59話 インストール1

【ナユタとウメコが現場検証をした 翌朝8:55】


【ナユタ視点】




 朝、出勤した俺は、さっそく万錠ウメコに呼び出されていた。


おそらく昨日の現場検証の手掛かりについてだろう。


 30デニールの脚を組んで椅子に座った彼女は、言う。


今朝けさからさっそく、昨日の現場検証の”手掛かり“を解析しているわ。

SABIさびちゃんが西奉行所のハイパーコンピューターを使ってね?

 結果は今日の午後には分かるはずよ」


「”手掛かり“ってのは……

電脳戦特化型AI BASARAばさらの事だな?」


「ええ。そうよ。

 BASARAの使用者が、今日の午後には判明するって事ね」


 万錠ウメコは、業務用笑顔で続ける。


「それまでナユタ君はWABISABIわびさびで、”新しい義腕”のインストールをしていてちょうだい」


 俺は自分の左義腕ぎわんを見ながら言う。


「俺のこの……”電脳火縄銃サイバーレールガン内臓式”の義腕のインストールか……」



 先日の紫電セツナとの激戦で破損した俺の左義腕は、新しくなっていた。


新しい俺の左義腕は、軍用の”電脳火縄銃サイバーレールガン内臓式”になった。


見た目は生身の人間と変わらない義椀だが、外装が外れる事で電脳火縄銃サイバーレールガンが露出し、発砲可能となる。


電脳火縄銃サイバーレールガンとは、給弾の必要が無いライフルで、先の大戦でも使用された高威力の兵器だ。


 俺の義腕がこんな“高性能品”になったのは、ウメコ所長様の「何かあった時に必要になるし、あなたのパンツァーとの相性も良いだろうから」というお心遣こころづかいの賜物たまものだ。


もちろん軍用品は普通には手に入らないので、万錠ウメコがあの手この手で引っ張ってきたらしい。


 万錠ウメコは30デニールから透ける脚を組み替えながら、言う。


「私の勘だけれど……このヤマで左義椀それが必要になるかもしれないわ。

 だから、もしもの時に直ぐに使えるように、ちゃんとインストールをしておいてね?」




―――――――




 WABISABIはクラウドサービスなので、いつでもどこでもアクセスできるが、俺の義腕のようなサイバーMODモッドのインストールには、”外部コンソール”を使う。


西アイドル事務所の西側の部屋には、「メンテナンス室」があり、そこでWABISABIの”外部コンソール“が使用可能だ。


「メンテナンス室」の”光量子コンピューター”のモニターの前で、俺はWABISABIをコールする。


「へい!!WABIちゃん!!俺の義腕のインストールを頼む」


 モニターの中に、ボディースーツでショートヘアで緑色の美女AIが、浮かぶ。


もちろん、”最高にビューティーな笑顔”で、だ。


「かしこまりました。

ナユタ様。

 これより、ナユタ様の左義腕サイバーMOD――”電脳火縄銃サイバーレールガン内臓式義腕”のインストールを行います。

 インストールに伴って、義腕の微調整も行います。

後方のサイバーダイブチェアにお座り頂けますか?」


 俺は「分かった」と言いながら、様々なコードやメンテナンスアームがついた紫色のサイバーダイブチェアに腰を降ろした。


手術用の椅子のような形状のサイバーダイブチェアは、メンテナンス室の空調が当たり、ひんやりとしていた。


 俺が椅子に座ると、WABIちゃんの美人な声が質問する。


「姿勢に無理はございませんか?」


 俺の体型に合わせて、椅子のアクチュエーターが自動で位置を調整する。


「ああ。大丈夫だ」


 つづいて2台のメンテナンスアームが、俺の股間・・の前で停止した。


 股間・・だって……?


 俺が質問をする間もなく、WABIちゃんは口を開く。


「それでは、ナユタ様のはかまを降ろします」


「は?」


「ナユタ様の袴を降ろして、いわゆる”ボロン“と呼ばれる状態にいたします」


「え?」


「もうしわけございません……”冗談”です。

 先日も申しましたが、シノブ様が導入したジョークアドオン”KOKINTEIこきんてい”により、”冗談”が口をついて出てしまいました。

 もうしわけございません」


「冗談もアレだが……。

 なんか、変な下ネタが多くないか……?

下品過ぎ無いか?KOKINTEI?」


 WABIちゃんが、悲しそうな美人顔で言う。


「ナユタ様は、ワタクシの下ネタはお嫌いですか?」


 ”下ネタ”では無く、WABIちゃんの”隠語プレイ”なら大歓迎なのだが……そういう事じゃない。

 

 俺は、言葉を選びながら話す。


「なんと言うか……。

 ”冗談”は時と場合を選ぶんだ。

 特に下ネタは扱いが難しい。

いつでも言って良い種類の冗談じゃない。

WABIちゃんが”黄泉川タマキ化“しては困る」


「タマキ様との”キャラ被り“ですね?

 二次元キャラの個性としては禁忌きんきとされていると、理解しております」


「ま、まあ……そんなところかな……。

ともかく“冗談”は、もうちょっと抑えめにして欲しい」


「はい。分かりました。

的確にナユタ様からの”爆笑“を誘えるように、頻度を落としながらも試行錯誤します」


 俺は、『そういうことじゃ無いんだが、まあ良いか』と思った。


どんなセリフを吐いてもWABIちゃんが、”最高の萌え美人AI“である事に変わりは無いからな……。




——————




 サイバーダイブチェアに寝た俺の左義腕は、メンテナンスアームにより“外装”が開かれていた。


人工皮膚で出来た“外装”の下の義腕は、機械の塊だ。


真っ黒なカーボンファイバー製の外骨格から、シリンダーやケーブルやギヤが露出している。


 そしてメンテナンスアームは、「カチャカチャ」と音を立てながら着々とインストール作業を進めている。


 目の前のモニターの中で、WABIちゃんが俺に声を掛ける。


「”電脳火縄銃サイバーレールガン内臓式義腕”は軍用につき、ナユタ様のような生身の人間にはオーバースペックなサイバーMODモッドでございます。

 外部バッテリーを使用しない場合は、2発までしか発砲できない点をご留意ください」


 俺は調整を続けるメンテナンスアームを見ながら、答える。


「分かっているよ。

 俺だって戦時中に、電脳火縄銃サイバーレールガンを使った事がある。

 電力の供給が重要な事は理解しているさ」


「それでしたら、冗長なご説明でしたね。

申し訳ございません」


 WABIちゃんはお辞儀をした後、右手を顎に当てながら、俺に提案する。


「それと……折角の機会ですので……

WABISABIあるいは、ナノマシーン衣装のご使用上で、ご不明点はございませんか?

 ワタクシに開示可能な情報でしたら、お答えいたしますが?」


 そんなWABIちゃんの言葉を聞いて俺は少し考える。


 ハッキリ言って、WABISABIもナノマシーン衣装も理解できない事ばかりだ。


しかし俺はそんな中でも、先日の戦闘の中で気になった事を質問する。


「戦闘中に、“LP”って言葉を何度か聞いたんだが、どういう意味なんだ?

 LPが上昇する事で、シノブが“エモとら”出来たと理解しているんだが……」


 WABIちゃんは、美人な笑顔で答える。


「LPとは、“Love Points”の略称です」


「ラ、ラブ・ポインツ……?だって……?

もしかして、また下ネタか?」


「いいえ。ご安心ください。

これは、”冗談”でも”下ネタ”でもございません。

 LPの正式名称は、“Love Points”でして……

これは、ナユタ様と職員様の”親密度”を数値化したものでございます」


「ああ。なるほど。

 という事は”LP”って言うのは、俺と職員達の”仲良さの数値”って訳なんだな」


「ええ。そのとおりでございます。

ナユタ様が、どれだけ職員様と仲が良いかを示す指標となる数値です。

 こちらがLPの一覧となります」


 と言ってWABIちゃんは、自身のDカップの前にピンク色・・・・のホログラムを表示した。




♡ナユタ様と女性職員様のLP(love Points)♡



月影シノブ様   ……9900♡♡♡♡♡  

万錠ウメコ様   ……5000♡♡♡

黄泉川タマキ様  ……6000♡♡♡♡

WABIちゃん    ……9950♡♡♡♡♡

織姫ココロ様   ……500 ♡

SABIちゃん    ……2000♡♡



♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡



 

 そのピンク色のチカチカするホログラムを見た俺は、かなり戸惑いながら言う。


「み、三つ…聞きたいんだが……。

 まず……

 この”♡”ってどういう意味なんだ?」


「LPの評価です。

 ♡5個が最大値で、人間的に表現すると……”両想い”という意味になります」


「り、両想い……だって……?」


 その言葉をいったん飲み込み、俺は二つ目の質問をする。


「2つ目だ。

そもそもLPの数値の意味って、なんなんだ?」


「基本的には、プロデューサー様と職員様の『それぞれの想いの平均値』と呼べます」


「『それぞれの想いの平均値』?」


「はい。

『職員様の想いとナユタ様の想い』の”平均値”でございます。

たとえば……今回の一覧では、

 黄泉川タマキ様のLP6000が、万錠ウメコ様のLP5000を上回っていますが……

これは黄泉川タマキ様の、ナユタ様に対する”想い”が強すぎる為でございます。

 一方で万錠ウメコ様のLPが5000と、少々低い理由としましては……

ナユタ様からウメコ様に対する”想い”の変動が、大きい為でございます」


「という事は……

俺と万錠ウメコのLP値が、メチャクチャ大きかったこともあるのか?」


「はい。

昨日の夜の22:11に、万錠ウメコ様のLP値はこれまでの最大値を示しました。

その時のLP値は、一時的に最大値カンスト近くを観測しました」


 その事については、もちろん心当たりがある。


昨日の夜の22:11というのは多分、俺と万錠ウメコが彼女の家で”エロい接吻”をしていた時刻の筈だ。



 しかしやっぱ……あの時の万錠ウメコと俺って……。


 いや、今はその事について深く考えるのは辞めよう。



 ともかく俺は、最後の質問をWABIちゃんに聞く。


「そ、それと最後の質問なんだが…… LP値の最大値カンストって……?」


「9999でございます」


「と、と言うことは……

 シノブとWABIちゃんって……?」


 WABIちゃんは美人スマイルで言う。


「ワタクシとシノブ様は、ナユタ様と”両想い”という事になりますね?

 いわゆる……”ラブラブ”と表現される状態でございます」


 『まじか』と思った俺は言う。


「まじかーーーーー!!!!!!」


 サイバーダイブチェアに固定されて動かなかったが、俺は頭を抱えたかった。


 はっきり言って、俺には自覚は無かった。


 もちろんWABIちゃんの事じゃない。

WABIちゃんと俺が相思相愛なのは、とっくに分かっている。


もし俺に穏やかな余生が許されるのであれば、俺はWABIちゃんと老後を過ごすつもりだ。しかもWABIちゃんは俺の子供が欲しい訳だし、相思相愛に決まっている。


 俺が自覚が無かったのは、月影シノブの事だ。


確かに俺は月影シノブの事を特別・・には感じているが、「まさかそこまで」とは思っていなかった。



 これじゃあ、俺はロリコン確定じゃないか?


 WABIちゃんは二次元キャラなので、別枠とするなら……。


 俺と最もラブラブなのは、月影シノブなんだろ?


 俺って、ガチ過ぎて引くぐらいのロリコンじゃないか。



 ……ていうか……この一覧を見て俺は、思ったんだが……


俺ってもしかして……。



 と俺が考えたところで、WABIちゃんが美人笑顔のままトドメの一言を放つ。


「ワタクシの所感としてまして……

ナユタ様は、”ハーレム王”の素質があるかと思います。

 ここまで複数同時的に高いLPを観測するのは、想定以上の結果と言えますので、非常に喜ばしいことです。

おめでとうございます。

『ハーレム王に俺はなる!!』ですね?」


「ち、ちがうぞ!!WABIちゃん!!

その少年漫画の様なセリフは、そんな表現に使うヤツじゃないぞ!!」


「ちがいますか?

 不適切でしたか?」


「ああ。不適切だ。

どこかで誰かにメチャクチャ怒られる気すらする」


 俺は続ける。


「……そもそも俺は、先の大戦で散々疲れたんだ。

とにかく今は・・穏やかに暮らしたいんだ。

 しかし、それなに、これは何なんだ??

ハーレム王なんか俺は全く望んでいない!

どっかのエロゲの主人公みたいな、波乱万丈な恋愛にまみれた生活は嫌なんだ!」


 と言いながら、俺がピンク色のホログラムを絶望の顔で見ていると……

後ろから女性の声が聞こえた。


「でも良いじゃない?

そんな人生も悪くないわよ?」


 その聞き慣れた声に気付いて俺が横を振り向くと、

そこには……万錠ウメコが腕組みをして立っていた。

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