51話 スカウトに行こう3

 俺の顔を見て、ロリ戦闘AIのSABIちゃんが笑った。


「ぷっ!!ナユタあんた……

 その顔なに??

 ふふふ!

”お岩さん”みたいじゃない??

 かなり、笑えるんだけど??」


 俺は仏頂面ぶっちょうづらになって、言う。


「今日の俺の顔は、AIにすらネタにされるのか」


 ちなみに、”極限ロリコン”である東アイドル事務所のプロデューサーのアカラは、正気を取り戻す為に、トイレで顔を洗いに行っていた。


その為、会議室に取り残された俺とタマキとSABIちゃんは、雑談に花を咲かせていた。


 俺の“お岩さん顔”で、ひとしきり嘲笑してくれたSABIちゃんはロリ声で話を続ける。


「アタシ、常日頃考えていたんだけれど……

 ココロが持っているスキルが、数々の変態的な状況を呼んでると思うのよね?」


 俺は自分の顔の状態を、少し気にしながら言う。


「織姫ココロのスキルって言うと……『野外露出 lv.54』の事か?」


 SABIちゃんが答える。


「ココロの『野外露出』のスキルは、レベルが上がって lv.54からlv.55になったわ」


「マジかよ……

 『野外露出』って成長するスキルなのかよ……」


「でも、今アタシが話題にしているのは、そのスキルの事じゃないの。

アタシが言っているのは、ココロの『ガチ恋』のスキルの事よ」


「ああ。それも以前に見たな。

 確か……『ガチ恋 lv.8』だった筈」


「今は、これもレベルが上がって、『ガチ恋 lv.10』になったわ」


「マジか……。

織姫は、ガンガン成長してるんだな。

なんかちょっとヤバ気な方向に……。

 しかし、その『ガチ恋』ってスキルは何なんだ?」


「ココロの『ガチ恋』スキルは、超レアスキルよ。

 性別問わず、ココロに接する人を魅了するスキルよ」


「なんなんだ。そのヤバ過ぎるスキル。

 大丈夫なのか?違法じゃないのか?脱法でもないのか?」


「大丈夫よ。違法でも脱法でも無いわ。

そもそも、アタシ達がスキルって言っているのは、人間が本来的に持っている特性を、アイドルとしてプロデュースし易くする為に可視化した物よ。

 だからココロの『ガチ恋』スキルも、ココロが元から獲得していた特性よ。

いわゆる才能ってやつよ」


「という事は……

 織姫ココロは、天性の才能で大体の人間を魅了しているって訳なのか?」


「そういう事になるわね。

 いわば……ココロは、アイドルに成るべくして成った逸材と言えるわね」


「アイドルの天才って訳か」


「そう。ココロはアイドルの天才なの。

 ココロは計算や演技をする事無く色んな人を魅了して、ファンを自然に増やしていくのよ。

 つまりココロがただ存在しているだけで、人間はココロに魅了されちゃうの」


 確かにSABIちゃんが言う事に関しては、思い当たる節が多々ある。


 まず織姫ココロのファン――『ヒコボシ』達は、業界の中でも妄信的として有名だ。ガチ恋勢しかいないと言われている。


そして月影シノブも、えらく織姫ココロを気に入っているし……

姉の紫電セツナなんてヤバいレベルで織姫ココロを溺愛している。


「つまり、織姫がアイドルの天才だから……

 プロデューサーであるアカラが、織姫ココロに夢中になっているのも仕方が無い事なのか?」


 という俺の質問に対して、SABIちゃんは顔を曇らせて答える。


「いや……アカラの場合は……

 元々、ガンギマリの極限ロリコンだった気もするのよね……」


 それを聞いた俺が「いや、ちょっと待て。じゃあ、今までの会話はなんだったんだ?」とSABIちゃんにツッコんでいるところで、噂のアカラ本人が戻ってきた。


 アカラは、声優ばりのダンディーなハスキーボイスで言う。


「いやはや、申し訳なかった。

お見苦しいところを、お見せしてしまったようだ」


 そう言った彼に対して、「まったくだよ」と俺は言いたかったが、初対面なので自重した。


 アカラは、俺と同じような黒髪の総髪【※頭頂部を剃らない髪型】だが、まげは長く、要は超ロングポニーテールだ。

 身長はおそらく180cm程あり、俺よりもかなりデカい。

コイツの内面を知らなければ、眼鏡を掛けた圧倒的な美男子に見える事だろう。

 そんな眼鏡イケメンのアカラは、俺の顔を見た瞬間、涼しい目元を大きく開いて言う。


「まさか……

 白昼にも関わらず……

 男性版の”お岩さん”が出てくるなんて……」


 そんな本日4度目となる俺の顔の持ちネタ、”お岩さん”を無視して黄泉川タマキは、アカラに礼を言う。


「先日のコラボ配信では、アカラさんのご高配を頂きありがとうございました。

 お陰様で、シノブちゃんは今でも変わりなく元気に活動が出来ています。

 そして、こちらが……

西アイドル事務所のプロデューサーの、ナユタです」


 紹介された俺は、名刺を両手でアカラに渡しながら言う。


「ナユタと申します。よろしくお願いします」


 アカラが俺と名刺の同時交換をしながらペコペコ礼をし、それに応じる。


「私はアカラです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 そして俺の名刺を眺めながら、アカラは言う。


「これは……岡っ引き?とありますな……。はは。結構な役柄で。

……ところで噂はかねがね聞いていますよ?」


「俺の噂ですか?」


「ええ。

 ナユタさんは何でも、少女のパンツに多大なご興味をお持ちとか……」


「は?」


「特に担当アイドルの月影シノブ君のパンツに、大変執着されているとか……」


「え!?」


「ほどほどにしておきませんと、お縄になりますよ?

 ははは」


「・・・」


 俺は、反射的に黄泉川タマキの顔を見た。しかし彼女は微笑んだまま否定する。


「私は知りませんよ」 


 俺は、空中に浮かぶSABIちゃんのホログラムを睨む。

 SABIちゃんはロリ顔に嘲笑を浮かべながら言う。


「事実じゃない?アンタもロリコンの変態でしょ?」


「確かに一部事実だが……誇張されている。

 俺は、まっとうな“理由と目的”を持ってパンツを見ている」


「わざわざ私を指名して、私のパンツを見たくせに?」


「く!! ズルイいぞ!!

 “黒のTバック”を引き合い出すなんて!!」


「ぐ、具体的に言わないで!!変態!!」


 アカラが不思議そうな顔でSABIちゃんに聞く。


「SABIちゃん?

“ 黒のTバック”とは何のことだ?」


「首を突っ込まないで!!変態!!」



 それにしても確かに……俺はSABIちゃんにお願いをしてパンツを見せて貰った事がある。

しかし、まさか、こんな場面で公開処刑を受けるとは思わなかった。


 折角の交渉の場で、ロリコンの変態のレッテルを貼られるとは……。これは、マズイな……。と思ったが、アカラは大いに笑いながら言う。


「ナユタさんも、拙者と”同好の士”でございますな!!ははは」


「え?

 同好の士……ですか?」


「ええ。ナユタさんも拙者と同じ……

”美少女を愛する者”という事ですよ!!」


「ああ……。やっぱ、そうなるのか……」


「いやはや、恥じる事はありません!!

 プロデューサー稼業は、多忙でなおかつ生死に関わる仕事。

イザとなれば……アイドルの為に、この身を捨てる覚悟も必要となるのです。

”特別な才能”がある者でしか、務まりません!」


 今アカラが言ったセリフは一見、仕事に真摯に向き合う現場監督のようだが、だまされてはいけない。


コイツが言った”特別な才能”の意味は、”極まったロリコン”と同義だ。


要は、”俺達みんな変態”って意味だ。


 だから、俺は引きつった笑顔で、曖昧あいまいな返事を返すしか無かった。


「は、はあ……」


「死のすれすれの状況下でも、執拗しつように少女のパンツを追いかけるナユタさんの心意気。

 なかなか出来る事ではありません!

 私は、非常に感銘を受けましたよ。ははは」


「い、いや……ま、まあ?……それほどでも??」


 アカラは俺に親近感を持っているようだし、会合の開始としては良いスタートを切れたとは思うが、この話を続けていると誰かのSNSが炎上するか、最悪、“ロリコン容疑”の逮捕者が出る可能性があるので、俺は話を元に戻す事にした。


「それでは、そろそろ……本題に移りませんか?」


「ああ。そうでしたな。

長々と立ち話をして、失礼しました。

 座りましょう。

それと、SABIちゃん。

茶を用意してくれないか?」


「なんで戦闘AIのアタシが、アンタ達のお茶を用意しないといけないの?

……とは思うけど……

一応、既に手配しているわ。

 カラクリアンドロイドが、そのうちお茶を持ってくる筈よ」



———————



 東アイドル事務所の会議室には、真ん中にデカい会議用のテーブルがあり、それを取り囲むようにプラスチックの椅子が配置されていた。


 そこに俺と黄泉川タマキは座った。


タマキが「ふふ。今日は履いて無かった・・・・・・・ので、お尻が冷たいです」と笑顔で呟いたが、俺は無視した。


 そして、俺達に向かい合ってアカラが座る。その横にSABIちゃんのホログラムが移動した。


 カラクリアンドロイドが持って来た茶を呑みながら、俺は会議の口火を切る。


「回りくどく言っても仕方が無いし、単刀直入に言います。

 織姫ココロを、西アイドル事務所に移籍させて貰いたいのです」


 柔和だったアカラの目が、途端に鋭くなった。


「ココロを……

 西アイドル事務所に移籍ですと……?」


 ほら見ろ。

メチャクチャ怒ってるぞ?


俺は、『何が悲しくてこんな”無理ゲー“をしないといけないんだ?』と会議の開始数秒で後悔した。


 しかし、もう後戻りは出来ない。


なんとか、この会議を落着させなければならない。


 意を決した俺は、椅子に座りなおした。

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