66話 パンツ大作戦2

 兎魅ナナのお座敷遊び——春夫軽ハルオカートは、ブラウン管テレビの中にステージ最大の難所である”ハコネヤマ・ダウンヒル”を映し出していた。


 九十九折つづらおりが続く夜の”ハコネヤマ・ダウンヒル”に、2台の軽トラックの排気音エキゾーストサウンドが鳴り響いていた。


「ゴォォワァァアアアア!!!!」と加速する河童カッパを操作しながら、俺は電脳内のSABIちゃんに聞く。


『“パンツ大作戦”の開始地点はまだか!?』


 SABIちゃんが答える。


『あと2ツーコーナーをクリアした先よ!!

そこに”パンツ大作戦“の場所——「ステージ中で最も長いカーブ」が見えてくるわ!!』


 その”電脳内の音声”に、横から聞こえる兎魅ナナの肉声が被さる。


「負けないよ!!

あちきは可愛い視聴者ちゃん達の期待をしょってんだから(本気マジ)!!」


 俺の操作キャラ”河童カッパ“が野太い声で、

「しゃあ!オラァ!!」と言いながら軽トラックをドリフトの体制にし、コーナーに突入する。


 それに並走するように、兎魅ナナの”エノキ“の軽トラックが同じ姿勢でドリフトを開始する。


「ドッシャァアアァアアアアアアアアア!!!!」

「ガッゴォォオオォオオオオオオオオオ!!!!」


 2台の軽トラックの”テールランプの赤”が、”4本の光”となり、漆黒のハコネ・ダウンヒルに円弧シュプールを描いた。





 ここまでの俺と兎魅ナナのデッドヒートにより、配信は大いに盛り上がっていた。


俺達の目の前にホログラムで表示されるコメント欄には、ヤバい数のコメントが飛び交っている。


もはや早過ぎて目視できなレベルだ。


 つまり俺の”パンツ大作戦“を実行するには、これ以上無い状況と言える。


なぜなら、配信が盛り上がれば盛り上がる程……俺の”パンツ大作戦“は、最大の効果を発揮するからだった。


だから俺は、何としてでもこの”最大のチャンス”を生かして、”パンツ大作戦”を成功させて兎魅ナナを魅了し!!……”VF(バーチャ・ファイト)”するんだ!!!!


 そう思った俺は画面から目は離さず、座った姿勢のまま、コソコソと兎魅ナナに近づいた。


あぐらをかいた俺のはかまの右ひざが、兎魅ナナの正座の左ひざの素肌に触れる。


 コメント欄に……【それ以上ナナに近付くと、貴様を斬る】というコメントが流れた気がしたが、気にしない。


 俺と兎魅ナナが密着した状態も、”パンツ大作戦”には必要不可欠な要素だからだ。


「このカーブで絶対にナユタちゃんを抜かすんだ(集中)!!

 うおおおおおおお(闘志)!!」


 と言いながら夢中でゲームプレイを続ける兎魅ナナは、俺が近付いた事に気づいていない。


それだけ兎魅ナナと俺の春夫軽ハルオカートのVR配信は、白熱していた。


 SABIちゃんがポップアップして、真剣なロリ声で警告する。


『ナユタ!!

 このコーナーを抜けたら“直ぐ”よ!!』


『”パンツ大作戦”の開始地点だな!!』


『そうよ!!

 ”パンツ大作戦”の為の『最も長いコーナー』よ!!

 今のコーナーが終わったら直ぐに逆にハンドルをきって!!』


『つまり、コーナーの外側は俺だな??』


『そのとおりよ!!

 ”河童カッパが外側”で”エノキが内側”よ!!

 これで良いのね??』


『ああ。SABIちゃん!!

ありがとう!!!

これ以上無い……最高の走行ランデブーだったぞ!!』


『ふふふ。まあ……フザケた作戦だけど、頑張って?

 一応は、アタシも応援しているんだからね?忘れないでね?』


 SABIちゃんの久し振りの”デレ”を聞きながらも俺は、河童カッパを『最も長いコーナー』にドリフトのまま雪崩なだれ込ませた。


 直ぐに、兎魅ナナの”エノキ”も追従する。


 俺達の2台の軽トラックは、ドリフトのまま『最も長いコーナー』に突入した。


 操作に夢中になっていた兎魅ナナが、左に大きく傾く。


兎魅ナナの左半身が、俺の右半身に柔らかく押し付けられる。


 俺はそんな彼女の身体を、少し押し返す。


 ゲームに夢中になっている兎魅ナナは、気付かない。


そんな間にも、ゲーム内の『最も長いコーナー』は続く。


2台の軽トラのヘッドランプが、ハコヤマネダウンヒルの木々を闇夜やみよに次々と浮かび上がらせて行く。


 そして、”エノキ”の操作に集中している兎魅ナナは、身体をさらに傾けようとする。


 俺の右腕に兎魅ナナの左乳が、グイグイ押し付けられる。


 柔らかいFカップは、潰れて変形する。


 着物の割れた胸元から、乳がせり上がる。


 俺は慌てて目を逸らしてゲーム画面に目を戻す。そして心の中で叫ぶ。


『耐えろ!ナユタ!!まだだ!!

 まだ!”Fカップ”に負けてはいけない!!

 もう少しで作戦が成功する!!

 このまま耐えるんだ!!』


『最も長いコーナー』は、まだまだ続く。


 コーナー内側の”エノキ”が少しだけ前に出る。


 兎魅ナナが叫ぶ。


「いっけぇええええ!!」


 そう言って、兎魅ナナがさらに身体を傾けた瞬間……


 彼女の正座の両膝がズレた。


 兎魅ナナの体重の大半が、俺に預けられた。


 彼女のツヤツヤの膝の間隔が離れ、ミニ丈着物の真ん中が割れ、その間からパンツが見えそうになった。




 俺はその瞬間を逃さなかった。




俺は、兎魅ナナにしか聞こえないであろう小さな声で言う。


『先に言う。すまない。兎魅ナナ』


『え?』


『君の愛する視聴者と、配信の為だ』


 そう言った後すぐに俺は……


誰も居ない・・・・・左側に大きく倒れこんだ。


「え!?!?」


と言った兎魅ナナが、驚愕の表情を浮かべる。


 無意識のうちに体重のほとんどを俺に預けていた兎魅ナナの体勢が、グラリと揺らぐ……。


俺は、彼女の下敷きにならないように、そして……”配信の為に“……素早く身をかわした。


 完全に支えを失った兎魅ナナの身体は、一瞬宙に浮いたように見えた。


そして直ぐに、彼女の上半身は畳に落ちる。


その反動により正座の彼女の腰が崩れ、脚は大きく跳ね上がり、そろったまま畳の上に落ちた。


 兎魅ナナのミニ丈着物の裾が、ひるがえる。太腿があらわになり、彼女のお尻を包む“ソレ”が見えそうになった。


しかし俺は、直ぐに“ソレ”から視線を外す。


『俺は今!“ソレ”を見るべきじゃない!!

 俺が今、見るべきなのは…………

 “コメント欄”だ!!」


そう考えた俺は、ブラウン管テレビの下に表示されたコメント欄を注視する。


直ぐにそこは、今までで最大の”弾幕”で埋め尽くされた……。


【ナナのパンツ尻!!】【薄布の下に尻!!】

【これがパンツか!】【パンツのお尻!!】

【パンツ最高!!】【パンツ丸見え!!】

【俺はこの為に生きてきたんだあああああああ!!】

【パンツをありがとう】【ナユタはパンツの神】

【パ・神・爆・誕】【もう悔いは無い切腹しよう】

【おしりすき】【桃源郷の景色がここにある】


そんなコメント欄を見た俺は言う。


「決まったな。これが…………”パンツ大作戦”だ」





 俺はこれを狙っていた。


この”パンツ大作戦”は、今までと違って俺がパンツを見る為の作戦では無い。


この作戦は――「視聴者に兎魅ナナのパンツを披露して配信を盛り上げる」ための作戦だった。


 あるいはお前達の中で……「兎魅ナナのパンツを、配信中に晒してPVを稼ごうとするなんて鬼畜の所業だな」と思っている人も居るかもしれない。


断言するが、”それは違う“。


何故ならこれは、兎魅ナナも望んでいる事だからだ。


 思い出してほしい。


この”お座敷遊びハルオカート”が始まる前に兎魅ナナは、俺の悪口を言っているコメントに一瞬だけ怒っていた。


 そのコメントをした者の名前は……”ナナパンツ職人”だった。

”ナナパンツ職人”が誰なのかは知らないが、そのアカウント名を兎魅アナは躊躇ちゅうちょなく読み上げていた。


そしてSABIちゃんも、「兎魅ナナのパンチラは公然の事」と言っていた。


 以上のことから、2つの事が分かる。


1、兎魅ナナが大切にしている事は、全てのファンが喜ぶ事。

2、兎魅ナナは、視聴者にパンツを見られることを恥だとは思っていない。


 それらを踏まえて……俺が兎魅ナナに気に入られる為にする事は、何か?


 簡単な事だ。


配信が最大に盛り上がっているところで、兎魅ナナに盛大にパンチラして貰えば良い。

もちろん、自然にハプニングを装って……だ。


そして、重要なのは”全てを俺が仕組む”事だ。


 だから俺は、パンチラ前に『すまない。兎魅ナナ』と彼女に謝ったわけだ。


その事により、俺がパンツ大作戦を仕組んだ事を、彼女に知らせた訳だ。


 つまり……「兎魅ナナのパンツを大公開して視聴者を歓喜させる。そして、配信を成功に導く事で俺は兎魅アナに気に入られる」……というのが、俺のパンツ大作戦だった訳だ。



 

 SABIちゃんが、ポップアップして俺に電脳内で言う。


『お疲れ様。作戦無事成功ね。

 でも……改めて、この場に居合わせると……マジで最悪な作戦ね?

ていうか、アンタは”見なくても”良いの?』


『なんだ?SABIちゃんは、

俺がいつもパンツを見たがっているとでも思っていたのか?」


 俺は、そんな会話をSABIちゃんと繰り広げていたが、しかし、兎魅アナの――


「いったーーーーい(泣)。

 ナユタちゃん、ワザとやったよね??」


 ――という、甘えるような可愛い声に、つい彼女の方に振り向いてしまった。


 俺の目の前で、兎魅アナは横倒しの姿勢になっていた。


起き上がろうとしたのか、彼女は両手を畳につけて上半身を起こしている。


そのお陰で着物の胸元はずり落ち、彼女の”Fの大山脈おっぱい”がうねって持ち上がり、光り弾く柔らかで大きな”肌色のバンプ凹凸”を形成していた。


そして彼女のピンクの瞳は、上目遣いで俺を見つめていて、頭のウサミミも相まって、その表情はまるで寂しがり屋のうさぎのようだった。


 それは、俺のわずかな嗜虐心しぎゃくしんをくすぐり、俺の心の底の情欲パトスを引きずり出した。


 そして下半身に目を移すと、彼女のツヤツヤに輝く太腿が畳の上に二つ、無防備に横たわっていた。


その光りを放つ二つの太腿を見た俺は、つい、口から本音がこぼれる。


「これが曲線がつむぐ、桃源郷か」


そして兎魅アナのしなやかな脚に意識を奪われた俺が、思わず彼女のパンツに目を移すと………




【パンツァー起動】




それは……【黒いウサギ柄の桃色】だった。


そして、俺は呟く。


「まさか、ここも兎なのか……キャラ設定を徹底した君のプロ魂パンツに……畏敬の念さえ感じる」


無駄にパンツァーが起動し、俺の脳は萎縮してしまう訳だが……この際だ。仕方が無い。


そう思った俺は、パンツァーの稼働時間を使い――


――【黒いウサギ柄の桃色】側面からハミ出す尻の肉や、

――【黒いウサギ柄の桃色】背面の複雑なしわや、

――【黒いウサギ柄の桃色】前面と太腿が作り出す、三角形に空いた空間を、堪能した。


 有意義な時間はすぐに終了する。




【パンツァー終了】




 時間は再び動き出し、兎魅アナは少し頬を染めながらも、俺に小さな声で言う。


「ナユタちゃんには、”してやられた感”満載だけど……

 マジで、ナイスアシストだったよ??

リスナーちゃん達も喜んでいて、”撮れとれだか”も、いーーっぱいで最高の配信になったね?

 ”この後の事”……楽しみにしてね!!」


 そう言ってウィンクをした兎魅アナの目からは、♡マークが溢れているように、俺には見えた。




—————



作者:

次の投稿は、11/25 21:00となります。


以前と同じようにに週3での投稿をしたかったのですが、作品のクオリティの為に、今後は週1での投稿としました。


もちろん、機を見て投稿頻度を上げる事も検討しています。


よろしくお願いします。

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