ってから敵に当たったぞ……」


 WABIちゃんが俺の網膜ディスプレイに表れて、自信満々の美人笑顔で言う。


「お褒めのお言葉をちょうだいし誠に嬉しく存じます。

 これがワタクシ、戦闘特化型のWA81型——通称WABIちゃんの演算能力でございます」


「”演算能力“っていうか、もはや神技か奇跡だな」


 唖然とする俺の電脳に、ウメコ所長様の音声通信が入る。


『敵が動揺したわ!!』


その声で、俺は13人になった敵集団を見た。


 一糸乱れぬ戦闘行動を取っていたキチク芸能社タスクフォース達だったが、仲間2人の突然の死亡により明らかに動揺している。


 何人かは後ろを振り返り、ライフルを構えて索敵している。


 当たり前だよな。

俺が撃った弾が、5回跳弾してから命中するなんて、俺ですら完全に予想外だったもんな……と、俺は敵に若干の同情をした。


『シノブ!突貫して!!

 援護は私に任せて!!

ナユタ君は引き続き、跳弾狙撃を続けて!!』


『「了解した(しました)!!』


 と、俺とシノブは同時に返答した。


 シノブは、身体を捻りながら宙返りし、敵前方に飛び出した。


 俺の跳弾狙撃により完全に動揺していた敵は、突然のシノブの跳躍に驚いて振り返る。


しかし、その時には遅かった。


「はっ!!」


と言ったシノブは、後ろ回し蹴りで敵1人の頭を殴打し、そのまま後方に居た敵1人にも体重が乗った肘打ちをくらわす。


 敵2人は、シノブを中心にそれぞれ逆方向に飛び、コンクリート壁に激突した。


敵2人の激突で、コンクリート壁に二つの丸い陥没ができる。


確認するまでも無く、敵2人は完全に昏倒していた。


 そんなシノブの強襲を見て、虚を突かれ沈黙していた敵集団だったが、直ぐに冷静を取り戻し、一斉にシノブに銃口を向ける。


 しかしそんな敵集団に、ウメコが放った銃弾の雨が降り注ぐ。


敵は直ぐに遮蔽物に隠れ、ウメコの銃撃をやり過ごす。


 次は俺の番だ!!

俺はWABIちゃんに電脳リンクで伝える。


『敵サイボーグ兵は後回しだ!

先に頭数あたまかずを減らす!!

 無理なく跳弾狙撃できるヤツを教えてくれ!!』


『了解しました。

現時点で確実に跳弾狙撃可能な人間兵様は……

3番、6番、9番、拾壱11番の、4名様です』


 俺の網膜ティスプレイ上に【3】、【6】、【9】、【拾壱11】のAR表示が浮かび上がる。遮蔽物越しでもソイツらの位置は、確実に追えるようになった。


 続けてWABIちゃんが言う。


『今ならそれぞれ……11時、1時、4時、3時方向に発砲して下さい』


『分かった!!』


 俺は、浮かび上がった4つのグリーンの射撃位置エイムポイントに向けて拳銃を向け、発砲した。

もちろん都度つど、WABIちゃんのソフトタッチによる【微調整オートエイム】が発動する。


 放たれた4つの弾丸は、それぞれ様々な場所で跳弾を繰り返し、4人の敵の頭に吸い込まれていった。

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