64話 ウサウサちゃんねる2

「あ!?

 君がナユタちゃん!?よろしくね!!

あちきが兎魅うさみナナ!花魁おいらんアイドルだよ(ぴょん!!)……って……もう知ってるよね?」


 と言ってVRの兎魅ナナは、「てへぺろ」な表情で俺に言った。


 “お座敷遊び用の“フルダイブのVR空間”

【※実際に眼の前に居るのと同じようにコンタクト出来る。肉体同士の接触も可能】

で見る兎魅ナナは、ハッキリ言ってメチャクチャに可愛かった。


しかし、先に謝る。すまない。


そう怒らないで欲しい。


「ナユタ。お前。アイドルを見たら大体メチャクチャ可愛いって言ってるじゃないか!」

ってお前達が俺の事を責めているのは、十分に理解できている。


 俺だって、アイドルを見るたびに鼻の下が伸びてしまう自分が情けない。


 しかし……想像して欲しい。


 20歳はたちの”美少女を兼ねた美女”なんて……魅力を感じない方が無理な話だと思わないか?


 しかも兎魅ナナは、Fカップの大きな胸を露出させた”ミニ丈着物”を着ているんだ。


 確かに、俺は『胸より脚派』だし……着物は着崩きくずすより、ちゃんと着ている方が好みだ。


しかし、銀と金の刺繍があしらわれた兎魅アナの紺色の”ミニ丈着物”は、胸をはだけさせるように形作られていて、彼女のFカップの胸と鎖骨を引き立てていた。つまり、性的ながらも上品さを感じさせるのが、彼女のミニ丈着物だ。


そんな感じで、兎魅ナナの”近距離先制攻撃”をうけた一瞬、完全に思考停止した俺だったが、ロリ声により正気を取り戻す。


『噂には聞いていたけれど……人間のオスってメスの胸を見た一瞬、思考停止するって本当だったのね?』


俺は網膜ディスプレイ上のSABIちゃんと、電脳内・・・で会話する。


『奉行所のAIが、人間の性別をオスとメスで表現するのは良くないぞ』


『はいはい。分かったわ。

 ともかく……。分かってるの?ナユタ?これは、あくまで”前段階”よ。

アンタの今からする事は、お座敷遊びを楽しむ事では無く、レトロゲームで勝つ事でも無く……「兎魅ナナに気に入られる事」なのよ?』


「そんな事は、理解している。

兎魅ナナに気に入られてVFに誘われる事が、この“潜入操作”の目的なんだからな」


俺の網膜ディスプレイの右下で、お馴染みになって来た「やれやれポーズ」でSABIちゃんは言う。


「分かってるのなら良いわ。

ともかくこれは大きなチャンスよ。

 とにかく、兎魅ナナに気に入られる事を優先して」


そんなSABIちゃんの言葉を聞きながら俺は考える。


どうすれば……兎魅ナナに気に入られるんだろうか?

彼女が配信中に気をつけている事は、なんなんだろうか?

 

あるいは……彼女が嫌いな事・・・・は何なんだろうか……。


そこにヒントがある筈だ。



—————


————


———



 ブラウン管テレビに正面を向いた兎魅ナナは、コントローラーを握った身体を大きくかたむける。


「あれ??それってもしかして……”ホーミングたらい”!!??

ダメダメダメダメダメ!!

 そんなの突っ込まれたら!”エノキ”が、っちゃうから!!」


 天真爛漫てんしんらんまんな笑顔のまま兎魅ナナは、画面内の“エノキ”の動作に合わせて、身体を大きくかたむける。


 ちなみにだが……兎魅ナナが言った”エノキ”とは、”春夫軽ハルオカート”のキャラクターの名前だ。頭にエノキタケを生やした異形の男だ。


そんな”エノキ”の操作に夢中になっている兎魅アナは、さらに身体をかたむけながら加えて、上体を大きくひねった。


そのせいで彼女の着物からはみ出た、胸の”上30%部分”が俺のヒジの横を掠めようとする。


俺は慌てて身体をそらし、ギリギリでその――”Fカップ”を避ける。


もちろん”春夫軽ハルオカート”の操作は、続けたままだ。


 一瞬俺は「あっぶねー!ゲーム内じゃ無く、おっぱいの方で”ニアミス”したじゃねぇか!!」と思ったが、冷静を装う。


今この様子は、配信中なんだ。


俺が兎魅ナナの胸に安易に触ようものなら視聴者から総スカンを食らう事は、予想にかたくない。


 つまり俺はゲームと兎魅ナナの両方に、注意を払わなければならない訳だ。


 俺は配信中の緊張と、”おっぱいニアミス”の両方で冷汗ひやあせをかきながらゲームをプレイしていた。


俺は自分が操作しているキャラクター――”河童カッパ”に目を戻す。


 そして俺は考える。


『ていうか……何故こんなに俺との距離が近いんだ?兎魅ナナは?

 もしかして、俺の事が好きなのか?』


 ——と、「優しいパリピ女子に陰キャの男の誰もが抱くであろう勘違い」を俺がし始めたところで、SABIちゃんが俺の網膜ディスプレイ上に現れて言う。


『兎魅ナナの距離が近いのは、”お座敷遊び”だからでしょ?

アタシの認識では花魁おいらんってのは……人間のオス……じゃなく”男性”とイチャイチャする為に”お座敷遊び”をする認識よ』


『おい。SABIちゃん。

俺の思考を勝手に読みとるな。

恥ずかしいだろ』


『気にしないで。

そんな事よりも一つ……ナユタに朗報よ。

さっきから兎魅ナナのパンツが、チラチラ見えているらしいわ』

『なんだって!!??』


『食い気味に反応しないで。

またキモイって言うわよ。

とにかくVR配信を私が確認していたところ――

【恒例のパンツ!!(゚∀゚)キタコレ!!】とか、

【今日もナナちゃんのパンツが見れて飯がうまい】とか、

【ゲーム中のチラ見えパンツでしか栄養摂取できない拙者、延命措置に成功】とか

――で溢れかえっていたわ。

どうやら、兎魅ナナのパンチラはいつもの事みたいね』


 俺は自分の横で正座でゲームを続ける兎魅アナの、ミニ丈着物から覗く絶対領域を見ながら答える。


『……なるほどな。

それなら……俺は、この場に呼ばれて“正解”だったみたいだな』


『ええ。そういう事。

だから、”朗報”って言ったの。

 ナユタが兎魅ナナのVR配信を見ていたら、パンツァーが起動していたでしょうからね』


 そんなやり取りを電脳内でSABIちゃんとしながらも、俺はゲームを続ける。


画面の”春夫軽ハルオカート”の中では、俺と兎魅ナナの順位が入れ替わろうとしていた。


 俺の”河童カッパ”が、”ホーミングたらい”で横転した“エノキ”の軽トラックを、追い抜かす。


河童カッパ”の上に『一位でござりまする!!』という文字が大写しになる。


それを見た兎魅ナナは、楽しそうに笑いながら言う。


「ああ!!ナユタちゃんに抜かされちゃった!!

 ナユタちゃんって”春夫軽ハルオカートのプロ”なの??」


 俺はツッコむ。


「そんな訳ないだろ?

ていうか何だよ?”春夫軽ハルオカートのプロ”って?」


「なんで??

だってナユタちゃん、上手じょうず過ぎるじゃん!!

あちきが知らないだけで、ナユタちゃん……プロゲーマーかもしれないじゃん??

だって、まだ一周もしていないのに、エノキがやられちゃったんだよ?」


そう言いながらも彼女は、無邪気な笑顔を顔いっぱいに広げていた。


だから俺は兎魅ナナのその笑顔を見て、彼女が人気の理由が理解できた。


 兎魅ナナは、おっぱい…………”も”、そうだが……それより何より、常に明るいんだ。


しかも、ウソ偽り無く、この配信を心の底から楽しんでいるようだ。


基本的に俺は陰キャだから、初対面の人間には警戒心が先立つ。

兎魅ナナみたいに陽キャの塊のような女の子なら、”さらに”……だ。


しかし目の前の兎魅ナナは、挨拶をした瞬間からまるで、彼女が俺の恋人かのような錯覚を起こさせた。


要するに……俺の警戒心が、兎魅ナナには全く”仕事”をしないんだ。


 そんな……”天真爛漫の塊”のような兎魅ナナだったが……。


 ブラウン管テレビの横に表示された、視聴者のコメント欄を見た一瞬、顔が曇る。


 直ぐに笑顔に戻って、兎魅ナナは言う。


「もう……ダメだよ!!

”ナナパンツ職人”ちゃん!!

 ナユタちゃんは、みんなの代表で呼ばれたんだよ??

あちきは、みんなの事が大好きで愛してるんだから、ナユタちゃんの事悪く言ったら、あちき悲しくなっちゃうよ??

 だから、ナユタちゃんの悪口は絶対に言わないで??」


 と言った兎魅ナナは、笑顔でゲームを続ける。


 俺は“自分に対する悪口”がかなり気になったが、知ったら傷付きそうだったので、追求しない事にした。


またしても、SABIちゃんがポップアップして俺の電脳内で言う。


『流石、人気爆発中のR18アイドルの兎魅アナね。

【ナユタ死ね!】

【新参者がナナちゃんとイチャイチャするな!】

【ナユタの住所を特定した】

とかで荒れ気味だったコメント欄が、一発で沈静化したわ』


『ちょっと待て。俺の住所特定されてないか??

 俺、マジでられるんじゃないか??』


『大丈夫じゃない?

兎魅ナナが上手く対処したし。

まあ、知らんけど』


 SABIちゃんの俺への扱いが、どんどん酷くなっている気がしたが……。


 しかし、これまでの兎魅ナナの行動を踏まえて、俺は“ある作戦”を思い付いた。


 だから俺は、電脳内でSABIちゃんに宣言する。


『SABIちゃん。一つ作戦を思い付いた』


『作戦?』


『ああ。“兎魅ナナに俺が気に入られる為の作戦”だ』


『どんな作戦なの?』


『今のSABIちゃんは、俺の思考を直接読めるんだろ?


俺のそのセリフを聞いたSABIちゃんは、小さな胸のコアを明滅させる。


そして、俺の思考を読み取ったSABIちゃんは、「やれやれポーズ」をしながら呆れ顔で言う。


『呆れた……。

 ナユタあんた……。

 よくこんなフザケた作戦を思い付くわね……』


 俺は何食わぬ顔で、画面内の”河童カッパ”を見つめながら言う。


『フザケた作戦だが……“悪くは無い作戦”だろ?』

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