72話 兎魅ナナ救出作戦1

【月影シノブ視点】


 VTOLから降下した私達は、兎魅ナナちゃんの豪邸の近くの森林に、全員無事に着地できました。


 降下に際してプロデューサーさんは、ビビりまくっていましたが……しかし結局は、冷静に着地をキメる彼を見て「キメるところはキメる男性ってカッコいい」と思って、またしても“きゅんきゅん”してしまいました。


そんな「ややチョロめ」な私は、桃色気分でプロデューサーさんの逞しい背中を眺めながら進んでいましたが……とつぜんのWABIちゃんの警告で停止します。


「屋敷の敷地内では、ジャミング【※無線封鎖の事。ジャミング中は電脳通信やWABISABIが使えなくなる】が発生しています。

 よって、キチク芸能社のタスクフォースが既に敷地内に展開している可能性が高いです」


 私の前に居るプロデューサーさんが、WABIちゃんに言います。


「くそ!一歩遅かったのか!?

 それじゃあ、兎魅ナナの安否は!?」


「このジャミングは、敵の“戦闘用ジャミング・ドローン”によるものです。

 つまり、屋敷内は戦闘中と言えます。

 以上のことから、兎魅ナナ様は敵に拘束されていない可能性が高いかとぞんじます」


 それを聞いたお姉ちゃんが、笑って言います。


「チャンスね。突入するわよ」


 プロデューサーさんが、お姉ちゃんに同意します。


「良い作戦だ。敵を挟み撃ちにする訳だな」


 お姉ちゃんが言います。


「ええ。そのとおりよ。

 敵は兎魅ナナ邸の防衛設備に手を焼いている可能性が高いから、私達が屋敷を強襲する事で、簡単に挟み撃ちにできるわ」


 サイボーグ用の物々しい重武装をしたタマキさんが、言います。


「陽動はお任せください。

こんな事もあろうかと、重機関銃と電脳薙刀パイルバンカーを装備して来ましたから」


 プロデューサーさんは、タマキさんを見て言います。


「タマキのその装備……戦車でも相手に出来そうだな」


 タマキさんが真っ黒で大きな電脳薙刀パイルバンカーを構えて、ニコッと笑って言います。


「ええ。

至近距離でイれる事ができれば、多脚戦車ジョロウグモでも一突きでってしまいますから」


 最後にお姉ちゃんが、全員に聞こえるように電脳通信(音声)にて伝えます。


『隠密行動で移動。

タマキさんは南から、他三人は東側から兎魅ナナ邸に接近。

 タマキさんは陽動よ。南側の門で派手に暴れて。

私とシノブのナユタ君の三人は、兎魅ナナの確保に向かうわ。

 全員の準備が整い次第、突入開始よ』


 それを聞いた私達は――


『わかった』『了解しました』『頑張ります!!』


 ――とそれぞれ返事をしました。





―――――




 お姉ちゃんとプロデューサーさんと私は、静かに、でも急いで兎魅ナナちゃんの豪邸に向かいます。


森の中には敵さんがいらっしゃらないようなので、私達は順調に進めました。


 しかし私は、プロデューサーさんの喉ぼとけを見ながら、彼の事を考えていました。


これまでで、プロデューサーさんには元カノが居た事が発覚しました。


しかもその元カノは、先の大戦で亡くなったそうです。その事を知って私は、プロデューサーさんが可哀相だと思いました。


そして同時に、プロデューサーさんが何故あんなに”ハーレム主人公ムーブ”をしているのかも理解しました。


 おそらくプロデューサーさんは、戦争で亡くした元カノの事が未だに忘れられないんだと思います。


だからきっと、お姉ちゃんや、タマキさんや、WABIちゃんやSABIちゃん?に言い寄られても、鼻の下を伸ばしながらも耐えているんだと思います。


しかし、だからと言って、数々の女性のパンツを見まくる事が変態行為である事に変わりませんし、絶賛ハーレム建造中の彼の行動は大奥を作った江戸時代のお殿様のソレで、現代社会でゆるされることではありません……。


 ともかく私は、プロデューサーさんの事が可哀相だと思いましたし、ちょっと安心しました。


だって、先の大戦が終わって10年以上は過ぎた今でも亡くなった元カノの事を想っているなんて……”一途”だと思いませんか?


それだけ一人の女の人の事を想えるプロデューサーさんの事は、ちょっと、見なおしましたし……。


それにだからこそ、ますます……プロデューサーさんの事が好きになってしまいました。


 胸が、甘い痛みで一杯になって、重くて……とても苦しいです。


だからこの時、私はハッキリ自分が……”嫉妬”に飲まれたことを感じました。


 プロデューサーさんを魅了できる、大人なお姉ちゃんに嫉妬しますし……。


 それ以上に、長い間プロデューサーさんの想いを受け続けている、”元カノ”に対して、さらにそれ以上の嫉妬を感じました……。


 できれば私も”元カノ”のように、一人の男性に深く愛されたいと思いましたし……


そして出来れば”その男性”が、プロデューサーさんだったら……

どんなに良いだろう?……って思っちゃいました。




 そんな感じで私が嫉妬による胸の締め付けで苦しんでいると、プロデューサーさんの声が聞こえます。


「シノブ……。どうしたんだ?

 また変な物を食ったのか?」


 心配げな表情で私をきづかってくれるのは嬉しいですが、私の想いも知らずに、プロデューサーさんは呑気なものです。


だから私は、驚くほど冷たい口調で言ってしまいます。


「いつもいつも……パンツの事ばかり考えているプロデューサーさんには、関係ありません」


 プロデューサーさんが真顔でツッコんできます。


「シノブ。大いに語弊があるぞ。

 俺は、いつも・・・パンツの事を考えている訳じゃない。たまに・・・だ。」


「という事は、たまに・・・は……私じゃない……他の女の人のパンツのも見たいって事……ですか??」


「いや、ちょっと待て。

 何の事を言っているのか分からないんだが?」


 想いとは裏腹に、私はプロデューサーさんを揶揄するような口調を続けます。


「まあ、プロデューサーさんは……”パンツ収集家の変態さん”ですから、仕方ありませんね」


「パンツ収集家とはなんだ!

 俺は、『パンツを敷き詰めて敷き布団がわりにしたりする』タイプの変態じゃ無いぞ!」


「“パンツの敷布団”の発想はありませんでした。

さすがプロデューサーさん……変態さんです。

 ついでに、パンツの掛け布団と枕もご用意されては、いかがですか?」


 ここでお姉ちゃんが、呆れ顔で私達の仲裁に入ります。


「ちょっと二人とも……。

 作戦中にパンツで喧嘩しないでちょうだい」


 私とプロデューサーさんは同時に反論します。


「「だって!シノブ(プロデューサーさん)が!パンツを!!」」


 ここで、非常に”パンツな雰囲気”となった私達に、タマキさんの音声通信が入ってきます。


『兎魅ナナ邸の正面に到着しました。

いつでも突入可能です』


 お姉ちゃんが答えます。


「私達も、もうすぐ突入可能よ。

 SABIちゃん?

ジャミングは位相できるかしら??」


 SABIちゃんがイタズラっぽい笑顔で、私達の電脳内にあらわれて言います。


「ジャミングの位相は可能だけれど……アンタ達なら、”物理的”に排除した方が早いでしょ?」


 SABIちゃんの提案に、お姉ちゃんは賛成します。


「なるほど……”物理的”に……良い作戦ね」


 プロデューサーさんが質問します。


「”物理的にジャミングを排除する”って……どうやるんだ??

 付近に散らばったドローンを、同時に全部撃ち落とすのか??

 兎魅ナナの屋敷は、オオエドドーム半分ぐらいの広さがあるぞ?

 さすがに無理がないか?」


「まあ、見てて」


 そしてお姉ちゃんは、私達に命令します。


「兎魅ナナ邸の南側と東側のドローンはタマキさんとシノブで排除。

その後、WABISABIが残ったドローンをハッキングで排除。

 全員で一つ残らずドローンを潰して頂戴。

出来るわね??」


 WABIちゃんが答えます。


「周辺のドローンの数は、120~150機程度と予想されます。

 シノブ様とタマキ様の火器斉射によりドローンの数が半数以下になれば、ジャミングがまばら・・・になります。

その状況であれば、ワタクシの電脳戦で敵ジャミングを即時に排除可能です」


 タマキさんが音声通信で答えます。


『40機ていどのドローンなら、確実に同時に・・・撃破できます』


 私もそれに続いて答えます。


「おなじくです!!」


 そしてお姉ちゃんが、命令をします。


「それでは、突入を開始するわ!!

西アイドル事務所の実力を、メガザイバツの社員に見せつけなさい!!」


 お姉ちゃんのその合図と共に、私は「了解しました!」と言って、全力でジャンプをします。


 もちろん、ナノマシーン衣装の“筋力ブースト”を使ってジャンプしました。


だから直ぐに私は、高度20mほどに達します。


 青空の中、数十のドローンが見えました。


 視界の中のドローン達に、グリーンのホログラムのロックオンマークが浮かび上がります。


 私は両手で8本の電脳苦無サイバークナイを抜き放ち、腕を交差させて構えます。


 私の存在に気づいたドローン達が警告を放とうとしますが、もう遅いです。


 【 月華繚乱げっかりょうらん 】


 ——というピンクのホログラムが私の目の前に浮かび上がり、私が投げた8本の電脳苦無サイバークナイが次々に戦闘ドローンを、貫きます。


 「ドドン!ドドン!」と次々にドローン達は爆発し、木っ端みじんになりました。


 それと同時に、空の方々で爆炎があがりました。


おそらく同じぐらいのタイミングで、タマキさんとWABIちゃんが戦闘ドローンを破壊したのだと思います。


 そして、手元に戻ってきた電脳苦無サイバークナイを太腿のホルスターに仕舞いながら、私は地上に着地しました。


 ちゃんと忍者らしく、音を立てずに、片膝立ちで着地します。(みなさんお忘れかも知れませんが、私はいちおう忍者アイドルなんです)


 それを見たお姉ちゃんが、電脳通信で全員に伝えます。


「よくやったわ。みんな。

 無事に周辺のジャミングを”物理的”に無効化できたわ」


 私はスカートに付いた埃を払いながら、立ち上がって言います。


「いいえ。この程度なら……”朝飯前”ならぬ、”ブランチ前”です」


 そんな私達の様子を見ていたプロデューサーさんが、言います。


「前々から思ってはいたが……、

 やはり、シノブとタマキは……めちゃくちゃ強いんだな……。

二人だけでほぼ、小隊レベルの戦闘能力じゃないか……」


 お姉ちゃんがそれに答えます。


「当然よ。

シノブも数々のスキルレベルが上昇したし、タマキさんは何でも出来るし、

 そこそこの軍隊にも負けないわ」


 そして私も、戦闘後の高揚感もあってか自信満々に言います。


まあ……後々になって、かなり恥ずかしくなりましたが……ともかく、私はドヤ顔のウインクで言います。


「ありがとうございます。プロデューサーさん!!

 強い私って可愛いですか??」


 プロデューサーさんの事ですから、私のそんなセリフに「なんでやねーん!自意識過剰かよ!」とツッコむかと思いましたが、意外にも彼はこう言います。


「そ、そうだな……。

ま、まあ……悪くは無かったかな」


 その時のプロデューサーさんは、ちょっと驚いたような顔に見えましたし……気のせいでしょうか?照れているようにも見えました。


ですので私もなぜか、急速に恥ずかしくなってしまい、顔を赤くしてしまいます。


「え!?そ、そうですか……?

悪くは無かったですか??……えへへ……」


 そんな感じで、モジモジする私達二人を見て、呆れ顔でお姉ちゃんは言います。


「二人でモジモジモゾモゾしてる場合じゃ無いのよ?

 今から突入開始するのよ?兎魅ナナ邸に……。

 先が思いやられるわね……」

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