34話 サイバーデビル2

 全身黒コゲで左義腕も無くなり、もうちょっとで死人の俺は、

強敵の紫電セツナを前にしても、キンザの道路に寝っ転がっている事しか出来なかった。


 ちなみに、痛みは無い。


おそらく、WABISABIの治療のお陰なんだろう。

怪我の具合も急速に良くなってきている。


 まあ、それでも、今の俺は、まだ立ち上がる事すら、ままならない程の重症なんだが……。



 そして、俺の目前では、

ツノ付きピンク髪の月影シノブと、機械の身体が露出した紫電セツナが向き合い、緊張が高まっていた。


 最初に、”絶世の美少女(機械露出ほぼ全裸)”の紫電セツナが口を開く。


「……君は……誰だ?」


 ごもっともな質問だ。


 その質問に、”サイバーデビル衣装(横から見るとほぼ全裸)”の月影シノブが答える。


「なんでみんな、わたしの事が分からないのかな?

 わたしは、月影シノブだよ?」


 ピンク髪のシノブは、無邪気に笑いながら言った。

対する紫電セツナからは、笑みが消えていた。


「君が……シノブ君だと……?

 信じられない。

 僕はココロの為に、君の事を徹底的にリサーチした。

シノブ君は、没個性的な普通の新人アイドルだった筈だ……」


 それを聞いたシノブは、いかにもめんどくさそうに、ため息交じりに言う。


「また、イチから説明しないといけないの?

 だるいんだけど?」


 シノブのそのセリフを無視し、紫電セツナは顎に手を当て、考え込む。


「あるいは…… 君のその姿が……

万錠カナタが作った技術の”あるべき姿”なのか……?

という事は彼は、つまり……実の娘を実験台に?」


 そんな紫電セツナの様子に痺れを切らしたシノブは、言う。


「もう……。

 そっちが、来ないのなら……

 わたしの方から……行くよ?」


 とシノブが言った瞬間、彼女は大きな翼を広げ、爆風と同時に、消えた。


それに遅れて、強烈な風の音が発生する。


アスファルトの砂利が、つぶてとなり、俺の体に食い込んだ。


 そして、再びシノブの姿が見えた時……

シノブの拳は、紫電セツナの目前にあった。


すかさず紫電セツナは、両手の小太刀を使い、シノブの拳を受けた。

その瞬間、衝撃波が発生し……彼女達の周りの瓦礫が円形にふっ飛んだ。


 巻き上がるコンクリート片の中、シノブがいかにも楽しそうに笑いながら言う。


「あははは!!

 セツナちゃん。やるじゃん!!」


 紫電セツナは、切れ長の紫の瞳でシノブを睨み付けて言う。


「見違えたな。シノブ君。

 剣で受けなければ、僕の頭は無くなっていただろう」


「凄いでしょ?わたし?」


 そのセリフを聞いて、紫電セツナの顔に微笑みが戻る。


「……さあ?どうだろうか?」


 シノブは嬉々とした表情で言う。


「もっと、一緒に”遊ぼう”??」


「”戦闘”が……”命を懸けた遊び”か?

 悪くない発想だね?」


 紫電セツナのそのセリフを合図に、シノブが上段回し蹴りを放つ。


 紫電セツナはそれを再び剣で受けるが、車道から歩道まで吹き飛ぶ。


 再び衝撃波が発生し、車道の路肩に止めていた自動車が数台、おもちゃのようにブッ飛ぶ。


 そして、自動車は次々とビルに激突し爆炎を上げた。

ビルの無数の窓ガラスが割れ、大量のガラス片が歩道に降り注ぐ。


 紫電セツナは、そのガラスの雨の中を、縫うように移動し、消える。


 紫電セツナが居なくなった何も無い空間に、紫色のホログラムが現れる。



紫電七刀流しでんしちとうりゅう 十二天剣じゅうにてんけん



 次の瞬間、シノブの周囲360度方向から銀色の剣撃が襲い掛かる。


 シノブはそれを、翼を使ったサマーソルトキックで弾き飛ばし、同時に避ける。


 風が巻き起こり、瓦礫が舞い、剣撃の無数の火花が散る。


 勢いのまま、シノブは翼で空高く舞い上がった。


 直ぐ後に、紫電セツナが納刀の為に、地上に姿を現す。


 それを見たシノブが、無邪気に笑いながら言う。


「あはは。セツナちゃん?わたしも行くよ!」


 シノブの胸の前の空間に、ピンク色のホログラムが現れる。



【 災婆魚雷サイバーぎょらい 】



 同時に、シノブは翼を使い、空から地面へ垂直方向に急降下する。


 衝撃波と地響きが起こり、シノブが片膝立ちで着地したと同時に、アスファルトが円形に大きくめくれ上がる。


危機を察した紫電セツナは、大きく飛んで避難をするが……


シノブの周囲の地面から、何故か数十の“魚雷”が飛び出し、紫電セツナを追尾し、次々と命中する。


 俺は呟く。


「魚雷って空を飛ぶのか?」


 紫電セツナは空中で防御体制を取るが、数々の“魚雷”の爆煙で覆われる。


 その上空の様子を見ながら、シノブは笑いながら言う。


「あははははは!!

 まだ終わりじゃないよね???

 もっと、遊ぼう!!??」


 シノブの胸の前に、再びピンク色のホログラムが現れる。



【 災婆穿孔機サイバードリル 】



 シノブの右手が、何故か2m程の巨大なドリルになる。


 シノブは、再び翼を広げ、ドリルを構え、爆煙に包まれた上空の紫電セツナに突撃する。


 爆煙の中から現れた空中の紫電セツナは、しかし……


14本の小太刀を既に空間に配置していた。


そして、紫色のホログラムが現れる。



【 紫電七刀流しでんしちとうりゅう 雷葬らいそう 無量光剣むりょうこうけん 】



 紫電セツナの14本の剣が電流を帯び始め、スパークする。


 それを見たシノブは、瞳を真っ赤に燃やし、笑いながら言う。


「あはは!凄い!死んじゃうよ?わたし!!」


 紫電セツナは、紫の瞳の瞳孔を群青色に光らせ、歯を食いしばりながら言う。


南無三なむさん!!」



 そして、シノブの巨大なドリルと、紫電セツナの14本の剣がぶつかり合った。



一瞬であたりが光で包まれる。


稲妻の炸裂音と、聞いた事も無いような轟音が空気を揺らす。


キンザの大道路は真っ昼間よりも明るくなった。



 そして、遅れてやってきた来た巨大な衝撃波は……


放置された車や、電柱や、街路樹を薙ぎ倒し、吹き飛ばし……


ついでに道路で寝ていた俺も、吹き飛ばした。


 吹っ飛びながら、俺は呟く。



「……もう……むちゃくちゃだな……」






―――――


――――

 

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