53話 スカウトに行こう5

【ナユタが去った後の、東アイドル事務所の会議室にて】



 みなさん。少々失礼いたします。

私は西奉行所で”秘書”と”所長代理”を務めております、黄泉川タマキです。



 ナユタさんが出ていった後、会議室は沈黙に包まれていました。

誰も発言する人は居ませんでした。


アカラさんもSABIちゃんも、唖然としています。


 ですから私は、カラクリアンドロイドれたお茶をのみます。

あら!美味しい!!素敵なほうじ茶ね?


 そして、私が三口みくちほどほうじ茶を頂いたところで、私の前に座るアカラさんが沈黙を破り、”低い声イケボ”でお話を始めます。


「……ナユタさん……かなりお怒りの様子でした」


 私は、湯呑ゆのみを置いて答えます。


「ええ。そうですね。”お怒り”でした」


「しかし……

まさか……あそこまでとは……」


「ふふふ。

 ”凄い”でしょ?」


「はい。確かに凄いと思いました……。

シノブ君に対する、『凄まじいまでの執着』を感じました。

 あれこそまさしく……愛……」


「ふふふ。

そうなんです」


 アカラさんは続けます。


「拙者も同じプロデューサーとして彼の心意気こころいき感服かんぷくいたしました。

 ナユタさんなら、“拙者の織姫ココロ”を安心してお預けできます」


「それでは……

ココロちゃんの西アイドル事務所への移籍の手続きを、

進めてもよろしいですか?」


 アカラさんはニッコリと微笑んで言います。


「ええ。もちろん。

 よろしくお願いいたします」


「ふふ。ありがとうございます」


 と言って私は飲み終わった湯呑ゆのみを置きます。

あら?よく見ると素敵な湯呑ゆのみだわ。”灰被りはいかぶり”ね?


 そして美しい湯呑を堪能した私は、アカラさんにお話をします。


「実は、ちょっとした余談ではありますが……

ナユタさんのシノブちゃんへの”執着”は、『パンツァーの稼働時間』を見ても一目瞭然なんです」


「パンツァーと言うと……

彼の電脳に埋め込まれた噂の……『おパンツ』ですね?」


「いいえ。アカラさん。

ナユタさんの”パンツァー”は、”おパンツ”ではありませんよ?

『オーパツ』ですよ?アカラさん」


「おっと、失敬。ははは。

ついつい、パンツァーとパンツとオーパーツが、ごっちゃになってしまいました。

 ”シンギュラリティ直後”に作られた彼の電脳のパンツァーは、『おパンツ』では無く『オーパーツ』でしたね?」


「ええ。そうです。パンツァーは現在では失われた技術ですから……『オーパーツ』と言えます」

 

 アカラさんは、眼鏡を直します。


 ちなみに、高学歴で高身長で高収入な”ハイスペックイケメン”であるアカラさんは、女性職員に人気です。


しかし……個人的な意見で大変恐縮ですが……私としては、ナユタさんが時折見せる『飢えた野獣の様な目付き』の方が、濡れます。

「ナユタさんに、ぐちゃぐちゃにして貰いたい」と思ってしまいます。


あら、いけない。話が脱線してしまいましたね?


 ともかく、そんな“ハイスペック”なアカラさんは、お話を続けます。


「しかし……ナユタさんの『パンツァーの稼働時間』から、一体どんな事が分かるのですか?」


「ふふふ。

ナユタさんのパンツァーは、対象とするパンツの愛着性癖に応じて、稼働時間が変化するのです。

 それをまとめたのが、こちらの”ホログラム資料”です。ご覧ください……」


 と言って私は、会議室の机の中心にある、ホログラムモニターを指しました。




~~【ナユタが見たパンツと、パンツァー稼働時間の関係性】~~


月影シノブ /// ピンクのストライプ …… 2秒


月影シノブ /// くまちゃん柄 …… 4秒


SABIちゃん /// 黒のTバック …… 2秒


紫電セツナ /// 紫のアジサイ …… 2秒


万錠ウメコ /// 水色のレース …… 2秒




 資料をひととおり見たアカラさんは、眼鏡を直しながら言います。


「ほう……なるほど……。

 これは、非常に興味深いですね……」


 資料をじっくり見るアカラさんを見たSABIちゃんが、蔑み目線で言います。


「ほんとね。興味深いわね。

 つまり、アカラも『パンツ大好きなガチのロリコンの変態』って事ね。

 ……本当にキモっ……

 ……マジでキモっ……」


 慌てたアカラさんは、SABIちゃんの方を向きます。


「誤解だSABIちゃん!!

拙者は、女性達のパンツを知る事ができたから『興味深い』って言った訳じゃない!!

この資料に対して『興味深い』って言ったんだ!!」


 私は、資料の事をアカラさんに質問します。


「アカラさんは、この資料を見てどう思われましたか?」


 アカラさんはSABIちゃんの蔑み目線を気にしながらも、もう一度資料に目を落とします。


 そしてしばらくして、彼は言います。


「そ、そうですね……この資料から分かる事は……

ナユタさんは、くまちゃんパンツを履いたシノブちゃんに、最も愛着性癖を感じているようですね。」


 それを聞いたSABIちゃんが厳しい表情のまま言います。


「……キッモ……」


 SABIちゃんの罵りで、さらに慌てるアラカさんを微笑ましく見ながら、私は話を続けます。


「ええ。アカラさんのご意見も・・・・正解かと、私は思います」


ご意見も・・・・……と言うのは、一体どういう事で?」


「これは、あくまで私の仮説ですが……

パンツァーの稼働時間は、基本的に2秒が限界なのだと思うのです」


「その理由は?」


「このデータの中で、ナユタさんの愛着性癖となりそうな女性とパンツは、ある程度網羅できているかと思います。

 しかし、その中でも「月影シノブ /// くまちゃん柄パンツ」の継続時間が4秒という、突出した長時間になっている事が、実は『例外イレギュラー』なのでは無いか?……と、私は思うのです」


「つまり……黄泉川さんがおっしゃりたい事は――

『シノブちゃんと くまちゃん柄パンツ』の組み合わせが『例外イレギュラー』を発生させた――という事でしょうか?」


「ええ。あるいは……

シノブちゃん自身が、ナユタさんのパンツァーの『例外イレギュラー』を発生させている……と言えるのかもしれません」


「なるほど……。

 つまり、その事から――

ナユタさんの月影シノブちゃんに対する『凄まじいまでの執着』が、このデータから見て取れる。

――という事ですね?」


「ええ。その点に関しては間違いないかと……」


「なるほど……。合点が行きました……」


 と言って、アカラさんは頷きながら思考をします。


 続けてアカラさんは私に質問をします。


「しかし……ナユタさんのここまでの……

『凄まじいまでのシノブちゃんへの執着』の発露は……一体どんな感情なのでしょうか……?」


「おそらく……『愛』は……すでに越えているのかもしれません」


「『愛』を越えているのなら……

その感情は……」


 そして、私は、微笑みながら言います。


「『初恋』かもしれませんね?

あるいは、それすら超越した……

 『崇拝』なのかもしれません……」


「なるほど……ナユタさんが、シノブちゃんを『崇拝』ですか……。

”アイドル”という言葉が、本来的にゆうする意味――『偶像』にも関係した感情ですね。

……しかし、さすが……ナユタさん……。

同じプロデューサーとして、頭が下がる思いです……」


 そして、これまで黙って聞いていたSABIちゃんが、「やれやれ」と言いながら会議の”締めくくりの言葉”を言います。


「それって……つまり結論として……

ナユタは、『アカラをも越えるガチのロリコン』って事よね?

もう、本当に勘弁して欲しいんだけど?

 この感じなら……

『奉行所のプロデューサーは、大体ロリコン』って結論になるじゃない……」



 SABIちゃんのこの言葉を聞いて、みなさんはどう思われますか?


 私事わたくしごとでたいへん恐縮ですが……私はそんなナユタさんも魅力的だと思います。


だって……ナユタさんが”ロリコン”であるのなら、私はそれ以上の”大人の魅力”を持って、彼を篭絡ろうらくすれば良いだけの事ですから……。ふふふ……。




 ともかく、このような感じで――

織姫ココロちゃんの西アイドル事務所への移籍の会議は、

何事も無く非常に和やかなムードで終わりました。

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