42話 バット・ノット・フォー・ミー1

 俺が万錠ウメコの【パステルブルーのレース】を見た瞬間、パンツァーが起動し時間が停止した。


万錠ウメコは、ふとももに”銀色の袋”をのせた状態で停止し……


彼女が投げたグラスからこぼれたワインは、空中で無数の赤く丸い真珠になり、固定された。



―――【パンツァー起動】―――



 しかし、このとき俺はさらに大変なことに気付いてしまった!


それは、万錠ウメコの【パステルブルーのレース】が「普通のレース」では無く……

「全てがレース」のタイプだった事だ!!!


 俺が興奮しすぎて、なにを言っているのか分からないと思うから説明するが……


通常のレースのパンツは「見えてはいけない部分」が露出しないように、股間部分に色の濃い『目隠し用の生地』があてられる。


しかし「全てがレースのタイプ」では、その――『目隠し用の生地』が存在しない。簡単な言葉を選んで説明するなら、「スケスケレース」と言える。


 つまり……万錠ウメコの【パステルブルーのスケスケレース】は、姿勢によって「見えてはいけない部分」が見えてしまうタイプのパンツなのだ!!



【 0.1秒経過 】



 俺は、さらに万錠ウメコの【パステルブルーのスケスケレース】を観察する。


 今の万錠ウメコは、ふとももを完全に閉じているから当然ながら「見えない」。


 しかし、万錠ウメコの両ふとももが開いた場合、どうなるだろうか……?


それは……おそらく……間違いなく――――「見える」。


俺の予想では、彼女のふとももが開いた場合、99.9999%以上の確率でスケスケレースの向こう側にある「見えてはいけない部分」が、見えるだろう。


 自分の下半身に理性を奪われていた俺は、万錠ウメコの股間に完全に釘付けになってしまっていた。



【 0.3秒経過 】



 そして、今はパンツァーが発動中だ。


おそらく俺が、万錠ウメコのふとももを手で動かしても、彼女は気付かないだろう。


パンツァー中は、全てのコンピューターも停止している。


つまり、記録は残らない。


 ということは!……


 今!俺は!!

万錠ウメコのふとももを動かし、彼女の「見えてはいけない部分」を気兼ねなくゆっくりと鑑賞することが出来る!!!!


 「美女の見えてはいけない部分をゆっくり鑑賞する事」は、男にとって『来世までにいつかやりたい事ベスト3』に入る積年の夢だ。


しかも万錠ウメコは、俺の”愛着性癖ドストライクの三次元女子”なんだ!


俺は、このチャンスを手放して良いのだろうか!?


この目の前の”天国への扉”を閉ざしたまま、パンツァーを終了させて良いのだろうか!?



 煩悩と下半身に電脳が支配された俺は、万錠ウメコのスベスベで真っ白な太腿に、ゆっくりと手をのばしていった……。



【0.6秒経過 】



 しかし、ここで俺はふと冷静になった。


俺の右手の指先が、万錠ウメコの太腿の3mm直前で停止する。


 そもそも今回、パンツァーを発動したのは万錠ウメコのほうだ。


つまり……彼女は、自分が履いているパンツの状態を理解して時間停止パンツァーを発動させたはずだ。


 ”腹黒ブラック女神”の万錠ウメコが……

タダで「見えてはいけない部分」を、俺に見せるような事をするだろうか……。


 もしかすると、この【パステルブルーのスケスケレース】には、なにか隠された意味があるのかもしれない……。


 俺はここで唐突に、”あること”を思い出し、万錠ウメコの頭上を見上げた。



【0.9秒経過 】



万錠ウメコの頭上には、ワイングラスと、そこからこぼれたワインが静止していた。


 それを見た瞬間、俺は叫ぶ。


「くそ!!!やはり、こんな罠が!!!!」


 俺は【パステルブルーのスケスケレース】に夢中になり完全に忘れてしまっていたが……


時間停止前に、万錠ウメコは、ワイングラスを投げていたのだ。


 その空中に固定されたワイングラスからは、大量のワインがこぼれている。

そしてその下には、彼女の【パステルブルーのスケスケレース】があった。



【 1.2秒経過 】



 つまりは……”この状況”が、万錠ウメコがパンツァー起動前に作った罠だったんだ。



 万錠ウメコが作った罠は、こうだ。


1、パンツァー発動前に、万錠ウメコがワイングラスを投げる。


2、パンツァー発動後、俺を【パステルブルーのスケスケレース】に釘付けにさせる。


3、俺が【パステルブルーのスケスケレース】や、「見えてはいけない部分」を見てハァハァしている間に、パンツァーが終了する。


4、俺が、ワインを頭から被る。


5、万錠ウメコが俺に「時間停止中に私の下半身でハァハァしていたでしょうざい」を着せる。


6、刑が下り、俺は変態確定となり、一生万錠ウメコの言いなりになる。



 それを想像して俺は、肝をひやした。


なぜなら今まさに、3の段階に突入するところだったからだ。


やはりこの女は、”腹黒ブラック女神”だったんだ。


あやうく彼女の罠に完全にはまるところだった……。


 俺は、冷や汗を拭いて言う。


「あ、あぶなかった……」



 そして、俺は考える……。


 空中にあるワインとグラスをなんとかする事は、簡単だ。


テーブルの上にある黒のうるし塗りのお盆を、持って来れば良いからだ。


そうすれば、空中のワインとグラスを受け止める事ができる。


「時間停止中に私の下半身でハァハァしていたでしょうざい」を俺が被ることも無くなる。


 全ては丸くおさまる。



 しかし、俺は少し怒っていた。


俺は、ここまで純粋な気持ちで欲情していたんだ。


「純粋な気持ちで欲情する」ってのもちょっとヤバげな表現な気がするが……ともかく、俺に他意たいはなかった。


ただただ、彼女の美貌と妖艶な仕草に魅了されただけなんだ。


そんな俺の「純粋リリカル性欲エロティシズム」を利用して、万錠ウメコは俺をだまそうとしたんだ。


彼女に夢中な俺を利用して、罠をかけようとしたんだ。


怒って当然じゃないか?



 だから俺は、その怒りを晴らすために考えた。


どうすれば……残されたわずかの時間の中で、万錠ウメコの予想外の動きができるのか……。


どうすれば……万錠ウメコにギャフンと言わせられるのか……。


 俺は、そのことだけを集中して考えた。



―――――


―――――


―――――



【万錠ウメコ視点】



 私——万錠ウメコが、ナユタ君のパンツァーを発動させる少し前に、話を戻すわ。


 言い訳みたいになるのが凄く嫌なんだけれど……

本当は、ここまでするつもりは無かったの。


たしかに、彼を家に連れ込んだ……じゃ無かった、家に案内したところまでは、予定どおりよ。


 でも、彼が”銀色の袋”を落とした事には、私もビックリしたわ。


だから慌てる彼が面白くて、つい、せまっちゃったの。


 それと、パンツァーを起動させた事も、手に持ったワインを投げた事も、元から考えていた事じゃ無かったの。


 ここで、一つ……

私が、ナユタ君に言いたい事は「女の前で他の女の話を決してするな」ってことね。


たとえ、それが相手の実の妹であっても同じよ。「女の敵は女」って言うでしょ?


 だから私は、ナユタ君が楽しそうにシノブの話をしている様子を見て、内心穏やかじゃ無かったの。


ナユタ君がシノブに欲情するロリコン……じゃ無かった……“守備範囲が広いタイプ”の男性である事は、理解していたんだけれど、目の前で嬉々としてシノブの話をされたら、私だって思うところはあるわ。


 だから、“仕返し”をする事にしたの。


 シノブの為ならナユタ君は、電脳の萎縮もいとわず、死地に飛び込むんだから……私にも同じ事をして欲しいと思わない?



 彼が私に好意を抱いているのは、今になって、なんとなく分かってきたのだけれど……。


でも、それだったら、なおさら……


私にも“愛”を分けて欲しいって思わない?



 だから、私はナユタ君に“仕返し”をするの。


 彼のパンツァーを起動して、彼の電脳を萎縮させて、彼の命を私も・・少しだけ分けて貰うの。


 だって、シノブばっかりナユタ君の命を貰ってばかりじゃ、割に合わないでしょ?


私だって、彼に守って貰いたいんだから。


私だって、彼が欲しいんだから。



 「ちょっと」愛情が、ねじれているかもしれないけれど……ね……。




 そう思った私は、シルクのキャミソールドレスの裾を持ち上げて、自分のショーツを彼に見せたわ。


もちろん。手に持ったワイングラスを空中に投げながらね。


 その時、私は想像していたわ。


「彼がワインを頭から被るか……あるいは、お盆を使ってワインを受け止めるか」


 彼がどちらの行動を取るかによって、彼の人間性を推しはかるつもりだったの。



前者であれば、欲望に忠実な男性。


後者であれば、ある程度、理性を持った男性。



 だから私は、パンツァーが終了した瞬間……

想定外のできごとに、とても驚いたわ。



 なぜなら……私の身体が空中にあったからよ。


それは私にとって、完全に予想外の出来事だったわ。



 時間停止中に姿勢の変化がしょうじる体験は、なんともいえない体験ね。

床が空中になって、上だと思っていた方向が横になるんだから。


 だから急にそんな状況になった私は、咄嗟とっさに「落ちた」と判断して、身を縮めたわ。


「きゃっ!!」


 しかし、「落ちた」はずの私の身体は、空中で停止していたの。


 そして恐る恐る目を開きながら、”横“と思われる方向を見ると……


そこには、ナユタ君の着物の——肩があったわ。


そして、その上方向には……

まあ、当たり前なんだけれど、彼の顔があったわ。


 でも、状況を把握できない私は、なぜかニヤリと笑っている彼に聞くの。


「ど、どうして……?」


 ナユタ君は、答えるわ。


「こうなるとは流石の所長様でも、予想が付かなかったか?」


 私は驚いた顔で、目を見開いたまま、呟くように言うわ。


「え、ええ……。

 確かに……それは、そうね……。」


 この時になってようやく、私は自分がナユタ君の腕の中にいることに、気付いたの。


 つまり私は……

自分がナユタ君に、いわゆる「お姫様抱っこ」をされている事にきづいたの。

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