62話 潜入捜査2

 俺は再び、サイバーダイブチェアに腰を下ろしていた。電脳空間サイバーネットに五感を転送ダイブさせる為だ。


というかこの椅子の本来の目的は、義腕サイバーMODのインストールが目的じゃない。


その名のとおり、”サイバーダイブ”が目的なんだ。


 そして俺のまわりにはいつもの如く、美女×2と美少女×1が居た。


 最初に30デニールの万錠ウメコが、俺の横に立つ。


ちなみに今の俺は、サイバーダイブの為に仰向けに寝た姿勢になっている。だから俺の頭は、床から80cmぐらいの位置にあった。


 そのため俺の視線は必然的に・・・・、万錠ウメコのタイツから透けた太腿に固定される。


 その——スラッとした”30デニールの太腿“が、説明を始める。


「ナユタ君の”ウサウサチャンネル”のプレミアム会員登録は終わらせておいたわ」


 俺の後ろに立つ月影シノブが発言する。当然・・、振りむいた俺の視線はシノブの絶対領域と合う。


 ハリの良い“絶対領域”は、言う。


「”ウサウサチャンネル”とは、兎魅ナナちゃんの”腰痛部ようつうぶ(R18版ノクターン)”におけるチャンネル名です」


 俺はツッコむ。


「説明は助かるが……。

でも、さすがの俺でもそれは理解しているぞ?」


 黄泉川タマキが俺の頭の上で発言する。

俺が視線を上げると、そこには巨乳しか見えなかった。


 圧倒的な“巨乳”は、言う。


「私がさきほど兎魅うさみナナちゃんのアーカイブ配信を見たところ、”腰痛部ようつうぶ(R18版ノクターン)”上では、”良い事”——つまりVFの具体的な案内は無いようです」


 俺は”巨乳“に質問する。


「それなら……視聴者はどうやって兎魅ナナのVFに参加するんだ?」


「SABIちゃんが腰痛部よーつーぶのハッキングで”抜いて”きた情報によると……VF参加者には兎魅ナナちゃんからDM(ダイレクトメール)が届くようです」


「兎魅ナナから直接、誘いが来るのか。

VFに参加するプレミアム会員の選出方法は?抽選か?」


「いえ。

 配信中に兎魅ナナちゃんの目に止まったリスナーの中で、プレミアム会員の中から10名ほどに”VFのお誘い”が、来るようです」


「プレミアム会員の中から10名か……。

 いや……ちょっと、待て。

 兎魅ナナの同時接続数って……?」


 ”絶対領域“が、なぜか自慢気に答える。


「兎魅ナナちゃんの同接数の平均は2000万人です!!

 ちなみに登録者数は1億5千万人で、私の15倍です!!」


 それを聞いた俺は、少し考える。


「それなら……

 兎魅ナナから”VFのお誘い”が来るのは、200万分の1になるな……

”年末ジャンボなんとか”ぐらいの確率じゃないか?」


 ここで急に、ホログラムのSABIさびちゃんが登場して言う。


「”年末ジャンボなんとか”は、2000万分の1ぐらいの確率よ。

 だから兎魅ナナと”ヤれる”のは、それよりも10倍ぐらい確率が高いわね」


 俺はSABIちゃんのセリフを聞いて、「奉行所のAIが”ヤれる”とか言うもんじゃないぞ。もうちょっとオブラートに包んでくれ」とツッコんだ。


 しかしSABIちゃんは、意に介さず続ける。


「兎魅ナナの放送が始まった時点で、アタシがハッキングで腰痛部よーつーぶ改竄かいざんするから、あんたの発言コメントは兎魅ナナの目に止まりやすくなるわ。

 それにそもそも、選出されるのはプレミアム会員だけだから、あんたが兎魅ナナと”ヤれる”確率は、もっと高いはずよ」


 “30デニールの太腿”が話をまとめる。


「ともかく……。

 兎魅ナナの配信が始まったら、たくさんコメントして目立ってちょうだい。

投げ銭もある程度までなら許可するわ。

 もちろん公費よ。

つまり、お膳立ては全て完璧よ……」


 万錠ウメコは笑って、続ける。


「……だから後はナユタ君次第ね」


 俺は”不服申し立て”をする。


「所員に過度のプレッシャーを与えるのが”所長様“の仕事なのか?」


 万錠ウメコが『ブラック肉食系 女神スマイル』を浮かべる。


「緊張感があって楽しいでしょ?」


 シノブが真剣な顔で握りこぶしを作りながら俺をはげます。


「プロデューサーさんなら大丈夫です!!

 可愛い女の子に『ハァハァ』することは、得意分野じゃないですか?

いつもどおりの行動をして頂ければ、結果はおのずと付いて来ると思います!!」


「”1ドット”も褒められてる気がしないんだが……」


 SABIちゃんが俺に確認をする。


「VRケーブルは、ちゃんと接続した?

固定されていなかったら、VF中にあんたの電脳がバグるわよ」


 俺は自分の右耳の後ろの、”USB type-へい”ポートを右手で確認する。


VRケーブルはしっかりと固定されており、抜けるような事は無さそうだ。


 俺の網膜ディスプレイ上にもエラーは表示されていない。


「大丈夫だ。問題ない」


 万錠ウメコが言う。


「じゃあ、よろしくお願いするわね。

私達もここで、兎魅ナナの”ウサウサチャンネル“を見ているからね」


 黄泉川タマキが言う。


「ナユタさんのご無事をお祈りしています。”ヤッて”らっしゃい」


 シノブが言う。


「年齢制限の関係で私は見れませんが、陰ながら応援しています。

 それと……、

ナナちゃんに……あまり夢中にならないで下さいね?

 も、もちろん!!

『仕事をおろそかにしないで下さい』って意味ですよ??」




 そして俺は全員に、「それじゃあ、行ってくる」と言ってサイバーダイブチェアの上で目を閉じた。


 同時に椅子のアクチュエーターが起動し、俺が最も楽な姿勢に固定される。


 そして網膜ディスプレイ上に警告が表示される。


 【サイバーダイブ起動:

  !!!! ロード中です。中断しないで下さい。電脳がショートします。 !!!!】


 その警告がフェードアウトすると同時に、俺の視界が歪みグリッチに包まれていく……。



 そして俺の全ての感覚は、”二進数0と1”に置き換えられて…………。



 俺の精神は、電脳空間に転移していった…………。




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【5分前 兎魅ナナ視点】



 

 BASARAばさらと協力して、キチク芸能社の追跡から逃れたあちきは、アッパーヒルにある自分の家に帰って来てた。


 あちき達は周囲の安全を確認しながら、ガラス製の超クールな玄関ドアを開ける。


 そんなあちきに、BASARAばさらが警告をする。


「ナナちゃん!!何度も言っただろ??

 配信は絶対に辞めた方が良い。

 あのパンツァーってプログラムはヤバ過ぎる!!」


 あちきは反論する。


「でもBASARA、言ってたじゃん?

 『強い意志や殺意を持ってヤらなければ発動はしない』って」


「ああ、たしかに俺様はそう言った。

 しかしだからって、『ドウセツ中に絶対にパンツァーが発動しない』って意味じゃない」


「もうここまで来て諦めるのはヤだよ。

だって、あちきの大好きな可愛い可愛いリスナーちゃん達が待ってるんだよ(使命)??

 ナナは花魁おいらんアイドルだから、みんなに愛をあげなくちゃいけないの(ドヤ)!!」


「(ドヤ)じゃねぇよ。

もうどうなっても、俺様は知らねぇからな?」


 あちきは網膜ディスプレイ上のBASARAばさらと話しながら、超クールなガラス張りの廊下を抜け、配信用の部屋に向かう。


 あちきは会話を続ける。


「でも知ってるよ?

 そう言っていてもBASARAは、あちきの事を心配しているんでしょ?

あちき、可愛いからね(悦)」


 BASARAがツッコむ。


「ナナちゃんが可愛いからじゃねぇよ。俺様がAIだからだよ。

 AI検証の2条で決まってんだよ。『AIは使用者の意志に絶対服従すること』ってな?」


「それでも、あちきは感じるの。BASARAの愛を。

BASARAがAIだったとしても、あちきはずーーっと”ガチ恋”してるんだからね(ぴょん)?」


 BASARAがやれやれ顔で言う。


「まったくAIの俺様には理解できないぜ……。

 人間も……愛も……

 なにより、ナナちゃんがな……」


 配信用の部屋に入ったあちきは、サイバーダイブチェアの前でBASARAと向き合う。


「じゃあ、BASARA。ナナをナノマシーン衣装に着替えさせて?」 


「命令とあっちゃ仕方ねぇ……。

分かったよ。ナナちゃん……。

 ナノマシーン衣装を適用する」


 BASARAがそう言ったと同時にあちきの身体がグリーンに眩しく光る。


 すぐにあちきの服は、ウサ耳とミニ丈の着物に変化した。


 もちろん、メイクもヘアセットもバキバキだ。


「やっぱ、この衣装を着るとアガるよね?

 見てBASARA?

 あちき、可愛い?」


「毎度おなじ質問を、俺様にするんじゃねぇよ。

 可愛いに決まってんだろ?

俺様のご主人様は、電脳世界を含めて世界一の花魁おいらんアイドルだよ」


 そう言ったBASARAは、なんかどうでも良さそうだったけど……

でも逆に、BASARAのその態度がいつもよりもっと”俺様系”っぽかったので、あちきのテンションはさらにアガった。


「ふふふ。ありがとう。BASARA。

大好きだよ。

 じゃあ、行ってくるね?」


 そしてあちきは、サイバーダイブチェアに座る。


 あちきはVRケーブルを”本物の耳の後ろ”に差し込む。


 そしてあちきは大きく深呼吸する。


 あちきは考える。


 あちきはこの瞬間が何より好きだ。


 あちきはこの配信が始まる前の瞬間が何よりも好きだ。


もちろんEDMで踊り狂う事よりも、テキーラを呑む事よりも好きだ。


だって最高だと思わない?


 あちきの事が・・、大好きなみんなと……

そして、

あちき、大好きなみんなと……


”ドウセツ”して……愛で一杯になれるんだよ?


 みんなに貰った愛と、そして、それよりも深いナナの愛でみんなを包んで……


”ドウセツ”出来るんだよ?


 あちきがこれまで受けた痛みも、みんなの苦しみも、


ナナが、ぜんぶぜんぶぜんぶ飲み込んで……“愛”に変えて。


”ドウセツ”の間だけは、ナナもみんなも、つらいこと全てを忘れて……


愛で一杯になれるんだよ?


 こんなに最高な事なんて、この世には無いと、あちきは思うな。


 殺し合いも無く、貧乏も無く、死も無く、不幸も無く、

痛みも競争も妬みも悲しみも涙も無い……


愛だけが存在する最高の、きもちいい瞬間……。


 それを………あちきが産み出す事が出来るんだよ?


 みんなはそんな事、出来る?


 あちきは、出来る。


だから、あちきは花魁・・アイドルなんだ。


 あちきがそんな事を考えながら目を閉じていると、網膜ディスプレイ上に警告が表示される。



 【サイバーダイブ起動:

  !!!! ロード中です。中断しないで下さい。電脳がショートします。 !!!!】




 そしてあちきの全ての感覚は、”2つの数字0と1”に置き換えられて…………。


 

 あちきの意識は電脳空間に入っていった…………。




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